私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
カナの暴走を止めた矢先に、まさか湯口先輩が襲撃して来ていたとは意外だった。
それに、校長先生が鎌鼬の力で協力していたとはいえ、オジサンもそんな強力な先輩を抑えられるくらいに強かった事にも驚きだ。なんというか、普段は魔除けの札や御守りを作っている人なので、その姿からは戦えるなんて全く想像すらつかなかった。
それにしても、わら子の守護4人の内2人もこの場に居るという私達側に有利な状況なのに、湯口先輩が撤退をしない所を見ると・・・恐らくは。
「湯口先輩、まだ何処かに隠れていますね?」
「ふん、この状況ならそう考えるのは当たり前か。そうさ、俺1人でお前達を相手にしようなんて、そんなバカな事はしない」
「いや、そんなカッコつけて言っても、鼻にティッシュ詰めてるから面白い絵面にしかなりませんよ、先輩」
湯口先輩が鼻血を出してしまっている大元を考えたら、私と椿がカナの暴走を止める為にやった物凄く切ないバージョンの可愛い鳴き真似なので、多少申し訳ないというか・・・。
「あの、鼻血止まりました?」
「チッ・・・!」
椿が心配すると、湯口先輩はイライラした様子で鼻血が止まった事を確認してから、詰めていたティッシュを地面へと叩きつけ踏みつけた。
「とにかく、今度こそ退治させてもらう。妖狐、椿!霊能力者、綾!」
そう吐き捨てた瞬間に、湯口先輩は何処に隠していたのか錫杖を取り出して私達へと先端を向けて突きつけてきた。ちなみに・・・体育館の後で錫杖の名前とか坊さんの使う道具について、椿から色々と教えてもらった事は内緒だ。
そんな話は置いといて、とりあえず私達も湯口先輩に確認したい事がある。次に戦わなければならない時が、まさかこれ程までに早かったのは幸いだ。確認したい事というのは、湯口先輩の父親に関する話だ。
椿が「ストップ」といった手の動きをしてから、湯口先輩に話しかける。
「ちょっと待って、湯口先輩。貴方のお父さんの事なんだけど――」
「俺を惑わそうとしても、そうはいかないぞ!」
「あぁもう!聞く耳持たずかよ!しょ〜がね〜な〜!!」
きっと、また滅幻宗の連中から間違った考えを色々吹き込まれたのだろう。しかし私達は、体育館で椿が湯口先輩に馬乗りとなった時に、彼が実は内心少しだけ喜んでいた事を知っていた。
だから、まだ恐らく完全に私達への情を、湯口先輩は捨てきれていないんだと私と椿は考えている。
「龍花さんと朱雀さん、オジサンと一緒に他の2人を相手してもらっても良いですか?」
「何ですって?綾様、相手の気配が分かるのですか?」
「えっと・・・この殺気、分からないですか?僕も感じていて、凄く重くて嫌な気分になってしまいそうなんですけど・・・ほら。そこの木の陰と、反対側の木の陰に隠れています」
『なるほど、2人共に流石は妖気の探知に長けているな。それでこそ俺も、綾の親として鼻が高いものだ』スッ
「うん、それかなり恥ずかしいから止めてオジサン。それ以上言うんなら、その長くなった鼻をへし折るよ」
私と椿は、そう言ってから公園に生えている木々の間に生える、比較的目立つような太めの木を指差した。すると、湯口先輩はその方向へ向かって声をかける。
「おい、バレているぞ」
その瞬間、私達が示した木の上から2つの影が飛び出し、湯口先輩の両隣へと降り立ってきた。
「これは困ったわね。コッソリと貴方を援護しようと思ったのに。私、あんまり日に当たりたくないのよね・・・」
「ふふっ。肌を気にするようなら、出て来ない方が良いんじゃな〜い峰空?」
「子供は黙ってなさい。私はね、靖を狙ってるのよ〜。だから、このアピール出来るチャンスを、みすみす逃す訳にはいかないでしょう?」
そう文句を言って現れたのは、雫程ではないが一昔前に都会で流行ったような派手にゴテ盛りをした髪型で露出の多いファッションをした、体育館で"峰空"と名乗った女性と、以前に私達がショッピングモールで捕まえたハズの閃空であった。
こうして普通に現れたという事は、やはり閃空は脱獄していたという事だろう。
「脱獄してまで、私達に仲間を連れて喧嘩売りに来るとは、大した度胸をしてるもんだな・・・閃空」
「ん?脱獄?何の事かな〜?」
「・・・なんだって?」
完全に知らないような素振りを見せる閃空に、私は奇妙に感じて一瞬だけ呆然としてしまう。
すると、その瞬間に閃空は何かを思い出したような表情を浮かべつつ、ズボンのポケットから真っ黒い野球ボール大ほどの球体を軽く放り投げてくる。
敵の攻撃かと思った私達が身構えると、その球体は放物線を描いて地面へと落下し、ベチャリと絵の具が弾けたように黒い影を作り出す。
そして、そこから人の形をとって現れたのは、なんと"もう1人の"閃空だった。これはまさか、私達がショッピングモールで戦った方は・・・
「なるほどなるほど、僕の"分身体"と何処かで戦ったのかな?この妖具は"分身玉(わけみだま)"と言ってね、髪の毛とか爪とか個人の身体の一部を入れると、その人物の分身を作れるのさ。更にコイツに細かく命令をすれば、3日程は自律して活動してくれる優れ物さ」
「ハッ、随分と便利な物を持ってんだな〜。私だったら宿題の代行に使いたくなるレベルだよ」
「ただ残念な事にコレで作った分身体は、本体の能力の約半分程になってしまうのさ。思考等も半分だから、そんな目的には向かないかもね〜」
それは残念だな・・・じゃなくて。
そんな微妙な弱点があるのならば、戦闘では数でゴリ押す使い方よりも、逃げる際の盾や身代わりとしてしか使えなさそうだ。
「なるほど・・・これは後で、杉野さんや犬吠崎さんに報告ですね。それと綾ちゃんはそんな悪知恵が出来るなら、ちゃんと真面目に宿題をする努力をしてください」
「はーい、すいませんでしたよ〜」
「ほぉ、着実に自分の勢力を増やしているのか。それなら、本格的に良からぬ事をされる前に始末した方が良いな」
「だ・か・ら!私や椿は別に悪い存在なんかじゃないんだっての!!」
「それに他の妖怪さん達だって、悪い事をする妖怪ばかりじゃありません!!」
これだから頭が固い人っていうのは苦手だ。何度言っても思考停止して攻撃してくるようならば、今度はガッツリ捕まえて椿に説得してもらわなくては。
私はやらないのかって?私がやると、先程の湯口先輩の問題発言のせいもあって"悪口の代償は高くつく事を教えてやる!"と鉄拳制裁タイムになるので止めておきます。
そんな湯口先輩の頭の固さっぷりに私と椿が呆れたため息をついていると、峰空が湯口先輩の隣から更に近づいてきて彼に引っ付くような形で、肩に手を置いたり胸を押し付けようとしてたりするのが見えた。なんか椿の湯口先輩へ向けている視線が怖かったような気がするが、多分気のせい気のせい。
「あの子、怖いわね〜早くやっつけちゃいましょうよ〜」
「離れてくれないですか、峰空さん」
「ちょっと湯口君〜。なんで峰空には"さん"付けで、僕にはしないのかな〜?」
「お前にはする必要が無い、閃空」
そうやって、なかなか向こうが戦闘体勢へと入らないので私達が困惑していると、突然峰空が動きだして胸元から丸められた鞭を取り出して椿へ向けて振るってくる。
「うわっ!っとと・・・」
椿は私が反応するよりも早く飛び退いてその攻撃を避けたが、鞭が振るわれた地面にはパックリと斬られたような傷が走っていた。
「椿!」
「大丈夫、綾ちゃん!僕に怪我はないよ・・・でもあの鞭、とんでもない鋭さだよ」
椿が鞭を手元に戻していく峰空を見ながら私へそう言うと、峰空は不機嫌そうな表情を椿に向けてきた。
「ねぇ、靖〜さっきから狐のあの子、貴方を意識してないかしら?なぁに〜?恋のライバル〜?それじゃ一緒に居る白い子共々、速攻で消そうかしら?」
峰空はそう言ってくるが、椿も私も湯口先輩に対して"そんな感情"は抱いていない。
湯口先輩を何とかして助けたい理由は、私も彼には幾度となく世話になっていて、いじめられていた頃の椿の数少ない理解者であったからだ。
それに、湯口先輩は滅幻宗の連中に騙されている可能性だってある。
要するに――私はただ、椿と仲良くしていた頃の湯口先輩に戻ってもらいたいだけなのだ。
「残念だけど、僕はそんなんじゃ――わっ!」
「うおっ!?ととっ!・・・クソッ!鞭を振るスピードが早すぎて、何処からくるか見えない!」
椿が峰空の言葉を否定しようとしたタイミングで、今度は連続的に鞭が振るわれ始めた。
私は椿を守る為に前へ出て、風の妖術を発動して壁を作ろうとした瞬間――空を斬る音と同時に何かが飛来して弾き飛ばす音が聞こえてくる。
振り向くと、そこには紅い翼を広げた朱雀と再び弓矢を構えるオジサンの姿があった。
それで2人が鞭を弾いてくれたのは分かるが・・・どちらも信じられない動体視力と射撃の精度だ。
「一度ならず二度までも。流石にもう、容赦はしませんよ・・・!」
『その4つ子の1人に賛同だ。俺も、これ以上綾が傷付けられるのはゴメンだからな』サッ
そう言った朱雀とオジサンからは、何となく怒りのオーラが感じられる。龍花の方も、再び青龍刀を握り締めていてギリギリと殺気立っているように見える。
うん・・・椿が傷付けられそうだったのにはキレそうになったけど、なんだこの空気ヤベェ。
「ちょっと〜邪魔しないでくれる?」
「邪魔なのは貴方です。椿様と綾様を傷付けようとする者は、何人たりとも許しません」
とにかく、こうしてオジサンと朱雀が峰空の攻撃を妨害してくれるのならば、今度こそ湯口先輩の説得に――
「全く・・・何をモタモタしてるのかな。とっとと倒しちゃえば良いでしょうが!」
その声で、閃空も居た事を思い出して振り向くと、閃空は自身の周囲にボーリングの球程の赤い巨大な球体を浮かせながら私達へと走ってきている。
「それ行け!浮岩球(ふがんきゅう)!!」
そう彼が叫ぶと、浮いていた球の内の2つが私に向けて飛ばされてきた。
しまった、この速さじゃ防御も回避も間に合わない――そう思った瞬間、飛んできた球の1つは真っ二つに割れてから粉微塵に砕かれ、もう1つの球も突然炎に包まれたかと思うとドロドロに溶けて蒸発する。
「不届き者が。椿様と綾様を殺そうとする者は・・・私の目が黒い内は、2人には指1本・・・いや物体1つすら触れさせるものか!」
「椿ちゃん!綾ちゃん!こっちは私達に任せて、2人は湯口先輩をお願い!!」
閃空の攻撃を防いでくれたのは、殺気立っていた龍花とショックから立ち直ったカナだった。
そして2人は一瞬で閃空の周囲に浮かんでいた残りの球も破壊すると、閃空と私達の間に入ってそれぞれ青龍刀と妖具の車輪を相手へと向ける。
「ちょっとちょっと、邪魔すんなよ〜!君らは僕の分身と遊――」
すると、そう言いつつ閃空が分身体を召喚しようとした瞬間に、龍花は閃空の目の前へと飛んで彼の手にしていた妖具の分身玉を全て切り刻んでいた。
「はぁっ!?何、今の速――ぐべっ!?」
更についでと言わんばかりに、閃空は顔面を蹴られてサッカーボールのように吹っ飛ばされる。
それを見てカナは少し引いていたが、龍花には"私と椿を守る"という約束を守る為に全力を出している事が理解出来た。峰空を相手している2人が敵と共に、徐々に私達から距離を離していっている事からもそれが伺える。
「ふぅ・・・やれやれ、結局こうなるか。まぁ、良い・・・俺1人でも、お前達を退治してやる!」
そうして皆が他の2人を何とかしてくれているのだから、私達も湯口先輩の説得を絶対に成功させなくては!
椿と私は殺気を放ちながら近づいてくる彼へ、キッと鋭くした決意の眼差しを向けた。