私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾玖話 おい誰だよこんなモン持たせたの

 

何としてでも説得しようと視線を向けた私達に、湯口先輩は睨みつけるような目で威嚇しながら錫杖を構えて近づいてくる。

 

以前までなら、椿どころか私までもがその様子に尻込みしてしまう威圧感であったが、今は私も椿も一歩も引く事なく相手を見据える事が出来ている。

 

それは多分、神刀や神甲のお陰で私達が"神妖の力"を扱えるようになって、自分に自信がついたからなのだろうか。

 

とにかく、今の私達ならば真正面からでも湯口先輩を説得出来るかもしれない。

そう思って椿と共に巾着袋から神甲を取り出すと、妲己さんが少し慌てた声で話しかけてくる。

 

【あっ、椿に綾。なんか使いそうだから一応言っておくけれど、あの神刀と神甲はあんまり使わない方が良いわよ。アンタ達は、まだ"神妖の力"を完全に扱えるようにはなってないわ。それであんな"神妖の力"を沢山使うような物を、連続で2回か3回使ったら多分暴走するわよ】

 

「・・・」

 

「妲己さん・・・それ、戦う直前になってから言うなやぁぁああ!!」

 

せっかく湯口先輩を全力で説得しようとしたのに、これじゃ色んな意味で恥ずかしいわ!

 

とはいえ、それだけで私達は簡単に諦めたりはしないから大丈夫だ。

ついでに新たに習得した――というか思い出した妖術もあるので、今回はそれらの小手調べも兼ねつつ湯口先輩に"自分は相手よりも弱い"と戦意を削ぐ作戦に変更しよう。

 

「どうした?何かするんじゃなかったのか?」

 

「うん、ちょっと待ってね湯口先輩。これには深〜い訳があって――」

 

「それなら、俺からいくぞ!」

 

「ぎゃぁああ!話を聞けやぁぁああ!!」

 

立ち止まって椿へ作戦変更の事を伝え終わった瞬間に、湯口先輩は問答無用で錫杖を突き出して私に攻撃をしてくる。ギリギリだったとはいえ、その攻撃の動きはしっかり見えていたので身体を反らせて何とか避けきれた。そして、湯口先輩が攻撃しながらも着ている着物らしき服の懐から札を取り出してくるのも見える。

 

すぐさま私は、体育館の時のように爆発するタイプの札かと警戒していると、湯口先輩はその札を自身の右手首に巻いて殴りつけてきた。

 

「爆札拳(ばくさつけん)!!」

 

「クソッ、風袋(ふうたい)!うっ、ぐ・・・!!」

 

「綾ちゃん!!」

 

椿が私に心配の声をかけてくれたが、咄嗟に殴られる部分を中心に手足を集中させる形で丸まって、防御の体勢を取りつつ風の妖術で身体に豪風を纏った事で大したダメージを受けはしなかった。

それにしても、この儀礼衣装に変身していなかったらと思うと湯口先輩が起こした爆発の威力にゾッとする。

 

「大丈夫だ、椿!私は全然平気!」

 

「チッ、硬いな・・・妖術で防御力を上げていたか」

 

「ん?あぁ、ちょっと椿が前に死にかけた事で、私が盾になるべく思い付いた技なんだけどね」

 

「そんな事しなくたって・・・綾ちゃん。僕だって、白狐さんの力で防御力を上げられるから大丈夫なのに」

 

「椿には心配かけて悪いけど、私はあんまり怪我してもらいたくないんだよね!」

 

なんか自分で言ってて恥ずかしくなるようなセリフだが、椿を守る為ならば例え火の中や水の中だって突き進めるのは本当だ。

 

それに、こう防戦一方となる試合は私の好みじゃない。ちゃぶ台をひっくり返すかの如く、私達もここで反撃させてもらう!

 

私は椿と顔を合わせて、互いに頷く。彼女とは、事前に湯口先輩を消耗させる"ある作戦"を立てていたのだ。

 

「妖異顕現――緊急祭繰龍"弐式"(エマージェンシーサイクロン"にしき")、理楽脆笑(リラクゼーション)!」

 

「僕も手伝うよ!妖異顕現――影の操(かげのみさお)!」

 

私は風を操って以前よりも細く弱い微弱な風を作り出し、椿は湯口先輩の影の腕を動かし始めた。

私達は実力が成長して妖気が増えてきた事で、使える妖術の性能も徐々にパワーアップをしている。

 

例えば椿の"黒焔狐火(こくえんきつねび)"なら彼女自身の身体にも纏えるようになり、"影の操"ならば今のように他人の影をも操る事が出来るようになったという訳だ。

 

かくいう私の妖術も"稲妻雷霆蹴(いなづまらいていしゅう)"は純粋な威力の強化がされ、"緊急祭繰龍"もより細かな風の調整が出来るようになった。

これは私が自分で編み出した、その応用技といった所だ。

 

「なっ!クソ・・・2人共、いつの間にこんな」

 

「さぁ、ここからがマグm・・・お楽しみの時間だ!」

 

「覚悟してよね、湯口先輩」

 

あっぶねぇ、つい好きな芸人のネタをやる所だった・・・。

とにかく、私が操る微風は湯口先輩の耳元へとそよいでいき、椿の操る影が湯口先輩の身体をゆっくり這っていき脇腹へと到達する。

 

「くっ・・・何だこれ、耳も脇腹も直接触れられているみたいに気持ち悪――って、ひっ・・・あははは!」

 

「ほ〜ら、フ〜・・・フ〜・・・」

 

「そ〜れ、コチョコチョコチョコチョ〜」

 

なんというか・・・自分でやっておいてアレだが、動く風に耳元を優しく吹かれつつ、自身の影に身体をくすぐられるなんて世間一般じゃレアでまず見ない体験だと思う。

 

とはいえ、そもそも私達の目的は"湯口先輩を説得する事"が重要なので強い攻撃で無理やり捩じ伏せるよりかは、こうして反抗する気力まで奪う方が屈服しやすいのではという寸法だ。ちなみに、この作戦の発案者は椿である。

・・・湯口先輩の反応が結構良い感じだから、今度は私も椿にやってもらおうかな?

 

「へぇ〜湯口先輩って、耳は案外弱いんだ〜?」

 

「それに湯口先輩、脇腹も弱すぎです」

 

「はぁ、はぁ・・・てめ、ふざけてんじゃ・・・うぐっ、や、やめろぉぉぅう!?あひゃははは!!」

 

「「いえいえ、かなり真剣ですよ〜」」

 

うん、これは酷い絵面だ。

 

しかし、流石に湯口先輩もずっとやられっぱなしという訳ではなかったらしく、耳や脇腹がくすぐったいのを我慢しながら錫杖を握って、振り抜くようにして私達の妖術の拘束を一閃して払ってきた。振り抜いた湯口先輩が持つ錫杖を良く見ると、それは仕込み刀となっていて筋のような細い光が刀身から放たれている。

 

「うわぉ・・・やっぱり一筋縄じゃいかないか」

 

「ふん、2人共に俺の命を取る気は無いという事か?甘い考えを・・・俺は、お前達を殺す気でいるんだぞ!」

 

そこから湯口先輩は刀を握り締め、今度は椿を斬りつけようと突進してくる。あの刀からも妖気を感じる事から、間違いなく妖具か妖怪を封じた札を使っているのだろう。

 

「椿!湯口先輩がそっちに!」

 

「今ので分かっているだろうが、この刀は妖術を消し去る能力を持っている!もう俺にさっきみたいに変な妖術は効かないぞ!」

 

「くっ・・・!あっ、ぶない!」

 

椿に斬撃を避けられた湯口先輩だが、そこから流れるように今度は私にも斬りつけてきた。踏み込みと斬撃の調子が噛み合っており、剣術の型としてしっかりしている。

 

「翼だけしか見えてないと思ったか?お前達2人がかりでも、この刀を持った俺には勝てん!」

 

「くっそ〜・・・どんだけ上手い剣術してんだよ、湯口先輩は!」

 

今まで型もへったくれも無い喧嘩に慣れていた私も、湯口先輩の演舞にも似た攻撃から攻撃の動きにギリギリでしか対応出来ない。先程の斬撃も頭を下げて避けられたものの、ポニーテールの先端を掠めていったのだ。

 

「隙あり――って、わわわ!!」

 

「ちょこまかちょこまかと、2人共に避けるばかりで精一杯なようだな!・・・というか、2人共さっきから俺に対してあの変な妖術をかけようとするのは止めろ!結構くすぐったかったんだからな!!」

 

「や〜だよ〜!絶対、腰が砕けるまで諦めるもんか――おわっとぉ!!」

 

椿も白狐さんの力を解放して避けているとはいえ、私と同じようになかなか湯口先輩に隙を突かせてもらえないようだった。もちろん、私が隙を突こうとした時も同じ状況だ。

私が攻撃を避けた瞬間に椿が湯口先輩へ体術や妖術を仕掛けようとしても、すぐさま椿へ攻撃のターゲットを切り替えてくるのだからキリが無い。

 

そうやって攻め手になかなか回れずにいると、遠くから龍花と朱雀の声が聞こえてきて私達の元へ駆け付けてきた。

 

「椿様、綾様!助勢します!」

 

「この不届き者が!調子に乗っているのも今の内です!」

 

「えぇっ!?倒すの早――っとぉ!だから〜喋ってる時に攻撃しないでってのぉぉぉ!?」

 

「ふん、喧嘩にはルールもへったくれも無いんだろう?だったら、俺も容赦なくやらせてもらっているだけだ!」

 

湯口先輩の攻撃を避けながら2人が助太刀に来てくれた事に喜んでいる間にも、龍花達に遅れてオジサンとカナも私達の近くまで走ってくる。

 

『綾、椿!此方は片付いた、その坊主だけは何としてでも捕まえろ!』

 

「2人共、わら子ちゃんから受け取った"あの武器"を使って!!」

 

なるほど!湯口先輩に妖術が効かないのならば、一気に畳み掛けられる神刀と神甲でケリをつけてしまえば良かったのか!

 

「綾ちゃん、その顔だと多分忘れてたよね?」

 

「う・・・ごめんって」

 

そう納得した顔をすると同時に、椿からジト〜っとした眼差しが向けられる。

・・・はい、またしても私の頭が弱くてスイマセンでした。そもそも妲己さんが"あまり使うとヤバい"的な事を言わなければ忘れなかった訳でして。

 

――とまぁ、そんな言い訳はとにかく私達はそれぞれの武器を巾着袋から取り出した!

 

「神刀、御剱(みつるぎ)!」

 

「神甲、麒麟甲(きりんのこう)!」

 

それから"神妖の力"を暴走しない程度に解放していき、武器が光輝く真の姿を現すと同時に私達も以前に力を解放した時と同様の姿へと変化した。

私は銀の髪が更に白くなって結んでいたポニーテールが伸び、椿も髪が金色となってハラリと肩より長く伸びる。

 

「な・・・なんだ、それは!?」

 

「この姿、先輩は初めて見るよね。これが僕の・・・僕と綾ちゃんの"神妖の力"です」

 

「さて、本当ならコレで終いにしたい所だけ・・・どっ!」

 

私は少し首を鳴らしてから、椿と共に湯口先輩が持っている刀へと武器を振るう。

 

「ぐっ・・・!!」

 

その攻撃を湯口先輩は妖術と同じだと考えたのか、刀を横に突き出して守りの体勢を取る・・・しかし。

 

「そ、そんな・・・!妖術をかき消す、この刀が・・・!」

 

予想通りというべきか、湯口先輩の刀は物の見事に真っ二つにへし折れた。その様子に湯口先輩は驚愕しているが、ぶっちゃけ私も椿も避けられなくて助かったと安堵している。こんな数回使う程度で暴走のリスクがある武器を簡単に避けられたら困るし。

 

「これで勝負あったな、先輩」

 

「先輩、この僕達の力は神術です。妖術とは違うから、その刀では打ち消せないよ」

 

「くっ・・・クソ、仕方ない。お前ら一旦――なっ!?」

 

そう言って湯口先輩は撤退しようと後ろを振り向くが、そこには龍花達が捕まえて縄でぐるぐる巻きにされていたハズの峰空と閃空が跡形もなく溶けていく様子があった。

 

「これは、まさか・・・!」

 

「分身・・・体、そんな・・・」

 

私がそれを見てビックリする手前で、湯口先輩はガックリ肩を落として愕然としていた。

 

オジサンやカナが手伝ってくれたとはいえ龍花や朱雀の2人で、あれだけ早く倒せた違和感の正体はコレだったのか。まさか援護に来た身内にまで、こんな手抜きをされていると知れば湯口先輩も心が折れてしまったに違いない・・・現に呆然と膝をついてしまっているし。

 

そこへ元に戻った椿が湯口先輩に近づいて話しかける。私も周囲の安全が確保出来た事を確認して、"神妖の力"を抑えると同時に儀礼衣装を解除して彼の前へ立った。

 

「湯口先輩・・・貴方は、周りが見えなくなっていたんですね」

 

「頭を少しでも落ち着かせて、冷静に見てりゃ簡単に分かったハズだろ?2回目に会う私達だって、体育館の時と比べて見たら峰空はやたらと先輩にベタベタしてくるんだ。おかしく思わない方が不思議だよ」

 

「湯口先輩、いい加減に目を覚ましてください。滅幻宗は、何処かがおかしいんです。ずっと近くにいる先輩なら、とっくに分かっていたんじゃ――」

 

「・・・縛れ」

 

そう椿が言いかけた途端、湯口先輩は私達に背を向けて腕を後ろに組んできた。

 

「「へっ?」」

 

思わず私も椿も素っ頓狂な声を上げてしまう。

確かにオジサンは"何としてでも捕まえろ"とは言っていたが、まさか湯口先輩が自ら進んでやってくるとは意外だ。

 

「言う通りにしてやる。だが、そこの鎧の男が言うように、捕らえておかなければそっちが不安になるだろうし、仲間から色々と言われるだろう?」

 

「先輩・・・」

 

「翼、勘違いするな。俺は"妖怪退治をしない"と言っている訳じゃない。ただ、確認をしたいだけだ」

 

その湯口先輩の言葉に、私も椿も以前のような彼の優しさを感じてしまってホロリと涙が零れそうになった。

良かった・・・湯口先輩は、心から完全に私や椿を敵と認識している訳じゃなかったようだ。

 

とはいえ、そんな気持ちが本人にバレたら恥ずかしさで死にそうなので、私達はすぐさま妖怪を捕まえる時に使う、妖気が含まれた捕縛用の縄を巾着袋から探すが・・・どういう事だろうか、何処にも見当たらない。出発前には間違いなく椿と中身を確認したハズなのだが・・・。

 

「おいおい、こんな時に何で縄が見つからないんだよ・・・」

 

「ん、あれ?コレ・・・」

 

すると、その代わりに巾着袋から使えそうな物を見つけた。しかし・・・これは、その・・・

 

「どうした?2人共、早くしろ。何でも良いから俺を動けないように捕らえろ」

 

「えっと、本当に?」

 

「こ、これ・・・多分――」

 

「良いと言っているだろう!」

 

「あ、はい。良いんですね?本当に良いんですよね!?」

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて・・・」

 

それから私達は、試行錯誤しながらも取り出した物の付け方を確かめて、ようやく湯口先輩の首に取り付ける。

 

「よいしょっと」

 

「ふぅ、何とか付けられたな〜」

 

「・・・おい、何だコレ?」

 

「え、そりゃ首輪だけど。it's首輪、OK?」

 

「それとリード付きです」

 

「そうか・・・はぁ!?」

 

湯口先輩が見事なノリツッコミを決めてくれちゃったが、私達だってコレしか先輩の動きを縛れそうな物がなかったのだから仕方ない・・・そう、仕方ないんだ!

 

おい誰だよこんなモン持たせたの・・・

 

って今更ながら思い出してみたが、出発前に「忘れ物だよ〜」と言って里子が巾着袋を持って来てくれたから、ほぼ絶対かつ確実に彼女の仕業だ〜!!

 

「お前ら、ふざけんな!・・・っ!?し、しかも・・・と、取れないし!」

 

「あっ、すいません。その首輪、鍵付きです」

 

「おぉい!!」

 

なんというか・・・これはひどい。

 

守護の2人も、カナや校長先生も「何やってんだコイツ」といった顔をしているし、オジサンに至っては「なるほど、そういうのもあるのか」みたいな様子で頷いているしで恥ずかしくなってくる!

 

そして椿と一緒に顔を赤くしてたらカナが頭を撫でてくるから、もう穴があったら入りたいというか何というか・・・最悪だ。

 

「やぁ!もう終わったかい?全く・・・毎度毎度、人払いをする方の身に・・・もぉ!?」

 

「こんにちは、2人共!いつもいつも、私達より先に面倒をかけさせちゃってごめんなさ・・・いぃっ!?」

 

ついでの追い討ちと言わんばかりに、やっと到着してくれた杉野さんと犬吠崎さんにまで見られてドン引きされた・・・もうヤダ、私お嫁に行けないよ〜!

 

「そ、そんな・・・下僕が増えて・・・」

 

「って、杉野さんの方はドン引きじゃないんかい!」

 

「おい、誰が下僕だ!翼、これを外せ!!」

 

そう湯口先輩は叫んでいるが、彼のリードを掴んでいる椿の顔は何故だか嬉しそうな目をしているような気がした。まさか・・・

 

「椿ちゃん・・・椿ちゃんが嬉しそうな目を・・・駄目、"そっち"の道に目覚めちゃ駄目・・・!」

 

「カナの言う通りだよ、椿。流石に"そっち"は目覚められたら私も困るって〜!!」

 

「えっ、何が!?」

 

あ〜ぶねぇ、セーフセーフ・・・危うく椿が、目覚めてはならない道へ片足を踏み外しそうになってたわ・・・何とか戻ってきてくれて良かったけれども。

 

【つ、椿・・・アンタ替わりなさいよ!こんな面白い展開、アンタ1人に味わられてたまるかぁ!】

 

「妲己さんは黙っててくれぇぇええ!!」

 

いやホント、何なんだよこの結末は・・・。

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