私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
私と椿の間に座ってきた湯口先輩の表情は、椿と杉野さんによるSM漫才を見てドン引きしていた先程までとは違って、いたって真剣そのものへと変わっている。
「綾、翼・・・」
「湯口先輩、今の僕は"椿"です」
まだ湯口先輩が椿が男だった時の名前を呼ぶのを見て、私は何とも言いづらい表情になってしまう。
「チッ・・・つ、椿。その・・・あれから親父とも連絡が取れなくなった。俺は一体、何を信じれば・・・いや、信じていたのに・・・俺に分身体を寄越すなんて、滅幻宗は俺がどうなっても良いってのか!?」
「湯口、先輩・・・」
そして彼の行きどころが無い怒りの言葉で、私は更に何も励ましの言葉すら言ってやる事が出来ずに俯いた。あれだけ信頼していた仲間や親に裏切られたのだ。どれだけ湯口先輩の心が傷付いたのかは想像に有り余る。
すると、椿が先に湯口先輩へ向けて口を開いた。
「湯口先輩、"お座り"」
「ぬぉ!何す・・・」
「先輩、落ち着いて。今はとにかく状況確認だし・・・何を信じるか信じないか、それは先輩自身が決めてください」
椿は半ば無理やりに湯口先輩を座らせてジッと見つめる。しかし、彼はそれでも椿から顔を逸らそうとしていた。
「こっち向いて・・・」
「くっ・・・!!」
椿が湯口先輩を何としても説得したい、その気持ちは良く分かるのだが・・・こうやって顔を手で押さえて自身の方へ向かせようとしているのを見ていると、何故だか知らないが私はとても嫌な気持ちが込み上げてきてしまった。
冷水を張った浴槽の底から熱湯が湧き出してくるような、そんな煮えたぎる何かが上がってくるような感じだ。
そう感じて無言で2人を眺めていると、突然後ろから白狐さんが私達へ話しかけてきた。
『お主ら、何をじゃれておる。1人、残された綾が嫉妬しておるぞ』
「「じゃれてない!!」」
「私だって嫉妬してないっての!もう・・・」
突然の事でついつい反論してしまったが、白狐さんも白狐さんで私をからかっているのではないかと思ってしまう。
『まぁ、コイツに関しては椿と綾が何とかしたいと言っていたからな。どうするかは、2人に任せるぞ』
「あ〜もう、分かってるよ!黒狐さんもさ〜!」
なんというか、狐2人は本当に何なんだろうか。
普段だったら2人して、椿の事を"自分の嫁"と言って・・・あぁ、もう調子が狂うよ。
するとそこで、椿が湯口先輩へと質問を切り出す。
「あのさ、湯口先輩。学校はどうするの?まさか退学するの?」
「そこからか!?」
「え、それはなんか違くない椿?」
『話がだいぶ戻ったぞ、椿!』
『いや待て、これは椿の作戦ではないか・・・?』
いきなり椿が突拍子もない質問をしたので、私も湯口先輩も、そして狐2人も皆でビックリしてしまった。いや、まぁ確かに気になると言えば気になる話ではあるけどさ・・・。
ちなみに椿の祖父はその様子を冷静に観察しており、カナは釈然としないような表情で私達と湯口先輩の話を聞いていた。
前者はともかくとして、後者のカナは敵として襲ってきた相手なのだから不安になっているのかもしれない。
「えっと、そ、それで・・・学校はどうするんです、湯口先輩?」
「はぁ・・・学校に関しては、転校して別の所に行くつもりだったんだ」
何とか心を落ち着かせつつ湯口先輩に椿の尋ねた事を反復して聞いてみると、そう彼はため息をつきながら答える。これは、また別な何かがありそうだ。
椿が困惑して湯口先輩に問いかける。
「転校って・・・友達とはどうするの?急な事で、ショックを受けるんじゃ――」
「それはねぇな。俺もお前ら2人と同じく、あの学校でいじめられていたからな。それが妖魔の仕業と分かった時は、余計にムカついたが・・・」
「「あっ・・・」」
言われてみれば・・・私は、椿がいじめられていた大元の事をスッカリ忘れてしまっていた。
『電磁鬼』、そいつは学校の生徒全員どころか、先生までも操って好き放題をしていた妖魔だ。あの校長先生ですら、洗脳こそされなかったとはいえ迂闊には動けないと判断した程の相手を、私と椿はいとも簡単に妖気を辿って見つけたのだから今更ながらとんでもない話だ。
そして湯口先輩の方も、父親が滅幻宗の幹部である事を考えたら、それに対抗出来る妖具を持っていたからこそ、私と同じく洗脳されずに済んだのだろう。
とはいえ、原因が妖魔によるものとまでは行き着かなかったようだ。だからこそ、椿がいじめられていた真の黒幕を見つけられなかった怒りも、湯口先輩が持つ妖怪や妖魔への怒りに上乗せされたのかもしれない・・・いや、きっと上乗せされたのだろう。
「良いか、妖怪や妖魔ってのはそれだけ悪なんだ。平気で人を操り、傷つける。綾もつば・・・きも経験しただろう?それなのに2人共、何で"そっち側"に回る」
そんな湯口先輩の話を聞いている内に、私と椿は何だか妙な違和感が彼から感じられる事に気付いた。
妖怪と妖魔の違い・・・あっ。これはひょっとすると、ひょっとするかもしれない?
椿は私にアイコンタクトをしてから、湯口先輩に"ある質問"をする。
「湯口先輩、もしかしてなんだけど・・・妖魔が人の言葉を理解してない事、お父さん達から聞いてる?」
「あっ?何だそれ?初耳だぞ」
「うわぁ、やっぱりかい・・・こりゃ色々説明しないと駄目かもね」
湯口先輩は予想通り、どうやら妖怪と妖魔を同一視していたようだ。だが椿達には、ちゃんと人間のように話したり出来るし、悩んだり思い詰めたりといった感情だってある。
それにしても、妖魔については・・・正直な話、私にはアレが"暴走した妖怪の成れの果て"だとは信じ難いのだ。
それに妖魔は元々、妲己さんが生み出した存在だとは聞いてはいるものの、アレはきっと亜里砂もとい華陽という九尾の狐が関係している気がする。取り込んでいるように見せかけているのも、恐らくは同じ九尾の狐であるからこそ何らかの方法で消滅させる事が可能だからなのかもしれない。
まぁ、そんな事を考えるよりも先に湯口先輩へ私達は知っている妖魔の事について話す事とした。
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「なんだ、それ・・・聞いてねぇぞ。それじゃあ、お前達も妖魔を同類だとは思っていないし、そいつらを危険な者として退治しているのか?」
「うん、そうだよ」
「バッサリ言うなら、それで合ってるかな」
私達が頷くのに合わせて、部屋に居る他の皆も縦に首を振って私と椿の話を肯定する。
そんな様子を見た湯口先輩は、無言で俯いてしまって何かを葛藤するかのような表情を浮かべた。
本当はここまで追い込みたくはなかったのだが・・・まさか、彼が信じていた"想い"さえも滅幻宗に裏切られる事になるとは思ってもみなかったのだろう。
「湯口先輩、無理しなくても良いです。ただ・・・知ってください、僕達の事を。その上で、先輩が判断して下さい」
そう言って椿が湯口先輩へ優しく語りかけると、そこへ丁度里子が戻って来る・・・首輪を沢山持ってニコニコしている美亜も来たが。おいそれ何に使うつもりだよ。
「椿ちゃん、綾ちゃん!多分これだよ!家に置いてあったやつと全く合わない鍵があったから!」
「ありがとう、里子ちゃん。それと、美亜ちゃ〜ん・・・そんなに沢山持って来て、どうするの?」
「すっげー嫌な予感すんだけど、私は」
里子から首輪の鍵を受け取った私達は、嬉しそうな表情で尻尾まで丸めている美亜に、多少怒気を含んだ声で話しかける。
「え?べ、別に良いじゃない。私にだって下僕が居たって良いでしょ!?アンタ達ばっかりズルいわよ!」
「いや、私は好きで下僕を増やしてねぇよ!」
「それに下僕が欲しいって言っても、普通そんなには要らないよね?僕だって、望んで増やしてる訳じゃないんだけどさ・・・」
その後に何とか私達は美亜を説得して、何十個も持って来ていた首輪を元の場所へと戻させたのであった。ちなみに、椿の祖父はそんなノリノリだった時の美亜を凄い眼差しで睨んでいたので、多分私達が説得に失敗してたらエラい事になってたと思う。
それからようやくして、私達は先程渡された鍵を使って湯口先輩の首輪を外した。
「これで、先輩は自由ですよ。後は逃げるなり僕達を退治するなり、好きなようにしてください」
『なっ!椿に綾、何を・・・!』
『落ち着け、黒狐。滅幻宗の坊主よ、戦うのならば好きにやってもらって構わんが・・・味方も居ないこの状況、結果がどうなるかは分かっておるだろう?』
すると湯口先輩は首輪を外された事に、それが意外だったのか驚いた様子で首元をさすりながら私達を見てきた。
「・・・何で、こんな事を?首輪をしておいたままにするだろう、普通は」
「そうして欲しいの?」
「これが私と椿の、湯口先輩に対する答えだからね」
私達のその返答に湯口先輩は何故か顔を赤らめつつ、何をするでもなく私達をジッと見てくる。そのお返しとして、私達も先輩をジッと見返してやった。
すると、先輩は何処か納得した様子で頷いた。
「分かった・・・とりあえず一旦、お前達の情報集めに専念しておいてやる。だが勘違いするな、お前達が"悪"じゃないと・・・そう決めた訳じゃないからな。おい、この家に空いている部屋はあるのか?」
「えっ?先輩、此処に住む気?」
「た、確かに好きにして良いっては言ったけどさ・・・なんか、思い切り良すぎないですか?」
「悪いか?」
「いえ、大丈夫ですよ僕は」
「まぁ、ちょっとビックリしたくらいだし、私もOKだよ」
それに、湯口先輩がそうしてくれるならそうしてくれるでありがたいとも思っている。妖怪の良い面を見て、自分の考えがズレていたのだと反省してもらえれば特に。
そんな先輩の話に、椿の祖父は多少警戒した様子で1つ条件を付けてきた。
「ふむ、良かろう。しかし、2人が良くても儂らは警戒させてもらうぞ。それに監視カメラも付けておく」
「あぁ、それで良い」
「監視カメラ?この家にそういうのって・・・」
私と椿が不思議に思って首を傾げていると――
「浮遊丸よ、来い!」
「へ、へ〜い・・・何すか、翁。自分、もう反省してますさかい。こ、これ以上は・・・」
「あ、浮遊丸が居たっけか。にしても、少し見てない内に随分とやつれたな〜・・・自業自得だけど」
変わり果てた浮遊丸の様子に苦笑いをしていると、椿の祖父はそんな彼へと指示を出す。
「お前さんに任務じゃ。良いか、この男子を儂が"良い"と言うまで常に監視しろ。お前さんに付いている撮影能力も、映像として24時間こちらに流れるようにしておいた。もしサボったりしておったら、すぐバレるからの」
つまるところ、浮遊丸自体が監視カメラそのものになったような状態という訳か。これは流石に大変そうかと浮遊丸へ視線を移してみると・・・
「え〜・・・女子やなくて男子・・・やる気失せるわぁ・・・」
「うん、知ってた」
でしょうね!
あの変態妖怪がこんな仕事を嬉々として受けるなんて思ってなかったよ、私は。
しかも、それを見て湯口先輩も再び警戒モードになっちゃってるし。
「な、何だコイツは・・・普通にコイツは害悪だろう。クソ、やっぱり妖怪は・・・」
「あの・・・先輩。とりあえず害があるのは女性だけだし、人間にも居るよね?こういう人・・・」
「くっ・・・なるほど。妖怪側にも居るのか・・・そんな奴に監視されるとか、どうも胸糞が悪いが・・・まぁ良い」
何とか椿が説得してくれたから湯口先輩は納得してくれたが、彼女も浮遊丸の様子を見てドン引きしているようだった。
とはいえ実は私と椿には、浮遊丸のやる気を起こさせる方法を知ってたりする訳なのだが。っていうか、多分私達じゃないと出来ない。
それ以外の方法だと、多分コイツは手を抜く可能性があるだろうし。
"コレ"をやるのは恥ずかしいが、椿だってそれを我慢して皆の前でやろうとしているのだ。それなら私だって彼女の為にやる義務がある。
覚悟を決めた私は、椿と共に可能な限り可愛らしい上目遣いをして、顎へ人差し指を当てながら浮遊丸へ甘ったるい声で励ましの言葉を送る。
「浮遊丸さぁん、頑張って任務を達成してくれたらぁ・・・い〜っぱい、写真撮らせてあげるね〜」
「私も、浮遊丸が頑張ってるカッコイイ所・・・沢山見てみたいなぁ〜ねぇお願ぁ〜い?」
「んなっ!?」
よっしゃ!浮遊丸が鼻血出してるって事は、私達の予想通り効果てきめんだ!
――と思っていたら、バタバタバタッ!と他にも倒れる音が聞こえてきた。
嫌な予感がしつつも私達が振り向くと、なんと部屋に居た人達全員が鼻血を出してダウンしてしまっていたのだ。その有様は、最早部屋で殺人事件でも起こったのかという程に酷い。
うわぁ・・・いや、私も椿もこんな事になるとは思ってませんでしたよ?せ、せいぜい浮遊丸程度にしか効かないと予想してたのに・・・。
「椿、それに綾よ・・・お前さん達、そろそろ自分の魅力に気付いた方が良いぞ」
「そう言うおじいちゃんまで、鼻血・・・」
「ぬぅ・・・不覚」
まさか皆にまで効果バツグンとは思ってもいなかった私と椿は、揃って頭を抱えてしまった。
そして丁度部屋に戻って来た美亜は、何故かメモを取りつつブツブツと呟いているし・・・あぁ、コレは絶対見られてる流れですわ。
「なるほどね。アレなら私の方が得意ね。猫なで声・・・ふふ、負けないわよ2人共〜」
「"猫だけに"ってか?勘弁してくれよ、美亜〜・・・」
「もう僕達を追い詰めないで〜!!」
最早恥ずかしさが頂点に達してしまっていた私達は、全力ダッシュで自分の部屋へ逃げ込んだのであった。
なんというか・・・これからは大惨事を避ける為にも、あんな事を簡単にやらかすのは控えなくては。
【椿に綾〜2人共に恥ずかしがってちゃ、まだまだよ〜!それにさっきのも、もうちょっとこう――】
「おぅ妲己さん、それ以上はホント勘弁してくださいや!」
【ふふ・・・椿も、良い感じで戻ってると思ったのにね〜】
「妲己さん、何か言いましたか!?」
そして妲己さんの声を無視しながら部屋へ戻った私達はそれぞれ、今日の出来事を全部忘れようと布団を被って丸まるのであった。
あ〜クソ、めっちゃ恥ずかしいんですけど!!