私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
「う〜・・・妲己さんのバカ」
椿は布団にくるまって恥ずかしそうにブツブツと呟いている。さっきの誘惑っぽい行動は私も相当恥ずかしかったが、元々男として育ってきた椿にとってはそれ以上に精神的ダメージがあったのだろう・・・最悪、私に役割押し付けてくれても良かったのに。
【あら、間違ってないでしょ?男性に言う事を聞かせるにはアレが一番なのよ〜】
「傾国の美女様が言うと、それシャレにならねぇよ・・・」
「間違ってる、絶対間違ってるよ〜」
妲己さんが偶に良い提案を出してくるとはいえ、今回は流石にちょっとやるべきではなかったかもしれない。でも、提案を断ったら断ったで椿の身体を乗っ取ろうとしてくるかもしれないし・・・ぐぬぬ。
椿と私がそうやって布団に潜って頭を落ち着かせようとしていると、私達の部屋へドタドタと狐2人が入って来る音が聞こえた。
『椿よ、大丈夫か?』
『また妲己に唆されたのか?』
「相変わらず、2人は椿一筋ですな〜・・・ったく」
ん?いや、足音からしてもう1人誰か来ているようだが、狐2人と違って妖気が感じられないから、ひょっとすると・・・。
「椿。その・・・お前の中に、あの妲己が居るって本当なのか?それと綾、お前にもちょっとばかり確認したい事があるんだが・・・」
湯口先輩まで来ちゃったよ・・・。
私はもう観念して布団から出てきたが、椿は更に恥ずかしくなってしまったのか、私の布団まで使って丸々な布団ボールになってしまう。
誰にも顔を合わせたくない程に辛いのは分かるけど・・・心配されているのだから、少しは顔を見せてあげた方が良いと思うよ、私は。
そうしている内にも、狐2人は椿の居る布団ボールの傍に座っていた。
『おい、椿よ。尻尾が隠れておらんぞ』
『まさしく、頭隠して尻尾隠さずだな』
よくよく見ると、確かに布団ボールから椿の尻尾がヒョッコリはみ出ている。椿は2人に近づいて欲しくないのか、尻尾をピーン!と逆立てて威嚇をするが・・・
『うむ、やはり椿の尻尾は格別じゃな。絹糸のような触り心地が最高じゃ』
『あぁ白狐、そこは同感だな』
まぁ案の定、狐2人はモフモフしだした訳で。
すると、そこへ湯口先輩がため息をつきながら、椿の尻尾をモフモフする狐2人の間へ割って入って来た。なんというか、この感じは見覚えがある気が・・・。
「悪いな、狐のお2人さん。それじゃあ何時まで経っても、コイツは出て来ない」
「キャン!?」
あぁ、やっぱり。
湯口先輩は椿の尻尾をムギュっと掴んで、無理やり布団ボールから引っ張り出したのである。
見覚えがあるといったのは妖怪の世界に関わる以前に、椿が体育の持久走の際に「バカにされるから授業に出たくない」と男子トイレに引きこもっていた時、一応は女子である私が困り果てている所を湯口先輩は「外で綾が心配してる」とか色々説得しながら引っ張り出した事があったからだ。
ちなみに、その持久走では私が一番最後にゴールしたのであった。短距離走とかの方が得意な私にとって、ああいう長期戦的な運動は苦手なのだ。
そんな事を思い出していると、椿は湯口先輩に尻尾を掴まれながら慌てた声をあげる。
「ひぇぇえ!せ、先輩・・・待って待って!僕、尻尾は弱いんです〜!!」
「そんな事は知っている。妖狐の奴らは大体そうだ・・・というか、お前に言いたい事があるのに、そうやって逃げられていたらマトモに話も出来ないからな」
そう先輩は言いつつも、椿の尻尾を静かに触り続けている。
「せ、先輩・・・わ、分かったから。その、ひぅっ!し、尻尾・・・離してください!」
「・・・」
「もうっ!いい加減離してって言ってますよね!!」
椿は自分の尻尾を掴んでグイと湯口先輩の手から引っこ抜く。そして、そのまま先輩と私の方を睨みつけてきた。湯口先輩は分かるとして、なんで私まで?あっ、やっべ椿が可愛くて助けんの忘れてた。
先輩はすぐに椿へと謝る。
「あっ、すまん!想像以上に触り心地が良かったから、ついな・・・」
「む〜・・・それと、綾ちゃんも全然助けてくれなかったのはどういう事ですか?」
「ご、ごめん椿!なんか見てて可愛かったから、助けるのをスッカリ忘れちゃってたよ」
「全く2人共――うひぃっ!?」
私と湯口先輩が椿に謝っていると、今度は狐2人が彼女の後ろに回って耳を触り始めた。
おい自重しろよ2人共。
『ふん、ライバル登場か?だがな、椿は尻尾だけではない。耳も尻尾と同じくらいに触り心地が良いのだ』
『白狐の言う通りだ。このフサフサの毛並みに、柔らかな感触が最こ――』
「よっし、ええ加減にせえよお前ら!!」
『『ふごっ!?』』
「フー!フー・・・!!」
ついつい椿の反射的に繰り出した肘打ちとタイミングが被ってしまったが、顔面グーパンに鳩尾エルボーのコンボくらい狐2人は多分大丈夫だと思う。普段のバチが当たった・・・いや、コイツら曲がりなりにも神様だったわ、そういえば。
そんな私達を見てなのか、何故か湯口先輩は寂しげな顔を浮かべていた。
「ふっ、なるほどな。お前がいじめられていた時に俺がやりたかった事を、コイツらが先にやった訳か・・・」
「えっ、先輩?」
「なんかサラッと聞き捨てならない事が聞こえた気がすんですけど。えぇ・・・えっ、気のせい?」
ヤバいような湯口先輩の性癖が聞こえてしまったかもしれないのはさておいて、彼はそのまま椿の前に立って正座をした。
「昔と比べたら今のお前ら2人の方が、幸せそうな顔をしているな。俺はどうやら、今まで周りが見えていなかったみたいだ。さっきは鞍馬天狗の手前だから少し意地を張っちまったが、峰空と閃空の2人に分身体を寄越されたと分かってからは、もう俺の中で答えは出ていたよ」
「え、ちょ・・・湯口先輩!?」
そして、先輩は私達へ向かって土下座をしてきたのだ。これには私どころか、流石の椿もビックリして慌てて止めさせようとする。
「せ、先輩、ちょっと・・・!?」
「椿・・・それに綾、2人共すまなかった。今更、こんな謝り方でどうにかなるとは思っていない。だけど、もう一度・・・友達としてやり直してくれないか?虫の良い話だと思われるかもしれないが・・・」
「先輩、顔を上げてください。僕達は先輩に土下座をさせたくて説得していたんじゃないんです。ただ、騙されているかもしれない先輩を助けたかっただけなんです。だから、うぅ、ぐす・・・」
「あぁクソッ、なんでこう・・・私も涙が出てきちゃうんだっての。ひっぐ、うぅ・・・」
「椿・・・お前、泣き虫だな。それに普段は強気だった綾も・・・2人共、そんなに涙脆かったか?前はもっと、椿は感情を失ったような顔をしていて、綾も四六時中全方位にキレ散らかすような奴だっただろう」
「誰のせいだっつ〜の、誰の・・・あぅ、ぅう・・・」
椿が妖魔の魔の手から救われるまで味方をしてくれていた先輩が、突然私達を敵視してくるようになった事。そして、そこから今までの苦難を思い出し、そこまでに我慢してきていたものが私達の中からドンドン溢れてきてしまう。
「うぐ、だって・・・だって先輩は、綾ちゃんと一緒にずっと僕の味方をしてくれていたのに・・・あんな、あんなぁ・・・!綾ちゃんも1人で辛かったのに、先輩にやっと・・・やっと分かってもらえて、嬉しくてぇ・・・うぅぅ〜」
「あ、うぅ・・・うぁぁぁああん!もし分かり合えたら笑顔で迎えようって、そう思ってたのに・・・先輩のバカ野郎〜!」
「全く、2人共に感情が豊かになったな。いや・・・これが本来のお前ら、なんだろうな」
私達がわんわん泣いている所を、湯口先輩は優しく椿と私の頭を撫でてくれた。その手の温もりで、更に泣きたい気持ちが強くなってきてしまうが、ふと私達は先輩に質問しなくてはいけない話を思い出してグッと堪える。
――そうだ、何故湯口先輩は"妖怪を酷く嫌っているのか"・・・それを聞かなくては。
そう思っていると、椿が先に先輩へと質問をした。
「えぐ、ぐっす・・・でも先輩、本当はそんな急には受け入れられないんじゃないの?まだ、無理をしているんじゃない?あんなに僕達の事、毛嫌いをしていたのに・・・」
「すん・・・っぐす、確かにそういえば・・・大丈夫なの?」
「ん〜そうだな。2人の言う通り、いきなりはちょっと無理かもな」
そう言って湯口先輩は、バツが悪そうな顔をして頭を掻いた。こういう時に私達の前で強がるのは、かつてから先輩の悪い癖であった事を思い出す。
「ねぇ、何でそんなに妖怪の事が嫌いになったの?先輩の昔に、何かあったんですか?」
「もう私達は先輩に隠し事なんかしないし、だからこそ先輩の方も教えて欲しいんです」
私達は涙を袖で拭き取り、すぐに湯口先輩へと質問をしながら詰め寄った。椿がいじめられていた頃に色々と助けてもらった、だから今度は私達が先輩を助ける番だ。
「あぁ、あの事件からだ。6年前に起きた・・・ある山荘での事件。俺の両親が――妖怪に殺された事件さ」
先輩が重い口を開いた。その衝撃的な言葉に、私達は思わずギョッとしてしまった。
「えっ!?待って、先輩のお父さんって・・・玄空なんじゃ!?」
「いや、俺は拾われっ子だ。当時、その場に居合わせた玄空に養子として引き取られたんだ」
「なんだって!?そんな・・・」
更に放たれた、にわかには信じ難い先輩の言葉に私は椿と共につい呆然としてしまった。
湯口先輩の雰囲気と玄空の雰囲気は、本当に親子と思えるくらいに似通っていたというのに・・・それが実際は血の繋がりが無い関係だとは、私からすると些か不自然に感じてしまうのだ。
何かを見落としているような、そんな気さえもしてくる。湯口先輩から妖気を感じられるのも、単に件の札を使っていたからだとは思うのだが・・・それでも重要な、何かが抜けている気がする。
『椿に綾よ。色々と気になるようじゃが、今は素直にコイツを説得出来た事を喜ばんか』
そんな事を考え込んでいると、狐2人から肩をポンと叩かれて私達は我に返った。
「えっ?あっ・・・」
「うっ・・・すみませ――って、何してんの2人共ぉぉぉ!?」
ふと隣に座る椿を見ると、いつの間にやら2人は彼女の後ろから覗き込むような形で白狐さんは頬にキスをしていて、黒狐さんはうなじへキスをしていた。
あぁ、しまった!油断したぁ!!
やだもう、この2人・・・
と思っていると、今度は更に湯口先輩も意味深そうな笑みで正面から椿に近づいてくる。
その先輩の行動に、椿が少し慌てた様子を見せた。
「えっ・・・?な、何ですか、先輩?」
そして、なんと先輩はそのまま椿の額へキスをしたのだ!え、ちょ待って・・・先輩が椿にそんな事をしたって事は、まさか?
キスをされた椿は、挙動不審になりながらも先輩へ問いかける。
「せ、先輩、何を・・・?」
「俺の気持ち、分かっているんだろう?例え妖狐だろうと何だろうと、椿・・・お前はお前だ。そして――好きだ、椿」
その先輩の言葉に、私は何故かガツンと頭を打たれたような感覚に襲われた。
変な人間関係が嫌いで、今まで私は椿以外の人間には、あんまり興味を持たないようにしていた・・・ハズなのに。
その上、本当は体育館の時に湯口先輩の本心は知っていた。
それなのに、それなのにどうして私は――
"椿に嫉妬"なんかしているんだろうか?
それを自覚した途端に自分の喉奥から言葉に出来ないような吐き気が襲ってくる。私はそれを周りに悟られる事が無いように全力で抑えながらも、3人に囲まれている椿から視線を逸らした、逸らしてしまった・・・。
「おっと・・・!後ろの怖い2人に殴られる前に、俺はとっとと退散するか。椿、絶対その2人から奪ってやるからな!」
『ぬぅ!尻尾を触るくらいなら許したが、まさか宣戦布告をしていくとは!』
『余計なライバルが増えたではないか、椿!こうなったらアイツに心移りせぬよう、今晩はシッカリと俺達の愛情を刻みつけてやる!』
「わ〜ん!!やっぱりこうなったぁ!!先輩のバカ野郎〜!!助けて綾ちゃ――んむぅ!!」
そんな私の横で、椿が狐2人に揉みくちゃにされてしまっていたが・・・今の私は、自分で自分の事が分からなくなりそうで、これからどうすれば良いのかと頭を抱えてしまった。
違う、違う違う違う。
椿は私にとって"一番の親友"なんだ。
だから、こんな負の感情なんて抱かない。抱いちゃ、いけないんだ・・・。