私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――美亜が帰って来なくなってから1週間後
いよいよ私と椿は居ても立ってもいられなくなり、美亜を探しに行くべく準備をして出発しようと玄関で最後の荷物確認を行っていた。
あれから里子が日を増す毎に落ち込んでいくのは、流石の私でも見ていて心配になる程だった。
・・・えぇ、勿論別な意味ですよ。
なんで毎日あの子、自分の周りに首輪を置いて待ってる訳!?しかも1日に1つずつ増えていってるし、幾ら何でも怖くなってきますもん!!
そんな事を思い出しつつ、荷物の確認も終えて靴を履いて出発しようとすると、白狐さんに呼び止められた。
『待たぬか、椿に綾よ』
「白狐さん、何で止めるんですか?」
「美亜が居なくなって、もう1週間・・・心配しない方がおかしいよ。早く探しにいかないと――」
『迷子の猫を探すのなら、センターを経由した方が一番だ。それにこの1週間、俺達が何もしていなかったと思うか?』
「「あっ・・・」」
今度は黒狐さんも現れて、自慢げに腕を組みながら話しかけてきた。
『どうも、あの娘の行動が気になってな。センターに行って情報収集をしていたら、こんな物が出てきたわ』
そう言って白狐さんが取り出してきたのは、1枚の任務の受付表だった。だが、それを良く見てみると――
《Sランク任務。緊急対処。金華猫一家の主、十郎(じゅうろう)と彼の娘の一人、美海(みう)の確保及びに連行。要注意組織に関する情報を聞き出せれば報酬アップ》
「あん、の野郎・・・!」
その文面だけで、美亜が何故あれ程までに態度がおかしかったのかを理解した。
あの時の現場の騒ぎようからして金華猫一家は美亜の家族である事は間違いないだろうし、美海という名前も姉である彼女へと挑発的な言葉を放っていた少女である事を思い出したからだ。
如何にも厳格そうな家族だとは思っていたが、まさか何か悪事まで働いていたとは・・・私も美弥子の事で心配になってくる。白狐さんが更に2枚の手配書を見せてくれたが、そこに写っていたのが美亜の父親と美海であった事から確信に至った。
美亜はたった1人で、家族の問題を何とかしようとしているという事に。
その事実を悟った椿が愕然としつつも口を開く。
「これ・・・美亜ちゃんの家族だ」
『センターに行った際、あの娘はこれを見てしまったのだろうな』
「クソッ・・・って、ありゃ?ちょっと待って白狐さんに黒狐さん。この任務の内容、何かおかしくない?」
「本当だ、綾ちゃん。ねぇ2人共、これって一体?」
『分かったか、椿に綾よ。この任務が"確保"を目的としとるのが。普通ならば、この手の事件は妖怪による事件を専門とする捜査零課に回される。しかし、その零課でも不可能だと判断された事案がセンターの任務として、我らのようなライセンスを持った妖怪への依頼となるのだ』
なるほど・・・確かにそうでなければ、こうしてセンターに依頼が舞い込んでくる訳もない話だ。
そして白狐さんは再び任務の書類に目を通しつつ、悩ましげに唸り声をあげる。
『ううむ、しかしなぁ・・・Sランクじゃと?一体何をしたのだ、この家族は』
「そうだよね、白狐さん。私もそこが変に感じてるよ。だって普通は悪い事で手配書に乗るっていったら、コンビニ強盗とかそういうのでAとかBになるって程度じゃないの?」
『綾・・・流石にその程度では、AランクどころかBランクにもならんぞ』
「えっ?そうなの?」
「綾ちゃんの馬鹿・・・Sランクが国家を揺るがすくらいの危険度だって教えられた事、とっくに忘れてたの?」
「いやいや、だってさ〜?そういうちょっとした事件でも、交通の"インフル"だか何だかは止まっちゃう訳じゃん?」
『『「それを言うなら"インフラ"(です・だ)」』』
「おぅ・・・マジですか」
なんというか、また恥ずかしい思いをしてしまった気がする。
そんな中、椿の祖父が突然現れて声を張り上げてきた。
「そこでじゃ!センターに連絡を取り、この件に関してはこの儂――鞍馬天狗が受け持つ事にした!更に!この家に住む者達は、儂の権限で全員この任務を手伝ってもらうぞ!!」
「本当!?こりゃ渡りに船で心強――」
「「「「え〜!!?」」」」
「って、あっるぇぇぇええ!?まさかの全員苦情!?」
いやまぁ、一応気持ちは分からないでもないけれども。それでも、こうね・・・何かあるでしょう、ちょっとは!?
「嫌じゃと言うなら――」
「「「「頑張ります!!」」」」
「ホッ・・・よ、良かった」
椿の祖父のひと睨みで、皆がアッサリ手の平をクルリと返したので一先ずは安心した。
それにしても、もしかしたら彼も美亜の為にここまでしてくれたのだろうか・・・結果的には合法的に助けに行けるのだから良いんだけど。
「全く・・・妖怪も人も、やる悪事でいったら大して変わらないのか?」
「湯口先輩!」
すると今度は湯口先輩もいつの間にか椿の後ろから現れて、そのまま彼女の傍へ近寄ろうとする。
しかし椿は恥ずかしさから離れてしまい、先輩は一瞬だけショックを受けたような目をした。先輩も先輩とはいえ、まだまだ椿の乙女心を理解し切れていないらしい。
そして、椿が自身の祖父へと質問をする。
「それよりもおじいちゃん。この任務を受けるのは良いけれど、どうやって2人を確保するの?」
「ふっふ・・・それはの、夜になってからのお楽しみじゃ」
その質問に、椿の祖父は何だか含みのありそうな笑みを浮かべて答えた。きっと良い考えなのかもしれないが、教えられないと私達の方は少し不安になってしまうんだけど・・・。
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――その日の夜
準備を済ませた私達は家の妖怪全員で、妖界側の鹿苑寺(ろくおんじ)――つまり世間一般では金閣寺と呼ばれている所へやって来ていた。
この辺りも、人間界の方で幼い頃にオジサンと良く見に来ていた場所なのだが、なだらかな山にある為に結構体力を消耗しやすかったりする。
お陰で私は、息が切れて辛くなる前に一気に駆け登る事を覚えて、現在の抜群な瞬発力を手に入れられた訳なのだが。
しかし、そんな思い出の地も妖界の所となると雰囲気が全く違くなっている。
金閣寺らしき建物はあれども、それは人間界のとは違って金色になってはなくボロボロで不気味な姿になっていた。
「いや〜ちょっとボロくて金色じゃないだけで、ここまで怖そうな建物に見えるなんてね」
「綾ちゃん、あれを見て。金閣の後ろに、洋館が・・・」
椿の言葉で寺の後ろへ目をやると確かに一際大きな洋館が建っていて、その大きさによる迫力に私は少しばかり圧倒されてしまった。
「おわ、デッケ〜な・・・」
「おじいちゃん、あの洋館は?」
「金華猫一家の家じゃ」
その椿の祖父の言葉に、私達は驚いて彼の方を振り向いた。
「えっ?いきなり本拠地!?なんか到着するの早くないですか!?」
「えっと・・・おじいちゃん、もうちょっと作戦とか・・・」
「何を言うとる。美亜の奴が居なくなって1週間、状況は一刻を争うのじゃ」
そして椿の祖父は真剣な顔付きで視線を私達から洋館に移す。
「儂の家に厄介になっている以上、美亜も大切な家族じゃ。儂に相談もせずに、1人で勝手に行動を起こしおってからに・・・連れて帰って説教じゃ」
「おじいちゃん・・・」
「えぇ・・・そうですね、椿の爺さん」
「さて、良いか椿に綾。お前さん達は白狐と黒狐の2人と共に潜入し、美亜を見つけて助け出すんじゃ」
「うん、分かったよ」
「私も了解です!"じゃじゃ馬猫娘救出大作戦"、開始といきましょう!」
「のぅ、椿よ・・・あの綾のネーミングセンスの無さ、どうにかならんのか?」
「すいません、僕じゃ何ともならないです・・・」
「そんなにダサいの!?私が考えた、この作戦の名前!?」
流石に冗談だろうと思って皆の反応を見てみるが、確かに全員が苦笑いをしている様子を浮かべていた。ガビーン・・・ちょっとショック。
気を取り直して、私達も椿の祖父に続けて巨大な洋館を観察していると、3階の窓から何者が私達の方を見ているような影が見える。
「椿の爺さん、あの場所で誰かが私達を見てる!」
「声が大きいよ綾ちゃん・・・僕も見えたけどさ。でも、もしかしたらバレているんじゃ?」
「なぬ?強力な意識阻害の結界を張っとるのにか?」
椿の祖父は私達の指さす方向を慌てて確認してみるが、その3階の窓には既に誰の姿も無くなってしまっていた。
気のせい・・・だろうか?
でも何だか一筋縄ではいかないような気がする。
「ったくよぉ・・・ひっく、この洋館を丸ごとぶっ壊せば良いだろうがぁ」
私達が変に刺激してしまったせいで緊張する皆を尻目に、酒呑童子は普段と変わらず酔っ払ったまま洋館を殴りつけようと腕を回していた。
一応のストッパーである伊吹も連れて来てはいるのだが、やっぱりというか洋館のスケッチをしていて止めてくれる気はないらしい。
「待たぬか、酒呑。それでは、もう1つの"情報を聞き出す"という事が出来んじゃろうが」
「そう言いつつ、翁も何気にがめついね・・・しかし、これはなかなか立派な洋館だな」
「伊吹も今は仕事中なんじゃから、スケッチするのは後にしてくれんか・・・」
椿の祖父は、やれやれといった様子で酒呑童子から酒を、そして伊吹からメモ帳を取り上げる。
しかし、すぐに2人共に何処からか別な酒やメモ帳を取り出して飄々としていた。なんというか延々と繰り返しそうで、この鬼2人から持ち物を奪うのは無理な気がする。
それでも椿の祖父は大きくため息をつきながらも、鬼2人を上手い事何とか説得していた。
「やれやれ・・・そんな飲んだくれの奴や、物書きに夢中な奴まで来る必要はないだろう?そもそも、何故こんなにゾロゾロと・・・」
私達の後ろで、妖怪達の事をより深く知る為に着いて来た湯口先輩が愚痴をこぼした。もし滅幻宗の連中と鉢合わせたらどうするつもりなのかと思うが、そんな素振りを見せない様子から先輩には何か策があるようだ。
「今回の仕事はSランク任務じゃ。相手は一組織レベルの戦力を持っていると考えるべきであり、それに備えるに越した事はない」
そして湯口先輩は椿の祖父の説明に納得し、それ以上は特に何も言ってはこなかった。自分が必要と思った事をやるまで、といった眼差しで皆を見ている。
・・・それでも、チラッチラッと途中途中で椿に視線を送っているような気がするけど。うん、面倒臭い事になりそうだから見なかった事にしよう。
「待っててよ、美亜に美弥子・・・今から助けに行くから」
こうして、美亜と美弥子の救出と彼女の一家にガサ入れもとい父親と妹の1人を捕まえる"じゃじゃ馬猫娘救出大作戦"の準備は整った。
しかし、1つだけ妙に思った事がある。
手配書に美亜の母親が無かった事だ。
これは・・・ますます嫌な予感がしてきた。
もしそっちの方も何らかの理由で捕まっているとしたら、美亜や美弥子の為にも助けてやらないと!