私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾捌話 妖怪食?案外慣れると美味しいよ

 

結局、椿の謎については殆ど何も分からず終いでただ妖怪から学校を守る事を頼まれたのと、明日の休日はそれの為の手続きへ行かなくてはいけなくなっただけという疲れる結果に終わった。

 

椿から詳しく話を聞いた所によると、あの時に椿は自身とは別の――誰か謎の女性に一時的に身体を乗っ取られて意識を外へ弾かれてしまっていたらしい。その人物についても、思い当たる節が全く無いというのだから私はずっと椿の事が不安で仕方がない。

 

「おほぉ!また、ええ体つきし――」

 

「天誅!!」

 

「べっ!?」

 

帰りの浮遊丸もこんな調子なのだから、その都度その都度に私や白狐さんがチョップやら爪やらをお見舞いしてやって黙らせている。もう何度もやっている内にお仕置きした際に揺れる衝撃も慣れた。椿はというと、一連の話で完全に疲労困憊してしまい狐モードな黒狐さんの背中に引っ付いて震えている状態だ。本人からしたらイジメにあっていた頃の方がマシだとか思ってない事を祈る。私はあんな風に椿の心が傷つくなんてのは二度とゴメンだ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「あっ、おかえりなさい。翁、椿ちゃんに綾さん」

 

「ただいま〜これからよろしくね」

 

「た、ただいま。里子ちゃん」

 

私達は椿の祖父の家へ帰宅する。

ちなみにオジサンから私も椿と同じ所へ住まわせようという提案によって、ひとつ屋根の下で共に暮らす事となったのである。オジサン1人で寂しくないのだろうか、と娘として心配になったが私の為に彼の決めてくれた事だ。今は従って安心させるべきだと思った。

 

「「「おかえり〜椿ちゃん!綾ちゃん!」」」

 

「ひっ!!」

 

「うわっ!ビックリするなぁ、もう!」

 

私達が帰ってきた事を察知してなのか、すぐにたくさんの妖怪さん達が私達を出迎えてくれた。それに酷くビックリした椿は慌てて白狐さんの後ろへと隠れてしまう。

 

『こりゃこりゃ、相変わらずダメなのか?椿よ』

 

「だ、ダメ・・・何故か、恐怖心が湧いてくるの」

 

「怖がりだな〜椿は。慣れると意外と平気なもんだよ?」

 

私は隠れる椿を見て心配の声をかけた。白狐さんと黒狐さんも不安げな眼差しを彼女へ向けている。それから少し落ち着いたのか椿がヒョコリと頭を出して妖怪達を見た。

 

「あっ、椿ちゃん大丈夫?」

 

「ん〜・・・うん。いきなり現れなければ、だ・・・大丈夫かも」

 

すると考え込むような顔をしていた椿の祖父が、ふと言葉を発する。

 

「ふむ、椿よ。お前さんはどうやら、妖怪全てが怖いというより――封印された記憶の中に、儂も知らぬような凶悪な妖魔を見てしまったからではないか?」

 

「・・・なんだって?椿が怖がるのは、昔のトラウマによるものなのか」

 

「そ、そうなのかな?」

 

意味深な発言について考えようとしていた瞬間、妖怪達の一部が前よりも椿の心の距離が近づいた事に喜んだ。

 

「よかった〜椿ちゃん〜!」

 

「ちょっ!首は伸ばさないで下さい、ろくろ首さん!」

 

「また怖がらせてどうするんですか、もう!」

 

でもそれで人間離れした変身をするもんだから、また椿が白狐さんの後ろへ隠れてしまったよ。此処の妖怪達は気持ちと身体の制御が出来ないのかね?

 

『白狐、変われ』

 

『嫌じゃ』

 

「おい駄狐共」

 

まーたコイツらはそんな下らない事で喧嘩して・・・。2人とも椿が好きな事はよく分かるけれど、どうしてもっと仲良く出来ないんだろう?男故のプライドとか独占欲って奴のせいなのだろうか。私には椿を守りたいって想いがあるから、あまり彼女を困らせるようだったら許さないからね。

 

「う〜?」

 

「・・・って、椿?」

 

『椿、どうした!頭から煙が出てるぞ!』

 

「あっ、綾ちゃんと白狐さんゴメン。ちょっと難しい事を考えちゃいました」

 

椿が顔を真っ赤にしてしまうくらいに考えるような事なんて、謎の過去以外について何かあるのかな?せっかく安心出来る――といわれるか怪しいけども、帰ってきたんだから少しはゆっくりすれば良いと思うのに。

 

「・・・べうっ!?」

 

「椿、大丈夫!?なんでこんな所に壁が?」

 

部屋へ進もうとすると、突然前を歩いていた椿が壁のようなものに顔面をぶつけて鼻をヒリヒリさせていた。見れば硬くもなく、かといって柔らかくもない人の筋肉みたいな感触をしている。

 

「これ、邪魔だぞ!ぬりかべ!」

 

「えっ?あっ、ゴメン翁!ちょっと鼠が出たから退治を・・・」

 

「そんな、貴方が・・・ぬりかべ!?」

 

なんというか、私の想像していた姿よりもぬりかべの体付きはガッシリしていた。手足はボディビルダーのようにムキムキの筋肉質をしていて、目も二枚目の男子みたくつり上がっている。

けれど――それ以上に目を引いたのは、ぬりかべの口と思われる部分の下に異様なまでに目立つ割れたアゴが飛び出ている事だった。

 

「うっわあ・・・」

 

「あっ、いた!ほっ!」

 

ぬりかべの姿に呆然とする私を尻目に、彼は素早く外へ逃げようとしていた妖怪みたいな姿をした小さな鼠に向かってセメントっぽいものを水鉄砲のように吐き出して捕まえた。

椿がその鼠について質問する。

 

「何ですかそれ、鼠ですか?」

 

『また出たか・・・根鼠』

 

「白狐さん、そいつも妖怪の一種?」

 

『その通りじゃ。気をつけろよ、そやつ自爆するからの。厄介じゃぞ』

 

嘘でしょ!?コイツ自爆なんてするなんて、かなり危ない妖怪じゃない!

 

「大丈夫だ白狐さん!ちゃんと固めて――がっ!?」

 

「わぁぁあ!爆発したぁ!!」

 

「こ、これがリアルネズミ花火ってか・・・」

 

ぬりかべが鼠を手に取ろうとした瞬間、鼠の身体が一瞬にして風船の如く膨れ上がり黒煙を撒き散らして大爆発を起こした。私と椿はいきなり発生した、その爆風によって吹き飛ばされてしまう。

そして逆さにひっくり返った椿を見て黒狐さんが呟いた。

 

『ん?椿よ。ちゃんと女物の下着を着けてるではないか』

 

「見ないで下さい、黒狐さん・・・」

 

「こんな状況で、よく女子のパンツ覗けるよね・・・この淫獣」

 

確か椿の下着については、朝に里子から無理やり着せられてしまっていたのを見た気がする。私は特に気にとめてもいなかったのだが、早い所女子の姿にも慣れておかないと後々めんどくさい事になると思うよ椿。

 

「全く油断しおってからに。ほれ、専用のセメダインじゃ」

 

「ありがとう、翁!」

 

「って、セメダインで直せるのかよ!」

 

私が身体を起き上がらせると、バラバラになったぬりかべが椿の祖父から接着剤を受け取って自身の修復を始めようとしていた。

 

「あぁ、翁!これ、セメダインじゃない!木工用ボンドだよ!」

 

「なぬ!?しまった間違えたか!」

 

そして別に接着剤くらい何でも大丈夫でしょ!?いや、大丈夫じゃないのかもしれないけども・・・とにかく、私と椿はツッコミ切れなくなって彼らを無視して部屋へ向かおうとする。

 

「あっ、椿ちゃん待ってよ!お着替え手伝うよ〜」

 

里子が椿の後ろをついてくる。うん、なんていうか椿頑張れ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

そして夜の夕食時間――椿がいつも以上にビビっており、私は扉の隙間から大広間を見た。

何故なら・・・そこには此処に住んでるたくさんの妖怪達もそれぞれ楽しそうに奇怪極まりない食事風景を繰り広げていたからだよ!そりゃ椿も怖がるわな!

 

『翁よ。賑やかな食卓なのは良いが、椿が怖がって我の背中から出てこんぞ』

 

「う、うぅ・・・皆普通に食べるのかと思ったら、凄い独特な食べ方じゃん〜」

 

「よ、妖怪だからしょうがないね、椿。日本人と外国人の違いみたいなもんだと思えば・・・」

 

「それとこれとは全然色々違うよ〜綾ちゃん!」

 

まあ、確かに椿が怖がる理由も分かる気がする。

ぬりかべは何処からどう見てもモルタルやコンクリートみたいなものを食べてるし、浮遊丸も霧吹きらしいものを開いた口へ向けてシュッシュッとしていた。

 

すると、行儀悪く首を伸ばして皿から直接料理を食べているろくろ首へ椿が疑問の声をあげる。

 

「あれ?ちょっと待って・・・ろくろ首さんって、油がご飯なんじゃないの?」

 

「それは流石にフィクションの中だけの話でしょうが、椿・・・」

 

「そうだよ〜椿ちゃん〜油がご飯な訳ないでしょう?美味しいから舐めてるだけだよ〜」

 

「わぁ!分かりました!」

 

首を伸ばして椿にそう話す、ろくろ首。なんだ、やっぱり舐める事は舐めるんじゃないかと思ったけど彼女の気を悪くしたくないので私は口を噤んだ。

 

ふと、他の妖怪を見ると巨大な骸骨の妖怪「がしゃどくろ」が骨の隙間からボロボロと食べた物を零しながら食べ続けていた。零れ落ちるそれが人の形をしていてギョッとしたけど、あれも妖怪食の――

 

「う〜ん、今日路上で野垂れ死んでた人間。あんまり美味しくないなぁ・・・」

 

訂正。本物のほとけさまを食べていたようだ。

あまりのショッキングな光景を、椿も見てしまったらしく今にも吐きそうな顔をしている。

 

「ご、ごめん。寝室で食べて来て良い?」

 

その言葉を聞いた椿の祖父は、呆れながらがしゃどくろの頭を強く引っぱたいた。スコーン、という小気味よい音が大広間に響いて妖怪達から笑いが巻き起こる。

 

「こりゃ、嘘を教えるんじゃない!ちゃんとお前さん用に加工した妖怪食だろうが。あまり椿と綾を怖がらせるのは止めとくれ」

 

私は引きつった笑みを浮かべる。随分と悪趣味な冗談を好むんだな、此処の妖怪は。人間と妖怪じゃ価値観が違うから当然なんだろうけど、それにしてもついていい嘘との区別はつくハズだ。

 

食事に戻ろうとすると、私達の目の前にゴロゴロと何かが転がってきているのが見えた。白いボールのようなものかと思ったが、次の瞬間――

 

「あ、あれ?僕の頭どこ?も〜翁、加減してよ。取れちゃったじゃんか!」

 

「どわぁぁああ!?」

 

「ほんぎゃぁぁああ!!」

 

なんとそれは今椿の祖父に叩かれた事で外れてしまった、がしゃどくろの頭だったのだ。思わず私達はすぐ近くに座っていた白狐さんへ情けないまでにしがみつく。椿は顔に、私は胸元へしがみついていた。

 

『これこれ!椿に綾よ、引っ付くのは良いが・・・可愛いワンピースで顔やら胸に引っ付かれたら、下着が見えるぞ』

 

「いっ!ちょ、見ないでぇ!」

 

「ビックリしたんだから仕方ないでしょ!?こうでもしなきゃ心臓が破裂しそうなんだし・・・」

 

里子からもらったオシャレなワンピースを着ていた事を思い出して顔が熱くなる。私がこんなに女の子らしい格好をした事なんて、何時ぶりの話だっただろうか。

つい普段の露出も飾り気もない格好のつもりでしがみついてしまったのを後悔した。

 

『白狐ばかり美味しい思いをしてからに・・・椿も綾も、もっと俺にも頼れ』

 

「やだ。自分のイチモツすら隠しきれないようなケダモノには抱きつきたくない」

 

「股間を膨らましている黒狐さんより、まだ比較的冷静な白狐さんの方が安心です」

 

口では不服そうにしていたけど、そんな状況でも慌てずにいられる黒狐さんも中々落ち着いているなと思った。そして彼は妙に納得した様子で自身の皿にあるいなり寿司を食べ始めた。

 

この2人のいなり寿司好きには、連日好きな物を食べるのを気にしない私からしても感心させられる。

 

2人に出されているいなり寿司は、私が今まで食べたいなり寿司の中でも特に美味しそうに見える。オジサンが色んな具材を使って様々なバリエーションを作ってくれたのも美味しかったが、彼らのそれはオジサンの思い出と同じかそれ以上に丹精を込めて作られていて食欲がそそられる。

 

『こりゃ椿に綾。食べたいなら、そう言えば良かろう?ダラダラと涎が出とるぞ?』

 

「ウソ!?あっ、ホントだ!」

 

「・・・はっ!あっ、いや。これは・・・ごめんなさい」

 

すると私達が美味しそうに眺めているのに気付いた白狐さんが1つずつ私と椿へ、いなり寿司を手渡してくれた。

 

間近で見ると更にその美味しそう感が増して見えたのだが、何故かいなり寿司が妙に重く感じる。

だが私達はそんな事よりも美味しそうな物への好奇心から、ついに一口食べる。

 

「んぐっ、く。う、うま〜い!!」

 

「あむっ。ん〜!おいひい!」

 

『これこれ、2人ともちゃんと飲み込んでから喋れ』

 

口の中に広がる酢飯の甘さと、油揚げのジューシーさに私達は感激の声をあげた。これほどまで美味しいいなり寿司、一口食べてしまったら二度とスーパーやコンビニで売っている物では満足出来なくなってしまうくらいだ。これは白狐さんも黒狐さんも好き好んで食べる理由がよく分かる。

 

「美味しすぎて、食べるのが勿体ないよ〜」

 

「んん〜幸せ〜」

 

甘美な余韻に浸っていると、私達はいなり寿司が食べても食べても減らない事に気がついた。

 

「んぐ?」

 

「あれ?全部食べた気がしたけど、全然減ってなくない・・・?」

 

改めて半分になったいなり寿司へ目を向けると、なんと中の酢飯が減らないばかりか包んでいる油揚げまでもが伸びて食べる直前の状態へと戻ったのだ。まさか・・・見た目で派手に動かないからと油断していたけど、こんな変異を起こすなんてコレも妖怪食だったのか!

 

『ほれほれ、はよ食わんといくらでも戻るぞ。しかも食い終わるまで手から離れんからな』

 

「はぁ!?何その呪いめいたものは!?」

 

「んぐ〜!ふぁやくいっへよ〜ひゃっこさ〜ん!」

 

白狐さんめ、私達が知らないとはいえ何で簡単に渡してくれてのかと思ったら・・・

 

「必死に食べてる2人、可愛い〜!」

 

せめて里子も私達が食べる前に一言言ってくれなかったのかな!?ちょっと休憩しようと食べるスピードを落としただけで元に戻るとか、物理法則が気になるレベルなんだけど!

 

結果、私達はいなり寿司と30分にも渡る格闘を繰り広げて何とか完食する事ができたのであった。

 

次からは、どういった食べ物なのかちゃんと聞こう――そう思った。

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