私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――それから少しして
椿に宥められた私達は、手配書に載せられてしまった美亜の父親と妹の1人が居るとされる3階へと向かって進んでいた。ちなみにこの情報は先程玄関ホールに隠れていた美亜の兄の弥太郎から得られたもので、確実とは言えないものの彼曰く"最後に目撃した場所"がその辺りなのだそうな。
そして3階には更に、美亜の妹である美弥子と美瑠も居るのだという。
しかし此方については、強力な呪術を操れる美瑠が"他人から何かを奪う能力"を持つ美弥子と組んで来る可能性があるという理由で接触はしないように忠告を受けた。
美亜を気遣っている美弥子の安否が心配な私としては腑に落ちない話だけど・・・今の所、私情を挟む余裕が無い以上はどうしようもない。
「ほら!さっさと前を歩きなさい、飲んだくれと本の虫の悪鬼2人!」
なお私達は今、酒呑童子と伊吹を先頭にして歩いており、美亜は先程のセクハラ案件から椿の後ろに隠れつつ酒呑童子を警戒していた。
3階へ向かう階段は遠い場所にあるとの事なので急いで向かっているものの、廊下が薄暗い上に窓から赤い夕陽の光が差し込むせいで完全にホラーな絵面である。普通だったら絶対に歩きたくない場所だ。
「ったくよぉ・・・そんな怒る事はないだろうが〜。無いに等しいモンだし、男の胸を触ったのと同じだろ〜」
「おぅ全然反省してねぇなコイツ!そして誰が無いに等しいって!?」
「だっ!?いってぇな、綾!何でお前が蹴るんだ!」
「酒呑童子さん、今の発言は駄目です。僕から見ても、世の女性全てを敵に回しましたよ」
「相変わらずデリカシーの欠片も無いね、酒呑は・・・ふふ」
なんというか、そう言っている伊吹も伊吹で小説のネタの為にアレコレぶっ飛んだ事をするので、酒呑童子とはどっこいどっこいだと思うんだけど。
ただ、それが狙ってやっているようにも見えるし、素でやっているようにも見えるから私にはイマイチ信用して良いのか微妙な所だ。その上さっきの戦闘でも酒呑童子と同じくらいの強さがあったり、時にそれっぽく酒呑童子と共に私や椿へ的確なアドバイスをする・・・本当に、この鬼2人は何者なのだろうか?
「って、そんな事考えてたら見失っちゃったぞ」
「し、酒呑童子さんと伊吹さんは?」
「はぁ、何考え事しているのよ2人共。アイツらはあそこよ」
ふと別な事で意識を逸らしてしまった私達へ、美亜は呆れ気味に私達の左側にある部屋を指差した。
その中を見てみると・・・
「おぉぉお!ネーちゃん良い尻してんじゃね〜か!おほぉ〜!こっちの娘も良いモン持ってるし、いやぁ〜ここは天国だな!」
「ほほぉ〜これは呪術にしては中々・・・!幻惑系と認知系をウンタラカンタラ・・・」
「何これ酷い」
猫の耳や尻尾の付いたグラマラスな女性達に囲まれて、鬼2人がそれぞれめちゃくちゃ嬉しそうな絵面が広がってました。
数分前までの自分を殴りたい・・・やっぱり2人共ただの変人でしたわ。しかも酒呑童子は何となく浮遊丸を感じさせるアレっぽさもあるし、伊吹も最早何処からツッコめば良いのか分からないポイントで喜んでいるし。
美亜の反応や伊吹の言葉からするにあの女性達も呪術らしい、けど。
「捨て置こうか、2人共」
「うん、そうだね綾ちゃん。放っておいて行きましょう」
「なんかバカバカしくなってきたわ・・・」
そうして私達は呪術の誘惑にかまけている鬼2人を置いて先へ進もうとする。
「おいおい、待てよお前ら〜」
「僕と酒呑を置いて3人だけで先へ進んでも、結局は捕まるのがオチだよ」
「大変凄く説得力の無い言い訳、本当に本当にありがとうございました。さて鬼2人も戻ったし、とっとと進みますか〜」
もうやだ、この2人・・・狐2人とは別なベクトルでクセが強すぎるんですけど。
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――しばらく歩いて
「あったあった。此処の階段から3階へ行けるわよ」
美亜が立ち止まった右の通路を見ると、上へと続く階段がポツンと姿を現した。そこから私達は上の階を目指して、途中の呪術を警戒しつつ昇っていく。
「なんか上に昇る階段しか無いってのも、中々不気味だな〜・・・」
「待って、皆。あそこの踊り場に誰か居るよ」
ふと椿が指差した先に居た人物を見て、美亜が訝しげに眉をひそめた。
「美瑠・・・アンタ、何で此処にいるの?」
「なんだって、美亜?じゃあ、あの子が皆に・・・」
その暗い踊り場に立つ、美亜の他の家族と同様に茶虎の耳と尻尾を生やした、寝癖だらけのウェーブがかったロングヘアの少女へ目を向けた。
その子はまだ小学生になりたてといったような幼い見た目をしており、大事そうにネコのぬいぐるみを抱えながらも、起きてきたばかりなのか私達へ視線を向けたまま眠そうにフラフラとしている。
その様子に椿は不安そうな表情を浮かべる。
「ちょっと美亜ちゃん?あの子、このままだと寝ちゃいそうだよ。階段から落ちちゃう前に何とかした方が・・・」
「あの子は何時もあんな感じよ。ところで美瑠、引きこもりなアンタが部屋から出るなんて珍しいわね」
なるほど、それならば確かに先程美亜が不思議そうな顔をしたのも納得できる。部屋から出てこないと予想していただろうから、そりゃビックリもするか。
美瑠は美亜へジッと視線を向けて、何かブツブツと呟き始めた。
「だって・・・美亜お姉ちゃん。美瑠の事、無視しそうだったもん」
「あのね、私は急いでるの。今は構ってあげられないから、そこを退いて」
「ヤダ!お姉ちゃん、また牢屋に入れられちゃう。そしたら美瑠と遊んでくれなくなる!そんなのヤダヤダ!」
すると私と椿は、美瑠の幼そうな姿からは信じられない程の強い妖気が溢れてくるのを感じた。
これはちょっとヤバいんではないだろうか?と思う間にも、美亜は臆する事なく美瑠をキッと睨みつつ近づいていく。
「美瑠、いい加減にワガママは止めなさい!そんなだから此処の家族の殆どは、貴方をお荷物として放置しているんじゃないの!まだそれに気付かないの!?」
「ちょっと待て、美亜・・・普通はワガママだからって理由で放置はしないだろ!?じゃあ、此処の連中ってのは従順で優秀な子供しか必要ないって事なのかよ!何なんだよ、クソッ!」
「綾、それが・・・それが私の家族なのよ」
この家の異常さに憤る私へ美亜は振り向いて、何とも言いがたい辛そうな顔で答えた。
しかし美瑠は、そんな今の美亜の言葉が聞こえていないかのように私と椿を睨みつけてくる。
「その子なの?美亜お姉ちゃんを取ったの」
「おい、ちょっと・・・そっちの子も少し落ちつ――」
そう私が美瑠を宥めようとした時、今度は私達の後ろから聞き覚えのある声も聞こえてくる。
「ふふふっ、まさか本当にこうして来てくれるなんて・・・ずっと、ずっとずっと会いたかったんですよ、綾さん」
「えっ、そんな・・・君は美弥子ちゃん、だよね?まさか、君まで僕達の事を――」
「「・・・えして」」
「えっ?」
すると、その瞬間。
椿の言葉に反応するように、美瑠と美弥子はギンッ!と強い怒りを含んだ眼差しを彼女へと向けてきたのだ。
「美亜お姉ちゃんを返して!!」
「綾さんを返してください!この女狐!!」
そして私達は2人から更に、妖気ではない別の異常な力が出てきている事に気付く。
「ちょっ・・・美瑠に美弥子。アンタ達、ふざけるのは止めなさいよ!」
「ヤダヤダ!美亜お姉ちゃんを返してよぉ〜!」
「いくら美亜姉様でも、それは聞けない相談です!!」
そこで私と椿は直感的に"本気でヤバい"と感じ取り、すぐさま"神妖の力"を解放して彼女達が放ってきた力を打ち消して、それぞれ列の前後へと立った。椿は美瑠の方を、私は美弥子の方へと。
「えっ・・・?な、なんで?美瑠の呪いが効かない・・・なんで?」
「ごめんね。この洋館に入る前にも君は僕達に呪術をかけたようだけど、僕と綾ちゃんにはこの力が――浄化の力があるんだよ。だから、僕達に呪いは効かないよ」
「そ、そんな・・・私の力まで通らないなんて。私の邪魔をしないでください、綾さん!」
「そういう事さ、美弥子。そっちの"奪う能力"も打ち消せるから、これ以上やり合っても無意味だ。全部が終わったら幾らでも話は聞いてあげるから2人共、今はそこを通させて」
そして2人の攻撃を防いだ私達を見て、美亜はホッと安堵の息を吐く。
「全く・・・危なかったわね。美瑠は敵と認識して相手を見るだけで、人だとろうと神だろうと関係なく強力な呪術をかけられるのよ。しかも細かな準備も一切無しに発動出来るし、妖気も少量で済むから強力過ぎなのよね」
「いやいや。美亜ちゃんだって、黒猫に変化して通り過ぎるだけで呪いをかけられるじゃん・・・」
「そもそも呪術の上手い家系なんだから、美亜くらいの力はあってもおかしくないしな〜・・・って、嬉しそうな顔すんなよ」
「あら綾、そうかしら〜?」
椿と私のツッコミに反論しないって事は、自分も同じように呪術が上手いって事をウッカリ忘れてたってのを認めたので良いんだよな!?だって、それに気付いた時からニヤニヤしてるし。
すると、そこへ鬼2人が少し慌てた様子で私達へ注意をしてくる。
「おいガキ共、そんな事をしている場合じゃないだろう」
「あの子達の様子が、何だか妙になってきているぞ」
2人の顔は真剣そのものといった感じで、その異常さに感づいた私達は再び美瑠と美弥子の方へ視線を移した。
すると、美瑠の持っているネコのぬいぐるみの目が赤く光っており、それと同じように彼女達2人の瞳も赤く光り始めて、それぞれ此方に向かって階段を進んでくる。
「ちょっと美瑠、それに美弥子!アンタ達、一体どうしたのよ!?」
その異様な事態には流石に美亜も不味いと感じたらしく、咄嗟に後ずさって私達の所まで戻って来た。それでも美亜は姉として2人を宥めようとしているが、どちらもこれといった反応が無いまま進んで来る。
しかし私と椿は、その時に美瑠の持っているぬいぐるみから妖気を感じ取ったのだ。それも妖怪の妖気のようなものではなく、禍々しく澱んだ妖魔による妖気だ。
「美亜、下がれ!今の2人は操られているみたいだ!」
「あのネコのぬいぐるみ・・・アレはぬいぐるみじゃない、妖魔だよ!」
「何ですって!?美瑠、美弥子!2人共しっかりしなさい!」
そう美亜が必死に呼びかけ続けているが、見る限りでは完全に2人共操られてしまっているようだ。
そして美瑠と美弥子は、それぞれ赤く光っている瞳を私達へと向けて、壊れた音声機械のように単調な言葉を繰り返してくる。
「カマッテヨ・・・アソンデヨ、カマッテヨアソンデヨ、カマッテ、アソンデ・・・!」
「フフ・・・フフフフ、アヤサン、アヤサンアヤサンアヤサンアヤサンアヤサン・・・!」
「くっ、美瑠・・・美弥子・・・!」
すると、2人の前に立とうとする私達を押しのけるかのように、此方の列から鬼2人が美瑠と美弥子の前へと出てきた。
「お〜お〜、完全にその妖魔とやらに操られているな」
「あの子達の"負の感情"に潜り込んで、中で妖気を増幅させているようだね」
「なるほどな、星熊。道理で2人共、幼い見た目してんのに強力な妖気を放ってる訳だ」
鬼2人は普段のように酒を飲んだり、スケッチやメモを取りながらも真剣なまま、私達の前後を挟む2人を警戒した様子で見る。
「アソンデ、アソンデ・・・アソンデクレナイワルイコハ、ノロワレテシンジャエェェェ!!」
「アヤサン・・・フフフフ、イマワタシガ・・・ソノメギツネカラタスケテアゲマスカラァァァ!」
そして、私達の近くまでやって来た2人は、各々赤くなっている目から血のような涙を流しながら叫んでくる。
由緒ある金華猫の一族という光に隠されていたのは、ここまで酷い闇の深さだったなんて・・・!
私は美弥子と会っていた時にそれに早く気付けなかった事を後悔しつつ、強く歯を食いしばった。