私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
美瑠と美弥子が妖気を暴発させている、こんな危険な状態に私と椿は何か対策は無いのかと、頭をフル回転させて相談をする。
「あの2人、一体何がどうなって妖魔に操られているんだよ!?クソッ!!」
「多分、あの美瑠ちゃんが持っているネコのぬいぐるみが妖魔なんだと思うけど今の状況じゃ、無闇矢鱈に浄化してたら後の為に必要な余裕が・・・」
「それなら見捨てろって事なのか!?こうなったら多少無茶でも此処は私が――」
【あ〜ら、また美味しそうな妖魔に出会ってるじゃな〜い♪】
すると突然、私達の苦悩へ割り込むかのように妲己さんが嬉しそうな声を響かせてきた。
【椿に綾、アレも成熟した妖魔よ。良いわねぇ・・・あの妖魔が2人を強化しているようね。ふふ、美味しそ・・・良い具合に成熟しているわ〜】
「妲己さん・・・貴方は本当に、妖魔を取り込んで自分の力に戻しているんですか?」
そこへ椿が、野暮だと分かりつつも私達の抱えている疑問を妲己さんに質問する。
椿も私も過去の記憶で妲己さんと出会っていた事を思い出したとはいえ、その内容からして妲己さんの悪者ぶる言動に違和感を感じつつあったからだ。
「こんな事、私だって今聞くつもりじゃなかったんだけどさ・・・正直に話してよ、妲己さん」
【椿、それに綾。やっぱりアンタ達――】
妲己さんの言葉を遮って、私に続いて椿も口を開く。
「初めて出会った所だけだけど、ね。妲己さん、いい加減に悪人ぶるのは止め――」
【うるさいわねぇ。アンタ達、私を信じたい訳?ふん、片腹痛いわよ・・・良い?私は手配書SSランクの大悪人、アンタ達の考えているような善人なんかじゃないのよ。何なら、椿の"神妖の力"だって完全に封じちゃってもいいのよ?】
「そう簡単には答えてくれませんか・・・良いですよ、別に。それに今は、美亜ちゃん達の方が最優先ですから」
そして私達は妲己さんから一旦意識を逸らして、今にも暴走しだしそうな美瑠と美弥子を宥める美亜へ視線を移した。
「美瑠!そのぬいぐるみを離しなさい!」
「落ち着け美亜!私と椿で、その子達を止める!」
「そうだよ美亜ちゃん、ちょっと離れてて。その2人と一緒に、美瑠ちゃんの持っているぬいぐるみの妖魔を浄化するから!」
【バカ、椿に綾!2人共に浄化するんじゃないわよ!私に食べさせなさい!】
そう妲己さんが慌てて止めてくるが、先程の事で妲己さんをまだ完全に信用出来ない私達はフンとそっぽを向いてやる。
「誤魔化している人の言う事は聞きませ〜んよ〜だ」
「妖魔を取り込みたければ、妲己さんの方も本当の事を教えてよ」
【くっ・・・アンタ達ねぇ】
妲己さんは心底悔しそうな声を上げたが、ため息をついてから何故かすぐに普段の調子へと戻った。
【ふん、まぁ良いわ。よく考えたら、どうって事なかったしね。別に良いわよ〜浄化しても】
「なんか腑に落ちないけど・・・浄化して良いってなら――天神招来、稲妻霹靂蹴!ぬいぐるみだけ蹴り飛ばさせてもらうぞ!!」
「了解、綾ちゃん!天神招来、神風の禊!」
【――浄化出来るのならね、ふふ】
「えっ?――なっ、どわぁぁあ!?」
なんと美瑠の抱えているぬいぐるみ目掛けて放った私の蹴りは、コンクリートの壁か何かを蹴ったかのように強い衝撃と共に跳ね返されてしまったのだ。そして椿の起こした浄化の風も、美瑠や美弥子は何ともないといったように普通に私達へ迫ってくる。
「あっ痛ててて〜ば、ばんなそかな!?」
「綾ちゃん、落ち着いて!これは一体どういう事なんですか、妲己さん!?」
【残念でした〜成熟した妖魔は浄化する事が出来ないのよ〜。未成熟ならセンターの妖怪でも何とか出来るけれども、こうして成熟した妖魔は無理なのよ。だから私が食べないと、あの妖魔は倒せないわよ〜。分かったら、椿はさっさと私と替わりなさい】
「ぐぬぬ・・・」
「もう2人共に目の前まで迫ってきちゃってるし、こうなったら仕方な――」
そうして椿が諦めて妲己さんへ身体を貸そうとした時、突然誰かが私達の横を駆け抜けていった。
それに気付いた直後には美瑠の抱えていたぬいぐるみが叩き落とされており、見ると酒呑童子がぬいぐるみを踏み付けていたのであった。
「ったくよぉ、このぬいぐるみが原因なんだろうが。だったらモタモタしてんなよ、とっとと燃やすなり何なりするぞ」
【あら、それが出来ないって言っているでしょ?すぐにその足を退かしなさい、酒呑童子】
「あぁ?その口調・・・まさか、妲己か?おいおい、そのガキの中に居るのは分かったいたが、何で椿の身体を借りて出てこられるんだよ?」
そう言って酒呑童子は、妲己さんと交代した椿の身体を訝しげに睨みつける。ちなみに椿は旅行での時と同じように、霊体となって妲己さんが操る身体の近くをフヨフヨと浮いていた。
「妲己・・・君がそうして出てくるという事は、また何か良からぬ事を考えているんじゃないだろうね?」
【あ〜ら星熊童子、嫌な事を言うわね。私とこの子達は協力しあって、妖魔の退治をしているのよ。2人共、何か文句でもあるのかしら?】
「おい、霊体になって浮いている馬鹿ガキに綾。ちゃんとコイツの正体分かってんのかよ?」
「そう言われてもなぁ・・・今は妲己さんに頼るしかないみたいなんだって」
キツい言葉と視線を向けてくる酒呑童子と伊吹に、私も椿もオズオズと頭を掻いて首を横に振る。
何せ私達も妲己さんの事について色々と疑いが出てきたのだ・・・本当に妲己さんは悪事を働くような悪い妖怪なのか、と。
「まぁ、今はその事は置いておくか。とにかく、このぬいぐるみは一気に踏み潰して粉々に――って、おいおい・・・このぬいぐるみ、一丁前に俺とやろうってか?」
そう私が考え込んでしまっていると、ぬいぐるみを踏み潰そうと力を込めた酒呑童子の足を、なんと逆にぬいぐるみが持ち上げようとしていたのである。
「「ワルイコ・・・ワルイコ・・・!」」
美瑠と美弥子が同時に声を出しているが、妖魔の本体であるぬいぐるみさえ倒せてしまえば何とかなるハズだ。
それを裏付けるかのように妖魔は"簡単には倒されない"と言わんばかりに足を持ち上げ続けているものの、酒呑童子の方はむしろ余裕そうだ。
「ワルイコ・・・アナタ、ワルイコ・・・!」
「油断はするなよ、酒呑!まだ奴はやる気みたいだ!」
「へっ、分かってるっつ〜の星熊!だったら良いぜぇ!このまま力比べとい――」
「ワルイコォォオ!!」
「ごはぁっ!?」
するとぬいぐるみは何と、一瞬だけ出来た酒呑童子のスキを突いて鋭いアッパーを彼の顎にクリーンヒットさせてきた!
「ちょ、酒て――うわぁ!?」
そして吹っ飛ばされた酒呑童子は、伊吹を下敷きにする形で大の字にダウンしてしまった。
「ぐへぇ・・・」
「重、い・・・ガク」
「何やっているんですか!あっ、嘘・・・しかも2人共に伸びてる!?」
「どっちにしろ油断してやられてんだからダメダメじゃね〜かよぉ!!」
椿と私が鬼2人の体たらくにツッコミを入れている内にも、妖魔に操られている美瑠と美弥子は再び、妲己さんがINしている椿の身体へ向かって進みだす。
「「ウフ、ウフフ・・・ワルイコハ"メッ"ダヨ。サァ、ツギノワルイコニ"メッ"シナイトネ」」
ほぼ同時に喋る美瑠と美弥子の言動から、もう妖魔は正体を隠す事すら止めたようだ。
美亜が慌てて私達の前へ出ようとする。
「美瑠、美弥子・・・!くっ、椿――じゃなくて、今は妲己なの?とにかく私がぬいぐるみを抑えるから、食べるならそこで出来たスキに!」
【あらあら、そこまでしなくても大丈夫よ。でも・・・お言葉に甘えて、いただかせてもらうわよ〜】
そんな美亜を言葉で制した妲己さんは、今までと同じように手を狐の形へ変えて黒い球体を呼び出した。
しかし、ぬいぐるみの妖魔も食べられる訳にはいかないと手足をジタバタさせて踏ん張っている。
「ウギギ・・・ギギ」
【あら、頑張るわね〜!で・も・無・駄。いい加減、そこから出て来なさい】
「そこから?って、まさか本体はぬいぐるみに取り憑いてるだけだったのかよ!?」
「ぼ、僕も綾ちゃんと一緒で、ぬいぐるみ自体が妖魔だと思ってた・・・」
【2人共、案外頭は固いようね〜もっと小さく単純に考えなきゃダメよ】
その様子に驚きながら妲己さんの行動を見続けていると、なんと彼女の言った通りにぬいぐるみから黒い影が姿を現してくる。
「「ア・・・カ、アァ」」
まだ美瑠と美弥子は声を出しているが、その声は明らかに妖魔が発したとしか思えない程に邪悪なものであった。
そして、ようやく妲己さんの吸収力に耐えられなくなった影が、一気にぬいぐるみから吸い出されて黒い球体へ吸い込まれていく。
一瞬だけ見えた妖魔の姿は、毛だらけの物体に1つ目の姿をして凶暴そうな見た目をしていた。あんな奴がぬいぐるみへ取り憑いていたとは、ちょっとばかり信じられない。
とはいえ、その妖魔も妲己さんの黒い球に吸われた後で完全に消滅してしまったから、もう安全なハズなのだが。
【ふふ、ご馳走様〜♪】
「それ相変わらず、嘘臭いなぁ〜」
【何か言ったかしら、綾?それよりも椿、身体を返すから急いであの子のフォローに行きなさいよ】
「あっ、そうだ!美弥子!!」
「美瑠!!」
妲己さんの言葉で、2人が操られていた事を思い出した私と美亜はすぐさま彼女達が無事かどうか確かめに走った。
まさか美弥子がこんな事になってしまうなんて・・・
本当にごめん。今更謝ってもって話だけど。