私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
鬼2人の惨状(?)に気を取り直しつつ、私達は罠に警戒しながら慎重に階段を降りていく。
・・・とはいっても階段には結局何のトラップも無く、あっさりと地下へ降りてしまえたのだが。
地下は先程以上に更に暗く、夜目の効く美亜に先導してもらわなければ全くといっていい程に何も見えなかった。
そんな中、私達が進む先へ薄らとした光が見えてくる。
「綾ちゃん、美亜ちゃん・・・あの向こう、誰か居ると思うよ。妖気だって、あの場所から感じられるから」
「こりゃ鬼2人の言う通り、地下はアタリみたいだね」
「えぇ、そうね。警戒しながら行くわよ」
そう小声で囁きながら前へゆっくりと進もうとするが、それに納得のいかない人物が1人。
「めんどくせ〜な。こんなのはさっさと奇襲をかけて、主犯共をとっ捕まえれば良い話だろうが」
「酒呑童子さん、相手は呪術を得意とする一家だよ。単純に真正面から突っ込んだら、それこそ呪われてお終いになっちゃう」
「あ〜そうだったな、面倒臭い奴らだ・・・ったく」
そうして椿が酒呑童子を説得する間にも、私達の目は徐々に暗闇へ慣れてきて周辺の警戒も出来るようになってきた。
「それにしても、地下って割には結構広いね」
「そうだね、綾ちゃん・・・あちこちに部屋があって気になる所だけど、先ずはあの光が差し込んでいる部屋から探してみようよ」
「分かってる分かってるって、当たり前田のクラッ――」
「綾ちゃん?"そういう"のは、もう十分ですからね?」
「はい、すいません」
なんかゴゴゴ・・・と聞こえてきそうなオーラを感じたので中断せざるを得ませんでした。
ふざけてる場合じゃないのは理解出来るけど、少しは怖いのを紛らわしたいという気持ちを汲んで欲しいですな。
そんなやり取りをしながら進んでいくと、光が差し込んできている目的の部屋の前へと辿り着いた。その扉は他の扉とは違って観音開きの扉となっており、只者ではない雰囲気を感じさせる。
そして、それを裏付けるかのように部屋の中からは数人の声が聞こえてきた。
「どうです、成果は?」
「あぁ、順調だ。これなら今まで以上の品種になる」
「それは宜しい。もし高品質ならば、此方も言い値で買い取りますよ」
「ふん、その言葉を忘れるな」
私達は全力で気配を殺しながら、聞こえてくる声に耳を傾けた。
1人は一度しか会って聞いてはいないものの、声の風格さからして美亜達の父親で間違いなさそうだ。しかし、柔らかな口調で話すもう1人の方は今までに聞いた声ではない。
会話の内容からすると、妖怪の麻薬である金華蘭を取り引きしている相手なのは確かだろうが・・・私達は、そんな組織は亰嗟だとしか考えられなかった。
すると、そこへ更に別な声も聞こえてくる。
「ねぇ、お父様。私、もっと良い事を思いついちゃった」
「ほぉ、なんだ?」
無邪気で悪びれる事なく父親へ話しかける少女の声、それを聞いた美亜はポツリと少女の名前を呟く。
「美海・・・」
どうやら、父親と共に彼女が手配書に載せられているのも、それだけ彼女自身の才能が見込まれて手元で可愛がられているからのようだ。
「コレを沢山た〜くさん売ったら、私達もっと楽しい事が出来るんだよね?」
「あぁ、そうだ。だから――」
「だったら、人間達にも沢山売ろうよ〜」
「しかし、この金華蘭は人間には害でしかないぞ。人間が使っている麻薬と比べて、約3倍程もの効力だからな」
「別に良いじゃ〜ん、人間なんて何人死んでもさ」
そんな衝撃的な言葉を聞いた私は思わず拳に力を込め、危うく飛び込みそうになっていた所を椿から無言で制される。
とはいえ椿も美亜も、そんな美海の言葉には私と同じく怒りを感じており、2人共に眉間にシワを寄せつつ全力でそれを抑えているようだった。
鬼2人に守られている美瑠と美弥子も、そんな姉の暴挙に恐怖してか怯えた様子を見せている。
「ふふ、彼女は素晴らしい提案をしてくる。如何でしょう?人間達には、私達亰嗟が金華蘭を売ります。貴方達は単に作り続けてもらうだけ。それに新種の方は、今までの検査に引っかからない代物なのでしょう?ましてや妖怪の世界の麻薬、人間達に分かるハズがありません」
「ふむ・・・それもそうだな。良かろう、更に倍の数を用意しよう」
やっぱりというべきか、あの部屋では亰嗟が絡んだ取り引きが行われていた。
そして、人間の世界の物よりも非常に強力な薬物を、妖怪だけでなく人間にまで売ろうとしている性根の腐りっぷりに、怒りを通り越して背筋へ鳥肌が立ってくる。
「くっそ〜、このまま黙って見ている訳には――」
「落ち着け、お前ら。奴らは呪術が得意なんだろう?此処から突撃するのは危険なんだろうが、それなら俺と伊吹が入口で様子を見張っておく」
「そして呪術の対処が出来る君達3人で、コッソリ忍び込んで中の連中を縛り上げるか、その奥にあると思われる新種の金華蘭とやらを処分してしまえば良い」
「おいおい、随分簡単に言ってくれるよな2人共。確かにそうしたいのは山々なんだけど、あっちにはどれだけ強いのか分からない亰嗟の奴が居るんだよ?リスクがデカ過ぎるっての」
すると、鬼2人の提案を聞いて苦笑いする私に乗っかる形で、美亜も考え込む仕草をしながら私達へ提案をしてきた。
「私の呪術じゃ陽動にもならないわ。だけど、その新種の金華蘭は、私達のお母様の能力で作っているかもしれない。だから、見つからないようにお母様を助けつつ、その途中で金華蘭を処分して逃げる・・・それしかないわ、どう?」
「どうって言われてもな、美亜・・・まぁ、確かにそれしかないけどさ」
「でも美亜ちゃんのお母さんは妖気の位置からして、多分この奥の部屋だよ。この扉以外からどうやって行くの?」
私達はコソコソと、これからの救出作戦について相談を立てる。しかし、その瞬間に扉のすぐ向こうから微かな妖気を感じて、椿と私は咄嗟に身構える。
「ヤバっ、多分これバレてるわ」
「酒呑童子さんに伊吹さん、ごめん。力任せになるかも・・・」
そして再び扉の向こうを覗こうとすると、その隙間からは白いヤツメウナギやらナメクジみたいな触手が出てきて私達を見つけてしまっていた。
更に私達の居る扉の近くへ足音まで近づいてくる。
「この感じだと、完全に見つかったかな・・・仕方ない、プランBで行こう!」
「元からそんなの無いでしょ、綾ちゃん!しょうがないです、酒呑童子さん。強行突破に変更するんで、もう派手に暴れてください」
「ったく、面倒臭ぇなぁ〜最初からそうすりゃ良いじゃねぇかよ」
すぐさま私達は列の並びを交代し、鬼2人を先頭にして彼らが中でドンチャン騒ぎをしている間に、私と椿、美亜で彼女達の母親を助ける作戦に切り替える。
そうして列の交代が終わった直後に観音開きの扉が勢い良く開かれ、向こうからロングな髪で眼鏡をかけて青白くヒョロっとした、見るからに胡散臭い男が姿を見せた。
「何ですか、貴方は?侵入者ですか?それにしてはふざけていますね」
・・・あっ。鬼2人で威圧するつもりだったけど今は2人が呪いのせいで、可愛らしいパンダヘッドになってる事を忘れてましたわ。
「ふっ、見て分からないか?だったら答えてやるのが世の情け!」
「俺達はな正義の味方、その名も鬼丸様と桃丸様だ!!」
うっわぁ、うっわぁ・・・思ってた以上にノリノリで演技しだしたよ、この2人。
だが、そんな事はどうでも良いと言わんばかりに向こうからは本をパラパラと捲る音が聞こえてきて、それと同時に何者かの雄叫びが響いて、思わず私達は耳を塞いでしまった。
「そこの――そのふざけた2人の後ろに居る人達も出て来てください。とっくにバレていま――って、何!?」
しかし男が驚いた直後に、私達の足元へと酒呑童子が強面なお面を叩き落とす。カッと開かれた牙だらけの口や血の涙みたいな模様から、どうやらコレが今の雄叫びを上げていたのだろうか。
とはいえ、お面もそれで終わった訳ではなかったらしく、今度は強い妖気を放ちながらカタカタと動き始めた。
「「酒呑童子(さん)!」」
そう私と椿が叫ぶと、その瞬間にお面は飛び上がって酒呑童子の腕へと噛み付いてくる。
「ちっ、コイツ妖怪か?どうなってやがる!」
酒呑童子は少し困惑しながらも、先程より強い力でお面へ手刀をかまして叩き落とした。そしてお面も、それがトドメとなったのか妖気も消えて今度こそピタリと動かなくなった。
それを見て、私達の前へ立ちはだかっている男は感心の声をあげる。
「ふむ・・・なるほど、"鬼面"では無理ですか。それでは、コレはどうでしょう?」
男が再び本を捲り始めるが隠れている私達は奥の部屋への突入の為に、そいつが何かを仕掛けてくるタイミングを見計らっていた。
「うん、コイツなら・・・がぁ!?」
「ほほ〜ぅ、その本から妖怪を召喚しているみたいだね。捕まえた妖怪を閉じ込めているのかは知らないが、僕はそれに少し興味が出てきたよ」
――などと様子を伺っていたら、伊吹が男の動きよりも早く一瞬で接近して鉄パイプで鳩尾を殴っていましたよ!
「でも、今のスキで突入のチャンスが出来た!」
「そうだね、綾ちゃん!よし・・・行くよ、美亜ちゃん!」
「分かってるわ!」
私達はすぐさま鬼2人の後ろから飛び出して、全速力で走って奥にある扉へ向かった。
そして、それに気付いた眼鏡男は慌てて手にしている図鑑のような本を広げようとするも、再び鬼2人からの攻撃で邪魔されて身動きが取れなくなっている。
「行け、3人共!」
伊吹が私達を後押しするように叫ぶ。
「おっしゃ!このまま美亜達の母ちゃんも助けてくる・・・って、アレェ!?」
「えっ?ちょっと美瑠に美弥子!?なんでアンタ達まで!」
「「お母さんを助けるため(です)!」」
とはいえ、まさか美瑠と美弥子まで私達に着いて来るとは思ってもみなかったけど。
「綾ちゃん、美亜ちゃん。これ多分、今更戻れって言うのも無理だと思うよ。2人共に目が真剣ですからね」
「まぁ、それもそうだね。それに美亜だけじゃなくて、2人にとっての母ちゃんでもあるし」
「はぁ・・・もう。美瑠、美弥子、危なかったらすぐ逃げるのよ」
その美亜の言葉に、美瑠と美弥子はウンウンとしっかり頷いた。
それにしても敵地の超重要そうな場所だというのに、他に警備も罠も無いのは些か不用心過ぎるんじゃないだろうか・・・突入する側からしたら楽なので良いんだけど。