私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第参拾玖話 椿の新たな力、私の頑丈さより目立ってるかも

 

1つ目の扉をくぐり抜けた先にも更に扉があった事で、私達は美亜達の父親が隠している物がこの先にあるのだと確信する。

 

「もう既にアイツは気付いているだろうし、このまま正面突破よ!」

 

「ちょっと、美亜ちゃん!せめて何か準備を――」

 

「そう言ってる余裕も無いよ、椿!後ろから変な妖怪も迫って来てる!」

 

そうして私達は覚悟を決めて「いっせーの、せ!」で同時に扉を押し開けた。

すると、その先に広がっていたのは――

 

「部屋の中に、一面の花畑・・・?」

 

「もしかして、これが金華蘭なのかな」

 

一瞬、外に出てしまったのではないかと思ってしまう程の光景に私と椿が驚いて立ち尽くしていると、そこへ見覚えのある男が再び私達の前へ姿を現した。

 

「これは、"金華蘭の素となる蘭"だ。1番育て易い上に、金華蘭へ仕上げ易いからな。大切な商品を、こんな入ってすぐの場所で育てる訳がないだろう。それにしても全く・・・美亜も、何度邪魔をすれば気が済むのだ」

 

「そのセンターで見た事のある姿、美亜の親父か!」

 

「今では最早、親子の縁も無いがな」

 

椿の祖父とはまた別格な威厳のある風格に、私達は気圧されて少し後退りしてしまう。

そして、そこへ更に別な声も聞こえてきた。

 

「あれあれ、美亜?貴方は"もう家に入るな"と、そう言われていませんでした?何回同じ事を言わせるのかしら?またブタ箱に放り込んであげましょうか?」

 

「美海・・・!」

 

そう言って現れた、あっけらかんとした様子のツインテールの少女に、美亜は睨みつけるようにして眉をひそめた。

 

見た目こそ美瑠や美弥子と大差が無い程に可愛らしい姿をしているが、あんな父親から歪んだ愛情を受けて育ったせいか発する言葉はワガママかつ外道に満ちてしまっている。

 

「その通りだ、何度言えば分かる。貴様は既に、我が一家の敵だ!即刻消えるが良い!!」

 

そこへ更に美亜の父親が容赦無い一言を放った事で、私どころか椿もいよいよ堪忍袋の緒が切れた。そして私達は美亜達の前へ立って、そいつらを睨みつける。

 

自分の娘を道具同然に扱って、思い通りにならなければ捨てるような奴・・・美亜の友達として、一言くらい文句を言わなければ気が済まない。

 

「なんだ、お前達は?あぁ・・・あの時一緒に居た、情けない妖狐とただ運の良かった人間か」

 

「チッ・・・確かに、あの時はまだまだ私達は情けなかったかもね。でもこっちだって、あれから1ヶ月程度で色々あったんだ」

 

「たったそれだけの時間だけど、僕達は美亜ちゃんと友達にもなれたんだよ。だから、それ以上に長い時間を一緒に暮らしていた貴方にも、美亜ちゃんに少しは情けくらい――」

 

「ふん、そんな物は無いな」

 

「こ、んの野郎・・・!」

 

ピシャリと即答するそいつへ、私は怒りが爆発して思わず拳を突き出す。しかし、そんな私の拳は向こうには簡単に受け止められてしまい、逆に手首を捻って私へ痛みを与えてきた。

 

「綾ちゃん!」

 

「大丈夫、椿!う、ぐっ・・・!」

 

「何故、人様の家庭の事情に口を出す?お前達には関係の無い話だろう」

 

「関係ない訳ねぇよ!美亜は私達の大切な友達なんだ!」

 

「綾ちゃんの言う通りです!それに貴方達のやっている事は、既に犯罪なんです。そして、色んな妖怪達が貴方を捕まえに来る。もう他人の家の事情だからとか、そんな事を言っている場合じゃないんだよ!」

 

「そうだ、私達は・・・あくまで任務としてアンタらを捕まえに来た!美亜だってライセンスを持つ者として、こうして行動を起こしただけだ!」

 

そして私達の説得に耳を貸さないまま、美亜の父親は私の腕を掴んだ状態で何かの呪いをかけようとしてきた。嫌な感覚が走ったので、それが呪術である事は容易に判断出来たのだ。

 

「綾!」

 

その瞬間に美亜が自身の父親へ呪術らしき力を発したが、そいつが空いている方の手で振り払った様子からしてどうやら無効化されてしまったらしい。

 

「ふん、この程度で私に呪いをかけられるとでも――」

 

「いいや、時間は稼げた!妖異顕現、稲妻雷霆蹴!!」

 

だが私はそこで出来たスキを利用して、押さえられていない脚に雷を発生させて、腕を回されている方へ身体を捻りつつ美亜の父親に蹴りかかる。

 

「よし、今なら!妖異顕現、黒焔狐火!!」

 

そして、更に椿が黒い炎の塊を美亜の父親目掛けて放つ。

 

強い手応えから、椿の炎で上手く隠れた私の蹴りが当たった――と思ったが、そいつは咄嗟に私の腕から手を離していて、蹴りを放った足首を掴まれて思いっきり椿達の方へと投げられてしまった。

 

「いっ・・・てぇ、今のは完全に不意をついたつもりだったんだけどな」

 

「相変わらず身体は頑丈ね、綾・・・それと2人共、気を付けなさい。アイツも美瑠と美弥子以上に別格だから」

 

「そのようですね。僕達の妖術が効いてないや」

 

持ち前の体力と変身している儀礼衣装のお陰で、別段ノーダメージな私が落ちた方の腕から土埃をはたき落としながら立ち上がると、今度は椿の放った黒い炎が徐々に人の形へと姿を変えていっているのが見えた。

 

「なんだ?椿の炎が、人の形に・・・」

 

「アイツは"妖術に呪いをかける"事が出来るのよ。そして、呪術に変化させたそれを自在に操る事も出来るの、あんな風にね」

 

「マジかよ!?」

 

「という事は、あの人には妖術が効かないって事になるよ・・・!」

 

すると私達が美亜の父親の能力に驚いている間にも、向こうは更なる手を打ってきた。

 

「ふん・・・美海、少しアイツと遊んでやれ。私は、この侵入者共を片付けておく」

 

「は〜い!さっ、美亜お姉ちゃん――遊ぼっか!!」

 

そして美亜の父親は私達の方に、美海は美亜の方へと挟み撃ちするかのように迫って来る。

 

問題なのは、どちらも美瑠と美弥子を完全に視界に入れていない事なのだが・・・2人共に何故かそれを気にする様子はなく、逆に何かを狙っているかのような顔をしていた。

 

まだ向こうが彼女達に何かを仕掛けてこないのならば、私達は彼女達の行動がバレないように自分の戦いに集中するとしよう。

 

「そうだな、先程の妖術・・・返してやろう」

 

そう言って美亜の父親は、先程椿が放った炎の成れの果てである人形を私達へぶつけるように放ってくる。

 

すると椿は向かって来る炎へと手をかざして、黒狐さんの力を解放した。

 

「お願い、上手くいって!術式吸収と詳細入力!!」

 

その瞬間に、なんと炎は椿の右手へと吸い込まれていき、椿は何かを理解した表情で前を向いた。

 

「術式タイプ、呪術。相手を燃やし尽くすまで消えない、呪いの炎。解呪方法は・・・うん、上手くいって良かった」

 

「な・・・なんだ、何をした?」

 

美亜の父親は何が起きたか分からない、といった様子で驚きの声をあげる。そして私も、今の椿の行動を初めて見たのでビックリして声も出ない状態だ。

 

えっ?何それ凄い・・・と思う間もなく、椿は左手を突き出して更なる力を解放する。

 

「そして、術式出力と強化解放!!」

 

椿の左手からは先程取り込んだ黒い炎が、なんと鬼のような形相で見るからに強そうな形となって放出された。

 

「ぬぉ!くっ・・・馬鹿な、呪術を強化したのか!?」

 

美亜の父親には避けられてしまったものの、その炎は奥の部屋の壁に激突して大きなクレーターを作り上げる。とはいえ椿の表情からすると、どうやら炎からは自在に操作出来る力は失われてしまったようだ。

 

「こりゃ凄い威力だね、椿!」

 

「う〜ん・・・でも、まだ上手く扱えてないや」

 

「なるほど、どんな術も己の身に取り込み解析し、そしてそれを強化して解放する能力・・・か。厄介なものだ」

 

黒狐さんの豊富な妖術のレパートリーがあるのなら、確かに吸収や解析に放出まで出来ても不思議はない。そして椿がそれを出来るというのなら、黒狐さん本人も多分同じように出来るのだろう。

 

・・・あれ?椿の新たな力、私の頑丈さより目立ってるかも。

 

一応、さっき投げられた時も地面に若干めり込む程の勢いだったにも関わらず、私は全く痛くなかったりしたんだけど。

 

とはいっても、以前まで小次郎の召喚に使っていた私自身の妖気を消費して儀礼衣装の力を底上げしているだけなので、常時強化しているとガス欠を起こして変身が解除されるくらいヘトヘトになってしまうデメリットがあるのだが。

 

「ふん、それでお互いの術は効かない――そう勘違いしているのではないだろうな!」

 

すると、美亜の父親は私達を威圧するかのように叫び、その足元から波のような形で得体の知れない力を放ってきた。

 

「えっ?こ、これは!?」

 

「クソッ!まだ奥の手があるのかよ!!」

 

蛇のように地面を這ってくるそれは、何となくではあるが"触れてはいけない"と直感した。

 

「金華猫が得意とする呪いは"病(やまい)"。他の呪いは戦闘となった時に補う為のものだ、この呪いをかける為のな」

 

「あらあら、お父様ったらもう終わらせるの?私、まだ遊んで・・・えっ?」

 

私達が"神妖の力"か何かで対抗しようかと考えていると、そこへ美亜が私達の前へ躍り出てシッシッとするかのように手を振る。すると私達へと迫って来ていた呪いの力は方向を変えて、逆に美亜の父親へと向かっていったのである。

 

「チッ!」

 

とはいえ、返されたそれは簡単に掻き消されてしまったのだが。

それでも私達には何が何だか分からない状況だ。

 

「な、何?何があったの?」

 

「アイツの"重病にかかってしまう呪い"を私の"呪詛返し"で跳ね返したのよ、解除されちゃったけどね。一応言っとくけど、あんな呪いをマトモに吸収なんかしたら、逆に一瞬で死の病気にかけられてしまうわよ」

 

「何だよ、その初見殺しな力は・・・って、椿の方も椿の方で似たような感じか」

 

そして、美亜はそのまま説明を聞いて呆然としてしまった椿の尻尾を強く握って、あらぬ方向へ向いていた意識を戻させる。

 

「ひゃぁあ!?」

 

「シッカリしなさいよ!2人共、良い?綾が耐えたり椿が吸収出来ない呪いは、私が"呪詛返し"で跳ね返すから、アンタ達はただアイツを捕まえる事だけを考えなさい!」

 

「とは言ってもよ、そっちはまだ美海を――って、なんか様子がおかしいな?アイツ、まるでこっちが見えてないみたいだ」

 

そうして私が美亜の態度に疑問を感じて美海の方へ視線を向けてみると、そこにはキョロキョロと私達が見えていないかのように狼狽える美海の姿があったのだ。

 

「嘘、嘘!?急に誰も居なくなった!?ちょっ、まさか美瑠と美弥子なの!?なんで、何やってんの!なんで貴方達が!?」

 

どうやら2人が、もう1人の姉でもある美海を敵と認識して"見えなくなる呪い"をかけたと見て間違いはないだろう。2人共に術者である自身の姿が見つからないように物陰へと隠れている事が、その事実を裏付けている。

 

そして、そこをチャンスと見て椿は影の妖術を発動して、何も見えなくなっている美海をグルグル巻きにして身動きを取れなくした。

 

――これで残るは、美亜の父親だけだ。

 

この一家の諸悪の根源ともいえる人物へと、私と椿は美亜と共にキッと睨みつけた。

 


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