私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
敵対する者全てを滅そうとする"謎の意識"に乗っ取られた私の攻撃によって、和月は妖怪を呼び出していた本を切り裂かれて困惑した様子を見せている。
そして椿が暴走したまま、今度はこの場から逃げようとする美亜の父親の前へと立ちはだかっていた。
「さて、何か悪あがきをしようとしているようですが・・・たとえ美亜の父親でも、逃がしませんよ」
「ぬぅ・・・クソ、何なんだ貴様らは。アイツにこんな味方がいたとは、信じられん・・・!」
「あら、それは貴方が娘を蔑ろにしたせいですよ」
確かに暴走した椿の言う通り、和月の不意打ちで瀕死の重傷を負った美海を放って妖草の場所へと向かおうとしているのは一目瞭然だ。
とはいえ、ここから椿がどうするのか・・・出来れば殺そうとしないで欲しいが。
「くっ・・・」
「無駄な抵抗です、今の私には呪術なんて一切効きませんよ。美亜、私が押さえているのでコイツを縄で縛っておいてください。本当は滅したい所ですが、一応は貴方の父親ですからね」
「あっ、わ・・・分かったわ」
良かった・・・どうやら、あの状態の椿でも一先ずは人としての情はあるようだ。
私の身体が片手で和月の腕を締め上げている中で、そうホッと一安心していると――
「おい綾、危ねぇ!!」
「ぐっ・・・当機に、僅かな損傷を検知。推測、"無なる者"が妖具を修復」
なんと、突然和月は水ノリみたいな物で本を直したのか、そこから黒い玉・・・というか漫画でよくあるタイプの爆弾を召喚して私の身体を吹っ飛ばしてきたのだ!
爆風に直撃する寸前で椿がバリアみたいな膜を張ってくれたから怪我はしていないものの、向こうはまだまだ戦うつもりがあるようだ。
「――ふぅ、しつこいですね・・・それにしても助かりましたよ、酒呑童子さん。お陰で、この"魔を殺す者"を守る事が出来ました。彼女も香苗と同じく、私の親友のようですからね」
「ちっ、その状態・・・"神妖の力"が溢れ出してやがるのか。だが2人共に、聞いていた話より暴走してねぇな」
「えぇ、そうですね」
「肯定、以前より力の安定を確認している」
「その神刀と神甲のせいか・・・」
酒呑童子の言葉を聞いて、私は何故なかなか意識を前の時みたく乗っ取り返しにくいのかが納得出来た。
なるほど、コレで"神妖の力"をダダ漏れにしないように調整してんのか・・・こりゃ早い所、消耗してくれないと面倒臭そうだぞ。
「それよりも2人共、いい加減そのパンダの被り物を取ってください。緊張感が台無しですよ」
「ぬぉっ!」
「うわっ!」
すると、そう言って椿は鬼2人のダブルパンダヘッドを取り払った。その言い方からして、どうやら2人共に自分自身で呪いを解除しようと思えば出来たらしい。
「ほら、そこの"魔を殺す者"と協力して、さっさと目の前の"無なる者"を倒してください」
「あ〜?面倒くせぇな。今の状態なら、お前ら2人でも余裕で勝てるだろうが」
「"妖怪 酒呑童子"への回答、肯定」
「椿も綾も人が変わったようだと、なんかこう調子が狂うね・・・」
やる気の無さそうな様子の鬼2人に椿が大きくため息をついていると、そこへ和月が忘れられてたまるかと言わんばかりに割って入ってくる。
「さっきからゴチャゴチャと・・・何をしているのですか?私に1度負けている弱者を1人や2人復活させて戦わせた所で、先程と結果は同じですよ」
うっわぁ、急に小物臭くなってきたぞコイツ・・・鬼2人の全力を知らないのかな、どーなっても知らんぞ〜。
「あっ、待ちなさい!」
と、そんな事を考えている間にも和月は本から妖怪を出して、美亜の父親を捕まえようとする私達の妨害を続けてくる。きっと、なんとしてでも妖草の場所へは行かせたくないのだろう。
椿が片手間に呼び出された妖怪を消し飛ばしながら、依然として面倒臭そうにする鬼2人へ再び声をかけた。
「酒呑童子さん、星熊童子さん・・・お願いですから早くしてください。力が安定しているとはいえ、私も"まだ"完璧ではないのです」
「嫌なこったな〜」
「当機からも、"妖怪 酒呑童子"と"妖怪 星熊童子"への協力を要請する」
「そんなに頼りたければ、2人共に元へ戻ってから頼んだらどうだい?」
「なっ・・・!元に、って何故ですか?」
「今のテメェらはイライラするんだよ。椿は上から目線で何もかも分かってる感じだしよ、綾は綾でロボットか何かかってんだ。要は2人共、人間味というか妖怪味というかが無いんだっつ〜の」
すると、その酒呑童子の言葉に動揺したのか、私の身体を乗っ取っていた意識が揺らぎ始めていた。もう少しだけ意識が入り込める"何か"があれば、きっと身体の主導権を取り戻せるかもしれない。
「・・・私を無視ですか、良い度胸していますね!」
そんな私達の会話に和月はとうとう堪忍袋の緒が切れたようだった。というか、感情が無いとか言ってた"無なる者"なのに怒ったりするんだな。
「お〜お〜、何だオメェ。心が無いとか言っときながら、ちゃんと怒ってんじゃねぇかよ。分かってるか?それが"心"ってモンだ」
「なっ・・・そんな、これが?」
酒呑童子からツッコミを入れられて、その自分自身の態度に和月は困惑している。
そして酒呑童子はそのまま拳を振り上げた。
「分かったんなら――」
「えっ?なっ!そんな、馬鹿な!私の妖怪ごと!?」
「――もう、寝とけ!!」
「あぁぁぁぁああ!!!」
「えぇぇええ!?なんじゃそのキレイ過ぎなやっつけ方〜!!」
なんかギャグ漫画のオチみたいな流れで、パンチから放たれた衝撃波で倒しちゃったんだが・・・良かったんだろうかね、あれ。
まぁ、結果的には私が身体の主導権を取り戻せたから良かったんだけどさ。
「おっ、綾は戻ったな・・・で、椿。テメェはいつ戻んだよ?」
「酒呑童子さん、そう言いながら椿の胸を揉むのは何かおかしくないか!?」
もうやだ、この変態な鬼。しかも椿も椿で揉まれているにも関わらず全然動じてないし。
「残念ですが酒呑童子さん、こんな事をしても無駄です。それよりも急いで・・・ひぁっ!?」
「良いから戻りなさい椿!!ほら、綾も戻ったんならさっさと手伝う!」
「えっ・・・あ、うん」
と思っていたら、美亜から尻尾を握られた事で椿は顔を真っ赤にし始めた。どうにも放置してる臭いけど、とりあえず美亜の父親については一旦置いておこうかな・・・。
「あ〜そっちかよ。俺は胸の方が――」
「「誰の胸がどうしたってぇ!?」」
「ぐぇっ!?」
「おぉ〜良いパンチが決まったね」
酒呑童子がサラッと禁句を言いかけたので美亜と2人で成敗して、更に椿への責めも強くしていく。なんか後ろで伊吹が拍手をしているが無視だ無視!
「ひっ、くぅ・・・綾に美亜!いい加減にしないと、2人共お仕置しますよ!」
「あ〜ら、やってみなさいよ。その前に私と綾がヘロヘロにしておいてあげるわ!それ、いくわよ〜!」
「OKだよ美亜!ほ〜れ、ふ〜・・・ふ〜・・・」
「ひぐっ!?」
そう言ってから私は美亜と共に、両側から椿の狐の耳へと息を吹きかけ始めた。
・・・うん、自分でも一体何してるんだかっては思ってるよ。
「くぅ・・・ふ、2人共いい加減に――してください!!」
「あっ、ちょ――フギャッ!?」
「うわ、椿ホントごめ――アッー!!」
すると、椿は途端に普段の怒った時の様子へと戻って尻尾で美亜共々に私をぶん投げたのであった。良かった・・・どうやら元の椿に戻ってくれたようだ。そして椿が元に戻れたという事は、つまり――
【そうよ、私が何とか抑えたわよ。尻尾を触られて、気が乱れた瞬間にね】
私と椿の頭の中へ妲己さんの声が聞こえてきた。
それにしても前回とは違って声に余裕がある感じなので、椿が暴走した時の対処も慣れてきたのだろうか。
「あ、綾ちゃんも美亜ちゃんもごめん。大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!これくらい、全然何て事ないって!」
「全く・・・アンタ達の"あの状態"は怖いわね」
そうして、投げ飛ばされて天井ギリギリの壁に張り付いている私と美亜は、椿に助けられてから本気で謝られた。
「あの・・・それで美亜ちゃん、お父さんの方はどうしたの?」
「アンタ達が亰嗟の奴を倒している間に、彼処へ逃げ込んだの」
そう美亜が言って指差した先には、部屋の奥に新たな地下への隠し階段の入り口が現れていた。
「おいおい、捕まえて――いや、でも良く考えたらアイツがそこへ逃げ込んだんだから、これは多分・・・」
「そうですね綾ちゃん。その先にはきっと、犯罪の証拠の金華蘭がある」
「そうかもね、2人共。恐らくは、お母様も・・・」
美亜が再び眉をひそめて階段を睨む。
「そういや、どうして美亜はそこまでして自分の母親を助けようと必死になってたんだよ?普通なら、誰にも言わず1人で突撃かましたりしないだろ」
「当然の話よ。私のお母様はね、植物に呪いをかける事が出来るの。そしてお母様の力を使って作られた物が、あの金華蘭なのよ。だからお母様を助け出せれば、他に作れる人の居ない金華蘭は潰えるわ」
「おっほほーん・・・美亜の家族って、何気に呪い関係が凄い人ばっかりだな。いや、美亜も呪いを返したり出来るから滅茶苦茶凄いんだけどさ」
「とにかく2人共、それならそれで早い所追いかけますよ!きっと美亜ちゃんのお父さんの性格からして、美亜ちゃんのお母さんが酷い扱いを受けているのは間違いないですし!」
「あぁ、そうだね椿!」
「それに気付いたんだけど・・・どうやら此処の出入口って私達が入って来た場所しか無いみたいだから、向こうには逃げ場なんて無いハズよ!」
何はともあれ、これでようやく本命に王手をかけられるといった状況だ。美亜と彼女の母親の為にも、絶対にアイツは捕まえないといけないな。
「2人共、今度は暴走しないでよね?」
「ぐっ・・・悪かったよ」
「うぐ、気を付けます」
そして鬼2人に亰嗟の一味である和月を任せておき、私達は更なる地下へと進んで行った。
美亜は自分の家族の悪事に終止符を打とうと全力だ。それならば私達は出来る限り彼女の手助けを勤める事にする。
――妖怪センターの増援が到着するまで残り10分少し、それまでに全てを終わらせないと!