私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第肆拾肆話 なんで、家族なのに

 

逃げた美亜の父親を追いかけて、私達は隠し階段から更なる地下へと降りて来る。

階段自体はさほど長くなく、丁度1階分降りた所でアッサリと部屋に到着した。

 

すると、部屋に入った瞬間に強い匂いが私達の鼻を突いてくる。

 

「ぐっ・・・何だ、この匂いは?部屋に充満してるからか、頭がクラクラするくらいに気持ち悪くなりそうだぞ」

 

「花の匂い?それにしては、かなりキツいような気がするよ・・・」

 

「当たり前よ、お母様の呪術で花の色々な濃度を倍にしているんだもの。花粉の量や蜜の匂いも倍以上になっているわ」

 

上で亰嗟の奴を縛り付け終えて私達の後ろから追ってきた鬼2人も、その部屋の匂いに眉をしかめる。

 

「おいおい、胸焼けしちまうぞコレは・・・ヒック」

 

「酒呑、その胸焼けは今も飲んでいる酒のせいだと思うよ。まぁ、流石の僕もこれほどまでにキツい匂いは初めてだね・・・」

 

そして、美亜が黄色い花粉の充満する部屋の奥を睨み付ける。

 

「お母様と蘭の花が何株かさえあれば、また大量に金華蘭を作れると思っているのでしょう――そうよね、お父様」

 

彼女の睨み付ける先に私達も視線を向けると、そこにはボロボロな状態のまま美亜の父親が立ち塞がるようにして立っており、その後ろには巨大な木の根に絡め取られるかのようにして捕まっている美亜の母親の姿があった。

 

しかし、美亜が居るのに何の反応も無く目を閉じている所からすると、どうやら体力を消耗して気を失ってしまっているようだ。

 

「まさか・・・ここまで私を追い詰めるとは。落ちこぼれが強者へ縋り付くのは予想出来たが、こうなるとは思わんかったな」

 

美亜の父親は、そんな彼女の言葉へ反応しているのかしていないのか良く分からない言葉をブツブツと呟く。だが、その眼差しは美亜ではなく私達へと向けられている。

 

「だが・・・ノコノコとこんな所にやって来るとは、馬鹿としか言いようがないな。この部屋には呪われた蘭の花粉が舞っている。それが貴様達に何の影響も与えんと思わんかったのか?」

 

「なるほどな。要は私達の足元にある、この金華蘭の花粉には毒があるっつ〜事かよ。けど、そいつは呪いで作られた奴だろ?それなら・・・椿、行くよ!」

 

「うん!さっき暴走したせいで妖気はギリギリだけど、綾ちゃんと力を合わせれば――」

 

そうして私は椿の右手を握って、それぞれ空いた方の手を前に突き出して互いの残る妖気を合わせて"神妖の力"を解放する。

 

「「天神招来――神風の禊!!」」

 

「なっ!き、金華蘭が!?」

 

私達が起こした浄化の風が、金華蘭のむせ返るような匂いやドス黒い呪いの力らしいオーラも一遍に全て消し飛ばす。

 

この部屋にある金華蘭の呪いは全て浄化された。

 

向こうは私達を罠にかけようとしていたようだが、これで完全に勝敗が決まったのは間違いないだろう。

 

「ば、馬鹿な馬鹿な!こうも簡単に呪いを解かれるとは・・・有り得ん!普通なら、専門の奴らが1週間かけないと解けない程の代物なんだぞ!」

 

「おいオッサン、コイツら2人はな――かなり特別なんだよ」

 

「酒呑の言う通りだね。そっちの物差しで彼女らの力量を測ってしまった事が、そもそもの間違いさ」

 

そう鬼2人が言って私と椿の頭を撫でてくるが・・・幾ら何でも子供じゃないんだから止めてほしいな。それに椿の頭を撫でて良いのは、私や狐2人だけ――いやいや、なんで私は普通に狐2人も信用しちゃってるんだよ!?椿の貞操を狙ってるんだぞ!

 

兎にも角にも、それが不愉快な私達は鬼2人の手を軽く払っておいた。

 

「ぐ、くぅ・・・クソ!」

 

すると、美亜の父親は後ろへ振り向いて、フラフラとした足取りで美亜の母親の元へと歩いていく。

 

「あぁ、アザミ・・・お前さえ居れば」

 

そうしてしがみつく美亜の父親の姿は、なんというか悪事を働いてきた者の末路といったようで少し哀れに感じる。

 

すると美亜の父親は、美亜の母親を木の根から引きずり降ろして、抱き抱える形で更に奥の壁へ向かっていく。

 

その瞬間、なんと奥の壁が突然動いて逃げ道が現れたのだ!

 

「しまった、隠し扉か!」

 

「くっ!だから追い詰められたにも関わらず、あんなに余裕そうだったのね――あの通路で、いつでも簡単に逃げられるって分かっていたから!」

 

「おいおい、流石にやべぇぞ!追いかけろ!」

 

「え、ちょ酒て――ぎゃあ!またか!!」

 

「何やってんだよ鬼2人!?」

 

しかも酒呑童子が酔っ払った状態で追いかけようとしたものだから、足がもつれて再び伊吹を巻き添えにして盛大にコケてしまったのである。

 

あ〜もう、1番頼りになりそうな人が速攻でダメになるとか酷いわコレ。

 

「綾ちゃん!早く追いかけないと!」

 

「分かってるっての――だぁ!?ジャンプしたっけ何故かひっくり返ったぁ!?」

 

「気を付けて!天井にも呪術が仕掛けられてるわよ!」

 

「それ言うの遅くない美亜さん!?」

 

すぐさま椿が白狐さんの力を解放すると同時にジャンプで一気に追いつこうとするが、部屋に仕掛けられた呪術のせいで途端に宙返りする形で転んでしまった。

 

「年の功には勝てんという事だ。まだまだ勉強が必要だな」

 

「くっ!逃げられる!」

 

椿が走って逃げ道へと向かうものの、既に扉が閉まり始めてしまっており、このままでは間に合いそうになかった。

 

それでも椿は必死に相手を逃がさないと手を伸ばす。

 

「残念だったな。今度は以前よりも隠れた場所で、この金華蘭を育っ・・・!?」

 

「えっ?な、何が起こったの・・・?」

 

「なっ!アイツの胸に、短刀が・・・!?」

 

なんと私達の目の前に映った光景は、いつの間に起きていたのか美亜の母親が短刀を深々と自身の夫に向けて突き立てていた姿だったのだ。

 

「あ・・・ガフッ、アザ・・・ミ?」

 

「貴方・・・残念ですが、私達が作った金華蘭は――全て地獄へと持って行きましょう」

 

膝をついた美亜の父親から転げ落ちつつも、美亜の母親はキッとした眼差しを彼へ向けて言葉を放った。

 

「あっ、な・・・何故だ、ア・・・アザミ」

 

「私達のやっている事は犯罪です。既に何人かの妖怪の生を乱し、死へと追いやっています・・・それは決して、許される事ではありません」

 

私達は美亜の母親の言葉が真実かと不安になって鬼2人の方へと振り返ると、酒呑童子も伊吹も真剣な表情をして頷いてきた。

 

その衝撃的な真実に呆然とする私達の横を、美亜が凄い勢いで駆け抜けていく。

 

「お母様!一体何を!?」

 

「おい落ち着け、美亜!なんか花の匂いが薄くなってきたと思ったら、今度はガソリンみたいな匂いがしてきたぞ!!」

 

「そんな・・・美亜ちゃんのお母さんは――まさか!」

 

これから起こるであろう事態を予測した私と椿は急いで美亜の後を追う。

 

すると、美亜の母親は自身の元へ来ようとする娘を手で優しく制した。

 

「美亜、それ以上は近づいて駄目」

 

「な、何で?お母様、せっかく・・・」

 

「えぇ、分かっています。ですが、私はこの人を止める事が出来ず、あまつさえ手を貸してしまったのよ」

 

「でも、それは!」

 

「例え無理やりでも、この状況を脱する事が出来た・・・でもね、私はこの人を――それでも愛しているの。嫌われたくなかったのよ」

 

そう言った美亜の母親は、その愛している人物の頭を膝へ乗せて開いていた瞼を手で閉じさせる。

 

その人物は、どうやら既に・・・

 

「行きなさい、美亜。貴方は此方に来ては駄目よ」

 

「お、母様・・・」

 

その2人の空間には何にも無いが、それでも"越えてはならない一線"のようなものが2人を分け隔てるかのように存在しているように感じた。

 

「貴方には"犯罪者の親は居ない"。良い、美亜?もう私達は親子ではないのです。以前に絶縁していたでしょう?」

 

「っ、でも・・・でも!」

 

泣きそうになっている美亜へ、椿は心から辛そうな表情をしながらも厳しく諭す。

 

「美亜ちゃん、行こう。お母さんの気持ちを無駄には出来ないでしょ?それに君のお母さんは、もう・・・」

 

「なっ・・・そんな!いつの間に、金華蘭を・・・!?」

 

椿の言葉を聞いて再び美亜の母親へと視線を向けると、なんと彼女の口からはツツ・・・と血が垂れてきていた。

 

ふと見ると、彼女の足元には花びらの無い金華蘭の花が1本落ちている。どうやら自分自身で、強力な呪いのかけられた金華蘭を口にしたようだ。

 

「おい急げ、お前ら!」

 

「今さっき、センターから増援が到着したという連絡が入ってきた。残念だけど、もう時間切れだ!」

 

「さっ、美亜ちゃん」

 

こんな所で撤退しなきゃならないなんて・・・!

 

出来れば最後に美亜を、母親の元へと行かせてあげて親子として手の1つでも触れさせてやりたかったというのに――それすらも拒否されて叶わないなんて。

 

なんで、家族なのに。

 

「お母様・・・」

 

そんな中、美亜は声を震わせながらも母親へ向かって叫ぶ。

 

「私、貴方が大嫌いだったわ!いつもいつも、勝手に1人で背負い込んでしまう・・・そんな所が大嫌いだったわよ!」

 

美亜はボロボロと涙を零しながら叫び続ける。

だが、それが美亜自身の本心ではない事は見ただけでも私にも理解出来た。

 

「私を絶縁させたのも、そう貴方がお父様に言ったからでしょう!そうやって、私を逃がして何の意味が――」

 

「美亜・・・貴方にも、私と同じ能力があるからよ」

 

「・・・!!」

 

なるほど、今までに美亜に感じていた違和感がようやく理解出来た。

そうだ・・・あれだけ呪術のトラップを見破れるというのに、その本人は呪術を使う事が苦手なのは何かおかしかったのだ。どうして私は、そんな簡単な事にすら気づけなかったんだろう。

 

「貴方はまだ"その力"に目覚めていないようだけれど、その内には私と同じ事が出来るようになるわ。だからね、私の居場所を奪われると思って貴方を追い出したのよ。ふふ・・・私も悪い女でしょう、ケホッ・・・!」

 

「えぇ、そうね・・・本当にそうよ!最初から最後まで、そうやって嘘をついて・・・そんなに、私と家族というのが嫌なのね!もう・・・分かったわよ!」

 

そう言って美亜は母親に背を向け、美亜を心配している私達の横を通り過ぎて行く。

 

「ほら2人共、早く。行くんでしょ?」

 

「あっ・・・あぁ」

 

「でも、美亜ちゃん・・・本当に良いの?」

 

「良いのよ。向こうがそれを望んでいるんだから」

 

そう美亜が私達の言葉に答えて、さっさと鬼2人の居る所へ戻って行く。

 

「ふふ、良い友達ね。美亜の事、これからも宜しくお願いします。あの子・・・不器用ですから」

 

「あっ、はい。分かっています」

 

「大丈夫です、僕達が美亜ちゃんの支えになるので」

 

それから私達も美亜の母親から離れ、火の手が回りつつある部屋を抜けて皆の元へと戻る。

 

「美亜・・・愛しているわよ」

 

最後に美亜の母親の声が聞こえた後に、部屋の中は炎で埋めつくされて見えなくなってしまった。美亜が俯きながら進もうとしている所からして、恐らく彼女にも今の声は聞こえていたらしい。

 

「美亜ちゃん・・・今日、綾ちゃんと一緒に寝てあげる?」

 

「別に良いわよ、グスッ・・・私も大好きよ、お母様・・・ううん、お母さん」

 

椿の気遣いに首を横に振りつつ、美亜は私達と共にその部屋を後にしたのであった。

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