私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
燃え落ちていく洋館から脱出する途中で、私達は狐2人と合流しつつ捕まったままだった楓を救出する。
なんとか洋館から脱出こそ出来たものの外で待っていたセンターから来た増援の人達が言うには、中へ突入した時には私達が捕まえていた亰嗟の男――和月には既に逃げられてしまったらしい。
色々な事があって私達も油断していたとはいえ、どうやって逃げおおせたのかが気になる所だ。
それから突入した全員が脱出したタイミングで地面の下から爆発音が響いたかと思うと、燃えていた洋館が大きく崩れていく。どうやら、美亜の母親は事前にこうする事を想定して何かしら仕掛けを施していたのだろう。
「うわぁ・・・あの〜姉さん達。あのままだと危うく自分、蒸し焼きになってたっすよ」
「ま、まぁ悪かったよ・・・私達も」
「でも楓ちゃん、それだけ任務は危ないんだって事が分かったでしょう?」
その椿の言葉に、楓はウンウン!と激しく首を縦に振って頷く。とりあえず、今回は私達の考えの浅さと楓の仕草の可愛らしさに免じて許してやるとしよう。
「椿・・・本当に、これで良かったのかな?」
「そうだよね・・・美亜ちゃん、大丈夫?」
そして、私達は呆然と燃えていく洋館を眺める美亜へ声をかける。
「・・・」
センターから消火部隊がやって来て、水を出せる妖怪の人達が全力で消火活動にあたってくれてはいるものの火の勢いは凄まじく、全く弱まる様子が見られない。
そんな光景を、高く上がる火柱に照らされながら美亜はただただ無言で眺め続けていた。私達の後ろでは、わんわんと美瑠と美弥子が鬼2人にしがみつきながら泣いている。
自身が拠り所としていた物を全て失ってしまった彼女に私達は、とてもじゃないがこれ以上の言葉をかける事が出来ない。
きっと、美亜だって泣きたくなる程辛いに決まっているだろう――そう思っていると突然、美亜が振り返って私達の胸元へ顔を埋めてきた。
「美亜・・・」
「美亜ちゃん・・・」
「ごめん、2人共・・・ちょっとだけ、胸貸して」
「あぁ、大丈夫だよ」
「うん・・・僕の方も良いよ、美亜ちゃん」
そうして、私達は震える美亜を優しくそっと抱きしめる。それが彼女にかけられる言葉が見つからない、私達なりの精一杯の思いやりだった。
そこへ"よくやった"と言いたげな様子で狐2人もやって来る。
『椿に綾よ、今回はお主達なりに頑張ったな』
『2人共また暴走したらしいが、どちらも切っ掛けがある限り元へと戻れるようだな。しかし、それも何時まで持つか・・・』
「黒狐さん、それは僕達も分かっています」
「今はとりあえず、美亜を慰める事に集中させて欲しいかな」
すると、そこへ更に美亜の2人の兄やセンター長の達磨百足、終いには椿の祖父etc・・・と色々な妖怪が私達の周りへと集まって来た。
そして、それぞれ周りで別々な話を始めてしまう。一体何しに、こっちまでわざわざ来たんだろうか?
「さて、美海という者は白狐のお陰で一命を取り留めたようだが、アイツは妖草の斡旋や販売までやっていたようだからな・・・実刑は免れんだろう。後は、お前達4人だが・・・少し話を聞かせてもらうぞ、各々への判断はそれからだ」
「分かった」
「りょ〜かい」
「えぐっ、ひっぐ・・・は、はい」
センター長の言葉に、美瑠と共に泣いていた美弥子も頑張って返事をする。姉である美亜ですら私達も胸元で号泣してしまう程に今回の事件は辛いのに、よく頑張って真面目に振舞おうと出来るものだと思う。
「それにしても・・・なんつーか、美亜の兄さん達は何でそんな平気そうなんだ?母親も父親も亡くなってしまったのにさ」
「あぁ、俺達は母親が違っててね。で、その母親も此処にはもう住んでいないんだ」
「なるほど、2人も美弥子ちゃんと似た環境で育ってきたって事か」
「そういう事。それに美弥子とは違って、あんな奴を父親とは思っていなかったしね。子供を自分の都合の良い道具としてしか見ていない、あんな最低な奴には何の未練も無いよ」
「お、おう・・・そ、そうですかい」
なんというか、2人は2人で既に自身の心で踏ん切りを付けていたのだろうか。うーん、それはそれで私は何か心がモヤモヤするな。
そんな事を考えていると、今度は椿の祖父と達磨百足との会話が聞こえてくる。
「して、センター長。逃がした亰嗟の奴はどうなっておる?」
「逃走用の妖具で完全に逃げられてしまった。強力な酒呑童子の一撃で倒されたというのに、これは流石に予想外だったぞ。恐らくは、他にも何かしら沢山の妖具を使ったのかもしれん」
そういえば亰嗟の一味である、これまた自称ナンバー2の疑惑がある和月に逃げられてしまったのもあったっけな。そんなこんなな奴らが椿を狙って――って、あれ?ちょっと何か妙な事に気付いたぞ。
「亰嗟といえばなんだけどさ、最近は椿や私を狙って襲って来ないような気がするんだけど・・・気のせいかな?」
「そういえば、確かに綾ちゃんの言う通りですね」
『ふむ、それは多分お主ら2人が強くなったからじゃ。きっと、おいそれと攫えなくなったんじゃろうな』
「は〜・・・とりあえず納得出来たわ」
「それでも、まだまだ油断は出来ないよね」
――ちなみに、その後はしばらく少し面倒だった。
当たり前ながら警察から零課の人達が来て、鬼2人やら色んな人やらと一緒に事情を聞かれまくったのだ。
私達の所へ聞きに来たのは杉野さんと犬吠崎さんだったのだが、泣いていた美亜を慰める為・・・というか多分自分の欲望の為に自ら首輪を付けようとする杉野さんを止めるのは大変だった。あの時の目はなんというか、こう・・・やばかったと思う。
そうして取り調べ等々が終わってから家に帰る頃には、辺りはすっかり真っ暗になってしまっていた。
家に帰って来たと同時に美亜は里子から熱烈な"お帰りのハグ"をされていたのだが、彼女は一言だけ「ごめん」と言ってから逃げるように、すぐさま自分の部屋へと駆け込んでいた。
やはりというか、そう両親の事をすぐには受け入れられる状態ではなかったのだろう。
とりあえず、その後に私達は里子達が用意してくれた豪勢な料理を味わい、風呂で今回の仕事の疲れを落としてから、グッスリと眠る為に自分の部屋へ向かう。
そうして部屋の扉を開くと、なんと私達の布団に美亜が潜っていたのであった。
「えっ、ちょっと美亜ちゃん!?」
「あら、何よ?2人共一緒に寝てくれるんじゃないの?」
「いや、あれ断られてたモンだと思ってたけど・・・ま、まぁ大丈夫だよ私は」
なんというか美亜は器用な事に、私達が夕飯を食べている間とか風呂に入っている間に、入れ替わるように夕飯や風呂を済ませていたらしい。
「しょうがないですね。ごめん、白狐さん黒狐さん。今日は、綾ちゃんと美亜ちゃんの3人にさせてください」
『むっ、そうだな。今晩ばかりは仕方がない』
『美亜、それに綾よ。良いか?特別に椿を貸してやる、存分に癒されておけ』
「だから、椿は2人の物じゃないでしょっつーの」
そう狐2人は言い残してから、私達の部屋とは別な部屋へと歩いて行った。あの狐2人とはいつも椿へ対する攻防戦をしているので、ある意味では新鮮で少し緊張してくる。
椿が先に美亜のいる布団へ入り、彼女へ優しく言葉をかけながら頭を撫で始めた。
「美亜ちゃん、お父さんの事も、そしてお母さんの事もいきなりの事だから急に切り替えるのは無理だと思うよ。だからさ、今は自分の気持ちに素直になって落ち込むのが良いんじゃないかな?」
「ま、今回は椿の言う通りだね」
「ふみゅ・・・分かってるわよ、そんな事」
すると、撫でられている美亜は普段とは全然違ったような、甘えた調子の声で椿に寄っていく。
「ん〜、もっと撫でて・・・ふみゅ」
「おわぉ?なんか美亜、椿に随分大胆に甘えてません?」
「えっ?あれ?無理しないでとは言ったけど、大丈夫なの美亜ちゃん?」
「ちょっと椿、もっと尻尾こっちに寄せてよ。アンタの尻尾、触り心地が最高なんだから・・・綾も別に少しくらい良いわよね?」
「あっ、うん・・・良いよ美亜ちゃん」
「な、なんか調子狂うなぁ」
そんなこんなで椿が自身の尻尾を美亜へと近づけていくと、すかさず美亜はそれに抱きついて甘える猫の如くギューッとし始めた。
その美亜の様子に私が少し引きかけた時、椿の尻尾を抱く美亜から嗚咽が聞こえてくる。
「うみゅ・・・うっ、グス・・・お母さん、何で、何であんな事を・・・う、うぅっ・・・」
「美亜ちゃん・・・」
「・・・っ」
やはりというか、美亜も今まで表面上は無理をしてきたのだろう。だが彼女にとって大切な存在が喪われた今は、強気の後ろに隠した"弱さ"をありったけ私達へぶつけてくれている事から「ようやく美亜が束縛されていた物から解放されたのだ」と感じ取れた。
とはいえ、椿は元々男の子だった為なのか美亜の普段とは違うしおらしい姿に悶えないよう、必死に顔を真っ赤にして耐えているのだが。
「みゅぅ・・・はぅっ、うぅぅ」
うわぁ、そんな恥ずかしそうな顔の椿も意外と可愛いモンですな・・・って、私まで悶えそうになってどうするよ。
そうして再び美亜の方へ視線を向けると――
「はぁ〜良いわ〜椿、そのアンタの顔。ふふ、偶にはこういう責め方もアリなのね〜」
「・・・うん、美亜は何ホクホクしてんの?」
「美・亜・ちゃ〜ん?」
いつの間にやら美亜が普段通りのイタズラモードへと回復していたから、椿も笑顔でゴゴゴ・・・と聞こえそうな怒りのオーラを向けてきたんですが。いや、美亜はともかく私は関係無い――とも言い切れないかな?ついつい私も椿の尻尾を撫でてしまっていたし!スマン!
「まぁまぁ、良いからアンタの尻尾ちょっと貸しなさい。落ち着くのよねコレ、ふぅ〜」
「わ、分からんでもないかも・・・はぁ〜」
「全く・・・落ち着くのならしょうがないけど、美亜ちゃんも綾ちゃんも程々にしてくださいね」
そう椿がため息をついた後に、美亜は小さく呟く。
「椿も綾も、ありがとう・・・」
「うん・・・」
「頑張ったよ、美亜はさ・・・」
そして美亜が静かに眠りについた後に、私達も彼女を優しく撫でながら溜まった疲労感と眠気に身を預けるように瞼を閉じた。