私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――その日の夕方
私と椿、そして美亜は再び珠恵さんを手伝う為に居酒屋へと大人の姿に変身して向かった。
それから居酒屋へ到着するなり、私達は珠恵さんから嬉しそうな様子で熱烈なハグで歓迎される。どうやら、誰が手伝いに来るのかは依頼が受理された時の連絡で前もって分かっていたらしい。
「ありがとう〜2人共また来てくれて!椿ちゃんも綾ちゃんも、あの1日で結構人気出ちゃってね。"あの子は次何時来るんだ"って、お客さんがうるさかった程なのよ〜」
「そ、そうなんですか・・・」
「く、苦じいです・・・ぐぇ」
でも嬉しいのやら悲しいのやら、まさか今日も忙しくなる事がほぼ確定するような話を聞くとは思わなかったよ。あんな祇園祭りに負けず劣らずな慌ただしさ、出来る事なら避けたかったんだけどなぁ・・・でも珠恵さんが笑顔で期待してくれているんだから、その期待には全力で応えたくなっちゃうかな。
そんな事を考えていると、突然妲己さんが椿へと声をかけてきた。
【ごめん、椿。ちょっとだけ替わってくれる?この前は替わっていられる時間が短かったから、どうしても無理だったんだけど今なら・・・】
「えっ?」
「なんか珍しく真剣、ですね」
【あ〜、ちょっとね・・・珠恵と話がしたいのよ】
「知り合いなんですか?」
【まぁね〜】
なるほど、よくよく考えたら確かに妲己さんも珠恵さんも九尾の狐だ。それなら、2人が知り合いなのも頷け――ないわ、やっぱり!それ事前に少しは言っておいて欲しかったかな!?そんな事をいきなりカミングアウトされたらビックリするじゃん!!
まぁ、椿が問題無い様子だから別に今回は止めたりしないけど。
「分かった、妲己さん。でも・・・話すのは良いけれど、それなら店の中の方が良いんじゃないかな?」
【そうね、聞かれたら不味い事もあるからね】
「椿ちゃんに綾ちゃん?2人共さっきから何を?」
「あっ、いえ!ちょっとだけ、その――」
「また妲己と話してるの?2人共に仲良いわね」
そんな他人には聞こえない妲己さんの声に反応する私達へ珠恵さんが心配そうにしている。
そして、美亜が少しだけ嫉妬した雰囲気で茶々を入れた途端に珠恵さんは目を丸くして驚いた。
「妲己だって!何処、何処にいる!!」
「おぶっふぇえ!ゆ、揺さぶらないで珠恵さ〜ん!!」
「ぐぇぇえ!ちょっと珠恵さん!戻ってる、男に戻ってますよ〜!!」
「そんな事より妲己だ!何処にいるって!?」
思いっきり珠恵さんが私達の肩を掴んで問いただしてくるもんだから、ビックリしたのと激しく揺さぶられた勢いで目が回りそうになっちゃったよ!
【ちょっと心配かけ過ぎたかな。椿、早く替わった方が良いかも】
「し、仕方ないですね・・・」
そうして椿はフッと目を閉じて、妲己さんに身体を貸した事で毛色や纏っていた雰囲気が別人そのものへと変化する。
もちろん、椿の霊体は本来の姿でちゃんと彼女の肉体の後ろでフヨフヨと浮いているよ。
【珠恵・・・久しぶり】
「えっ・・・え?声色も口調も変わっ――まさか、妲己・・・アンタ、椿ちゃんの中に?」
驚く珠恵さんに、妲己さんは僅かに申し訳無さそうな表情を浮かべる。
【ええ、そういう事よ。何も知らせずにごめんなさい】
「それじゃあ、死んでいるの?」
【いいえ、まだ大丈夫よ】
「そう、それなら良いわ・・・無事ならね。あっ、いけない!後は店の中で話そうか?」
なんというか、少しだけ気になるような言葉がチラホラ聞こえた気がするが、珠恵さんも落ち着いて妲己さんもふざけている様子も無いから一安心のようだ。
「あっ、そういえば椿ちゃんは?大丈夫なんでしょうね、まさか消滅したりとかは・・・」
「大丈夫ですよ。僕なら此処にいるんで」
「えっ?ひっ――!」
「ちょおっ!?いきなり珠恵さんがぶっ倒れたんだけど!!」
なんて思ってたら、椿の霊体を見た瞬間に珠恵さんが引きつった顔をして気絶してしまった。
【いっけない、珠恵は幽霊とかお化けみたいなのが苦手なんだった】
「僕はお化けじゃな〜い!」
「あ、あはは・・・はぁ」
うん、ここで"生霊も似たようなものじゃん"とか思ったらヤバいよね。椿本人にバレたら後が怖いし。
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――それから10分後
気絶してしまった珠恵さんを私と美亜が店の中へ運んで、ようやく目が覚めたものの再び霊体の椿を見て気絶しかかってて説明するのが大変だった。椿も心做しか少し不機嫌そうだったし。
「ご、ごめんなさい椿ちゃん。とりあえず、死んでいる訳じゃないのね」
「そうです。生霊というか、そんな感じの状態なだけです」
とはいえ、それでも珠恵さんはまだビクビクとして落ち着かなさそうなのだが。
いやぁ・・・半妖のヤクザを蹴散らした、あんなに強い人にも意外な弱点ってあるもんなんだな。酒呑童子や伊吹にも何かしらの弱点があるんだったら、今後お仕置きとかに利用出来そうなんだけど。
「ま、良いわ。とにかく妲己と話が出来るのなら、これくらいは何とか我慢出来るわね――それで、妲己。結局あの子は・・・華陽は止められなかったのね」
【ええ、ごめんなさい。でも・・・まだアイツは、華陽は目的を達していないわ。肝心な所で私が邪魔をしたからね】
そんな突飛な話題が妲己さんから突然出てきて私達が呆然としていると、てっきり着替えに行っていたと思っていた美亜が興味津々な様子で私と椿の間から顔を覗かせてくる。
「へぇ・・・妲己、アンタ悪い奴じゃないの?」
「あの、美亜ちゃん?この話は・・・あ〜、うん」
美亜まで巻き込みたくないと思ってか椿が彼女を止めようとするも、逆に美亜からギラっと睨まれて押し黙ってしまった。まぁ、あれだけ多くのヤバそうな私達の事情に巻き込んでしまったので今更な気はするんだけど。
【美亜・・・貴方は自分の命をかけてまで、あの子達に付き合うつもりかしら?無理なら、さっさと着替えに行ってくれる?】
「今更、私は2人から逃げる訳ないわよ」
妲己さんも美亜に警告するが、それでも彼女は動じる事はなかった。それを見てか妲己さんも「諦めなさい」と言いたげに私達へ苦笑いを浮かべてみせる。
【まっ、良い友達が出来て良かったじゃない。それと2人共、アンタ達はあたしと出会った時の記憶が戻ったのよね?】
「あっ、はい・・・」
「う、うん・・・」
妲己さんが私達へ若干脅しっぽい雰囲気で質問をしてきたので、私達は誤魔化す事も出来ず正直に頷くしかなかった。
「それで妲己、説明してくれる?」
【言っとくけど、全部は無理よ。何せこの子達の、椿と綾の記憶は今はまだ完全に蘇らせる時じゃないからね】
そして珠恵さんも、そう言った妲己さんへと無言のプレッシャーをかけてくるが、案の定というか妲己さんは動じない。スイマセン、滅茶苦茶怖くてストレスで胃が痛くなってきそうなんですけど。
「ふぅ・・・分かったわ。それなら、話せる所だけで良いわ」
結果的に、大きくため息をついた珠恵さんが先に折れた。
【ごめんなさい、理由があるのよ。あの時・・・私が邪魔をして亜里砂の――華陽の企みを一旦止めたのは良かったけれど、そこに"有り得ない乱入者"が現れたからね】
「有り得ない乱入者?」
【えぇ・・・それも、椿と綾に関係していてね。詳しくは言えないわ】
その妲己さんの発言に、私と椿は言葉を失ってしまった。
まさか、その現場に椿だけじゃなくて私まで居たなんて。そして妲己さんが止めようとしたのも、華陽もとい亜里砂の目的――殺生石を復活させて、それを利用した白面金毛九尾の狐の完全な復活で恐らく間違いないだろう。
妲己さんの言葉から推測するに殺生石の復活は阻止出来たみたいだが、そこでどうやら"有り得ない乱入者"によって華陽を倒す事は出来なかった・・・という事だろうか?
以前までだったら私が失われた記憶の事になると、椿のように謎の頭痛に襲われて何かしら思い出していたのだが、記憶の封印が強いからか今回はそれすらも起こらない。
何にせよ、まだ色々な事が分からなさ過ぎて答えが見つからない。
【とにかく・・・そいつらのせいで華陽を逃がしてしまったし、妖界の伏見稲荷に封印されていた壊された殺生石の方も、その時に何処かへ消えてしまったの】
「華陽が持ち去った・・・という事は無さそうね」
珠恵さんの言葉の途中で妲己さんが首を横に振ったので、どうやら華陽が逃げたのは妲己さんが直接確認していたらしい。
「良いわ、貴方が無事なのが分かっただけで。60年も、本当に心配していたのよ」
【ごめんなさい、珠恵。それに、実際はあんまり無事じゃないかも。その時に私は身体を石化させられてしまって、妖界の伏見稲荷の何処かへ封印されてしまったからね】
そう言うと、妲己さんは途端に私達の方を振り向く。
【――だけど、その場所は椿と綾が見ているようなのよね】
「んなっ!何だって!?」
「えっ?ぼ、僕と綾ちゃんが!?」
なるほど・・・道理で妲己さんは、やたらと私達の記憶を取り戻させようとしていた訳だ。
でも話を聞いている限りだと、妲己さん自身に都合の良い事だけを取り戻させようとしている事から、まだまだ完全には信用出来ないかもしれないな。
全てが明らかって訳じゃないけど、現時点では不安要素が多いからね。