私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第伍拾話 五山の送り火

 

――その翌朝

 

仕事の疲れで昼までグッスリと眠っていた私と椿は、楓ののしかかり攻撃によって起こされた上に人魚の海音も私達の部屋に居た事でWビックリして目が覚めた。

 

楓と海音の話からすると、どうやら今日は夜に五山の送り火が行われるらしい。

 

そんな訳で、送り火の時間まで私達は着て行く浴衣を選んだり、楓や里子からちょっかいをかけられてコスプレ会みたいな事になったりして気付けばスッカリ夕方となってしまった。

 

それから皆で一緒に夕食を食べ終えて移動し、現在は京都駅の傍にある京都タワーへとやって来ている。

 

ちなみに妖怪達は普通の人には姿が見えないので、毎年そのタワーの頂上に集まって送り火を見ているんだとか。残念ながら私達は半妖であるカナや、姿が見えないとはいえ妖怪としてはまだまだ未熟な楓と共に送り火を見る事になっているので、そんな特等席では見られないけど。そもそも私だって妖気があるとはいえ人間な訳なんだし。

 

「カナちゃん、雪ちゃんから返事は?」

 

「んっ、無いよ。でも、それにしては何かおかしいんだよね・・・家に行っても、誰も居ないみたいでね。呼び鈴を鳴らしても出ないし、どの部屋も明かりが点いていなかったの」

 

しかし、今回も雪はカナ達と一緒に来なかったようだ。こっちから連絡をしても全く返信が無いので、流石に少し心配になってくる。

 

カナも私達と同じくスマホを操作して雪へとメッセージを送るものの、やっぱり『既読』のアイコンすら付いてこない。

 

「雪のバカ・・・あの子、いっつも1人で背負い込んで誰にも頼ろうとしないんだもん」

 

「そうなんだ・・・」

 

椿が不安そうな顔をする中で、ふと私は最悪の事態を頭の中で思い浮かべてしまう。

 

「カナ、まさか雪は・・・亰嗟か滅幻宗の連中に捕まったんじゃないの――」

 

「いや、それは無いな」

 

「どわぁ!?だ、誰かと思ったら湯口先輩か!」

 

「あっ!湯口先輩、いつの間に後ろに!?」

 

そういえば、湯口先輩も私達と一緒だった事を忘れていた。まぁ、先輩も私と同じく人間なんだから当たり前といえば当たり前なんだけどさ。

 

そんな私達の反応を気にする事なく、自身のスマホを此方へ向けながら先輩は話を続ける。

 

「実はコッソリと、ネットにある滅幻宗の連絡用掲示板をチェックしていてな。どうやら、ここ最近は妖怪を滅する事が出来ていないようなんだ。連中は半妖だろうと何だろうと、自分達が化け物と見た存在を滅した事を書いているからな。まぁ・・・そんな事をするのも自慢する為だろうが」

 

「そっちもそっちで相変わらず胸糞悪い事やってんだな。聞いてるだけで不愉快になりそうだよ」

 

「でも先輩、そんな所にアクセスして大丈夫なの?向こうから解析されて辿られない?」

 

「あぁ、それなら心配するな椿。もう1台スマホを買って、そっちで見ているからな」

 

その湯口先輩の言葉に、ひとまず私達はホッと胸を撫で下ろす。

そしてカナも完全に納得とまではいかないまでも、うんうんと頷いて先輩の意見を受け入れる。

 

「確かに雪の事は心配だけど、新学期になったら普通に学校へ来るかもしれないからね。今はとにかく待ってみようよ、2人共」

 

「まぁ、そうだよな・・・案外、家族と旅行に行ってるだけだったりして」

 

そう自分に言い聞かせるようにして何とか心を落ち着かせようとするが、どうしても頭の中から不安が消えてくれない。まるで、私の中の何かが「ヤバい」と言わんばかりに警鐘を鳴らしているような――

 

【カーン!カーン!】

 

「「って、妲己さん(ですか・かよ)!?」」

 

不安になっているタイミングで凄く紛らわしいわ!

 

ついでに周囲にも人が居るのを忘れてて、私と椿にしか聞こえない声にツッコミを入れちゃったから不思議がられちゃってるし!あ〜もう、恥ずかしい!!

 

【全く、気を付けなさいよね】

 

「誰のせいだよ、だ・れ・の!」

 

「本当ですよ。何てタイミングでちょっかいかけてくるんですか、妲己さん」

 

その場を何とかカナ達にフォローされながら展望台へ移動しつつ、私達はコソコソ声で妲己さんへ文句を言う。

 

【とにかく2人共。あの子最後に会った時、少し様子が変だったでしょ?】

 

「確かに・・・その時の雪は、なんというか元気が無かったというか、何かを思い詰めてる感じに見えたかな」

 

【あんな顔をする子はね、大体誰かに何かを強制されているものなのよ】

 

「強制・・・ですか?」

 

私と椿は当時の事を思い出して、何かが思い当たるような感覚がチクリとする。雪の態度、そして彼女の家族・・・心の中で引っかかるものはあるのだが、全然それについて確かな違和感を感じられない。

 

「椿姉さん、綾姉さん!もうすぐ点火しますよ!」

 

すると、楓が私達の袖口を引っ張って今か今かと送り火が待ち遠しい姿を見せてくる。とはいえ今の楓は普通の人には見えない状態なんだから、あんまりテンションを上げられると困るのだが。

 

とりあえず、雪の事については一旦考えるのを止める事にしよう。しかし、もし雪の身に何か良くない事が起きているんだとしたら、私は一体どうすれば・・・そう思うだけで気分が落ち着かなくなってきそうだ。

 

「姉さん達、送り火綺麗っすね〜」

 

「えっ?・・・あっ」

 

「あ、あぁ・・・綺麗、だな」

 

そんな事を考えている内にも送り火の行事は始まっており、楓が指差す方の先には舟形の炎が灯っていた。

 

確か、送り火は基本的に殆どの形を同時に点火する事になっているのだが、舟形だけは他の形よりも大型なので少し早めに点火するという話を聞いた事がある。

何時だったか風向きか燃やす木の乾き方が上手くいかなくて、形が途中で崩れてしまった年があった事を思い出す。

 

「ねぇ椿ちゃん、綾ちゃん。来年は、その雪ちゃんって子とも一緒に見ようね」

 

「うん・・・そうだね、海音」

 

「ありがとう、海音ちゃん・・・」

 

その海音の優しい言葉に少し慰められたような気分に浸っていると、泣いていると勘違いしたのか狐2人が私達の頭を撫でてきた。まぁ、相変わらず狐2人は椿メインで頭を撫でてたけどね。

 

「ふふ、それじゃあ綾ちゃん。私が代わりに――」

 

「だぁあ!?狐2人が椿にかかりきりだからって、私は別にヘコんだりしてないから!だからストップ、ストップだカナ〜!!」

 

ここぞとばかりにカナも頭を優しく撫でて、姉っぽく私を慰めようとしなくて良いから。もし雪が私や椿に愛想を尽かしてしまったとしても、私は素行不良で誰からも避けられてきたから全然気にしていないし。

 

・・・でも本当は、そんな理由ではない事を信じたいけど。

 

「あう、うぐぅ〜・・・仕方ないな、今日だけだからね?」

 

「えへへ、素直な綾ちゃんも新鮮で可愛いな〜」

 

そう思いながら、結局はカナの好意に根負けして大人しく頭を撫でられていると――

 

「まさか、杉野さんと一緒に見られるなんて思わなかったわ〜嬉しい〜」

 

「いやぁ・・・家に行ったら、既にご主人様が居なかったからな。此処の何処かには居るかもしれないだろう?探――」

 

「もう、杉野さ〜ん・・・空気読んでよ〜」

 

あ〜っぶねぇ〜!姉という事で思い出せたけど、そういえば夏美さんも居た事を忘れてたわ!

 

でも、どうやら上手い事マゾ――杉野さんを引き留めてくれているようで安心したよ。

夏休みに姿をあまり見なかったような気がしたのは、あんな感じで杉野さんにアプローチをかけてたからみたいだね。

 

「椿ちゃんのお姉さんも、何だかんだで幸せそうだね」

 

「そうですか?」

 

「っていうか、下手に杉野さんから見つけられる前に離れとかないと」

 

そうして少し2人から離れて、再び私達は送り火が点火していくのを見る。

 

さて、ここで豆知識。

送り火には様々な形があるのだが、最も有名な鳥居の形・・・実は京都市内の北側に住んでいる人には山の位置の関係で良く見えないのです。しかも場所によっては、もう1つの有名な大の字の形も見えなかったり。

そういう訳なので、もし送り火を見に行くのであれば私達のように京都タワーから見るか、もしくは京都駅から見るのがオススメだ。何故なら此処ら辺りだと、送り火を燃やしている山が丁度良く見えるので、大体の形の送り火を眺める事が出来ます。

 

「あれ?レイちゃんは何をしっ・・・!?」

 

「どうしたの椿・・・って、わぉう!?何じゃこりゃ!」

 

ふと連れて来ていたレイちゃんの姿が無い事に気付いた私達は何処に行ったのか探そうと視線を上空へ向けた。

すると、そこにはレイちゃんが妖怪の人達と一緒になって、大きな木製の舟が誰かを乗せて大文字の炎を目印に浮遊していっている様子を真剣そうに眺めていたのだ。

 

その舟では、縁に取り付けられている松明が周囲を明るく照らしており、顔に前掛けを着けた人物達が舟から身を乗り出しつつ手にしている提灯で舟の下辺りを照らしている。そして、その舟を先導するかのように、舟の周りにはレイちゃんを大きくしたような霊狐が沢山浮いていた。

 

案の定というか、それらの光景は普通の人には見えないらしく100隻はあろうかという数の舟が京都の陽が暮れつつある空を悠々と進んでいくのであった。

 

『ふむ、呆けた椿も可愛い』

 

『確かにな、白狐。これは初めて見れば、例え綾であっても流石にあんな顔になるか』

 

「椿ちゃ〜ん、綾ちゃ〜ん・・・何を見ているの?2人共、何か凄い物を見たって顔してるよ?」

 

「お、おぉう・・・ごめん、カナ。うん、一言じゃ言えないけど今トンデモナイのが見えてるわ」

 

どうやらカナには、半妖である事による妖気の感知能力の低さからか、この光景は良く見えていないようだ。

 

そして私がふと頭に思い浮かんだ事、それは――私にもオジサン以外で親と呼べる人が居るんだろうか、という事であった。

 

もし居るんだとするなら、今も生きていて私の事を案じてくれているのだろうか。

 

それとも・・・いや、それだけは考えたくない。

 

記憶を失っているのに大切な人を亡くしていた、とあっては記憶を取り戻したとしても、きっと色々考えるだけ後悔しか出てこないだろうから。

 

そんな事を考えていた私の隣では、少し前の事で両親を亡くしてしまった事を思い出したのか、気丈な美亜がポロポロと涙を流している。

 

更に反対側の隣では、楓も同じようにして涙を流していた。

 

「お父さん・・・お母さん・・・」

 

「えっ?楓、まさかお前の両親って・・・そんな、嘘だろ」

 

楓の反応から、彼女の両親は既にこの世に居ないと悟ってしまった私は、あまりの辛い現実に思わず足をふらつかせそうになる。

 

「楓ちゃん、その人達は何処に居るの?」

 

「あそこっす、今来た舟の・・・左側に」

 

すると椿はそんな私の身体を優しく支えながら、楓に両親の場所を優しく尋ねる。

 

そうして楓が指差す方向を見ると、その舟には楓へ向かって優しい笑顔をしながら手を振っている中年くらいの夫婦の姿があった。

 

その頬が少し痩せこけ眼鏡をかけている男性と、ややふくよかな体型の女性は私達と目が合った時に「娘を宜しくお願いします」と言うかのように、やんわりとしながらゆっくり頭を下げてきた。

 

「楓ちゃん・・・」

 

「分かってた、分かってたっす。自分を誘拐したのが姉さん達を狙っている危ない組織だって事が分かってから、薄々は感づいていたっすよ。それに・・・鞍馬天狗の翁からも恐らく生きている可能性は低いって、事故に見せかけて殺されているかもしれないって。だけど、だけどそれでも・・・生きていて欲しかったっす・・・」

 

「・・・っ」

 

楓の育ての親へ対する亰嗟の容赦の無さに、私はぶつける先の無い怒りが湧いてくる。

 

連中は目的の為には手段すら選ばない――そんな事をするなんて、何処まで極悪で酷い組織なんだ。

 

優しく楓を抱きしめて慰めてやりたかったが、今は美亜共々姿が見えない状態だし周囲にも人が多い。その為、私達の代わりに美亜が楓を抱きしめている。

 

そして五山の送り火を見つめながらも互いの心の傷を癒すように抱きしめ合う2人を見て、私は決して亰嗟という組織の事を許す訳にはいかないと改めて心に誓った。

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