私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――主人である綾から妖気の繋がりごと切り離され、あの大鎌を持った謎の女に強制的な妖気の繋がりを植え付けられてから数週間が経つ。
今の私は、ただ謎の女が作り出した暗闇の空間に閉じ込められて上も下も分からない状態で身体を浮かされているようだった。
あれから綾の方は無事に生きているだろうかと、そう考えていると謎の女の声が暗闇の外から聴こえてくる。
「・・・くそっ、もっと強い妖魔を操る力が必要だな。あの時に失敗作を始末出来なかったのが、ここまで後を引いてくるなんて」
どうやら綾は何とか逃げ切れたようだ。私は心の中でホッと胸を撫で下ろす。
すると、そこへ更に別な声も聴こえてきた。
その声は、時に綾や彼女の仲間へ情報を提供したりしていた雫のものであった。
「今の貴方の身体は使い魔を使役出来るように無理やり妖気を馴染ませている状態だからね。例えあの場で無理をして戦おうとしても、逆に返り討ちにあってしまっていたわよ」
「チッ、またアンタか。おい、これはどういう事だ?あれだけ無茶してコイツを失敗作から引き剥がして私の物にしたっていうのに、何でコイツの心とすら"想い"を通じさせられない?」
その少し焦り気味な謎の女の声に、私は"ざまあみろ"とほくそ笑む。そもそも私は他の使い魔とは違って強い自我を持っているのだ。それこそ他者からの妖気でも心を完全に染められない程に。
だから、その内には奴の腹を食い破るようにして此方から繋がりを断ち切って、無理やり脱出出来るだろうとも考えていた。
しかし、そんな私の考えは次の声で改めさせられる事となる。
「仕方ない話よ、そこは。幾ら貴方が、あの子の――"綾の妹"といっても、生まれながらにして持っている素質はあの子の方が圧倒的過ぎるわ」
「っ!そんな名前を出すな!アイツは私の事を・・・私だけを置いて逃げた裏切り者だ!」
嘘、だろう・・・?そんな、まさか主人が――!?
「が、ぐ・・・っ!この、感覚は・・・そうか、これは遂に!」
「ふふ、どうやら彼が盗み聞きしていたようね。今の言葉で動揺して、滞っていた貴方との同調が進み始めたみたいだわ」
しまった・・・今の心の乱れで、辛うじて抑えていた妖気の同調が再び進み始めてしまったようだ。
しかし、あの謎の女が主人と血縁関係があるとはにわかには信じられない。向こうが適当な話をしている可能性もある。
「ふふ・・・まだ真実を受け入れられないようね、小次郎。"攀縁(はんえん)"という言葉を知っているかしら?それは心が人によって動く事、そして個人に酷く執着する事――という意味を持つわ。全てを思い出せていない貴方は今、真にあの子の事を想ってはいないのよ」
ふざけるな、それはどういう事だ。
私の記憶が主人の、綾の過去と深い繋がりがあると言って更に心を揺さぶるつもりか。
「もし、あの子を本当の意味で守りたいのならば、私達に協力しなさい。さもなければ、この世界は残酷な死をあの子に与える事となるわ」
「あ・・・あ・・・」
そして、気が付けば私を取り込もうとしている女は糸の切れた人形のようにうわ言を言うようになっている。
私に話しかけているのは、もはや謎の女を従えている雫という女だけになっていた。
「私にとっては滅幻宗も亰嗟も、これから起こす事への踏み台でしかないわ。いずれにせよ私の目的を邪魔する存在なら、私は全てを排除する。あの子を想う気持ちは貴方以上に強いのよ、小次郎」
分からない・・・何故、雫がここまで綾に執着するのだろう。
雫は私が綾に執着し過ぎていると言ったが、奴の方こそ異常過ぎる程に執着している。このままだと、綾は――
「強情ね。でも、これから貴方は全て思い出さなくてはならないのよ。それは――」
そうして雫が妖気と共に私へ流してきたのは、あまりにも非情な真実と・・・彼女が綾を想う理由に纏わる"真実"であった。
有り得ない、綾が・・・綾が、そこまで恵まれていない人生を歩んでいたなんて。
私からして綾は両親に先立たれたとはいえ、もっと普通の人生を歩んで来ているものだとばかり・・・!
「アイツらが、この世界が綾にした仕打ちは償っても償いきれない罪よ。だから、私は――この世界が、あの子へ罪を償えるように作り変える。そうすれば本当の意味で、綾は"普通の人間"として生きていけるようになるわ」
もし、私に神を信じる心があったのならば――そんなものを未練のように持っていた自身を馬鹿馬鹿しいと捨ててやろう。
神は、綾の存在を軽んじていたのだと知ってしまったのだから。
こうなった原因も、これから綾を傷つけようとする存在も全て――私が剣となって切り払う。
「これで利害は一致したようね。小次郎、貴方には今後とも長い付き合いとなるわ。あの子も私達と敵対するだろうし、きっと長い戦いになるだろうけれど、全てが終われば全部が自分の為だったって綾も受け入れてくれると思うわ」
世間的には許される事のない話かもしれないが、実際その通りなのだろう。
攀縁――
1つは、他へ縋ってよじ登る意を持つ。
もう1つは雫の言った通りに、心が他によって動かされる意を持つ。
私は綾の事を真の意味では守れていなかった。
雫の協力で思い出せた記憶が、何よりもそれを強く裏付けている。
だから綾を守る為に私は、自分以上に執着し異常だと思える愛を持った雫に力を貸す事としよう。