私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第弐話 妖怪の世界へ

 

『椿、綾、用意は出来たか?早くしろ』

 

「もうちょっと待ってて!今忘れ物が無いか確認してるから」

 

「まっ、待ってよ〜本当に行かなきゃダメなの?」

 

モタモタと準備に手間取る私達へ白狐さんが玄関から声をかけてくる。一度啖呵を切ったとはいえ、正直妖怪退治のライセンスなんてものを取る事にまでなるとは思ってもいなかった。

 

『椿、観念しろ。これも俺の嫁になる為の試練だ、花嫁修業みたいなものさ』

 

「お前は一体何を言っているんだ、黒狐さんよ・・・」

 

「僕はお嫁さんになるとは言ってません」

 

なんでそう明後日の方向に考えるかな・・・と思っていた矢先、黒狐さんは私と椿をそれぞれ両脇に抱えて玄関へと強引に連れ出した。

 

「ちょっと!せめて連れてくなら、一言言ってからにしてよ!」

 

「は〜な〜し〜て〜!黒狐さ〜ん!」

 

『すまんな2人とも。なにせ翁の命令だ、逆らえない。それはお前らも分かっているだろう?』

 

ふと首を動かして廊下の方を見る。そこには椿の祖父が何時まで経っても出発しない私達へ険しい顔をして怒っているような、そんな表情をしているのが見えた。

 

「まぁ、そうだね。どうせ、行かなきゃ始まらない話でしょう?」

 

「わかりました、観念しますよ・・・だから降ろしてくれませんか、黒狐さん?」

 

『ん?いや、もう少しお尻の感触をーー』

 

「いい加減にしろよ、このスケベ狐!」

 

「だから降ろしてと言っているんです!」

 

そう言われて黒狐さんは渋々私達を降ろした。まさかここまで露骨なやり方で触ってくるなんて、痴漢よりもよっぽど堂々としててふてぶてしいとすら感じる。

 

「妖怪の世界、か。一体どんな風になっているのかな?」

 

「恐ろしい光景に、怖い妖怪達が沢山いるんだろうなぁ・・・」

 

「やめてよ、椿。そんなマイナスな方向に考えるのは。私まで嫌になってくるじゃない」

 

椿とコソコソそんな事を話しながら、玄関を出ると突然その横から誰かに声をかけられた。

 

「おっ、椿ちゃんに綾ちゃん。行ってくるんか?気をつけてな!」

 

「へっ?誰ですか?何処ですか?」

 

「今の声は・・・」

 

キョロキョロと辺りを見回すと、玄関のすぐ横に和風な椿の祖父の家に全然似合わないギリシャの彫刻みたいな筋肉質の男の銅像があった。だが、顔をよく見ると見た事のある特徴的な顎をしている――まさか。

 

「わっはっは!どうだい2人とも、こっちの方が格好良いだろう!」

 

「まさかぬりかべ?いや、いやいやいや。原型どころか素材すらも変わり果ててるって!」

 

「ど、どうしたんですか、その姿!?」

 

ぬりかべは腕を組んで誇らしげに語る。

 

「いや〜ぬりかべだからって、あんな板みたいな姿じゃ過ごしにくいからね!いっそ体を作り直したのさ!どうだい?新生ぬりかべさ!」

 

「それをぬりかべと呼んだら、全国のぬりかべファンを敵に回す事になると思うよ?」

 

「ぬりかべなんだから、壁じゃないと駄目でしょう!」

 

「はっ!?あっ、そ、そうか・・・わ、私は、もうぬりかべじゃ・・・」

 

「はぁ・・・この際、改名しといたら?」

 

呆けてしまったぬりかべを放置して、私達はようやく出発しようとすると今度は里子が慌てて弁当を持って出てきた。

 

「2人とも〜待って〜!」

 

「あ、里子。お弁当忘れてたね、ありがとう」

 

「椿ちゃんも、はい!今日のも自信作だからね!しっかりもだえ・・・じゃなかった、しっかり噛んで食べてね!」

 

「う、うん。ありがと里子ちゃん・・・」

 

「は、ははは・・・」

 

チラッと漏れた里子の本音を私と椿は一応聞かなかった事にした。此方の身体を考えてくれる気持ちは嬉しいのだけれども、たまに椿への愛が行き過ぎているような気がする。

 

私達が歩みを進めようとすると、ふと先を歩いていた白狐さんが振り返る。けれど、先を歩く2人は狐の姿をしているせいで傍からは散歩している犬と会話しているのではと一瞬だけ感じた。

 

『さて2人よ。妖怪の世界――つまり「妖界」なんだがな、実は我々ならば何処からでも行けるのだ』

 

「・・・どういう事?」

 

「何処からでも行けるって?」

 

私と椿は訝しげにそう返した。

妖怪の世界というのは、私が知っているフィクションでは森の中とかブラックホールみたいな異次元空間への入り口から行くものだったからだ。

 

『他の妖怪達は、山の中など人里離れた所にある特殊な扉から行くんだがの。だが、椿や綾・・・我々白狐と黒狐には、妖界と人間界を行き来する特別なアイテムがある。それが、その白い勾玉と黒い勾玉じゃ』

 

「あっ、これ?」

 

「そんな物まであるんだ!妖怪の世界って不思議だらけだね」

 

椿が袖口から以前2人に貰った勾玉を取り出した。正直、椿の真の姿を見えにくくする効果以外にも使い道があった事に驚きだ。

 

『うむ、その2つを手のひらの上に乗せて「妖異顕現、妖界開門」と言うんだ。』

 

椿は言われた通りに勾玉を両手で包んだ。緊張からか彼女は震えつつ深呼吸する。

 

「よ、妖異顕現――妖界開門」

 

瞬間、椿の手のひらの勾玉がそれぞれ眩く輝き、放たれた黒と白の光が一直線となって空間を裂くように流れた。そしてその空間に出来た切れ目からは私達の世界とは色が真逆になったような景色が薄らと見えている。

 

「なんて事・・・空間に穴が出来てる」

 

『よし、行くぞ』

 

「うぅ、この時点で既に怖いですよ〜」

 

『本当に命の危険があれば、俺達が守るさ』

 

黒狐さんが椿の襟を咥えて先へ進む。

 

「分かったってば、行きますから。でも足がすくんでるので・・・白狐さん、あの・・・背中に乗せてください」

 

『むっ、しょうがない奴じゃな。ほれ』

 

『・・・なぜ白狐だ?』

 

不満そうにする黒狐さんへ私達はフォローの言葉をかけた。

 

「まぁ、女の子の運び方が上手そうだからじゃない?」

 

「うん、黒狐さんより白狐さんの方が安心するからね。でも、戦闘の時に頼れるのは黒狐さんですから・・・僕達の守りはお願いしますね」

 

『ぬっ。ふ、2人ともしょうがないな。まぁ、守りは任せておけ』

 

黒狐さんは嬉しそうに照れながら、椿と白狐さんの後に続いて空間の裂け目へと入っていく。私も取り残されないよう、彼の袖口をそっと掴み中へと入った。

 

裂け目を通り過ぎた瞬間――周囲の色彩が全くの真逆色へ反転し、初めて見る異常な光景に私は袖口を掴む力を強めた。

 

『何しとる?とっくに着いとるぞ、椿よ』

 

「・・・えっ?」

 

白狐さんの背中で目をつぶってじっとしている椿に彼が声をかける。そして私達は目の前に広がっている光景を見て圧倒された。

 

空の色が幻想的なまでに美しい紅色と朱色をしており、夕陽はユラユラとしていながらもそこに妖怪のような不気味さは微塵も感じさせない。

 

すると突然、何者かの視線を感じた私と椿はゆっくりと後ろを振り返って椿の祖父の家を見た。

 

「げっ!?な、何あれぇ!」

 

「家が・・・ボロボロになってる?」

 

そのボロ屋同然となった椿の祖父の家に、私は何処か見覚えがあった。

そう、あの奇妙な夢の初めの事だ。あの時も私とオジサンが住んでいたハズの家がこんな風になっていなかっただろうか。

 

ふと、家の障子窓から覗く巨大な顔と目が合って背筋が凍るのを感じた。此方を見ているだけで危害を加えるつもりはなさそうだけど、あんなのに見つめられたら怖くだってなる。

 

「・・・っ!は、早いとこ行こう!」

 

「白狐さん!早くセンターって場所に行ってください!」

 

『なんじゃ、椿に綾よ。おっ、いかん「大面(だいめん)」か。あまり見続けるなよ、魂を抜かれるからな』

 

「だから、そういうヤバそうな事は先に言ってよ!」

 

私達は完全に恐怖で脱力してしまい、白狐さんと黒狐さんに担がれるようにしてセンターへと向かうのであった。

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