私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
橋鬼達の不意打ちで谷底へ落とされてしまった私と椿だったが、そこに偶然黒狐さんと湯口先輩が居てくれたお陰で大きな怪我は避けられた・・・っていうか、黒狐さんが椿しか助けなかったので私は頭から落っこちたんだけど。それでもタンコブが出来た程度で済んだんだから自分の頑丈な身体に感謝だ。
それから少しして、私達の耳に着けている勾玉から白狐さんの声が聞こえてきた。
『椿!椿よ、聞こえるか!?大事は無いか!?』
「白狐さん、僕達は大丈夫です。谷底に居た黒狐さんに助けてもらいました」
「でも黒狐さんが平常運転過ぎて、私は頭から落っこちたけどね。とりあえず、4つ子の人達にも私達が無事なのを伝えておいてください」
『むっ?椿に綾よ、何故そこに黒狐が居るのだ?』
あ、何か白狐さんが微妙に不機嫌そうな声になった。まぁ良く考えなくても、狐2人は互いに椿を取り合ってる恋のライバルだったもんね。
『ふふ、丁度良い。このまま、俺と椿で一緒に駆け落ち――いででで!綾、耳を引っ張るな!!』
「おぅ冗談は大概にしてもらいましょ〜か黒狐さん。椿に手を出そうとしたら、私は全力で阻止するからね」
「綾ちゃんの言う通りです、黒狐さん。今はふざけている場合じゃないんです。上では戦闘が続いているから、一刻も早く僕達は白狐さん達の所に戻りたいんだよ」
私達が先輩の後を歩く形で、黒狐さんに跨った状態で椿は2人に訴えるが、どうにも先輩は上へ行く道じゃない方を進んでいるようだ。
「なるほどな。しかし椿に綾、白狐達の戦況はどうなんだ?お前達2人が居ないと駄目そうか?」
「えっ?どういう事ですか?」
「いや・・・色々と見ていたら、この先で椿と綾の力が必要になりそうだったからな。それで丁度、黒狐に呼んでもらって来ようと思っていたんだ」
そんな先輩の話を真面目に聞きながらも、私はやっぱり先輩は妙に大人びている・・・というか大人び"過ぎて"いるな〜と感じていた。
なんというか、椿と私が妖怪の世界に関わる前からも度々こんな感じの雰囲気になっていたとはいえ、先輩の色々な事を知った今では不安になってくる。本人は滅幻宗の道具を使い続けたという推測をしていたけど、本当にそれだけが原因なんだろうか?
「なぁ、どうなんだ椿に綾?」
「あっ、すいません。私なら全然大丈夫ですよ、向こうはどうなってるか分からないですけど」
「えっと・・・多分、大丈夫なのかな?もしもし白狐さん、どう?」
『むっ・・・実際、我の守護を合わせれば4つ子の者達の戦闘力は格段にアップしておるな。今は何とかなっていると思うが、時折お主達が居なくて少し押される時もある・・・』
うーん、それなら早めに済ませて戻った方が良いかもしれない。もし先輩が見つけた物が橋鬼達の現れる原因になっているのなら、それを片付けないと延々と戦う事になってしまいそうだ。
そして、白狐さんの言葉を聞いた椿が答える。
「白狐さん、ありがとう。とりあえず何とかなりそうなら、そっちはしばらく白狐さん達で頑張ってみてくれませんか?こっちはどうやら、僕と綾ちゃんにしか出来ない事があるみたいだから、少しの間だけ先輩と黒狐さんを手伝って来ます。もしかしたら、橋鬼が無限に湧いている原因があるかもしれないんです」
『ぬぅ・・・そうか、分かった。しかし2人共、くれぐれも無茶だけはするなよ?』
「そう言いつつも、なんか凄く残念そうな声に聞こえた気がすんだけど」
そこまで椿が黒狐さんや先輩と一緒に居るって状況が嫌なんだろうか・・・ひょっとしたら、白狐さん自身もこっちに合流しようと来たりして。それだけは色々と迷惑だから止めて欲しいかな、特に4つ子の人達が大変になるだろうし。
『ふふふふ・・・靖、白狐から引き離している今がチャンスだぞ。アイツは優しさアピールをしてくるから中々厄介だ。今の内に俺達の良さを徹底的に叩き込――ぬぐっ!?』
「こら黒狐さん、真面目にやる」
「そうだな、黒狐。今の所は白狐が優勢らしいからな。2対1では勝ち目が薄いから、先ずは1人を叩き落とすとしよう」
「なんで先輩も乗り気なんですか・・・っていうか、それだと頭数から私が抜かれている気がするんですけど!?」
「綾ちゃん、ツッコむ所はそこじゃないと思うよ・・・でも色々と危険そうだから、僕はちょっと――ひゃぅ!」
椿と私がヤバい!と思った頃には時すでに遅く、椿は黒狐さんに尻尾で絡め取られて弄り回されてしまっていた。
「ちょっ、黒狐さん!降ろし・・・はぅぅ」
「よし黒狐、絶対に降ろすなよ。綾や白狐寄りになっている椿の心を、俺達にも向け直すんだ」
『分かっている。しかし、それでも椿の尻尾は相変わらず最高だな。ずっと、こうして触っていたいものだ』
「おぅ黒狐さん、そんな事したら私の風の妖術で吹っ飛ばしてやっからな」
逃げられないと悟って観念して黒狐さんのなすがままにされている椿を眺めながら、先輩は谷底に流れている川の近くで足を止める。
「後で俺にも触らせろよ。おっと、そろそろこの辺りに・・・やはりな」
そして、そこで先輩は少し屈んで地面に半ば埋められたような札を拾い上げてきた。私は度が過ぎそうになっている黒狐さんを軽くデコピンしつつも、その札から妖気を微かに感じたので質問してみる。
「先輩、それは?」
「滅幻宗が使っている、結界を作る為の札だ。これは簡易版のようだから、下っ端達が使ったのかもしれないな」
「あっ、まさか・・・橋鬼を閉じ込める為に?」
「多分それは違うな、椿。この2枚を使った貼り方は内側に閉じ込めるばかりか、外側からも入れなくなるようにされている」
そう言った先輩は、1枚だと思っていた札から2枚目の札を剥がして私達へ見せてくる。なるほど、効果のある面を両面表になるように裏同士を貼り付けていたのか。
「でもそんな結界、一体何の為に?」
『――俺達を閉じ込める為か』
その黒狐さんの言葉に、思わず私は椿と顔を見合わせた。しかし、応援を呼ばれないようにする為とか囲んで棒で叩く為というには、敵がすぐに襲って来ない事が気にかかる。そうなると、まさか向こうの狙いは・・・。
「アイツらの狙いは座敷わらし・・・いや、"座敷わらしに舞をさせる事"か。しかし、それで何が起こる?連中にとっては不利になるだけじゃないのか?これは、まだ調べる必要があるか・・・」
すると、先輩は再び独り言を呟きながら考え込み始めてしまった。
やっぱり、先輩は私と椿が学校で孤立していた頃から変わっていないね。先輩は良く1つの事に集中すると、そのせいで周りが見えなくなって少し行き過ぎた行動に出てしまう。椿がいじめられていた時なんか、自分から証拠を集めて学校の教育委員会に持ち込んでいた程だからね。
「先輩、あまり考え過ぎないでね。ひょっとしたら、滅幻宗はわら子ちゃんの舞の力を別なものに与えたいだけかもしれないから」
椿も私と同じ事を考えていたのか、心配そうな様子で先輩へと話しかける。すると、その言葉を聞いた途端に先輩はハッと気付いたかのように目を大きく見開いて彼女の方を振り向いた。
「それだ、椿。この土地の浄化にばかり気を取られていたが、座敷わらしの舞は"特定の物や場所に幸運をもたらす"んだよな?それだったら、お堂は既に何か仕掛けられている!」
「なっ・・・マジかよ先輩!?」
『チッ、そうだとしたら急いで舞を止めさせるぞ!おい椿、白狐に――』
「もう白狐さんには伝えたよ!でも・・・わらし舞は、たった今終わったって・・・」
「「何!?」」
その最悪な報告に私は黒狐さんと同時に声を荒らげてしまう。舞が元々それほど長くないからか、私達がこうしている内にも時間が経ってしまっていたからかは分からないが、何にせよ厄介な事態になってしまったのは間違いない。
しかも、上から聞こえてくる戦闘の音が止まないという事は・・・まだ橋鬼は襲って来ている状況だろう。まさか、いつの間にか舞の力を横取りされてしまったとでも言うのだろうか?
「おい、待て待て。何だ、これは・・・」
そんな中、今度は更に先へ進んで行った先輩が驚愕の声を上げてきた。何故か嫌な予感がした私達が急いでその方向へ走っていくと、そこには絶対に有り得ないであろう死体が2つ転がっていたのだ。
死体の1つは、橋鬼の姿をしている。ピクリとも動く様子は無いし妖気も感じないが、その姿はどう見ても橋鬼で間違いようは無かった。
そして、もう1つの死体は私達を案内してくれた、ボロボロの衣服を着た年寄りな木こり――なんと、あの山神様だった。
「うっ・・・待って。何で、この妖怪が此処に?それに、この人・・・山神様だよね?」
「ふん、爆砕の札で殺したのか。全く・・・雑な殺し方だな。この殺し方は"あの4人"じゃない、下っ端がやったんだ。しかも、つい最近だな」
「いやいやいや、それよりも先輩!だったら・・・だったら、今わら子達の所に居る山神様は一体誰なんだよ!?こっちの死体が本物だとしたら、あっちの方は・・・」
『クソ!急いで戻るぞ!依頼はコイツが出した事は違いないだろうが、何者かがそれを利用して悪巧みをしていやがる!』
そうして私達はすぐに白狐さん達の所へ戻ろうと振り返るが、気付いたら既に周囲は滅幻宗の坊主共に取り囲まれてしまっていた。いつの間に、黒狐さんや先輩にも気付かれずに囲んでいたなんて・・・ヤバいな。
「しまった・・・下っ端ばかりだと思っていたが、アンタがフォローしていたのか――栄空!」
栄空って名前、確か何処かで・・・そうだ!椿の祖父の家へ襲撃をかけて来た、あの細目で胡散臭い坊さんか!
その名前を先輩が叫んだ後に、そいつはスーッと霧の中から出てくるように姿を現した。どうやら姿を隠す術か認識を阻害するような術で、ずっと私達の様子を伺っていたようだ。
「湯口靖君、私達を裏切ったというのは本当でしたか。父上がさぞお怒りですよ。今の内に心を入れ替えた方が宜しいのでは?」
「黙れ、お前達が先に俺の"想い"を裏切ったんだろう!分身の術なんて汚い手段を使って、俺の信用を得ようとしやがって!一体、裏でコソコソと何を企んでやがる!?」
先輩は栄空に怒りの声を浴びせるが、そいつは何故か顎に手を当てて考えるような仕草を見せる。
まるで先輩が何を言っているのか分からない、とでも言いたそうな表情だ。
「そう言っておられますが・・・本当ですか、峰空殿?」
「えっ?」
すると、今度は栄空の影から露出度が高い衣装を着た峰空が現れたのだ。いよいよ本気でマズいかもしれないな・・・決して少なくはない下っ端坊主の人数で、しかも幹部2人が出張って来るなんて予想してなかった。
峰空が「あらあら」と言って首を横に振る。
「あれは仕方のない事よ。"奈田姫"の指示だったからね」
「フン、その"奈田姫"とやらも怪しいんだがな。俺は一度も会った事が無いぞ!」
「落ち着いて先輩!下手に向こうを刺激するような事は言わないで!」
騙されて頭に血が上るのは分かるけれど、こんな所で足止めされていたら白狐さん達どころか、わら子すら助けられるか分からないんだよ!?
「それに、お前達が現れた事でようやく分かった!この橋鬼とやらを増殖させていたのはお前らだな!何の為に、こんな事をしやがる!」
「なっ・・・!じゃあ、あの無限に出てきてる橋鬼達は"分身体"って事!?」
「そっか、だから舞が終わっても一切消えなかったんだ。それなら、この人達を倒せば橋鬼の集団は消えるハズだよ!」
そう椿が叫ぶと、黒狐さんも先輩同様にイライラしてきていたのか低く唸りつつも、彼女の方を向いて優しい笑みを浮かべて見せた。
『その通りだな、椿。そして靖、連中の狙いとかの話は一度蹴散らしてしまってからの方が良くないか?』
「ん?あぁ、そうだな・・・よし、そうさせてもらうとするか!」
先輩も以前のような迷いを無くした目で敵を睨み、錫杖を大きく振るって強く握り締める。
そしてコイツらを倒せば厄介な橋鬼達は消えるんだから、私だって既に戦う気は満々だ。
「おやおや、困りましたね。玄空の息子さんは、中々聞き分けの悪い子供のようです」
「仕方ないわね、栄空。わらし舞で"あの封印"は解けているでしょうけど、私達の用意した"アレ"では後片付けはキツいでしょうね」
なるほど・・・今の栄空と峰空の会話からして、やっぱりコイツらが今回の騒動の原因って訳だ!
正義感の強い先輩を騙して、しかも椿を傷付けさせた礼だ――ここでボコボコにして、滅幻宗が何をしようとしているのか洗いざらい吐かせてやる!!