私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第弐拾玖話 省みずな椿の方が必要

 

――落ちていく意識の中、誰かの声が聞こえたような気がする。

 

『・・・めてしまうのですか?』

 

聞こえてくる声は何処か聞き覚えがあって、それなのに感情は全く感じられない。

 

『もう・・・めてしまうのですか?』

 

いや、これは聞き覚えがあるなんてものじゃない。これは、この声は――私自身、"もう1人の私"の声だ。

 

『綾・・・貴方はもう、諦めてしまうのですか?』

 

声もようやく聞き取れるようになったが、それでも私の身体には力が入らないままだ。

 

《諦めたくないに決まってるでしょ!?でも、もう身体がボロボロで、何をしても起き上がれる気がしないんだ・・・》

 

『それは、当機にとっては理解出来ない問題です。何故、貴方は"想い"で当機から身体を奪い取り、動かせるようにまで出来たのに不可解な事を言うのですか?』

 

《誰のせいだと思って・・・》

 

『確かに、当機の行動によって多少は人間の救援が遅延された事は認めましょう。ですが当機の選択の優先を上回って、その選択をさせたのは――綾、貴方自身なのです』

 

そう"もう1人の私"が言った瞬間に、真っ暗だった私の意識には朝日のような光が射し込んでくる。

 

『ご覧なさい、貴方が為した事によって"皆がどう動いたか"を。そして、認識しなさい――これから貴方が為すべき事を』

 

《なっ、これは・・・!》

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

一方その頃・・・

 

私の目に入ってきたのは、外に対する結界を張っていた狙撃手が再び気絶した事で狐2人が公園へ突入してくる光景だった。

 

『椿よ、無事か!』

 

『椿!怪我は――ぬぅ・・・なんという事だ、まさか綾がここまで酷い怪我を負うとは』

 

狐2人は倒れ伏す私を見てから椿へ視線を向け、普段とは全く違う状態である事を即座に悟る。

 

『ぬっ、椿よ・・・その感じは、まさか・・・』

 

「ご、ごめんなさい、白狐さんに黒狐さん。椿ちゃんが、綾ちゃんを・・・」

 

すると、皆が警戒しているにも関わらず、椿は自身の状態がさも当然であるかのように振舞ってきた。

 

「すいませんけど、あと少し待っていてください。私の中の"負なる者"を滅し、周りの奴らも滅してから帰りますので――ん?何をするんですか、黒狐?」

 

『止めろ椿。頼むから、元の可愛らしい椿に戻ってくれ』

 

そんな振る舞いをする椿に対して、黒狐さんは憂鬱な表情で彼女の手を後ろから掴んで止める。

 

「失礼な事を言いますね、私は可愛くないと?」

 

『いや、とにかく・・・お前がこんな事をするのは、我慢ならないんだ。お前が綾を殺めるなど、そんな過ちをしたとは我らも・・・』

 

「過ち?"負なる者"を滅する事が過ちだとでも?同じ神妖とは思えない台詞ですね。それに何か勘違いなされているようですが、そこの"魔を殺す者"は間違いなく私が滅させてもらいましたよ。肉体を消滅させるまでには至らなかったようですけれど」

 

『なっ!椿よ、お主まさか・・・本気で綾を!お主らは親友同士ではなかったのか!?』

 

その返答に声を荒らげる白狐さんへ、椿は"何故?"とでも言いたげな様子で首を傾げてきた。

 

「私の浄化のシステムをご存知でしょうか?親友の死など、ほんの些細な事なのですよ」

 

『知るか。どうやら、お前のその状態は俺達とは違って"より神に近い存在"のようだな。特に、ここ日本で広がっている仏教ではなく、古くから日本で信仰されている"神道"に近いものを感じる』

 

「神道・・・それもちょっと違いますね。というより、真の神に教えなど存在しません。ただ世界の流れを見守る者、それこそが神です。真の神は何もしませんよ。ただ時として人に、自身の行いは世の中において間違っているという事を伝えたりはしますがね」

 

『えぇい!これ以上話していても埒が明かん。黒狐!椿の心に、我らの知っている椿に戻るようにと訴えかけるぞ!』

 

すると、椿は狐2人へ大きくため息をつきながら面倒臭そうに片手を突き出して神術を発動しようとする。

 

「邪魔ですよ。天神招来――」

 

「止めて、椿!!」

 

「あら、まだ生きていらしたのですか"魔を殺す者"」

 

私は自身のボロボロの身体に力を入れながら、後ろから椿に抱きつく形で手の動きを封じ、神術の発動を防ごうとした。しかし、それでも完全には妨害出来ず狐2人へ強烈な風の妖術が吹き荒ぶ。

 

『ぬぐぅ・・・!椿よ・・・こんなお前は、お前ではない!戻ってこい!!』

 

『ぬぅぅう!クソ、俺の"変異"の力でも変えられん!とにかく、訴えかけ続けるしか・・・』

 

「だから3人共、無駄ですってば。"前の私"は自分の甘さに嫌気が差したんです。敵だろうと何であろうと、救いを求める者達を助けたくなってしまっていた自分自身にね」

 

そう言った椿に私は力づくで振りほどかれて吹っ飛ばされてしまう。しかし、風の妖術に抗いながら近づこうとする狐2人を見て、再び椿を抑える為に激痛の走る身体に喝を入れてもう一度立ち上がった。

 

そして私と狐2人だけでなく、カナ達も椿へと呼び掛ける声が聞こえてくる。

 

「椿ちゃん!お願い、いつもの椿ちゃんに戻って!!」

 

「椿、そんな神のような存在なんて椿らしくない!」

 

「椿!アンタが自分の中に溜め込んでどうすんのよ!少しは相談しなさいよ!何の為に私達や綾がいると思ってんのよ!」

 

その皆の呼び掛けに、椿は面倒臭そうに首を横に振ってくる。

 

「残念ですが、私自身が"この私"を選んだのです。強くて皆を守れて、そして無慈悲に敵を倒せる。そんな私こそ――」

 

だが、私達の椿に対する答えは皆同じだ。

 

「「「「『『そんなのは、皆望んでない!』』」」」」

 

「なっ!?」

 

「そんな椿ちゃんに守ってもらっても、私達は嬉しくも何とも無いよ!」

 

「弱々しくても、必死で皆の為に戦ってくれる椿の方が良い!」

 

「それにアンタなんて、弄りがいが無いのよ!」

 

な、な〜んか美亜だけ少し違うような意見が聞こえた気がするけど・・・でも、椿が動揺している今こそが元に戻せる最大のチャンスだ!

 

「椿・・・悪いけど、私や皆が望んでいるのは神様ぶったアンタなんかじゃないよ」

 

『だが皆の希望に押し潰され、そのような考えに至らせてしまったのは我らの責任でもある』

 

『あぁ、白狐の言う通りだ。もっとお前の気持ちに寄り添えば良かったのに、すまなかった・・・』

 

「う、あ・・・」

 

近づきながら放たれる私と狐2人の言葉に、とうとう強気でいた椿は動揺で立ち竦んでしまう。

 

そして、更に――

 

「椿姉さん・・・」

 

「えっ、貴方は・・・」

 

「楓っすよ。椿姉さん、全くの別人っすね。綾姉さんにも言える事っすけど、椿姉さんは何でもかんでも引き受け過ぎっすよ。でも、そのせいでここまで思い詰めるなんて・・・馬鹿みたいじゃないですか」

 

そう楓が言うと、椿は神刀をその場に落としてしまった。

 

「椿姉さん。自分、ようやく分かったっすよ。たとえ憎い敵を前にしても、常に冷静でいて私情を挟まない・・・これこそ、忍びとしての鉄則でしたね。それなのに自分、"何としても殺してやる"って憎しみに囚われていたっす。でも、椿姉さんが綾姉さんを殺そうとした所を見て、とても嫌な気持ちになったっす」

 

「楓・・・」

 

そして楓は椿だけでなく私の方も見て、ペコリと頭を下げてきた。

 

「綾姉さんも、椿姉さんと一緒にそれを身体を張って教えてくれてありがとうっす。だから椿姉さん、もう良いっす・・・もう、元の姉さんに戻ってください!」

 

「身体を張る?元の?違う・・・"負なる者"を滅する事が私の、わた――私の、使命・・・」

 

「椿姉さん、ごめんっす!お2人直伝の、脳天チョ〜ップ!!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

「あばぁ!?」

 

でも椿に戻ってきてもらいたいからってチョップはどうなのかなぁ!?後ろで抑えているから私まで巻き添え食らっちゃってるし!

 

「椿姉さん・・・自分の大好きな、あの姉さんに戻ってくださいっす。自分、この手刀の味が癖になっちゃったんすよ?だから、いつものように『楓ちゃんの馬鹿〜!』って、そう言いながらチョップしてくださいっすよ!」

 

「あ、あだだ・・・椿。私達には誰にでも優しくて、それなのに自分の事は省みずな椿の方が必要なんだ。そんな、1人で何もかも背負い込もうとする"今の椿"なんて必要じゃない!」

 

そう私と楓が叫ぶと、暴走が収まりつつあるのか椿は片手で頭を抱えて膝をついた。

 

【分かった?どっちが本物なのかが。いくらアンタが"本当の自分"だと言っても、皆と楽しく過ごした椿は・・・"皆の心の支え"になろうとしている椿はアンタじゃないわ。だから――】

 

「なるほど、分かりました・・・そうなのですか。私は"本当の私"ではなく、"繋ぎ"でしたか」

 

【は?アンタ何を言って・・・えっ、ちょっと!いきなり倒れるとか一体何なのよ!?】

 

すると、椿は妲己さんの言葉に答えたかと思った途端に、そのままバタンと倒れてしまったのだ。

 

皆はすぐに椿へ駆け寄り、まだ血が止まらない私も何とか倒れてくる椿が怪我をしないように受け止める。

 

『椿!おい、戻ったか!戻ったのか!?』

 

「ねぇ椿!しっかりして!」

 

そして、椿が再び目を覚ますと"私達の良く知る椿"の姿に戻っていた。

 

「馬鹿・・・ですよ、皆」

 

「椿ちゃん!?」

 

「椿!髪が元通りになったという事は・・・!」

 

「椿姉さん!!」

 

「やれやれ、やっとご帰還?」

 

皆で椿が元に戻った事を喜んで抱きついていると、椿はボロボロになっている私を見て申し訳なさそうな表情になる。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・僕、綾ちゃんを・・・」

 

「馬鹿椿、そんな程度で私が死ぬ訳ないっつ〜の・・・!?」

 

しかし、そこで私の身体は限界を迎えてしまったのか、そう言った直後にフッと意識を失ってしまったのであった。

 

さ、流石に血を流し過ぎ・・・た、のかな・・・?

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