私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
――その日の夜。椿は・・・
それから急いで僕達は家に帰って来て、沢山の出血によって意識を失ってしまった綾ちゃんの治療を行いました。
僕が大怪我をさせてしまった綾ちゃんの容態は、白狐さんが必死に妖術で看病してくれたお陰で何とか安定しました。
でも、僕は・・・そんな身体を張ってくれてまで、僕に人殺しをさせないよう身代わりになってくれた綾ちゃんに顔を合わせる事が出来ないまま、自分の部屋で布団にくるまっている。
――敵の狙撃手を守ろうと前に立ち塞がった綾ちゃんを本気で邪魔だと感じてしまった事。
――そして、御剱で綾ちゃんの胸を突き刺して神術で燃やしてしまった感覚。
――その結果として、傷は癒えたけれど綾ちゃんは未だに目を覚まさないでいる事。
あんな状態になっていたとはいえ、あれが僕自身であった事に変わりは無いし意識もハッキリ残っています。だから皆の言う通り、どれだけ"仕方ない事だった"と考えようとしても、あの時の感覚や感情を思い出して吐きそうになるのです。
『いい加減布団から出てこぬか、椿よ。あれを忘れるなというには無理があるだろうが、事情は捜査零課に説明しておるし捕まったりはせん』
「なんで?僕は悪い事をしたんです。どうせなら捕まえて欲しい、綾ちゃんにやった事を償わせて欲しいんです。そうじゃないと、僕は・・・」
『お主も既に知っているハズじゃろう。妖怪は暴走した場合や身を守る為にやむを得ない場合、明らかに意図せずに殺害してしまった等という状況では罪に問われる事は無いと』
そう白狐さんは僕を慰めようとしてくれているけれど、でも今は僕にとってただ苦痛の言葉でしかありません。暴走したって言っても、あの時の僕は完全に"自分の意識を持って"綾ちゃんを殺しかけたんだよ。
正直、もう綾ちゃんに顔を合わせる事すら出来ない。きっと綾ちゃんが次に僕の姿を見たら、「あんな事をするような奴、友達なんかじゃない」って嫌われるような気しかしないのです。
『椿、布団から出てこい。さっき綾も目覚めたし、俺達だって話すものも話せないぞ』
「嫌です、黒狐さん」
こんな僕じゃ、白狐さんと黒狐さんにも顔向けなんて出来ないよ。2人は守り神だけど、僕は最初の親友を殺そうとした悪い妖狐だ。
僕をお嫁さんにしようとする程に白狐さんも黒狐さんも僕を好きなのは分かる。けれど皆が僕の事を許してくれても、事情を知らない綾ちゃんのオジサンや他の妖怪さん達からは嫌われたに決まっています。
それに今の僕は、多分誰にも見せられないくらい酷い顔をしていると思う。
あんな軽々しく僕自身の力を使うんじゃなかった、そんな事をしなければ綾ちゃんも皆も傷付けずに済んだ、と帰り道の中で泣きそうになりながら考え続けて後悔していたんだもの。
「白狐さんに黒狐さん、椿ちゃんは?」
『駄目じゃ、香苗。綾の無事を伝えても、布団に潜ったまま出てこない』
「椿、ご飯は?」
部屋の外からカナちゃんと雪ちゃんの声が聞こえてくる。多分、そろそろ晩御飯なのかもしれないけれど、今は何も喉を通る気がしません。
そして、こんな状況に限って僕の中にいる妲己さんは何も言って来ない。何か言ってよ、"アンタは自分のした事に責任を持たな過ぎよ!"って言って、僕が綾ちゃんの事とかを諦められるように罵ってよ。
「椿姉さ〜ん!今度は閉じこもって、何してるんすか〜!!」
そこへ更に楓ちゃんが飛び込んで来て僕の上に乗っかってくるけれど、それに抵抗する気力もありません。どうして皆、そこまで僕の事を気遣うの?
「椿姉さんが反応しないっす、カナさん・・・」
「そりゃあね・・・楓ちゃん、ちょっと退いてくれる?」
すると、僕の上から楓ちゃんの体重が無くなって、カナちゃんが話しかけてくる声が聞こえてきた。どうやらカナちゃんが楓ちゃんを上から降ろしてくれたみたい。でも悪いけど僕は君と違って、より強く"人を殺したような感覚"が残っているんです。
「ねぇ・・・椿ちゃん。私の事、知っているでしょ?私だって、お父さんを私自身の手で殺したかもしれないって事を――ううん、私が殺したと言っても良いと思う。私は、その事を中学に入るまでずっと引きずっていたんだよ」
そうなんですか。そんなに長い間・・・そんなの、綾ちゃんを殺しかけた僕なら数年は引きずっちゃうよ。
「その事は今も吹っ切れてはいないけど、それでも少しずつ前を向けるようになってきたんだよ。それは綾ちゃんのお陰でもあるし、椿ちゃんのお陰でもあるの」
確かに、カナちゃんが前を向いていけるようになった事は良かったけど、カナちゃんのそれと僕のそれじゃあ話は全然違、う・・・あれ?何、か眠くなって・・・きた、よ・・・。
「椿ちゃん、その悩みは1人で解決出来るものじゃないよ。あの時、私達は相談してって言ったよね?椿ちゃん・・・椿ちゃ〜ん?」
「くぅ〜・・・zzz」
「ね、寝てる!?えっ、嘘!椿ちゃん!?」
『うむ、完全に寝ておる。泣き疲れたからかの?こんなに目が腫れぼったい感じになりおって・・・』
『全く・・・コイツはまた1人で抱え込む気か?綾もそうだが、起きたら徹底的に悩みを聞き出してやるか』
「黒狐さん、無理やりは駄目だと思うよ。それに布団も戻してあげよう?きっと椿ちゃん自身、今の顔は見られたくないと思うから」
僕が睡魔に負ける直前、そんな会話が聞こえてきました。
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――それからしばらくして
えっと、僕は何してたっけ?・・・じゃないや。
綾ちゃんを殺しかけた事に対して罪悪感でいっぱいいっぱいになってたら、突然眠くなってきて寝ちゃったんだ。
何してるんだろう、僕・・・また寝たよ。それにどれくらい寝てたのか辺りはもう真っ暗だし、何も食べてないからお腹も空いたし・・・。
「晩御飯・・・何か残ってるかな?」
枕元で充電されていたスマホを確認すると、時間はもう夜の10時を越えていましたよ。でも、この時間だと少なくともカナちゃんや雪ちゃんとか、まだ誰か起きているかもしれない。
変な心配をかけない内に、バレないように台所へ・・・。
「ん、ようやく起きたみたいだね椿」
「・・・」
「ちょっとちょっと?何で"豆が鳩鉄砲を食らった"ような顔をしてる訳?」
よりにもよって何で綾ちゃんが部屋に居るんですか。とても顔を合わせられないし、それにまた間違えてるし・・・それを言うなら"鳩が豆鉄砲を食らった"ですよ。
「・・・放っといてください」
「放っておける訳ないでしょ?なんか私が寝てる間に、かなり椿が思い詰めてたって皆から聞いて心配してたんだぞ」
「綾ちゃん、本当は僕の事をどう思っているんですか?」
心配そうに見つめてくる綾ちゃんの視線を感じるだけで、僕は眠っている時に何度も綾ちゃんの胸を突き刺した悪夢を思い出しました。
動画のリピート機能のように、嫌な場面を何度も何度も・・・だから、こうして綾ちゃんから本当の気持ちを聞いておかないと僕は自己嫌悪で吐きそうになってしまったんです。
「どうって言われてもな・・・普通に、1番の親友だって思っているけど」
「そうじゃなくって!だってあの時、暴走してたとはいえ僕は綾ちゃんを御剱で刺したんだよ!」
「はぁ・・・何を言うかと思ったら。椿、私の頑丈さは折り紙付きだって知ってるでしょ?それに誰も死んでなんかないんだ、そんな程度で立ち止まったりすんなっての」
でも、そんな僕の言葉に綾ちゃんはまるで自分自身に起こった事が他人事だったように言ってきたから、今の僕にとって思わずカチンときてしまったよ。
「そんな程度・・・?綾ちゃんは何を馬鹿な事言ってるの!!いくら綾ちゃんが頑丈だって言ってても、あの時の僕は綾ちゃんの事を本気で――」
「だ〜か〜ら〜!椿は何で変に考え込むのさ。このくらいの怪我なんて全然大した事ないし、椿を守りたい私みたいに椿は椿で守りたい人や支えたい人がいるでしょ?こんな事で一々折れてたら、逆に皆に心配かけちゃうでしょうが」
「う・・・」
「ま、とりあえず台所へ行こっか。私が結構な量を食べちゃったけど、ちゃんと椿の分も残しておいていたからさ」
そう綾ちゃんは僕を宥めるような感じで言って、そのまま先に台所の方へとスタスタ歩いて行ってしまいました。
本当、綾ちゃんも綾ちゃんで何なんでしょうか。
全く自分の事は見ない癖に、僕や皆の事ばっかり心配して・・・。
「う〜ん、お腹が空いて頭が回らないや・・・ご飯、食べないと」
こんな時でも僕のお腹は空くようで、妖気を補充して欲しいと言わんばかりに鳴り響きます。
そして綾ちゃんの後を追いかけてフラフラと台所に入ると、確かに綾ちゃんの言う通り僕の分の晩御飯が昭和チックな食卓カバーを被せて残されていました。
「ほい、こっちが椿の分ね。まだ私も腹減ってるから、ちょっと冷蔵庫から残りを温めてくるよ」
「え?一体どれくらい食べたの?」
「う〜ん・・・だいぶ、かな」
「えぇ・・・」
病み上がりなのにそんなに食べて大丈夫なんでしょうか、綾ちゃんは。元はといえば、僕が大怪我を負わせちゃったからなんですけれどね。
それと妖怪食だから晩御飯そのものが動いているけれど、今はそれでも美味しそうに見えているから、多分僕は今日それくらい酷く妖気を使ってしまったという事だろうね。
そして、もう1つ気になっているのが・・・。
「何で皆、ここで寝ているの?」
広い台所の真ん中には僕の分の晩御飯が置いてある作業台があるんだけれど、作業台の椅子にカナちゃんと雪ちゃん、美亜ちゃんに楓ちゃんの皆が机に突っ伏す形で寝てしまっていたのです。
「こんな所で、何で・・・まさか、僕を待っていたの?そんな、嘘でしょう・・・」
何時起きるかも分からないのに・・・って思っていたら、皆の眠っている近くには何故か稲荷寿司までラップをかけられて置いてありました。
今じゃスッカリ僕の大好物になっちゃったけれど、ひょっとしたら・・・皆はコレを作っていたのかな。
「・・・」
「おや、起きたのですか椿様?」
「えっ?あっ、龍花さん・・・」
「あ〜!そういえば椿、そこの稲荷寿司も椿のだから食べて良いよ」
すると、僕の後ろから龍花さんと綾ちゃんが声をかけてきました。
いきなり話しかけられたからビックリしたのもあるけれど、僕が龍花さんにやった事を思い出して恥ずかしさから目を合わせられないよ。
「さっき私が残り物を温めた時に、そこの廊下で偶然会ってさ。龍花さんも椿に話があるんだって。とりあえず私は皆が起きないように、ちょっと縁側で食べてくるわ〜」
そう言って、綾ちゃんは温められた晩御飯の残りを持って台所を出ていってしまいました。
あんなに綾ちゃんが気にするなって言ってくれていたけれど、それでも僕は綾ちゃんに少しくらいは嫌われたんじゃないかと思って心が落ち込んでしまいます。
でも、それと同時に僕は"ひょっとしたら、このまま綾ちゃんが戻って来ないんじゃないか"と不安な気持ちを感じてしまっていました。
「椿様・・・貴方の事は座敷様も心配していましたよ。全く、どれだけ人に心配をかければ良いんですか?というか、目を逸らしてないでこっちを向いてください」
「ふぎゅっ!?」
龍花さん、無理やり僕の顔を両手で掴んで向きを変えないで欲しいです。なんかゴキッとか変な音が聞こえた気がしますよ。
「良いですか?接吻の1つや2つくらい、私達は気にしません。それよりも椿様を止められなかった事の方が、私達にとっては辛いのです」
そうでしたね・・・この人達は、わら子ちゃんに嫌な思いや辛い思いをさせない為に、僕や綾ちゃんも一緒に守ろうとしていたんでした。
僕が辛い思いをしていると、わら子ちゃんも辛い気分になっているみたいなのは昔から変わらないですね。綾ちゃんと同じくらいに僕の事を大切に思ってくれている、わら子ちゃんらしいです。
「ですが、椿様。貴方を辛い思いから救おうとする人が、綾様の他にもどれだけ居るか分かっていますか?それに目を背けるつもりなのですか?」
「あっ、皆・・・」
そっか、僕は何を1人で悩んでいたんだろう。
綾ちゃんも白狐さんも黒狐さんも皆、僕に寄り添って色々な事をしてくれていたのは、何とか僕の抱えている苦しみを少しでも軽くしたかったからだったんだ。
それから逃げるなんて、僕は知らず知らずの内に皆に失礼な事をしちゃっていたよ。
「全く・・・貴方が羨ましいですよ」
「えっ?」
「いえ、何でもありません。それとここだけの話、皆に稲荷寿司を作れと言ったのは他でもない酒呑童子ですよ」
「はい!?」
待って待って、今の龍花さんの言葉が1番ビックリしましたよ!
綾ちゃんやカナちゃん達だったら分かるけれど、どうして酒呑童子がそんな事を?理由も全然思い当たらないし、あの人が何を考えているのか分からないですよ。
「そんなに驚かなくても良いでしょう・・・というのも無理な話でしょうけどね。その話をされた時には綾様も皆さんも驚いていましたから」
「そ、そりゃあそうだよ・・・」
「しかし私が思うに、酒呑童子も酒呑童子なりに貴方の事を心配していたのではないでしょうか?悪鬼のクセに最近どうも大人しいといいますか、何を考えているんでしょうかね」
確かに龍花さんの言う通りです。いくら心配だからって、他にも方法はあったと思うよ?もし本当に心配してたとしても、酒呑童子には悪いけれどこれは逆に気持ち悪く感じちゃいます。
「さっ、そんな事よりも。座敷様も疲れて眠ってしまわれたようですから今回は私が晩御飯を温め直しておきます。それと折角なので、お風呂の方も綾様と共にお身体を流してあげますよ」
「あっ、いや?そこまでは――」
「マジですか、龍花さん!?やった〜!!」
「綾ちゃん!?いつの間に戻って来たの?」
「まぁまぁ・・・綾様もあのように仰っていますから、椿様も遠慮なさらずに」
あ、あれ?どうして龍花さんは若干テンション高めなんでしょうか?それに綾ちゃんも大怪我をしたとは思えないくらいに元気ハツラツですし・・・もう何が何やらですよ。
それにしても皆、僕や綾ちゃんが大きな声を出しちゃったのに起きないですね。
きっと、初めて稲荷寿司を作ったから疲れたんでしょうか。形は崩れていて、幾つかは中からご飯がはみ出ちゃっています。
でも、皆の"想い"が込められているから、今まで見た稲荷寿司の中で1番美味しそうです。ひとまずは皆寝ているから、後で自分の部屋で食べる事にします。
こんな事になっちゃったのは僕のせいなのに、ここまで僕の事を心配してくれた綾ちゃんや皆にはお礼を言わないといけないね。