私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
第壱話 玄葉さんの真意
ふと、私は誰かに呼ばれる声でゆっくりと目を開ける。この声は確か・・・そうだ、間違いない。
「綾ちゃん・・・綾ちゃん!起きて!」
「うん、うぅ・・・?わ、わら子?なんで此処に――あっ!」
「きゃぁ!?」
そして、目を覚ました途端に私は今までの事を思い出し、すぐさま近くで倒れていた椿へと駆け寄った。
「椿!しっかりして、椿!」
そう言いながら抱き起こそうとすると、椿が目を覚ましてハッとした顔で身体を起こして――
「きゃぅ!?」
「いだぁ!?」
盛大に私と額同士をゴッツンコさせてしまった。
地味に痛いけど、今の感じからしてどうやら椿も自分の身に何が起こったのかを思い出したようだ。
「うぐ〜・・・」
「あぅぅ・・・」
「び、びっくりした・・・大丈夫、2人共?」
「あっ、わら子ちゃん――って、いったた・・・」
「椿、怪我は――痛っ!」
「まだ無理しない方が良いかも。とりあえず手当てはしといたけれど、何処かまだ痛む?」
「へ、へーきへーき」
心配そうな顔をしてくるわら子に、私と椿は笑顔を浮かべて指で丸を作って見せる。
さて、まず私達は何処に居るかを確認しないといけない訳だけど・・・目の前には頑丈そうな鉄格子があって、ボロボロな壁にカビ臭い静かな場所でネズミさんもハハッ☆してるな。
「うん、コレもしかしなくても牢屋ですね間違いない」
「そんな事言ってる場合じゃないよ、綾ちゃん・・・わら子ちゃん、此処は何処の牢屋なの?」
「あっ、えっと・・・此処は滅幻宗の本拠地で、その地下にある牢屋だよ」
「「えっ、本拠地・・・(かよ・ですか)?」」
その言葉に私も椿も目を丸くして驚いてしまったよ。とはいえ、わら子も気絶してたハズなのに、どうして此処が本拠地だと分かったんだろう?
まぁ、それ以上に私は気持ちが落ち着いてないんだけど。
「皆、無事だと良いけど・・・」
「それに玄葉さんも、何で裏切って・・・」
「あっ・・・」
すると私達の言葉を聞いてか、わら子は思い出したような表情を浮かべる。
「何か心当たりがあったのか?まさか、4つ子の秘蔵のお菓子を隠れて食べたとか?」
「ちょっと、それをやったのは綾ちゃんでしょ!」
私が少し前にやらかした話を例え話にしたら、わら子に思った以上に怒鳴られたんですけど。落ち着かなきゃと思って、とりあえずリラックス出来るような話題を出したつもりが大失敗だったよ。
だけど、椿は至って真剣な顔でわら子の方を見ていた。ごめん椿、私は本気でそんなつもりじゃなかったんです。
「わら子ちゃん、おじいちゃんの家で何があったの?玄葉さんが何で、あんな事を?玄葉さんだって、この前わら子ちゃんを龍花さん達と一緒に抱き締めてて――それが、それが全部嘘だなんて!」
「つ、椿ちゃん・・・」
「椿、ちょっと落ち着けって!」
「落ち着けません!それに、わら子ちゃんも綾ちゃんもショックでしょう?ずっと一緒に居た人なんだよ!?」
確かに信じていた人から裏切られて、めちゃくちゃ怒りたくなる気持ちは分かるけどさ。今は此処からどうやって出るかとか考えるのが先決だと思うぞ?
「椿様、少し静かにしてください。敵に感づかれます」
「ほら〜、玄葉さんもそう言ってるし・・・1回頭冷やせっての、な?」
「感づかれるって何が!?僕はそれどころじゃないんですよ、玄葉さん!――って、えっ?玄葉さん!?」
「ん?なんだなんだ、いきなりどうしたの椿って――アイエエエエ!玄葉さん!?玄葉さんナンデ!?」
何か普通に鉄格子の前に居たから全然気付かずに会話しちゃってたわ!そんな忍者じゃないんだから突然現れたらビックリするっつ〜の!
「だから椿ちゃん、落ち着いてって・・・それに綾ちゃんも、そこまで驚かないでよ」
「申し訳ありません、皆さん。この様な汚い所に居て貰って」
ん?んんん?玄葉さんは私達を裏切って滅幻宗の側に付いたんじゃなかったのか?何で普段通りの感じで、捕まってる私達に話しかけてくるんだ?
そう困惑する私と椿に、どういう訳か玄葉さんは頭を下げて謝ってくる。
「すみません座敷様、それに椿様と綾様も。敵を欺く為とはいえ、あの様な事をしてしまいまして」
「あのね、椿ちゃんに綾ちゃん。玄葉さんは、滅幻宗の本拠地を突き止める為に、スパイ活動をしてくれていたの」
「「ス、スパイ活動・・・」」
な〜るほど、それなら玄葉さんが何であんな事をしたのかも全部説明が付くね。
ぶっちゃけ本気で裏切ってなくて良かったよ・・・でも、あそこまで全力で敵側っぽい動きしてたから、オジサンとか狐2人とか後が怖いんだけど。
そこは大丈夫なのか玄葉さんよ。
「えっ?椿ちゃん、大丈夫!?」
「ご、ごめん。安心したら、力抜けちゃって・・・」
そして、その玄葉さんの真意を知って椿はヘナヘナと床にへたりこんでしまった。
「本当に良かった〜。お陰で、私もホッとして肩に入ってた力が抜けて楽になったよ〜・・・で、玄葉さん?何時から私達の所に?」
「綾様が私達の秘蔵の菓子を隠れて食べたという所からですよ」
「うぐ。だって、誰の名前も書いてなかったから大丈夫だと思ったんだもん」
そんな私の口からでまかせな言い訳に、玄葉さんはやれやれと首を横に振ってくる。
「全く、他人の物を断り無しに食べるのはどうかと思いますよ。言ってくだされば、私の分くらいは綾様にあげましたのに・・・おっと、すみません。それで先程の続きなのですが、この事を言ってしまえばリアリティに欠けると言われてしまい、お2人や皆さんに対しては翁から口止めされていたのです」
「リ、リアリティってなぁ・・・」
私は玄葉さんの言葉に苦笑いを浮かべた。
まぁ、確かに事前から知らされていたら私達はおろか、狐2人ですら演技で敵を騙すのは無理だったかもしれないよ。
「それと、向こうの心配は要らないですよ。龍花達には私達が去ったら、すぐ現れて種明かしをするようにと言ってあります。そして、私がスパイ活動をしていた事も説明をお願いしているので、恐らく今頃は此方に向かっているでしょう。私の持っている、この発信機を頼りに」
「ほ〜ん・・・つまり向こうで滅幻宗の幹部だけ潰すんじゃなくて、わざと私達を捕まえさせて敵の気が緩んでる所を一斉にカチコミ、滅幻宗の1番上の奴も纏めて全員しょっぴく作戦って訳ね」
「しょっぴくって、綾ちゃんは何て言葉使うの・・・」
今の会話でわら子に少し引かれたけど、それはそれのコレはコレだ。
「という事は、僕達がやる事って?」
「滅幻宗の親玉の正体を探り、可能ならしょっぴ――コホン、捕まえます」
「オッケー、オッケー」
玄葉さんは、私の雰囲気に引っ張られそうになりながらも咳払いをして作戦の説明を続ける。
「分かりました。でもそれなら、わら子ちゃんを連れて来る必要は・・・」
「万が一、という事もありえます。だから、座敷様と一緒に居てもらい、幸運の気を受ける事でその万が一に備えようという事です」
「でも、危なくないか?」
「椿ちゃんも綾ちゃんも、心配しないで。私がどんなライセンスを持っているか覚えてる?」
「確か、1級ですよね。うん、分かっているんだけれど・・・」
「それでもなぁ・・・う〜ん」
私達は不安になりつつ、わら子の方を見る。
しかし、今までの弱々しかった彼女はどこへやら。私と椿が見たのは、別人かと思うくらい自信に満ち溢れているわら子の姿だったのだ。
「椿様と綾様は、ライセンスを持って任務や依頼をこなしていた頃の、その当時の座敷様をご存知無いでしょう?これが、本来の実力を見せる時の座敷様です」
その自信満々なわら子を見た私は、なんというか冗談じゃないのかと思う一方で、こんなに凄かったののかと少し嬉しい気持ちになったよ。
だって、まさか気弱な子が実は結構な実力者で・・・って、あれ?こんな展開、何処かで見た事あるような・・・あっ、コレ隣に居る椿も同じような感じだったじゃん。
「とにかくね、2人共。私も昔は、潜入捜査とか玄葉さん達と一緒にやっていたの。だから、そんなに心配する必要は無いよ。むしろ、椿ちゃんや綾ちゃんの方が心配だよ」
「まぁ、綾ちゃんは1人で暴れちゃいそうだしね・・・」
「ちょ、私の扱い酷くない!?」
まるで私が脳筋バカみたいな言い方されてるような気がするんだけど!幾ら何も考えずに戦う方が得意といっても、そこまでアホな真似はしないわ!!
「じ、じゃあ・・・それならあの時、わら子は実際は気絶したフリだったって事?」
「「あ、露骨に話題逸らした」」
「うん、綾ちゃんの言う通りだよ。ごめんね、敵の本拠地を知る為とはいえ、2人も巻き込んじゃって」
そうかそうか、つまり私はそういう奴だったんだな――じゃなくて、これじゃ本当に気絶してた私と椿が情けないやらカッコ悪いやらで面目丸潰れだよ。
それと、椿と玄葉さんは私を弄るネタに話を発展させようとしてませんでした?それだけは本気で勘弁してください・・・。
「それなら、早く此処から脱出して敵の親玉を――っ、いたた」
「そういえば私達、まだ結界で受けたダメージが身体に残ってたね・・・っつつ」
立ち上がろうとして痛みで膝をついてしまった私と椿に、わら子と玄葉さんが心配そうな顔を向けてくる。
「椿様も綾様も落ち着いてください。あれからまだ、1時間程しか経っていませんよ。先ずは貴方達の傷の回復と、戦闘で消耗した体力の回復を優先しないといけません」
「えっ?僕と綾ちゃんが気絶してから、たったそれだけしか経っていなかったの?」
「そうだよ、椿ちゃん。それに相手も少なからず体力は消耗しているハズだから、ここからすぐ何かをする事は無いと思う。だから、今は2人の身体をシッカリ回復させた方が良いよ」
わら子にそう言われてしまっては、作戦を成功させる為にも私達は無理に動く訳にはいかないね。とりあえずは、此処で睡眠を取るなりして身体の調子を整える事に専念するしかなさそうだ。
まぁ・・・結構汚い場所とはいえ、寒くもなく暑くもない快適な温度だから寝ようと思えば寝れそうだし。
「う〜ん・・・こんな所で回復出来るかな?」
「も、申し訳ありません、椿様。此方が動くまで敵に感づかれる訳にもいかないので、毛布を差し入れる事も出来ないのです」
「椿ちゃん・・・玄葉さんへの仕返しは、それ位で良いよね?」
「うん。真剣に謝っていたし、これで許します」
「なぁ!?」
「ホント、たまに小悪魔になるよね・・・椿は」
そんな椿のささやかな仕返し劇場はそこまでとして、私達はもう1つ心配してる事がある。
それは、私達と一緒に玄空へ本拠地に連れて来られた湯口先輩の事だ。
先輩の父親気取りな玄空は"躾が必要"だとか何とか抜かしていたし、きっと今頃は酷い目に合わされているかもしれない。だから今すぐにでも助けに行きたいけど、わら子や玄葉さんの話を聞いたりしていたらドッと身体に疲れがのしかかってきてしまったのだ。
「わら子ちゃん、ごめん。僕ちょっと寝るね・・・」
「私も・・・かなり疲れて眠いから、少し休むよ・・・」
「うん、分かった2人共。妖怪食もあるから、起きたら食べてね」
わら子はそう言って、懐から隠して持って来た巾着袋を私達の間に置く。そして、その近くに正座を崩した座り方をすると、ポンポンと自分の膝を叩いてきた。
「さっ、椿ちゃんも綾ちゃんも。おいで」
「えっと・・・」
「ひ、膝枕?でも、わら子も疲れてるだろうし、そこまでは・・・」
「それじゃあ、2人は地面に寝転がって、ネズミさんにその可愛いお耳や髪の毛を齧られても良いの?」
「「・・・」」
"やぁ、僕ミッ何とか"みたく壁からこんちにはしてんじゃねぇですよ、ネズミさん?
わら子がそう言うから、ネズミさんの眼差しが完全に私の髪や椿の耳をむしりたい感じにしか見えなくなっちゃったじゃん。
「えっと、それじゃあ膝枕で・・・」
「わ、私も膝枕でお願いします・・・」
「は〜い。2人共おいで〜」
これは仕方ない、うん。わら子に膝枕されるのは仕方ない事なんだ。私だって、椿が耳や尻尾を大事にしてるのと同じくらいに、自分の長い銀髪は大切にしてるんだもん。
そして、そんな私達を見ていた玄葉さんも少しホッとした表情で牢屋の前から離れていったよ。
とにかく、先ずはこれからの作戦に向けて体力を少しでも戻しておかないとね。