私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
人智を超えた妖術によるゴリ押しで突破しようとした私達だったけど、まさかそれすら筋肉兄弟には通用しなかった事に私達は眉間にシワを寄せる。
「くっ・・・それならもう、これしか!」
「だ〜もう、本当は使いたくなかったけど!」
私と椿は、わら子が隠し持ってくれていた巾着袋から武器を呼び出し、それへ"神妖の力"を少し流して硬化させた。
「ほぉ、また奇っ怪な手品を」
「手品、手品とうるさいですよ。これを見てもまだ・・・」
「同じ事言えるのかよ!」
そう言った椿の髪色は"神妖の力"により変化し、私のポニテも同じように長く伸びる。こんなのを見せられれば、幾ら誰でも手品とは――
「兄者。しかし、あの武器・・・何か光っていませんか?」
「ふむ、蛍光塗料か何かか?」
ズコ〜ッ!こ、ここまで目の前の光景を現実的に考えられるなんて、逆に凄いと思えてきちゃったぞ!
これを説明しても絶対納得なんてしてくれそうにはないだろうし、それだったら実力行使だ!
「どらぁ!」
「ほっ!」
「うごっ!?」
「ぬぐっ!?」
私と椿はそれぞれ一気に距離を詰め、筋肉兄弟へ硬化させた武器でブン殴ったけど、すぐさま兄弟は受け身を取ってズッシリとした両足で着地する。
「むぅ・・・何という堅い武器。だが効かん!くらえ『筋肉圧縮(マッスル・プレス)』!!」
「おっと!!」
「あっぶな!!」
今の攻撃が通用しない事を何となく予想していた私達はすぐさま飛び退いて、筋肉兄弟の左右からのハグを回避する。
「おいおい、その技さっきと何が違うんだよ?どっちも同じようなハグじゃん!」
「ぬっ!?この違いが分からんのか!ハグは弟の戦力との合体技で、このプレスは俺が戦力と協力して出す単体技だ!」
「違いが微妙過ぎますよ!」
「えぇい、黙れ!」
う〜ん、良くも悪くも力任せ一辺倒な戦闘スタイルですこと。
そんな漫才染みた会話をしている途中にも、筋肉兄弟の兄である闘力が椿へとパンチを放ったけど、その攻撃は椿の目の前で見えない何かに防がれていたよ。
「むっ?何だ?」
「玄葉さん、防御ありがとうございます」
それは玄葉さんの力で作り出された見えない盾で、相手は攻撃が防がれた事に気付かせないような特性もあるみたいだ。
「お陰で土手っ腹がガラ空きだ!神甲麒麟甲、徹甲打(てっこうだ)!!」
「ぐぉっ!!」
そして今の攻撃の隙を突いて、私は闘力の腹へと麒麟甲を着けた両拳による一撃を食らわせる。
「兄者!!」
「ナイスです、綾ちゃん!」
だけど、闘力はグッと両足を踏ん張った事で倒れる事はなく、放った技の衝撃を何とか耐え切られてしまう。
死なない程度にって一応力加減をしていたつもりだったけど・・・どうやら私の予想が結構甘かったね。でも、今までの喧嘩してた感覚で殴ったりしたら間違いなく大怪我以上の大惨事になりそうだし、下手に力を込める訳にもいかないんだよな。
「兄者、こうなったら乱打で相手に隙を作らせないようにするしか」
「むっ、そうだな。相手に時間を与えるから、あのような技で反撃される。それに、もう運動も十分だしな・・・終わらせるか」
「椿様、綾様。どうやら、相手が一気に勝負を決めるつもりのようです」
玄葉さんの言葉に、私は拳の骨を鳴らしながら腕を組んで仁王立ちする。
「ほーん、ウォーミングアップは終わりってか。それならどんな技で来るのか、お手並み拝見といかせてもらおうじゃん!」
「なんで綾ちゃんはやる気満々なんですか〜!僕はまだ、気持ちを切り替えようとしている所なのに・・・」
「そんな気にする事かな?」
「気にするよ!綾ちゃんを殺しかけた時みたく、また相手に大怪我をさせるんじゃないかと思うと気が気じゃなくて・・・」
及び腰になってしまった椿を見て、私は大きくため息をついてから椿の頬をギュッと引っ張った。
「いひゃい、いひゃい!な、何するの綾ちゃん!?」
「相手は私達を問答無用でボコボコにするつもりで攻撃してきてるんだ。だから今は、ある程度の怪我を負わせる事を覚悟して戦うしかないんだよ」
「そんな事言われたって・・・」
「それに私達は湯口先輩を助け出して、滅幻宗の総大将もとっ捕まえなきゃいけない。それなのに、こんな所で下っ端相手に負けてたら、それこそ話にならないだろ?」
そう私が言うと、椿は少し俯いてから顔を上げて戦う気力を取り戻した瞳をこっちに向けてきた。
「・・・うん、ありがとう綾ちゃん。僕も、皆をこれからも守る為に、やれるだけ全力でやってみるよ!」
そして2人で筋肉兄弟へと向き直り、向こうが繰り出そうとしている大技に身体を構える。
「さぁ・・・覚悟せよ!」
「これで終わりだ!」
筋肉兄弟は互いに背中合わせとなって回転しながら、満面の笑みで千手観音の如くパンチを四方八方に放ちながら私達へ迫ってくる。
「「うぉぉぉおおお!!」」
うん・・・うん。あっ、ヤバいヤバい!コレ避けられないタイプの大技だ!パンチ1発1発のスピードが早過ぎるわ!
「ごめん椿、アレ避けながら戦うのは流石に無理だ!あんな気持ち悪い絵面を見せつけられてたら避けられる物も避けられないって!!」
「えぇぇえ!?ど、どうするんですか!!」
「くっ・・・でしたら!増え凌げ、玄武の盾!"百葉樹(ひゃくようじゅ)"!!」
筋肉兄弟の大技の凄さに私と椿が狼狽えていると、玄葉さんが玄武の盾を沢山呼び出し、まるで樹木に付く木の葉のように私達の前へと張り巡らされていく。
わ〜お!こっちもこっちで凄いな!!
「これこそ、我が玄武の盾の鉄壁の布陣!これを破った者は皆無です!」
しかも玄葉さんも自信満々だ!
それでも、筋肉兄弟はその防御を突破出来ると言わんばかりに、速度を落とす事なく笑顔のまま突っ込んで来る。
「ふははは!!ならば我々が、その第1号になってやる!」
「兄者!この場合、私は2号ですね!」
ウン、ソコハドウデモイイトオモウナー。
・・・じゃなくて。とにかく狭い牢屋の道いっぱいに盾が展開されているから、そのすぐ後に筋肉兄弟の無数のパンチが大量の盾を殴ってくる衝撃が沢山飛んで来たから、私も椿も一瞬目を丸くして驚いちゃったよ。
「「うぉぉぉおおお!!」」
「うわぁ・・・凄い衝撃。玄葉さん、コレ大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、綾様。それにしても・・・やれやれ、1発目で気付くものを。アレが"脳筋"というやつですか。この百葉樹は、ただ相手の攻撃を防ぐだけの力ではなく、その衝撃を相手に弾き返しているというのに」
「えっ?あっ、本当だ。良く見たら、兄弟の打ったパンチの衝撃が、そのまま自分自身に跳ね返ってきてますね」
それでも怯まずにパンチを打ち続けていられるんだから、あの筋肉兄弟の耐久力はパワーと同じくらいにブッ飛んでるぞ。
「ぬっ・・・むぅ、これは――」
おっ、パンチを打つスピードが落ちてきた。幾ら凄まじい身体能力を持ってても、流石に玄葉さんの防御の前には為す術も無い感じかな?
「疲れたな」
「そうですね、兄者。流石は自慢するだけある。しかし、筋肉が良い疲労を起こしていますね」
「うむ。だが、このままでは翌日には筋肉痛になってしまう・・・よし、急いでケアをするぞ!」
うっわ、マジですか・・・あんなにパンチを弾かれまくって疲れただけなんて、規格外にも程があんだろ。
そんな様子に驚く私達を他所に、筋肉兄弟は持ってきていた鞄から何かを取り出して身体の手入れを始めようとする。
「ふっ、やはり筋肉痛対策には、即効性のあるスプレー式だ!」
「いや兄者よ、ここはシップだろ!」
「貴様・・・戦力、馬鹿か?シップは筋肉痛が起こってからだ!というかそんな物、筋肉痛以外でも使えるようになっているから、効果が分散するだろう!分かっていないな!」
「分かってないのはそちらだ!万能性のあるシップの方が、身体に対する効率が良いのだ!」
ありゃ?な〜んか筋肉痛対策に使う物で勝手に言い合い始めて、喧嘩までやりだしちゃったぞオイ。
「つ、椿ちゃん・・・」
「わら子ちゃん、このまま見ておきましょう」
「ここは椿の言う通りだね。まさか、こんな事になるとは思ってもみなかったけど」
ちなみに椿がスマホで筋肉痛には何が効果的かを調べて、どちらも間違ってる事に苦笑いしていたよ。うん、それならとりあえず少し様子を見ようか。
「何で分からんのだ――ぐぁ!この、脳筋が!!」
「がふっ!それは・・・こちらの台詞だ、兄者!!」
私達が高みの見物をしている事にも気付かないまま、筋肉兄弟は両方とも馬鹿力を全開にして顔面を殴ったり、腹を殴ったりと互いに1歩も譲らず喧嘩を続けている。
そして――
「スプレーだぁぁあ!!」
「シップだぁぁあ!!」
「「がはっ!?」」
とうとう綺麗なクロスカウンターが互いの顔面に決まって、筋肉兄弟は2人同時に床へと倒れてしまったのだった。
カンカンカーン!ってゴングの音が聴こえてきそうな流れでしたね、ウン・・・一言言わせてもらうなら、酷い自滅を見た。
「は〜い、ここで発表で〜す。筋肉痛のハッキリとした原因は、実は良く分かってないみたいです!スプレーとかシップを使っても良いけれど、別に予防にも何にもなる訳じゃないんだって。なので痛みを取るだけだから、2人共に間違っているよ〜!」
「「なっ!?ば、馬鹿な・・・!」」
「うわぁ・・・えげつない事するな〜椿」
あ〜ほら、あまりのショックで2人共気絶しちゃったぞ。
相手がダウンして戦えないのを見計らってから事実を言ってやるとか、正しく相手を手玉に取る妖狐そのものみたいじゃん。
「ふぅ・・・全く。強さは力だけではないと、それが分かっていなかったようですね」
「それでも、結構苦戦させられたけどね・・・ホント、コイツらがアホで助かったよ」
そんな会話をしながら、私は玄葉さんと共に筋肉兄弟を適当な縄で、近くの牢屋の鉄格子へグルグル巻きに縛り付けたのであった。