私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第玖話 奈田姫

 

それから数十分後――

 

「「誰も居なかった・・・」」

 

2階をくまなく探索した私達は、その不気味さに身構えながらも1階へと戻って来た。2階に人影も何も無かったし、こうなると残る場所は1つしかない。

 

「2階に誰も居なかった以上、後は奥の院に・・・奈田姫の所に、全員居るという事ですね」

 

「やっぱりね・・・これは、最悪な展開かな」

 

「はい、最悪です・・・」

 

私は玄葉さんと共に、大きくため息をつく。

 

無茶だけはしないと心に決めてはいたけれど、湯口先輩の救出が不可能と言われたも同然な状況には、まだ何処か納得出来ないよ。

 

だけど、あの4人が居るのは確定しているし、助け出すにしても何をどうすれば・・・。

 

「さて、奥の院はこの廊下の先。庭を突っ切った奥にあります。ですが――」

 

「その庭にも、誰かが警備してると考えた方が良いんですね?」

 

椿の言葉に、ゆっくりと玄葉さんが首を縦に振る。確かに、滅幻宗の連中からしたら1番重要な場所なのは間違いないだろうし、幹部4人の内の誰かが居ても――

 

「って、誰も居ないぞ?」

 

「あっ、本当だ。どういう事でしょうか、玄葉さん?」

 

「馬鹿な!?」

 

なんと庭を覗いた私達の目に入ってきたのは、夕焼けの陽に照らされた枯山水だけだったのだ。

 

「有り得ない・・・有り得ないです。こんな重要な場所に守りが無いなんて・・・それなのに、階段には何故見張りが?意味が分からない・・・」

 

ひとまず私達は庭を突っ切りつつ、奥の院に繋がる本堂の渡り廊下を進んでいくけど、玄葉さんはこの状況が予想外だったのかブツブツと独り言を呟いている。

 

「玄葉さんが壊れた・・・」

 

「まぁまぁ、わら子。あれは多分違うから」

 

「きっと、玄葉さんの作戦予定とは違う流れになってて、頭が困惑しているんだと思いますよ」

 

今は私と椿が先頭を歩いている形なので、玄葉さんが先頭だった時以上に慎重な足取りで進んでいる状況だ。

 

玄葉さんには出来るだけ早く前に戻ってもらいたい所だけど、目の前にある建物が近くなってくるにつれて私達の歩く速度は落ちていく。

まだ強い敵と遭遇した訳でもないのに、心臓がバクバクと音を立てているくらい緊張してくるなんて今までに1度も無かったぞ。

 

「椿様に綾様、すみません。私が先頭に戻ります」

 

そのギリギリの状況で、ようやく玄葉さんが前に戻って来てくれた。お陰で私も椿も強くなってきていた緊張が少し和らいで、ホッと息をつけたよ。

 

落ち着いて建物の方を見てみると、これまた豪華絢爛とまではいかないけど、質素なのに所々へ力が入れられた立派な造りをしている。

入り口は・・・どうやら、私達の目の前にある大きな扉だけみたいだ。

 

その扉の前まで来た時、玄葉さんが私達の方へと振り向く。

 

「良いですか?先ず、私が内部を確認してみます。そこで逃げるか逃げないかをハンドサインで合図しますので、必ずそれに従ってください」

 

そう言って玄葉さんが扉へ聞き耳を立てようとすると、そこへ椿も一緒に狐の耳を扉へピトッとくっ付けてくる。

 

「ちょっ、椿様?」

 

「いや、僕の方が耳は良いので」

 

その椿の言葉に玄葉さんはため息をつきつつも、それを止める事はなく2人で内部の音を聴き始める。

 

すると――

 

「さて、考え直したか?」

 

「ぐっ・・・誰が――ぐはっ!」

 

扉に耳を当てていなくても聞こえる程の音量で、玄空と先輩の声が聞こえてきて何かで叩くような音が響いてきた。

 

まさか、先輩は玄空から拷問を・・・!?

 

「くっ・・・」

「うっ・・・」

 

そう思った瞬間に身体が動きそうになった所を、わら子に無言で腕を引っ張られて制止される。聞き耳を立てていた椿も、扉を開けそうになったのを玄葉さんから手を前に出されて止められていた。

 

何の考え無しに突っ込んで勝てる相手じゃない。

そんな事、分かってはいるけど・・・!

 

「まだ分からんか?人ならざる力を持つ者は、人の害にしかならん。有益な事など1つもせん!それは悪であり、滅ぼすべき存在。害虫と同じ!」

 

「あぁ、そうかい。本当にそればっかりだな・・・昔から口が開けば、すぐそれだ。でもな、それが俺は怖かっただけだ。だが、今は違う。アイツらの為に動きたい・・・親の言う事よりも、俺の事を真剣に見てくれる2人を信じているんだよ!それに、"恋は盲目"だって言うだろう!?」

 

う〜わ〜!う〜わ〜!止めて!止めて先輩!

 

そんな事を大声で言われたら、 聞いてるこっちは恥ずかしさと嬉しさでニヤけそうになっちゃうよ!

 

「椿ちゃんも綾ちゃんも、顔真っ赤だよ?」

 

「ぶっ!!そ、そんなに顔に出てた?」

 

「ちょっ・・・だって、あんな事言われたら誰だって顔が赤くなりますよ」

 

椿も顔が真っ赤だし、まさか私と同じく先輩の事が好きだったりするのかな?なんだろう、ちょっと胸の奥がチクチクするぞ・・・。

 

「あはは〜"恋は盲目"ね〜。言うわね、靖先輩は。でもその相手って、まさか椿ちゃんか綾ちゃんじゃないわよね?」

 

すると、今度は別な声も聞こえてくる。

 

「えっ?な・・・んで、この声」

「この声は、そんな・・・嘘だろ」

 

その聞き覚えのある声に、私と椿は驚愕で顔を見合わせてしまった。

 

「お前は・・・何で、こんな所に!?確か――亜里砂、だったか」

 

「あら。私の事、知ってるの?」

 

「急に学校へ来なくなった奴だからな。だが何で、そのお前が此処に居る?」

 

声だけしか分からないとはいえ、先輩も確実にそう言っているのだ。

 

幹部4人と一緒に居る、その人物は――かつて私達を騙して酷い目に合わせてくれた、亜里砂その人だった。

 

だけど、どういう事だ?何で、コイツが此処に・・・。

 

「馬鹿息子が、口を慎め。この方こそ、我々を導く存在――奈田姫様だ」

 

「「なっ!?」」

 

私も椿も、その玄空の言葉に空いた口が塞がらなくなってしまう。

 

まさか、亜里砂が滅幻宗を取り仕切っていた張本人だったなんて・・・じゃあ、滅幻宗は乗っ取られた時から、ずっと妖狐の手先だったって事?

 

しかし、その時に椿の中に居る妲己さんが尋常ではない怒りの声を発してきた。

 

【亜里砂・・・いや、華陽!こんな所に・・・!椿に綾、突入するわよ!!】

 

「いやいやいや、ちょっと落ち着いて妲己さん?」

 

「綾ちゃんの言う通りです、あの呪われた家の時とは状況が違いますよ。相手に仲間が居るし、何より先輩が人質になっています。どう考えても、僕達の方が不利です」

 

まさか妲己さんが暴走しそうになるなんて思ってもいなかったぞ!

だけど、それ以上にヤバいのは滅幻宗の幹部4人が確実に人間辞めてるのと、九尾の狐である亜里砂もとい華陽が組織のトップだという事だ。

 

戦力的に一筋縄でいかないのは勿論だけど、妖怪退治を目的とする組織のトップが妖怪なんだから、滅幻宗は他にも何か企んでいる可能性が高いよ。

 

【華陽・・・!】

 

「玄葉さん、一旦此処から離れます。亜里砂ちゃ・・・いや、相手があの華陽なんです。先輩を助けるのは、現時点では無理です」

 

「そうだね、椿。このままだと、妲己さんが椿の身体を勝手に使いかねないからね。椿の爺さん達が増援に来てくれれば、きっと先輩も助け出せるハズだよ」

 

「華陽ですって?くっ・・・それは確かに、不可能ですね。分かりました、増援が到着するまで何処かで・・・」

 

そうして私達は静かに建物から離れようとした――その時。

 

「さ〜て、と。色々お話したい所だけど〜、そ・れ・は、外に居る子達も呼んでからだよね〜」

 

「はっ!まさか・・・!?」

 

「玄葉さん!喋るより逃げ――えっ!?」

 

すぐさま私達は逃げの体勢に入るけれど、その途端に足が影の変化した手に掴まれて動けなくされてしまっている事に気付いた。

 

「つ、椿ちゃん、綾ちゃん・・・な、何これ?か、影が・・・!」

 

「しまった!華陽も椿と同じように、影の妖術が使えるんだった!」

 

そして、私達は影の手に強く引っ張られて、大きく開け放たれた扉の中に引き摺り込まれてしまう。

 

「きゃわっ!?」

「くっ!不覚!!」

「うわあぁぁ!」

「ちょおわっ!?」

 

「あはは〜久しぶりだね〜!つ・ば・き、ちゃん!あと、えっと・・・あぁ、綾ちゃんもね」

 

そのまま仰向けに転がされた私達を見下ろすように、雛壇のような場所の上から華陽がニコニコと椿へ嬉しそうな笑みを向けてきていた。

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