私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾肆話 悪夢なら覚めてよ

 

「あは、あはは!妲己、妲己〜!!やっとぉ・・・やっと会えたわねぇ!!」

 

【あ〜もう、うるさいわよ!!】

 

華陽の尻尾による攻撃を避けながら、妲己さんも鋭く変化させた尻尾で攻防一体の戦いを続ける。

 

怒りの表情を浮かべながらも冷静に攻撃をする妲己さんに対して、華陽は気持ち悪い程に歪んだ笑顔のまま、妲己さんの1つ1つの動きの隙へ差し込むような攻撃を乱発していた。

 

そんな様子を、幹部の4人は何かを狙っているかのような眼差しで眺めている。

 

「椿、あれってやっぱり・・・」

 

『うん、何か仕掛けてきそうだよね・・・妲己さん!4人に気を付けて!』

 

【分かってるわよ!!でもね、椿。9本対1本じゃ、正直キツいのよね〜】

 

『僕が悪いと?それじゃあ、何で替われって言ったんですか!?』

 

「お、おう・・・落ち着こうね椿」

 

霊体の椿が熱くなるのを宥めていると、妲己さんは尻尾の数が圧倒的に不利でありながらも、華陽の攻撃全てを避けながら、確実に自身の攻撃を当てていくのが見えた。

 

「くっ、このっ!だっきぃぃい!!」

 

その必死そうな華陽の様子から見ただけでも、どうやら戦闘経験は妲己さんの方が上のようだ。

 

【見て分かったかしら?要は、何事も使いようって事。華陽、アンタは考え無しにバンバン使っちゃうから、すぐスタミナ切れなんて起こすのよ!】

 

「うぐ・・・」

 

劣勢になり始めた華陽に対して、まだまだ余力を残している表情で妲己さんが言い放つ。

どちらも凄まじいまでの殺気をぶつけ合っているけど、妲己さんはコイツを捕まえる気があるのかな・・・?

 

『待って、妲己さん!』

 

そして、妲己さんが再び攻撃態勢を取ろうとした時、それを不安に感じた椿がストップをかけた。

 

【殺すなって言うつもり――おっと!あのね、椿・・・甘い考えは捨てなさい!】

 

「確かに、今回は妲己さんの言う通りかもしれないけど――」

 

【綾、アンタだって狙われてる事情は椿と同じよ!向こうも殺す気・・・いや、それ以上の事をする気なのよ!だから、それを止めるなら捕まえるだけじゃいけないわ!】

 

私達の言葉に妲己さんはそう言いながら、華陽の攻撃を避け続けては隙に確実な一撃を差し込んでいく。

 

そんな事、分かってはいる。分かってはいるんだ・・・。

でも、私も椿と同じく出来る事なら、誰の命を奪うような結果にしたくないんだ。

 

『妲己さん!吹き飛ばされた白狐さんと黒狐さんが、もうすぐ近くまで戻って来ているから、3人で協力して捕まえて!』

 

【はぁ・・・】

 

「駄目だ、椿!妲己さん、聞くつもりが無い!」

 

呼びかける椿に私が叫ぶ間にも、妲己さんは華陽との戦闘に没頭しだす。

 

「妲己〜あの時もこうやって、私を裏切ってくれたわよね。でも、今度は違うわ・・・アンタに邪魔されて私の計画が遅延したけれど、もう誰にも邪魔なんかさせないし、されないわよ!」

 

【ふん!だったら、今度こそブッ殺してやるわ!】

 

そんな中、私と椿が再び戦闘を傍観している幹部4人の方を見ると、玄空の手に怪しげな赤い瓢箪が握られている事に気付く。

 

「あの瓢箪、妙に嫌な妖気を感じるけど・・・椿、何か分からない?」

 

『う〜ん、似た物を何処か小さい頃に読んだ物語で――あっ、そうだ!あれは"西遊記"に出てきた、金角と銀角の持っていた"紅葫蘆(べにひさご)"じゃないですか!?』

 

「何だって!?それって、確か相手を吸い込む力がある奴だったよね!」

 

そうなると、まさか相手の狙いは・・・!

 

「妲己さん、聞いて!!玄空は紅葫蘆を持っている!!」

 

『向こうは妲己さんの魂を、僕の身体から吸い取る気ですよ!!』

 

急いで私達は妲己さんに大声で叫ぶが、当の本人は完全に華陽との戦闘に夢中で全く耳に入っていない。

しかも、幹部4人から感じられる妖気がドンドン強くなってきていて、私達には最早何が何だか分からない状況だ。

 

『椿!綾!無事か!?いや、椿は・・・妲己に替わっているのか?』

 

『しかし・・・これは。おい、この状況は不味いぞ!』

 

そんな私も椿も手が出せない最悪な時でも、戻って来た狐2人は頼りがいのある様子で、即座に状況を理解したかと思えば幹部4人を睨みつけていた。

 

そして、椿の爺さんもボロボロの身体でありながら、狐2人へ向かって幹部4人の事を伝えようと上半身を立ち上がらせている。

 

「ぐっ・・・白狐、黒狐。あの4人を止めよ・・・不味いぞ、この妖気は・・・コイツらは・・・」

 

しかし、それを見た玄空は紅葫蘆を持ったまま、錫杖を片手に持って振り抜こうと構えだす。

 

「ふん、まだ生きているか。こうなれば、その身ごと完全に――ぬっ!?」

 

「させるかぁ!!」

 

すると、湯口先輩が自身の錫杖で玄空の脇腹を殴りつける。

 

ちょ・・・肋骨が折れてる状態で、まだ白狐さんに回復もしてもらっていないのに、無理して私達の援護をしなくて良いから!しかも、玄空に全然効いてないみたいだし!

 

「この、馬鹿息子が。親に手を上げる不良になってしまったのか?」

 

「はっ!どっちかと言うと、俺の方が虐待受けているんだがな――がはっ!!」

 

「虐待ではない、親の愛だ」

 

『「先輩!!」』

 

玄空に腹を殴られて吹っ飛ばされる先輩に、思わず私は椿と同時に叫ぶ。

 

それにしても、吐きそうになるレベルまで殴って愛もクソもあるもんか!それに、このままだとまた先輩が酷い目に・・・クソッ!

 

「フン、まぁ良い。ここからだ、ようやくなのだ・・・良く見ておけ――」

 

『靖!』

 

玄空が話している途中に黒狐さんが先輩を担ぎ出してくれたから一応は助かったけど、そこから向こうの様子が更に不穏なものとなっていく。

 

『妲己さん!お願いだから、僕の話を聞いて!!』

 

「あはっ、妲己〜!!」

 

【華陽ぉぉお!!】

 

椿が呼びかけ続けるけど、妲己さんはマッハを超えるかもしれない攻撃の応酬を華陽と繰り出し合っていて、此方に意識すら向いていない。

 

「はぁ!!」

 

【くっ――がぁっ・・・!?なっ、1本・・・影に隠していたなんて!】

 

『「妲己さん!」』

 

そんな中で、妲己さんは自身の影から伸びた華陽の尻尾に脇腹を突き刺されてしまった。

 

それと同時に魂が身体とリンクしている霊体の椿も、刺された箇所を押さえて痛みで蹲ってしまうが、それでも妲己さんへ呼びかけ続ける。

 

『妲己さん、僕も痛いです――じゃなくて、話を聞いて!』

 

【ごめん、椿。でもね・・・うるさいのよ、2人共さっきから!】

 

「聞こえてたのに無視してたのかよ!?あの幹部4人がヤバい事を――」

 

【気付いているわよ、そんな事は!だけど綾、今の私には蓄えてた力でしか動けない、時間の限界があるのよ!それまでに華陽を仕留めないと!】

 

そう言いながら妲己さんは、身体に突き刺さる尻尾を押さえつつ、依然として攻撃の手を緩めない華陽へ反撃を続ける。

 

妲己さんが焦る気持ちは分かる・・・だけど、それでも目の前の敵だけを見ているのは危険な気がするんだ。

 

「あはは〜妲己〜必死ねぇ。遥か昔に私達がまだ1つの存在だった頃、その時に生み出した妖魔を取り込んで力を蓄えているなんて。本っ当〜必死過ぎて笑っちゃうわ――私はその間に、新たな妖魔を作っていたのにね」

 

【なに?一体何を――ぐっ!?】

『うっ!?』

 

すると、そんな妲己さんを嘲笑うように華陽は突き刺していた尻尾を引き抜いて、痛みと出血のダメージで膝をつく妲己さんへ話を始めた。

 

「気付いていないの?それとも覚えていない?見た事が無い妖魔がいたハズよ。妲己、貴方でもちゃんと対応出来なかった妖魔が・・・」

 

「まさか・・・旅行に行った時に私達が見た、あの赤えゐに寄生していた奴が!?」

 

思い当たる節があった私は華陽の言葉に思わず反応すると、椿も"まさか"といった驚愕の表情を浮かべる。そして妲己さんも傷口を押さえ、嫌な予感を察知したような顔を華陽へと向ける。

 

【・・・それが何よ?】

 

「あはは、綾ちゃんと椿ちゃんは気付いたみたいね。もしかして妲己〜?あの2人に知ったかぶりでもしてたぁ?」

 

【うるっさいわね。だから、それが何よって言っているのよ!】

 

「分かんない?寄生する妖魔、それってさぁ――寄生するのは妖怪だけかしらねぇ?」

 

【へっ?えっ・・・ま、まさか華陽、アンタ・・・!】

 

その華陽の言葉を聞いた妲己さんの顔からは、一気に血の気が引いていく。

 

今の含みがある言い方、とても嫌な予感が――

 

【白狐!!黒狐!!その4人から離れなさい!!】

 

そして、すぐに妲己さんは幹部4人を睨み付けている狐2人の方を向いて、尋常ではない声で叫んだ。

 

「うふふ、あははは・・・きゃははは!!もう遅〜い!!さぁ4人とも!今こそ、その真の姿を見せてあげなさい!!」

 

そう言って華陽が大笑いしながら左手を掲げると、幹部4人は身体を異様に膨れ上げさせながら雄叫びを上げて姿を変化させ始める!

 

「うぉぉおお!ようやく・・・ようやくだぞぉ!!さぁ、さぁさぁさぁ!滅せよ、滅せよ!!」

 

「あははは!これこれ!!ようやくだよ!我慢したよ、僕・・・だから、ご褒美にめちゃくちゃにしちゃっても良いよねぇ!!」

 

「きゃははは!きっんもち良い〜!!嬉しい!これで・・・これで私は、もっともっと長く美しくいられる!!耐えに耐え、耐えぬいた・・・コイツを制御出来れば、私はもっとぉぉお!!」

 

「おぉぉお!私達は選ばれた、選ばれたのだ!!悪しき妖怪どもを滅せよと!あの悲劇を2度と起こらせない為!その為に私は、この身をぉぉおお!!」

 

その異形に変貌していく4人に、ようやく私も椿も感じていた妖気の違和感の正体に気付いた。

 

あれは妖怪の妖気じゃない、妖魔の妖気だ!!

 

『あ、あぁぁ・・・』

 

「クソ、そんな事って・・・」

 

【最悪、何て事・・・】

 

寄生する妖魔、それを人間に寄生させたらどうなるか。それは正しく――

 

「人語を理解する妖魔、"妖魔人(ようまじん)"の完成よ」

 

そう華陽が言い終えると、4人はそれぞれ細かな違いはあれども、ドス黒い身体と赤い目を持った幾何学的な白い模様のある怪物へと変化を遂げてしまった。

 

だけど、私達の目の前で起こった異常はそれだけではなかった。

 

『おい、靖!靖、どうした!?』

 

「はぁ、はぁ・・・がっ、か、身体が・・・うぅ、あ、熱い!」

 

なんと先輩が額を押さえながら、とても苦しそうな様子でその場に蹲ってしまったのだ。

 

嫌、そんな・・・そんな、まさか!

 

『先、輩・・・待って、嘘でしょう?その溢れている妖気、は・・・』

 

「駄目・・・駄目だ駄目だ駄目だ先輩!耐えて!それに流されたら、先輩も・・・!!」

 

その先輩の変調に慌てる私達を、玄空は嘲笑うかのようにギロリとした目で見つめてくる。

 

「ふっふっふっ・・・芽吹いたか、私がプレゼントした"寄生する妖魔の幼体"が。我が力が膨れ上がった事で、一気に成長したようだな」

 

『うぉっ!?や、靖・・・!!』

 

『駄目、駄目!先輩!!』

「嫌だ、そんな・・・先輩!!」

 

「うわぁぁぁあ!!!!」

 

そして、先輩の姿もみるみる内に変貌していき、あの4人と全く同じような形へと変化してしまう。

 

「あ、あぁぁ・・・!!つば、き・・・あ、や・・・」

 

『嫌だぁぁあ!!せんぱぁぁい!!!!』

「い、いや・・・せんぱ、うわぁぁああ!!!!」

 

そんな先輩が妖魔人となってしまった事に、私も椿も絶望の絶叫を上げる事しか出来なかった。

 

嘘だ・・・悪夢なら、悪夢なら覚めてよ!!


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