私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
『先輩!先輩!!しっかりして、だめぇぇ!!』
「い、嫌・・・やだ、やだやだやだ!先輩!!」
「あ、ぐぅ・・・つば、き・・・綾・・・」
【ちっ、何て事をしたのよ華陽!!これは幾ら何でも、人としても妖怪としても許されるレベルじゃないわよ!!】
妖魔人へと変貌してしまって虚ろな目の先輩に、私と椿は必死で呼びかけ続ける。
その私達の声に、先輩は苦しんでいるのか私達の事をまだ理解出来ているのかといった声で、途切れ途切れながらも返事をしてくれていた。
「良かった、先輩に意識がある!もしかしたら、まだ元に戻せるかも!!」
『妲己さん、替わって!!僕の浄化の力で――』
「あは〜椿ちゃんに綾ちゃん、それは無・理☆。私の作り出した、この妖魔人は神妖対策で少〜しだけ浄化の力に耐性を付けさせてもらったのよ。その子には特に強力な耐性がかかっているみたいね〜。椿ちゃんと綾ちゃんと一緒に居させて正解だったわ〜、いつも神妖の妖気にあてられていたからね〜」
私は華陽の言葉に愕然としてしまった。
「そ、んな・・・私達の、せい・・・?」
『綾ちゃん!あの言葉に惑わされたら駄目ぇ!!』
滅幻宗が先輩をすぐに取り返しに来なかった理由も、道具によるものだと思っていた先輩自身から発せられる妖気の本当の理由も、本当は既に先輩へ妖魔が寄生させられていたからだったなんて。
分かってさえいれば、もっと早く先輩を・・・。
『しっかりして、綾ちゃん!まだ・・・まだ何か、先輩を救う手はあるハズだよ!!』
「無駄だ。若干自我は残っているようだが、その内に我々と同じく妖魔の意識に乗っ取られる」
私の肩を揺らしてくる椿の霊体へ、筋肉が強く浮き上がる妖魔人となった玄空が近づいてくる。
いやだ・・・これ以上、私に辛いものを見せないで・・・!
【ふぅ〜ん。それじゃあアンタの意識も、もうとっくに・・・】
「その通りよ。ただ、妖魔人の元となった人間の"強い想い"だけは残っている。厄介だが、それも我々の糧となる」
『そんな、そんな・・・それなら急がないと、先輩まで――』
【椿、諦めなさい。それに綾も、いつまで呆けてるつもり?アンタ達2人には守るべき大切な人達が、まだ他にも沢山居るでしょうが!!】
「それで先輩を諦めろって言いたいの、妲己さん?そんなの嫌、嫌だ!!」
『僕も綾ちゃんと同じです!先輩を諦めたくありません!僕は、僕達は皆を守る為に!!』
【未熟なガキ2人が何言ってんのよ!!理想論ばかり語っていても、現状こうなったの!!悪意を持って事を起こしてくる奴らはね、総じて人のその甘さにつけ込んでくるのよ!つけ込まれたら、もう終わりなのよ!いい加減気付きな!!自分が、まだ夢見るガキだって事に!!】
そんな事、言われなくっても分かってる!
だけど、それで現実ばかりに目を向けていたら目の前しか見えなくなって、いつか本当に大切なものを見失ってしまうんだ!
夢でも理想でも、私の・・・この希望を作る"想い"だけは譲れない!!
「「妲己さん――」」
【何よ?】
その気持ちをぶつけるべく、私は椿と共に妲己さんを睨み付けようとするが――
「吸え、紅葫蘆」
【へっ・・・なっ!?何でよ!!】
なんと、そこで玄空が妖具を使って妲己さんを椿の身体から吸い出そうとしてきたのだ!
「ふははは!!我が妖気にて、この紅葫蘆も強化されたのだ!どんな奴であっても、その名を呼ばれ反応すれば、忽ち吸い込まれてしまう程の力にな!!」
「あ〜ははは!!無様ね妲己〜!!アンタ、甘くなったんじゃないの?昔のアンタなら、こんなミスなんてしなかったのにね〜!」
【くっ・・・うる、さいわねぇ・・・こんなので――うぅ、クソッ!!】
妲己さんが、椿の身体から徐々に黒い影となって吸い込まれていく。
「だ、妲己さんまで向こうにやる訳には――」
【妖異顕現、黒羽の矢】
「なっ!痛っ!?」
『いっ!?な、なんで・・・妲己さん!!』
すぐにでも助けようとして私と霊体の椿が手を伸ばそうとすると、妲己さんは動かせる身体の部分を使って妖術を放ってくる。
【馬鹿、そんな事したらアンタ達まで吸われるでしょうが。そうなったら、誰が華陽を止めるの?】
「でも、だからって!!」
そう私が叫ぼうとすると、妲己さんは私達を真剣な眼差しで見てくる。
【まだよ・・・】
『「へっ?」』
【私の身体、それと一緒じゃないと九尾は1つになれないわ。だから、椿も綾も――記憶を戻すな。私の身体が在る場所を知っているのは、アンタ達2人と黒狐だけ。その記憶が無ければ、相手は為す術が無いのよ】
『なんで、そんな――』
【ふっ、良かったじゃない。椿も、私と離れられて。もう、身体を乗っ取られる心配は無いわよ】
そして、椿の身体から吸い込まれていく黒い影が少なくなっていく・・・まさか、もう妲己さんは――
『「妲己さぁぁぁん!!」』
『妲己!!』
私達と黒狐さんが叫び、手を伸ばすけど・・・。
【ふふ・・・私も甘いなぁ、誰かさん達のせいで丸くなっちゃったわ・・・本当。私はせいせいするわ椿・・・アンタと離れられてね。だから、じゃあね――】
『そんな泣きそうな笑顔で、嘘を言わないでよ!妲己さん!!』
「私だって、妲己さんには・・・あ、あぁ・・・!!」
その妲己さんの言葉を最後に椿の身体から完全に黒い影が消えてしまい、それと同時に霊体の椿が身体へと吸い込まれていった。
「はぁ、はぁ・・・だ、妲己さん・・・!」
【気を強く持ちなさい、2人共――良いこと、私はまだ――】
「「妲己さん!?」」
そして、その声を聞いた私達が手を伸ばした瞬間に、そう言い残した妲己さんは紅葫蘆へ完全に吸い込まれて蓋をされてしまった。
「あっ・・・」
「うぅ・・・」
『椿に綾よ、大丈夫か!?』
「白狐さん・・・た、助けないと・・・妲己さんを・・・」
「それに、まだ先輩も・・・」
『すまぬ・・・流石に、これは完全に此方の不利が原因だ。我も黒狐も先程の4人の攻撃で、かなりのダメージを受けている。そのせいで、妲己まで・・・クソ!何が、何が守り神だ!!こんな状況で、誰1人として守れておらんのに!!』
私と椿の頭を優しく撫でながらも悔しそうな表情を浮かべる白狐さんに、苦渋に満ちた顔で黒狐さんが声をかけてくる。
『白狐よ、嘆く前に行動だ。とにかく、此処から逃げるぞ』
「逃げる?そんな・・・まだ2人が――うっ!?」
「駄目、逃げるのだけは・・・2人を助け――つっ!?」
その言葉に私と椿が反論しようとした時、私達は黒狐さんに頬を引っぱたかれた。
「あ・・・えっ、黒狐さん?」
「な、何を・・・?」
『すまん、2人共。だが落ち着け、今は冷静になれ。敵の次の狙いは、何だと思う?』
「敵の次の、狙い?それは、妲己さんの身体で・・・その場所を知ってるのは・・・」
「あっ・・・僕達の、記憶・・・!」
『そうだ!!』
その黒狐さんの言葉と共に、私達の近くへ華陽がゆっくりと降りたってきた。
「正解よ〜!さぁ、2人共大人しくしなさい。でもね、綾ちゃんは兎も角として椿ちゃんは殺した後にでも記憶を抜いちゃえば良い訳だし〜」
その瞬間、私の頭には怒り以外の感情が全て消え失せる。
「面倒臭かったから、殺すのも――なっ!?」
「うるせぇよ、クソババア。今、私は気分が悪いんだ・・・とても!!」
そう言って私が華陽へ風の妖術を放った直後、そこへ更に炎の輪が飛んできて華陽の身体を縛り付けた。
――あの炎の輪は、まさか!
「椿ちゃんと綾ちゃんから離れなさい!!」
「「カナ(ちゃん)!?」」
美亜や他の皆と一緒に、もう避難してるものかと思ってたのに!
「椿ちゃん!綾ちゃん!」
「椿、綾、大丈夫!?」
「えっ!?わらこ、それに雪まで!!」
「ちょっ・・・皆、駄目!相手は邪魔する人なら、誰であっても容赦しないんだってば!!」
私達が注意すると、それに続けて後ろから楓と美亜の声も聞こえてくる。
「そんな事は分かっているっすよ!!」
「良いから、アンタ達は逃げる算段を考えなさいよ!」
そして私達を守るようにして、カナ達が敵の前に立ちはだかった。
『なるほどな。俺の"変異の力"も祟り神の影響によってか使えんし、白狐も同じだ。だがシンプルな力だけなら、その阻害される網の目を抜けられるかもしれん。とにかく、それなら皆で力を合わせれば――』
「それで何とかなると思った〜?妖異顕現、尾槍破砕!!」
「「「きゃぁぁああ!!」」」
だけど、華陽の妖術の前では皆の力でも弾き返す事すらままならずに吹っ飛ばされてしまう。
私も椿も、何とかして皆に加勢しようと身体に力を込めるけれど・・・どういう訳なのか、全然手足に力が入ってくれない。
「さぁ、退きなさいよ。そこの3人をこっちに渡しなさい」
「「「嫌よ!!」」」
「えっ・・・皆?」
「駄目・・・それ以上無茶したら!」
しかし、それでもカナ達は膝をついて動けない私達の前で手を広げて、華陽の行く手を立ち往生して守ろうとしてくれていた。
クソッ!このままじゃ、カナ達が・・・皆が・・・!
「はぁ、しょうがないわね。それじゃあ、皆纏めて死になさ――ぎゃぅっ!?」
その瞬間、突然カナ達の前に誰か2人が現れたかと思ったら華陽が吹き飛び、聞き覚えのある声と共に私達の方へ振り返ってくる。
「お〜良いねぇ、その面構え。そういう根性、俺は嫌いじゃねぇぜ〜ヒック」
「すぐ僕達が来れなかったのは色々とあるけれど、ひとまずは間に合ったという事にしてくれよ」
「「酒呑童子さん!?それに伊吹さんも!」」
「お〜ぅ、無事かガキ共?」
そして、鬼2人がそう言ったと更に私の目の前に現れたのは――
「華陽・・・テメェが裏で手を引いてやがったなんてな!これまでのツケ、纏めて返してやる!!」
「なっ!?お前は・・・"処刑人"!?」
そう・・・鬼2人に続いて、なんと敵であったハズの処刑人も大鎌を華陽に向けて怒りの表情を浮かべていたのだ。