私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
酒を飲みながら呑気な様子の酒呑童子と、鉄パイプ片手に面倒臭そうな顔をする伊吹に、白狐さんが私の前に立つ処刑人を警戒しながら尋ねてくる。
『酒呑童子!星熊童子!お主ら、今まで何をしとった!?それに、そこの奴は・・・』
「亰嗟の対策だ。奴ら、この寺院を囲んで隠れてやがったから、ちょいとお仕置きしてたんだよ」
「ついでに、ナンバー2だか何だか名乗ってた2人とも戦っていたけれど、そいつらを追い払う途中で彼女が手助けに入ってくれてね。それで、この有り得ない妖気の強さに急いで走ってきた訳さ」
亰嗟のナンバー2というと・・・あのオカマと和月か。なんか"オカマじゃなくてニューハーフよ!"と聞こえたような気がするけど、2人は撤退したって言ってたしきっと気のせいだね。
何にせよ、鬼2人や敵だった奴も加勢してくれるなら・・・!
「くっ・・・うぅ」
「うっ・・・ぐぐ」
「ちょ、椿ちゃんも綾ちゃんも駄目!無理したら!」
「離して、カナちゃん!僕のせいで、僕のせいで2人が!!」
「何としてでも、先輩と妲己さんを助けないと!!」
カナの制止を振り切って何とか立ち上がろうとする私達に、狐2人や鬼2人も"無理をするな"と言わんばかりの顔で振り返ってくる。
『椿に綾よ、落ち着け!今は焦ってもしょうがないだろう!』
「白狐の言う通りだぜ〜、お2人さん。"二兎を追う者は一兎をも得ず"だ、先輩とやらは諦めな」
「その代わりと言ってはアレだけど、妲己の吸い込まれた瓢箪くらいは――取り返して、くるさ!」
「ま、そういうこっ――た!」
すると、そう言って鬼2人は勢い良く飛び上がり、天井や壁を蹴って妲己さんの閉じ込められた紅葫蘆を持つ玄空へと、2人同時に瞬間的な攻撃を繰り出す。
「んぁ?」
「やったか?」
しかし――
「軽いわ」
「なっ・・・!?こちとら大量の酒を――ぐぁっ!!」
「この攻撃にビクともしないなんて――うぁっ!!」
「酒呑童子さん!!伊吹さん!!」
「そんな・・・あの2人でも全然敵わないなんて・・・嘘、でしょう?」
軽々と玄空に殴られて壁へ吹っ飛ばされてしまった鬼2人を見て、私も椿も絶望のあまり呆気に取られてしまった。
『いかん!2人共、逃げ――』
「逃がさな〜い!」
『くぉっ!?この・・・がはっ!!そ、そんな・・・我の・・・しゅ、守護が!?』
「えっ、白狐・・・さん?」
その椿の言葉に振り返ると、なんと白狐さんが一瞬で目の前まで移動してきた閃空の一撃によって床板ごと地面に沈められてしまっていた。
更に激しい音が聞こえた方へ振り向くと、処刑人も峰空から一方的に攻撃されていて、空中からの蹴りで大きく吹っ飛ばされてしまうのが見えた。
「え、えっ・・・?み、皆・・・?」
『ちっ!椿、綾、逃げるぞ!お前らも――くっ!?』
「しまった、黒狐!栄空、貴様!!」
「いけませんねぇ、逃げるなんて」「そう、いけません。潔く、我々に殺されなさい」
『2つの頭で喋るな!気色の悪い奴が!!』
「ここまで堕ちたか、この外道め!!」
「だ、駄目!黒狐さん!!」
「オジサン!妖気の量も質もケタ違いなんだよ!?」
あまりの力の差を目の当たりにした私達は、すぐに戦おうとする黒狐さんと、壁の穴から加勢しようとするオジサンを止めようとするけれど――
「怪異」「四死散爆爆(ししさんばくばく)!」
『がぁぁああ!!!バ、バカな・・・へ、変異させられない・・・だと!?』
「あ、綾・・・その子を連れて、逃げろ・・・!」
「黒狐さぁぁん!!」
「オジサァァン!!」
栄空の起こした広範囲の爆発に耐えきれず倒れていく2人を見て、もはや私達の頭はパニックを起こしてしまっていた。
なんで・・・こんな事になっちゃったのは、私が・・・私が、もっと皆に注意を向けていなかったから?敵を倒せると思い込んでしまっていたから?
そのせいで先輩どころか、皆まで・・・!
「さっ、椿ちゃん。私達と一緒に来なさい。言う事を聞いてくれれば、殺しは――はぁ?綾ちゃん、何それ。まだ抵抗する気なの〜?」
「い、嫌だ・・・椿だけは、私が――うぐっ!!」
「綾ちゃん!よくも、妖異顕げ――ぎゃぅ!!」
「どちらも遅い」
それでも椿を守ろうとしたが、その直後に玄空が目の前に現れて腹を殴られて膝をついてしまう。
しかも、それに反応して妖術を発動しようとした椿も、同様に一瞬で玄空に踵落としを入れられて床に叩きつけられてしまっていた。
「この・・・うぁぁあ!!」
「うっ・・・く、妖異・・・がはっ!?」
「ふん、遅いと言っている」
諦めずに立ち上がろうとする私達へ、玄空の容赦ない蹴りを頭に入れられてしまう。
「椿ちゃん!!綾ちゃん!!」
カナの悲痛な叫び声が聞こえる。
敵に反撃する余裕すら作らせてもらえないなんて・・・クソ、クソクソクソ!動けよ!私の身体、動いてくれよ!!
「皆、2人が・・・!!」
「分かってる、分かってるわよ・・・だ、だからって・・・わ、私達に何が出来るの!?」
「う、うぅ・・・無理、無理ぃ・・・」
「ひっ、い・・・ね、姉さん達・・・」
「うっ・・・つ、椿ちゃん、綾ちゃん・・・」
カナは皆を鼓舞して頑張ってくれているが、美亜も雪も楓も、そしてわら子ですらも皆が恐怖で動けなくなってしまっている。
「皆・・・駄目」
「私達の事は、良いから・・・!」
そんな状態の皆を無理させないように私達は一言言って、何とかそれぞれの武器を意識で呼び寄せて掴む。
「くっ!神刀、御剱!たぁっ!!」
「神甲、麒麟甲!だぁぁっ!!」
そして玄空に同時で全力を込めた一撃を放ったが、その攻撃は玄空ではない別な何者かによって止められてしまう。
「父上・・・ここは、私が」
「「先、輩・・・?」」
玄空と私達の間に立ったのは、なんと妖魔人となった先輩だった。意識が別なモノに乗っ取られてしまっているかもしれないけれど、ひょっとしたらまだ――
「ようやく成ったか、我が息子よ」
「はっ・・・申し訳ありません。直ちに我が憎き敵、目の前の妖狐と霊能力者、そして全ての妖怪を滅してやります。父の、小さい頃からの教え通りに」
「えっ・・・な、何言ってるのさ、先輩・・・?」
「ま、まさか・・・この為に先輩を、そう言い聞かせて育ててきたの!?」
「その通りよ、妖狐。コイツではなく、寄生させた妖魔に言い聞かせてきたのだ」
「あ、あぁ・・・うあぁぁあ!!」
「綾ちゃん、しっかりして!この・・・外道!!」
その絶望しかない事実に、私は何も考えられなくなって絶叫しながら玄空や先輩へ我武者羅に攻撃する。椿も玄空に攻撃を仕掛けようするが――
「うぁっ!!あぐっ!」
「いっ!!うぅっ!!」
その瞬間に私も椿も、先輩が振るった錫杖によって武器を弾き飛ばされてしまい、2人まとめて壁まで蹴り飛ばされてしまった。
その様子を見た華陽がため息をつく。
「はぁ・・・もう良いわ。ここまで抵抗されると面倒臭いし、椿ちゃんは殺しちゃって。綾ちゃんの方は封印解除に必要な記憶だけ抜き取って、後は"親友"に任せる事にするわ」
「うっ・・・」
「くっ・・・」
そう華陽が言い放った途端に、幹部4人から異常な程の殺気が椿へと向けられた。
それでも何とかして逃げる為に、私は麒麟甲の力を、椿は"神妖の力"を暴走させようとするが・・・。
「そうそう、2人に"神妖の力"を暴走させられちゃ困るから〜・・・峰空、妖気抜いちゃって」
「は〜い、うふふふふ」
「なっ!?腹に口が・・・うっ!そ、そんな・・・妖気が!」
「あぅ・・・!な、何これ?力が・・・」
倒れ伏す処刑人を踏みつける峰空の腹に大きな口が開いたかと思えば、なんとそこから私達の妖気が吸われてしまい、立つ事すらままならなくさせられてしまったのだ。
「あっ、そうだ。どうせなら椿ちゃん、愛しの先輩にでも殺されなさい。ふふふ、なかなか乙な事するでしょう?」
「この、華陽・・・テメェ、止めろ!先輩、そんな奴の言う事を聞いちゃ駄目ぇぇえ!!」
「だ・・・駄目、先輩。も、戻って・・・お願い、先輩――戻ってぇ!!」
椿の前に立った先輩は、完全に正気を失った目をしていた。それでも、私と椿は先輩の"想い"に届くようにと叫び続ける。
「つ、ば、き・・・」
「先輩!」
「お願いだから、先輩・・・止めて!!」
だけど――
「死、ね・・・」
「あっ――」
瞬間、椿の顔面に妖魔人となった先輩の爪が振り下ろされる。
「ぐぅっ・・・!!」
そのすぐ後に私の目の前に広がってきたのは、激しい血しぶき。そして――
「えっ?」
「椿ちゃん・・・逃げ・・・」
「な、あ・・・や、あぁぁ――」
「カナぁぁぁぁあ!!」
「カナちゃぁぁあん!!」
カナが椿の前に立って、彼女を庇って先輩の爪に身体を貫かれてしまっていた姿だった。
「ちっ、邪魔を・・・?な、震えている?何だ、何だコレは・・・?」
先輩は不思議そうな顔でカナから爪を引き抜いて自身の両手をジッと見つめている
だけど、もう私は全てが限界だった。
「あ、あぁ、あぁぁあ!わぁぁぁああ!!」
「カナちゃん!カナちゃん!!」
爪を引き抜かれた事で大量の血しぶきをあげながら倒れてきたカナを、椿がシッカリと受け止めて名前を呼び続ける。
「げほっ!げほっ、椿・・・ちゃん」
「カナちゃん!喋っちゃ駄目!今、白狐さんを――あっ、そんな・・・気絶してるなんて!」
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
「カナちゃん、シッカリして!!白狐さん!白狐さん起きて!!このままじゃ、カナちゃんが!!」
「椿、ちゃん・・・綾ちゃん、を連れて・・・逃、げて・・・」
「違う、違う!カナちゃん、君が・・・!!」
「良いの、私は・・・げほっ、貴方を・・・守れるだけで、幸せ・・・だから」
カナは泣きながら彼女の傷口を押さえる椿に優しく微笑みかけている。
「バカですか!死んでまで守って欲しくなんかない!!お願いだから、死なないで・・・」
「椿ちゃん・・・貴方も、私と同じ立場なら・・・同じ事、したでしょ?」
「うっ・・・うぅ、駄目・・・駄目!止まってよ、血!止まって、止まって!!」
椿が必死にカナの出血を止めようとするが、そんな椿の手をカナは拒むように首を横に振る。
「お願い・・・コレを使って、綾ちゃんと生きて・・・椿ちゃん。貴方達は・・・私の――」
「駄目、駄目!!カナちゃん、目を閉じないで!!」
「私の、愛した人・・・だから・・・私の分、まで・・・生きて・・・」
そう言って、カナは椿の頬へ手を当てたと同時に、パタリと力無く腕が倒れた。
その顔、閉じた瞳、その全てから生気が感じられない。感じられなくなってしまった。
カナが・・・死んだ。
「あらあら、残念ね。貴方のせいよ、綾。貴方が、あの妖狐と仲良くなんかなるから、その子も好きだった先輩も皆失ってしまったの」
カナが死んだのを呆然と眺めていた私の横に、いつの間に現れたのか情報屋の雫がそう言ってくる。
そんな・・・そんな、そんなそんなそんな!
これは全部、私の――
私のせい?
私が、椿の事を好きになってしまったから?
「うわぁぁぁぁあ!!カナちゃぁぁぁん!!!」
泣き叫んで死んだカナの身体に顔を埋める椿を見て、私の中で何かが壊れて崩れていく気がした。
こんな私なんかに、泣く資格なんて無い。
泣くくらいだったら何もかも・・・もう、どうなったって良い。
「ちょっ・・・ちょっと待って!何よコレ?椿ちゃんと、それに綾ちゃんからも"神妖の妖気"!?それにしてはケタ違いの力よ!!一体どういう事なの、雫!?」
「あら華陽、私は前に言ったハズよ。"白金の九尾の狐"と"鈍色(にびいろ)の狐"は決して目覚めさせるな、と。まぁ、私からすれば綾には目覚めてもらわないと困るわ」
慌ててる華陽と冷静な雫が何かを話してるけれど、私の目の前で泣いていた椿は怒りで白金色の九尾の狐へと姿を変えていく。
「ぁぁぁぁあ!!!誰だ、誰だ誰だ!!目の前の、僕の大切を壊した者は――誰だぁぁぁあ!!!」
それとは対照的に、私の心は自己嫌悪から深い底なし沼に落ちていくように・・・自身を潰したい程にまで堕ちていく。
「あ、うぅ・・・気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い・・・」
ごめんなさい、皆ごめんなさい。
私、私は・・・自分を殺して、全部殺す。
私の嫌いだったものも、好きだったものも全て・・・自分のせいで穢してしまったから。