私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
止められない怒りをぶつけ続ける私と椿に、狐2人は後悔しているような表情で近づいてくる。
『すまぬ、椿に綾。我らの力不足故に・・・お主達の、大切な者を』
『俺達も、何故自分達がこんなにも力を出せないのかが分からん。我ながら情けない・・・』
「そうですか・・・でも、そんなの関係ないです」
「どれだけ嘆いたって、もう現実は変えられないんだよ!」
それでも、怒りや悲しみといった負の感情で潰されそうになっている私達は、目の前の狐2人にも攻撃してしまいそうな程に追い詰められていた。
「あっ、ぐぅ・・・駄目、違う。離れて・・・白狐さん、黒狐さん」
「うぅ・・・抑えたくても、抑えられない・・・!」
「ちっ、どっちも増幅してやがる。まさか、それが本来のお前らの"神妖の力"か?」
内からとめどなく溢れてくる感情の渦に理性を失いそうなのを堪える私達に、酒呑童子が驚いた様子を見せてくる。
「ぐぅ・・・そ、そう・・・です」
「た、多分・・・だ、けど」
「あぁクソ、2人共自分にかけやがったか。いいか、良く聞け!椿は力を増す為に優しさを捨てるべく、無意識で自分の憎悪を増幅させてやがるし、綾は自身の妖気を底上げする為に生命力を燃料に妖気をバカみてぇに強くしてやがるんだよ」
嘘だろ・・・それじゃあ、このまま放置したら生命力を全部使い切るまで妖気を強化し続けるって事か。でも、この力の抑え方なんて私は分からない。椿も同じく力を抑えられないみたいだし、これじゃ皆を・・・!
「離れ・・・て、皆。もう、僕は自分を・・・うぅ」
「力が、抑えられない・・・だ、め」
すると、狐2人は椿を抱きしめてギュッと力を込めてきた。そして私の方にも、オジサンや美弥子が抱きついてきたのだ。
「うっ!?は、離して!白狐さん、黒狐さん!」
『いいや、離さん』
『よし・・・良いな、白狐?』
どうして?こんな酷い事をした私まで、皆は必死で助けようとしてくるの?
今にも悲しみや憎しみを全部ぶちまけそうなくらい、力が抑えられなくなってきてるのに・・・。
「なんで!?このままだと、私達は皆を吹き飛ばしちゃうかもしれないんだよ!」
「悪いが、綾。お前は血が繋がっていなくとも、俺にとっては大切な1人娘だ。それに・・・美弥子、頼むぞ」
「はい、大地さん!綾さんは椿さんと同じくらい、ここの全員は大好きなんです!だから――」
「んっ・・・!?」
「むぅ・・・!?」
その瞬間、私はフワリと頭がパンクしたかのような感覚に陥る。なんと、私の目の前には美弥子の顔が映り、唇に柔らかな感触がしたのを感じたのだ。
「ん〜〜!?」
そして、横目で椿の方を見ると、彼女も白狐さんから両手を優しく押さえられてキスをされているようだった。
「むぅ、ぷぁ・・・っ、んぅ〜!?」
しかし、そんな私の行動を許さないと言わんばかりに、美弥子は再び深く舌を口に入れてくるキスをしてきた。
すると、私の身体の中で渦巻いていた黒い力が、みるみる内に美弥子へと流れていくのを感じる。
「ん、ちゅっ・・・大地さん!これで封印が施せる程度には、綾さんの力を吸収しました!」
「すまない、美弥子。だが、これで俺の使える最大の封印術を発動出来る!」
そっか・・・美弥子には、対象にした物が持っている力を"奪う力"があるんだ。
そう考えている内にも、オジサンは気を失っていく美弥子を片手で抱えつつ、私の額に指を当て何の言語か分からない呪文を唱え始めた。
その瞬間から、私の身体全体がカーッと熱くなりだし、身体の中から湧いてきていた負の感情や暴走しそうになっていた力が徐々に収まっていく。
ふと気が付けば、生えていた耳や尻尾の感覚も無くなっていた。
「よし、何とか抑えられたようだ・・・一時的ではあるが、な。俺の妖気をかなり使ってしまったが・・・」
「でも、これで・・・くぅ・・・」
『ふっ・・・よし、我らの方も上手くいったようじゃ・・・とはいえ』
『あぁ、俺達の妖気・・・その殆どを使ってしまった、が、な・・・』
しかし、私達の力が収まったと同時に狐2人やオジサン、それに美弥子から妖気が全く感じられないくらいに減っていく。
「白狐さん!!黒狐さん!!」
「オジサン!!美弥子!!」
そんな、こんな事ってないよ・・・!もうこれ以上、私も椿も大切な人達を喪いたくない!!
「ふっ・・・尻尾も耳も消えて、ようやく普段の綾に戻ったな」
「やっぱり、そっちの綾さんの方が私は1番好きです」
「嫌だ・・・いやぁ、駄目!!オジサンも美弥子も、そんな事言わないで!!」
『おぉ・・・椿もやっと、尾の数も色も元に戻ったの』
『あぁ、白狐・・・美弥子みたいな事は言いたくないが・・・やはり、その姿の方が可愛いぞ』
「やだやだ!!僕は・・・僕はこれ以上、何も失いたくないのに!!」
そう私と椿が叫ぶ間にも、4人の身体は透けてしまってきていた。
「綾・・・お前は俺なんかより余程強い子だ。それに、他人の事を自分1人で抱え込んでしまうくらい、あの椿という子と同じくらいに優しい」
「だから、私達より貴方の事を支えてくれる人が・・・この先きっと現れますよ、椿さんのような」
「でも!それでも!!私は、2人には居なくなって欲しくないんだよ!!」
『もう良い、椿・・・泣くな。そして、憎しみに囚われるな。お主は優しい・・・だからこそ、全てを受け止めてしまうのじゃ』
『俺達では力になれんかったが、きっと綾のように、お前の隣で・・・お前の支えになってくれる奴が現れる』
「嫌だ!!違う!!僕は・・・僕は、2人じゃないと駄目なんです!!」
ボロボロと大粒の涙をみっともなく零しながら私達は必死に手を伸ばすけど、消えていく彼らの身体をすり抜けてしまって触りすら出来ない。
なんで・・・なんで私も椿も、大切な人ばかり失ってしまうの!?嫌だよ、もう駄目だなんて止めて!!
「ムキュゥ!!」
「「えっ?レイちゃん!?」」
すると、4人の身体が完全に消えてしまう直前に、全身傷だらけになりながらも光を発したレイちゃんが飛び込んで来て、4人に向かって自身の発する光を当ててきた。
「レイちゃん、駄目!!」
「皆を、連れていっちゃ――!!」
霊狐であるレイちゃんは、魂を成仏させる事を何としてでも行おうとする・・・。
だから、それで消えかかっている4人も連れて行くのだとばかり思ってしまっていた私達だったけど、光が収まった後には4人の消えそうになっていた身体は元の姿に戻っていて、レイちゃんはヒュー・・・ポスンと、私と椿の膝の間へ落ちてきたのだ。
「へっ?レ、レイちゃん・・・寝て、るの?」
「でも、4人もレイちゃんも無事なら良かっ――」
だけどホッとしたのも束の間、酒呑童子と伊吹は難しい顔で4人の近くへ屈みこんでいた。
「無茶しやがって・・・4人の消滅自体はどうやら、その霊狐が咄嗟に自身の霊気を妖気に変換して、それを直接渡した事で防げたみたいだが、そいつ自身その前でだいぶ力を使ったようだな」
「全ての霊気を妖気に変えて渡してくれたようだね。しかし・・・それでも白狐と黒狐、それに美弥子は復活出来る程の妖気を受け取れてはいないみたいだ。綾のオジサンもとい大地は、人妖だから辛うじて目は覚ますかもしれないだろうけど・・・」
「えっ?つまり、それって・・・」
「まさかだけど、その3人は・・・」
嫌な予感がした私達は振り返って鬼2人に確認するべく振り返るが、彼らは真剣な表情のまま首を横に振ってくる。
「最悪、この3人は二度と目を覚まさないかもな」
「嘘、でしょう・・・」
「そんな、そんなの・・・」
そんなのは、死んでしまった事と殆ど変わらないじゃないか。
どうして?どうして自分の命を捨ててまで、皆は私までをも助けようとしてくれたの?
椿だけだったら、きっと誰も失う事なんて無かったかもしれないのに・・・!
「香苗・・・香苗、起きて。椿も綾も戻ったから、また弄ろうよ・・・ねぇ、起きて・・・」
「「雪(ちゃん)・・・」」
息を引き取り横たわるカナに、いつの間にか雪や美亜、わら子と楓が悲しそうな表情で寄り添っていた。雪に至っては、カナの手を握りながらポタリ、ポタリと涙を流している・・・ごめんなさい。
「カナちゃん・・・白狐さん、黒狐さんに綾ちゃんのオジサンや美弥子ちゃんまで。僕は、僕は無力だ・・・」
「あ・・・あぁ・・・ご、ごめんなさい、ごめんなさいぃ・・・私が、私がもっと・・・うぁぁ・・・!」
「2人共!嘆く前に、此処から脱出する事を考えろ!」
「えっ・・・あ・・・」
「うっ、うぅ・・・!」
しかし、悲しませる余裕すら無いと言わんばかりに、鬼2人の睨む先には最悪な奴らの存在が見えた。
「ふぅ・・・ふぅ、やってくれるわね・・・」
「ちぃ・・・この我が、まだ力が安定せぬか」
「あ〜もう、いったいなぁ!なんで僕達が、こんなダメージを・・・」
「うぅ・・・気持ち悪い、吐きそう・・・うぇぇぇ」
「吐くな」「吐くな」
そう、華陽と幹部の4人が満身創痍になりながらも、私達の方を睨みつけてきていたのだ。
そして、そっちにはもう1人――
「先輩・・・」
「ゆ、くち、先輩・・・」
「・・・」
それでも先輩と妲己さんは何としてでも取り返したい。そんな気持ちを胸に前へ進もうとすると、私達は酒呑童子に後ろ手を前に出されて止められた。
「「酒呑童子(さん)・・・?」」
「落ち着け、椿に綾。伊吹は先程のダメージが大きいし、俺も"酒鬼"の反動で全身が痛ぇ。テメェらも、妖気の使い過ぎでフラフラのボロボロだろうが」
「ぐっ・・・でも、今なら・・・」
「椿、今は諦めろ。妲己の吸い込まれた瓢箪は華陽の尻尾の中だ。それに、先輩とやらも既に駄目だ」
そう言った酒呑童子は伊吹と共に敵に対して身構えるが、向こうは目的は達したからなのかクルリと背を見せて、そのまま立ち去ろうとし始めた。
「これ以上やると、折角捕まえた妲己を奪われる可能性もあるわね・・・。それに、流石にこれ以上時間をかけたら紅葫蘆の中で溶けちゃうかもだし、ここは一度退散するしかないわね」
華陽の言葉に幹部4人や先輩も頷き、同じように逃げの体勢に入っている。
駄目だ、このままじゃ最悪の事態に・・・せめて妲己さんだけでも今は――!
「気持ちは痛い程に分かる、だけど落ち着いてくれ。最悪の事態は、君ら2人も攫われる事だ。今相手が撤退してくれるなら、それに越した事はない」
「伊吹の言う通りだ。椿も綾も周りを見ろ!冷静になりやがれ!!お前らに命を託した奴らは何て言ったんだ!!」
「う・・・ぐぅ」
「あっ・・・うぅ」
「弱いなら、まずは強くなれ。リベンジはそれからだろうが。それと、まだ何もかも手遅れじゃねぇんだ」
酒呑童子や伊吹は私達へ励ましの言葉をかけてくれたけど、華陽が不敵な笑みを浮かべているのが見えて、私の中では不安な気持ちばかりが加速してしまう。
「あはぁ・・・果たして、そのリベンジが叶うかしらねぇ」
「好きに言ってな。彼女の・・・妲己の"神妖の力"を抑えられるならね」
「ふん・・・」
そう伊吹に言われた華陽は、少しバツが悪そうに妖術で身体を浮かせる。
「くっ・・・!」
それに椿が逃がさないとばかりに手を伸ばすが、遠くで徐々に空へ上がっていく華陽達には何の意味も無い。
「それじゃあね〜。今度こそ、貴方達2人の記憶を頂くわ〜」
そして華陽は、9本の尻尾で天井に大きな黒い空間の穴を作り出すと、そこから幹部4人と先輩を連れて、その闇へと消えていってしまった。
――それから十数分後
「っ・・・く、くそ・・・くそぉぉおお!!」
しばらく放心してしまっていた私が我に返ると、そこには悔しい表情を浮かべて地面に拳を叩きつけている椿の姿が目に入った。
天井には先程華陽が作り出した空間によって削られたからか、ポッカリと大穴が開いて漆黒の夜空に今にも消えそうな三日月が霞っぽい雲に隠れようとしている。
狐2人に妲己さん、美弥子とレイちゃん・・・そして、カナと湯口先輩。
この戦いで失ってしまったものは、果てしなく私に辛い現実を直視させる。
「うっ・・・ぐっ・・・うわぁぁぁあん!!」
泣き叫ぶ彼女に、最早私は親友として何の言葉もかける事が出来なくなってしまっていた。
こんな事なら・・・いや、こんな事になってしまうのだと分かっていたのなら、私は椿と友達になろうと、椿を隣で支えようとなんて考えるんじゃなかった。
カナが死んだ時に言われた、雫の言葉が頭の中で反響し続ける。
「あ、うぁぁ・・・ご、ごめんなさい・・・ごめんなさい、皆・・・!」
その罪悪感の重さに、もう私は身も心も押し潰されてしまっていたのだ。