私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第拾玖話 心に積もった雪が融けるように

 

あんな悪夢から、一体どれ程の時間が経ったのだろうか・・・3日かもしれないし、4日かもしれない。

 

しばらくは布団で横たわるカナの隣に座って、また普段の悪ふざけだと、きっと元気に起きる事だろうと待ち続けた。

 

だけど、カナは一向に起きない。

時間が過ぎていくのに比例して私はカナが目の前で貫かれた姿を思い出し、そして心の中で酷く自分を責めた。

 

――どうして彼女を本気で家に帰そうとしなかったのか。

 

――どうして私は一目散に皆を連れて逃げる考えをせず、勝てると信じて立ち向かってしまったのか。

 

――どうして、どうして、どうして。

 

そのうち、私はカナの事を悲しんでいる自分自身が何処か"悲しんでいるフリ"をしている気持ちになって気持ち悪くなり、1度トイレに行って胃の中が空っぽになるくらい吐いて、椿と一緒に寝ていた自室の隣の部屋に閉じこもって何も無い中空を見上げた。

 

そんな事をし続けている間にも、きっとカナの葬儀は終わっていたと思うし、校長先生がクラスの皆に彼女がもういない事を説明したりしたと思う。

 

既に椿も朝に私へ声をかけてから、何かを決心した様子で出かけたようだ。

 

それを少し頭の中に思い浮かべた私は、それでも自分が何をしているのかという自己嫌悪と、どうせ全部が自分のせいだという自己嫌悪で何も動く気になれずに座ったままだった。

 

「あの〜・・・綾ちゃん?流石に、そろそろご飯を食べないと死んじゃうよ?もう椿ちゃんも立ち直っているよ?」

 

「ぅ、あ・・・いらない・・・死にたいし・・・」

 

「なっ・・・ちょっと、綾ちゃん!」

 

申し訳なさそうに食事を持って来てくれた里子へ、私は乾ききった喉のまま無理やりに拒否の返事をする。

 

食事どころか水すらも飲んでなかった事を忘れていたが今の私には、こんな私を心配した所で何にもならないから止めて欲しいという気持ちでいっぱいだった。

 

それに失ってしまったのは、カナだけじゃない。

美弥子や椿にとって大切だった狐2人、そしてレイちゃんも私達を助ける為に妖気を殆ど使い果たしてしまったせいで、二度と目覚めないかもしれない。同じように妖気を使い過ぎたオジサンも、目を覚ましはしたものの、もう戦える身体ではなくなってしまった。

 

心の支えとなってくれていた人達が酷い目に合って、それを"全て自分の行いのせいだ"と信用していた人物から突きつけられれば、幾ら心を強く持っていた私でも心が壊れてしまうのは当然の結果だった。

 

「うぅ、グス・・・ひっぐ・・・!」

 

「綾ちゃん・・・」

 

椿や私の持つ"神妖の力"が非常に危険なものだと理解は出来たけど、それでも・・・あの時、あんな方法しか無かったのかと後悔の"想い"が止まらない。

 

「はぁ・・・まだ綾は駄目な訳?ったく、しょうがないわね〜」

 

そんな気持ちがいっぱいになって涙を零していると、里子に続けて美亜の声も聞こえてきた。

そして、グイとポニーテールの束ねている部分を引っ張られる。

 

「ほらほら、嫌がりなさい。いい加減に立ち直って朝ごはん食べないと、ずっと続けるわよ〜?」

 

「ぅ、ん・・・」

 

だが、心の底から何もかも自分が嫌になっている私の身体は、その美亜の行動に何の反応も起こさない。

 

「あっ・・・え?嘘、ちょっと里子ゴメン・・・バトンタッチ」

 

「はえ!?また美亜ちゃんはぁ!」

 

それにしても・・・1人で寂しく死んでしまいたいというのに、どうして2人はここまでしつこく私に絡んでくるんだろうか?

 

「あ〜もう、じれったいわね!」

 

そんな事を考えていると途端に頬へ強い衝撃が走り、その勢いで私は思わず床に倒れ込んでしまった。それから少しすると頬から痛みが出てきて、ここでようやく美亜に拳で殴られた事を認識する。

 

「アンタ、本気でふざけんじゃないわよ!綾がカナを死なせてしまった事は、きっと私がお母様を喪った時とは比べ物にならないくらいに辛いでしょうね。でもね・・・私は椿や綾みたいな、支えになってくれている人が1人で塞ぎ込んでたら、何が何でも立ち直って欲しいと思っているの!」

 

「そ、そうだよ綾ちゃん!ちょっと美亜ちゃんのやり方は乱暴かもしれないけれど、私も皆も綾ちゃんに生きてもらいたいんだよ!」

 

「ぐ、そんなの・・・2人の勝手――でぇ!?」

 

その2人の言葉で久しぶりに頭に血が上って言い返そうとした瞬間、今度は後頭部を思いっきり蹴られて床に顔をめり込ませてしまう。

 

「綾姉さ〜ん!起きるっすよ〜!!自分に修行つけてくださいっす――って、わぁぁあ!?ご、ごめんなさいっす〜!!」

 

「楓・・・椿の時もそうだったけど、流石にそれは早い。というか、今度は蹴飛ばしてるし」

 

どうやら、楓がパーンと襖を開けて突入した際に私の頭へ足をぶつけてしまっただけらしい。全く、本当に楓は相変わらずだ・・・。

 

一緒に入ってきた雪が、再び座り直した私の前に立ってくる。

 

「綾、悲しいのは分かる。だけど、ずっと沈んでいたって香苗は浮かばれないよ。何の為に、香苗は綾と椿を守ってくれたの?2人に、生きていて欲しいからでしょ?椿にも綾にも、幸せになって欲しいからでしょ?」

 

「う、うぅ・・・そんな事、分かってる・・・分かってるんだ!だけど・・・だけど、そんな事をされて私も椿も、幸せになんかなれないよ!なんで・・・なんで、自分からあんな事を・・・」

 

「うん、それは分かる。ちょっとは自分の事を考えろって、お墓にビンタしたい」

 

「雪、それはバチ当たりそうだから止めときなさい」

 

ピシッと美亜からツッコミを食らいつつも、雪はキッと真剣な眼差しを私に向けたまま話を続ける。

 

「とにかく、私もまだ立ち直ってなんかいない。だけど、香苗の願いを考えたら・・・いつまでも泣いてなんか、いられない」

 

「そうよ、雪の言う通り。今度は私が支えになるから、アンタはいい加減ちゃんとしなさいよ!」

 

雪や美亜の言葉に応えたい気持ちはある。

・・・でも、それでまた誰かを失う事になったとしたら?そんな事になって、また"私が弱かったから何も出来なかった"なんて後悔するのを考えたら、もう何もしたくないんだよ。

 

私は、もう私のせいで誰かを傷付けたくないんだ。

 

「どうやら、だいぶ苦戦しているみたいだね」

 

そして、今度はとうとう顔も見たくない奴の1人も姿を現してきた。

 

一体どうして、伊吹は私の前に普段通りで顔を出せたんだ?

伊吹と酒呑童子が早く来てくれれば、伊吹が酒呑童子に"酒鬼"なんて強い力を発揮させられる手段を提案していれば・・・いや、こんな事を今更責めても、結局カナは生き返らない。これ以上、自分が嫌になる前に考えるのを止めておこう。

 

「今回の事は、本当にすまない。もっと早く、酒呑にアレを使わせる提案をすれば良かったかもしれないけれど、いかんせんアレは酒呑自身に強烈な反動を与えてしまう。その上、敵の切り札も分からなかった以上・・・ごめん。こんな感じだと、まるで言い訳になってしまうね。さて――」

 

伊吹が突然謝ってきた事に私は目を丸くして驚いたが、次の瞬間――伊吹は怒りの表情になって私の胸ぐらを掴んで引き寄せてきたのだ。

皆が慌てて止めようとしているけど、伊吹はそれを意にも介さず噛み付くように言ってくる。

 

「お前は何時まで、そうやっているつもりだ?あぁ?テメェで塞ぎ込んだりするのは勝手だが、お前は誰かに必要とされている事を忘れんな」

 

そして、そのまま伊吹は突き飛ばすようにパッと勢い良く手を離して私を床に転がした。転がった拍子に、鼻が畳に擦れて痛む。

 

「クソ・・・ったく。とりあえず僕は、渡す物があったから来ただけだ。ほら、受け取れ」

 

すると、うつ伏せに転がる私の目の前に伊吹は古い剣のような物体を突き刺してきた。その剣からは凄まじい冷気が発せられていて、見ているだけでも凍り付いてしまいそうな気がする。

 

「これ、は・・・?」

 

「氷雨さんから渡されるようにと頼まれた妖具だ。雪女の一家に伝わる代々の業物らしいが、雪もコイツを綾に渡す事を了承してくれたんだよ」

 

「えっ・・・?」

 

その言葉に驚いて私は雪の方を振り返ると、彼女はコクリと頷いて決心した表情で床に刺さった剣を抜き、それを差し出すように私の前に屈んでくる。

 

「香苗は、自分の全てを込めて遺してくれた火車輪を椿に託した。だから、私は綾に・・・この"氷霰剱(あられのつるぎ)を託すよ」

 

「でも、それは雪の――」

 

「いいの、そんな事は気にしなくて。香苗があそこまでして椿の事を想ってくれたなら、私も綾に自分の全てといえる物を託したい」

 

雪の言葉を受けて氷霰剱を手に持つと、今度は何処からともなく火の粉のような光が集まってきて、私の目の前でカナの形になった。

 

『綾ちゃん、もう自分自身を責めないで。私は、いつでも綾ちゃんと椿ちゃんを見守っているから。だから・・・さっ、立ち上がって!そして、いつもの強気な綾ちゃんで居続けて!私も椿ちゃんも、貴方の幸せを願っているんだから!』

 

そのカナの声に、私の目からは自分の中で抑えていたもの全てを曝け出すようにボロボロと涙が零れ始める。

 

「うぅ、ぅぁあ・・・カナ、本当にごめん、カナ・・・ありがとう、私と椿を・・・あ、あぁ・・・!」

 

もう自分なんか誰にも必要として欲しくなかったのに。自分のせいで死なせてしまったようなものなのに。

 

それでもカナも皆も、私の事を一心に想ってくれている事に涙が止まらなくなる。

 

「うぅ、わあぁぁあ!うわぁぁぁあん!!」

 

酷い顔をして泣いているであろう私に、カナの形をした炎はそっと優しく頭を撫でてくれてから、私の中の――その心に積もった雪が融けるように、形を崩して消えてしまった。

 

ありがとう、そして・・・見ていて、カナ。

 

これからの私に何が出来るのか、それは分からないけれど、今度は・・・今度こそは誰も傷つかないように頑張るから!

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