私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
その翌朝、私は1度自分の髪を束ね直してから、襖を大きく開いて全身に朝日の光を浴びつつ"ある決意"をする。
カナを喪った心の傷は、全然癒えてはいない。まだ、心臓とか身体の内臓全てがポッカリと無くなってしまったかのような気分だ。
だけど雪から渡された氷霰剱を見て私は、昨日の出来事を絶対に忘れないように・・・今度こそ、椿だけでなく他の誰かの助けにもなれるようにという"想い"が、失った心の部分で強く脈打っている感覚を得る。
「う、うぅん・・・っと。まずは腹ごしらえしないと、だね。何か食べないと、気分は落ち込んだままになっちゃうし」
それから私は昨日までずっと着ていた制服から、秋の木枯らしでも寒くない程度の服装に着替えて1階へ行こうとすると、ふと自分の足元に色々と沢山置かれているのが目に入った。
「これは・・・賞味期限が長いタイプのお菓子?まさか、皆が心配して置いてくれたの・・・?」
とはいえ、開いた襖の隅ギリギリに置かれていると、まるで私まで死んだかのような扱いをされている気がして若干複雑な気分になるが。まぁ、それだけ皆を心配させてしまった私も悪いので、ちゃんと後でお礼の言葉を言っておこうかな。
◇◇◇
そして、1階へ降りて皆が朝ごはんを食べていると思う大広間まで来たは良いものの、どう入ったら良いものか・・・いや、ここはいっそ普通に入ってしまおう。皆に謝ったりするのは、ひとまず朝ごはんを食べ終えてからだ。
自分の場所に座って"いただきます"をしてから食べ始めながら、私は皆の様子を確認する。
「しかし、このタイミングでセンターも甚大な被害を受ける事になるとはな。やったのが亰嗟得意のスパイなのは間違いないじゃろうが・・・儂らが出払っている時に襲撃をかけてきたのならば、滅幻宗と手を組んでいたとしてもおかしくはないの」
全身包帯だらけとなった椿の爺さんが、鴉天狗の黒江さんから食べさせてもらいながら訝しげな表情を浮かべている。
なるほど、妖怪センターも・・・って、おいおい待て待て。それって、いつ襲撃があったんだ?まさか、私や椿が塞ぎ込んでる時に・・・?
その話が気になって、椿の爺さんの方に集中しながら私はモッキュモッキュと里子が用意してくれた朝食を口に入れていく。
何か私のだけ豪華な感じもするけど、全然食べてなかったせいもあってペコペコだった私のお腹にとって、今は丁度良いくらいの塩梅だ。
「さて・・・センターの話はひとまず置いておくとして。美亜よ、今日の学校の様子はどうじゃ?」
「相変わらずよ、相変わらず。皆暗くてやってらんないわ」
「椿も修行に行っちゃったし、余計暗い」
マージか、そりゃ参ったな・・・椿が修行で居ないとなると、どれだけクラスの皆が暗い事か――
「って、えぇぇぇえ!?い、いつ行ったんだよ椿は!?」
「「「「綾!?」」」」「「「――ちゃん!!」」」
「・・・えっ?」
嘘でしょ?まさか皆さん、今の今まで私が大広間で一緒に食べてた事に気づかなかった感じ?
「あの〜その・・・むぎゅん!!」
な〜んて一気に皆の視線が集まった事に困惑していたら、その途端に皆はワッと一斉に抱きついてきたよ!「綾ちゃん」「綾ちゃん」と我先にのしかかってくるんじゃない!
「だ〜もう!皆・・・ちょっと1回落ち着け〜!!」
「「「きゃあ!」」」
何とか妖異変化で儀礼衣装を展開して、その勢いで皆の熱意あるホールドから脱出出来たけど、結局分からない事だらけなのが落ち着かないよ・・・。
◇◇◇
数分かけて皆を落ち着かせ、朝ごはんを食べ終えた私は、皆1人1人から色々な事を聞かれながら食後の茶をゆっくり飲んでいた。
皆の話によると、どうやら椿は昨日の朝に酒呑童子へ強く頼み込んで修行の旅に出たみたいだ。なんというか私だけが皆に置いていかれたような、少し寂しい感じがする。
「――しかして、綾よ。お前さんも、もう大丈夫なのか?」
「はい・・・完全に大丈夫、って訳ではないですけれど。それでも、雪や美亜達が私の事を心配してくれているんで。それに、きっとカナも私が立ち直って椿を・・・皆を支えて欲しいと思ってくれている気がしたんです」
そう言って、私は狐2人の居ない隣に置いていた氷霰剱を手に取り、それを優しく握る。
「だから、私は前を向いて進みます。いつも通り・・・には戻れないかもしれないけど、皆から託された"想い"があるから、それに応えたいんです」
「むぅ・・・それなら良い。センターだけでなく学校も襲われ半壊状態だが、生徒達は八坂のお陰で無事だ。それでも、儂らが完敗した事に変わりはないがな・・・」
椿の爺さんから発せられた"完敗"という言葉が私の心に重いものを感じさせるが、だからといって諦めるのはまだ早い。
「椿の爺さん。確かに今回は完敗だったけれど、まだ相手は真の目的を達していないです」
「うむ、椿からも同じ事を言われたわい。次に相手が狙うのは、恐らく妲己の身体。そして、その在処を知る椿と綾の記憶じゃ。それを狙ってくると踏んだ以上、儂らは――」
「私を此処に閉じ込めておく、って訳じゃないですよね?」
「ぬぐっ・・・お、お前さんもか・・・」
"お前さんもか"なんて言ったって事は、多分椿にも同じ事を言って私と全く同じ反応されたって事だよね。
皆の気遣いは確かに正しいし嬉しいけど、そのせいで此処が襲われて皆が殺されたりなんかしたら私は嫌なんだ。
それを避ける為にも、私は――
「あっ・・・ところで、オジサンは?」
「ふむ。奴なら昨日の夜、酔っ払った星熊に引っ張られて酒のツマミを買いに出たままじゃが」
えぇ・・・なんで伊吹さんは、よりにもよってこんなタイミングで買い物に出かけたんですか――なんて思ってたら丁度、大広間の襖が開いて酒臭い匂いと共に伊吹がベロンベロンな様子で帰って来たよ。
「うっぷ・・・かへったよ〜。酔い覚ましになるもん、ないきゃい?」
うわぁ、こんな酷い酔っ払い方してるの初めて見たわ。というか、オジサンも疲れ果てた感じでグッタリしているし、もしかして一晩中飲んでたのか、この人は?
「うん?おぉ〜!やっろ立ち直っらんらね!」
「でい!」
「どわんご!?」
ぶっちゃけ伊吹に用事は無いので当身で一旦気絶させました。そして、そのまま私は真剣な顔でオジサンの方に振り向く。
そして、その"決意"を言葉にした。
「オジサン・・・私に、修行を付けて」
「う、ううん・・・?」
「「「「なっ!?」」」」
その私の突然の言葉に、何故か大広間に居た皆は一斉に驚きの声を上げてキョトンとしてしまっていた。4つ子の守護の龍花さんの驚きぶりが特に凄く、カタカタと湯呑みを手に持ったまま震えて盛大に中身の茶を零しまくっている。
「ちょっ・・・待ってください、綾様!修行なら、私達が!」
「うん、ありがとう虎羽さん。でも、貴方達だってわら子を守らないといけないんでしょう?それに、私は滅幻宗の――いや、妖魔人となったアイツら4人に勝てるだけの力が欲しい。だから、その為には・・・」
再び私がオジサンの方を見ると、椿の爺さんは納得したように頷いてくる。
「なるほどの。確かに、妖具を使った戦闘経験と実力から言えば、今あの妖魔人とやらの強さに対して1番修行で頼りになるのは、お前さんの叔父である大地じゃろうな」
椿の爺さんの言う通りだ。雪と氷雨さんから託された妖具を使う以上、それを最大限活かす方法を知っているオジサンが、今の私の修行には1番必要な存在だ。
オジサンは今も宇宙服のようなバイザーを着けてはいるけど、そこから感じられるプレッシャーは確実に私の事を試している眼差しのものだ。
「そうか・・・ならば――ふっ!!」
「えっ――うわぁっ!?」
すると、オジサンは途端に私の目の前へ瞬間移動したかと思うと、綺麗な動きで片手のみを使って一本背負いを決めてきたのだ。
咄嗟の事だったせいもあって受け身を取れず、私は激しく大広間の床にバウンドさせられてしまう。
「オ、オジサン!いきなり何するんだよ!?」
「悪いが、綾。俺は"今のお前"に修行を付けるかどうか、まだ悩んでいる。1つ聞こう、お前は何故強さを求めたい?それをハッキリさせられない事には、俺は綾に修行を付ける事は出来ん!!」
「どわぁぁ!そう言いながら投げようとしてくんなって〜!!――妖異変化"烏鳩"!!」
オジサンの掴もうとする手を避けながら、その質問に私は儀礼衣装へ妖異変化しつつ答える。
「私は、椿や皆を守りたい!そして、妲己さんも先輩も助けて――くぅっ!?」
「そんな表面上の建前だけで、俺の目を誤魔化せると思ったか?綾、もっと自分の本心を曝け出せ!!」
「うっ、わわっ!?」
戦えない程に消耗していると聞いていたのに、オジサンに一瞬で真後ろへ移動され、私は再び一本背負いを決められてしまう。
「くっ、大地様!これ以上は綾様が――って、座敷様?何故止めるのです!?」
「ううん、良いのこれで・・・綾ちゃんには、このままやらせてあげて。それに綾ちゃんのオジサンも、あの子の事をシッカリ考えながら戦ってくれているよ。皆も、そのつもりで見ているんでしょう?椿ちゃんが、酒呑童子さんから試されていた時と同じように、綾ちゃんの事を信じているって」
わら子が龍花さん達を諌める姿に少し嬉しい気持ちになっていると、そこへオジサンが何処から取り出したのかトンファーを持って、まだ攻撃に慣れてない私へ更なる追い討ちをかけてくる。
「わっ・・・とと、自分の本心って?何を言っているんだよ、オジサン!私は真剣に――ぐっ!?」
「そういう心の油断が、敵に付け込む隙を与えさせる。お前が俺に教えを乞いたい理由は、そんな生半可な気持ちじゃあないだろう!!」
「ぎっ・・・あぐ、くぅ!!」
そして、オジサンは私が身構えようとした瞬間に懐へ入ってきて、3度目の一本背負いで床に叩きつけられてしまい、仰向けになっている所にトンファーの柄で殴ってくる。
投げられまくったせいで身体のアチコチは痛いし、トンファーの一撃一撃も耐えきれないくらいにキツい。
だけど、私の本心は・・・私が本当に強くなりたい理由は――!
「そんなの決まってる!私は・・・私は、もう何も失いたくない!その為には暴走するような力じゃない、もっと誰かを守れるだけの・・・それが出来るだけの大きな力が必要なんだ!」
「それが本心か・・・違うだろう、綾。お前が本当に必要としているものは、そんな単純な力だけなのか?」
そのオジサンの言葉に、カナを守れなかった事や色々な事に対する悔しさで泣きたくなる気持ちを必死で堪えながら、私は立ち上がる。
「私は・・・もう迷いたくない。"あの時こうしていれば"とか"そこをああしていたら"なんて、そんな気持ちを振り切れるくらいの・・・そして、"神妖の力"を完全に扱えるようになるくらいに、心も身体も強くなりたい!」
すると、オジサンは攻撃の手を止めて、近くに屈んで私の頭を優しく撫でてきた。
「なるほど、それがお前の答えか。良いだろう、ならば俺も綾の為に最善の全てを尽くす。だが・・・俺の修行は、今まで以上に厳しいぞ」
「うん!ありがとう、オジサン!」
その後、やはりオジサンは結構な無理をしていたらしく、立ち上がろうとしてガクリと転びそうになっていた所を皆に支えられていた。
そして・・・私の心を試す為に、あんなに身体を張ってくれたオジサンの期待を裏切らないよう、これから私も折れない気持ちを胸に頑張らないと!