私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
第壱話 新たな私の日常
――それから半年経った現在
年を越え、初春も過ぎたばかりの寒さが残る妖界の稲荷山の森の中で、私はオジサンが放った大きなハヤブサの姿をした式神を追いかけている。
「はぁ、はぁ・・・流石、オジサン自作の式神だ・・・凄く早い・・・けど!」
そして、私は走りながらも足場になりそうな木々に目星を付け、素早くそれらの枝を踏み台にジャンプしてハヤブサ型の式神を氷霰剱で叩き落とした。
修行を始めたばかりの頃は、これを1度振っただけで妖気がスッカラカンになる程に冷気へ変換してしまっていたが、今は――
「凍てつけ!凍風斬(とうふうざん)!!」
数回これを振っても妖気に余裕を残せるようになってきた。それに麒麟甲から"神妖の力"を使う時も、そう簡単には暴走しないくらいに力を抑えられるようになっている。
「さて、残る数は・・・3体か。ちょっと疲れてきたけど・・・まだまだぁ!!」
妖怪スマホで他の式神の妖気を確認し、再び私はそれらを捕まえる為に走り出す。
◇◇◇
「オジサ〜ン!式神全部捕まえてきたよ〜・・・って、あら?居ない?」
稲荷山を駆けずり回って全ての式神を巻物に封じた私は、椿の爺さん家でオジサンの居る裏庭の作業場へ戻ってきたものの、そこには誰の姿も無く作業机の上に"伊吹の画材の買い出しに行ってくる"と書かれた置き手紙があっただけだった。
「マージですか・・・めちゃくちゃ執筆捗ってるみたいだな」
最近、伊吹の専属アシスタントが辞めたって言ってたっけ。
それで次のアシスタントさんが見つかるまで、オジサンが代理で色々やりながら、私の修行も付けてくれるというんだからとんでもない話だよ。
「それならとりあえず、1人で修行・・・かな」
そう、これが私の新たな日常。
オジサンが伊吹の代理アシスタントを務めるようになる前までは、体力作りやら色々と見てくれていたんだけど、最近はこうして稲荷山全体に結界を張って、その中へ放った動物の形をした式神を日が暮れる前までに捕まえる修行や、竹刀の素振りと座禅で私自身の妖気のバランス調整みたいな精神集中の修行を繰り返している日々だ。
とはいっても、最初の方は正しく地獄みたいな感じだった。
真冬の山であちらこちらを全力疾走させられるわ、急斜面でデカいゴムまりっぽい式神に追いかけられながら山を駆け上がったり駆け下りたり・・・。
なんで今更こんな古そうなスパルタ修行を、と1度オジサンに質問すると、どうやら人間の生活をしてきた私には元々妖怪と戦えるだけの最低限な基礎しか備わっておらず、これでは龍花さん達4人から教わった戦闘技術も活かしきる事が出来ない、という理由だそうな。
それを聞いて、確かに幾ら小手先の技を使えるようになったからといって、それで全ての敵と渡り合えるかと言えば難しい話だと納得したよ。
「ふぅ・・・素振りのノルマ、終わり。よし、今度は座禅だ」
竹刀による素振りを終えた私は、次に庭の少し大きな池の中央にある岩へ飛び移って、そこで座禅を組んで精神を集中する。
そして、それと同時に静かに、ゆっくりと身体の中に感じる妖気を上げていく。
「う・・・う〜、くっ・・・」
だが、ここで私の妖気について問題になってきているのは、それだけで"神妖の力"が溢れ出してきてしまうようになってしまった事だ。
オジサン曰く、"鈍色の狐"という妖異変化を1度顕現させてしまったせいで、どうやら私の身体に流れる妖気の動きが大きく変わっているのだとか。分かりやすく喩えるとすると、今までの私の身体は「電化製品の部品に別なメーカーのパーツを無理やり突っ込んで動かしていたようなもの」らしい・・・ヤダ何その喩え、ちょっと怖いんですけど。
とにかく、"私は私だ"と強く意識しながら妖気を徐々に上げていく・・・だが。
「だ〜クッソ〜!限界だ、限界!もう抑えないと、抑えないと・・・ふぅ、ふぅ〜」
今の状態だと"神妖の力"を解放したまま出来る事は、麒麟甲で4回の神術を、氷霰剱の力を加えて強化した妖術でも10回くらい使ったら暴走してしまうかもしれない塩梅だ。
少しずつ慣れてきたとはいえ、まだまだだね・・・。
最初の頃こそ、妖具無しの状態でも妖術を2回3回使っただけで"神妖の力"が暴走してしまっていたし、ここまで半年で成長出来たのは良い事なのかもしれないけど・・・それでも、滅幻宗の幹部や華陽の力には、まだ遠く及ばない。
「綾ちゃん、今日も頑張ってるね!はい、差し入れのお菓子だよ!毎日お疲れ様〜」
「おっとと・・・ありがとう、里子」
そんな事を考えていると、池の近くで里子がイチゴ大福を持ってニッコリと笑顔で様子を見に来てくれていた。
私はピョン、と池の岩から里子の方へジャンプして、彼女の持っている皿からイチゴ大福を貰って口に入れる。イチゴの甘酸っぱさ、こし餡のまったりとした甘さが口の中で一纏まりになり、その美味しさについつい私も笑顔になってしまう。
「あんなに大変な事が立て続けに起こって、一時はどうなっちゃうのかって思っていたけれど、こうして綾ちゃんが色々頑張っているのを見て、翁の家の皆も元気が出てきてるみたい。これも全部全部、本当に綾ちゃんのお陰だよ・・・ありがとう」
「た、たはは・・・私は私なりに、自分で強くなる為に頑張ってるだけだからさ。なんというか、そうハッキリ言われると歯がゆい気分だよ」
その里子の言葉で、つい照れ臭くなって頭を掻いていると、今度は屋根の上からも声が聞こえてくる。
「本当、いつも精が出るわね〜毎日毎日。普段から妖異変化して、その儀礼衣装で過ごしているんでしょう?」
「これもオジサンの修行の一環だよ、美亜。珍しいね、私の方に自分から来るなんて。」
そっちの方へ振り返ると、屋根の上で美亜がナメクジみたいな妖魔を引きずって立っていた。
「綾!アンタが山に篭もって修行している間、私もそれなりに修行を色んな人から受けてきたわ!」
「ほーん・・・じゃあ、ここに来た理由は"そういう事"?」
「分かっているなら話は早いわね。勝負よ、綾!今の私とアンタ、どっちが強いか実戦形式での1対1よ!」
そして美亜は持っていた妖魔を投げるようにして里子に押し付け、私が口に入れていた大福を飲み込むのを確認してから飛びかかって攻撃してきた。
「たぁっ!」
「よっ・・・と、脇が甘いよ!」
それを私は精神修行をしていた岩に飛び移りながら回避し、そこへ置いたままにしていた氷霰剱を逆手に持って妖術を発動しながら振るう。
「妖異顕現、緊急祭繰龍【斬魔】!」
「ちょ・・・きゃあ!?いきなり危ないわよ!!」
吹き飛ばす程度の威力に抑えて氷霰剱から放った風の刃を、美亜はビックリした猫が飛び上がるかの如くジャンプで避け、そのまま屋根から私の真後ろへ着地してくる。
「隙あり!――って、嘘!?背中を剣で防御するなんて!」
「おっと!そう簡単に後ろを取れると思ったら大間違いだよ!」
美亜の不意打ちを防御して、そこから大きく飛び退いて美亜が先程まで居た屋根の上に上がる。
「続けていくぞ、妖異変化・・・"怒髪天・朱雀"、展開!!」
そして、そう叫んで私は身体に妖気を巡らせ、既に展開していた儀礼衣装"烏鳩"の色を紅く変えていく。
「えっ、何よそれ!?初めて見る奴なんだけど!?」
「これが修行で使えるようになった新しい力、私自身の感情を四神の力に変化させて儀礼衣装にする"喜怒哀楽の神化身術"だ!」
美亜は驚いたまま立ち尽くしてしまっているけど、この姿をオジサン以外の誰かに見せるのは今回が初めてだから、そりゃビックリして当然だよね。
だけど・・・今は模擬戦の真っ最中だ!
「見とれてたら火傷するよ!妖異顕現、火雷神の気砲(ほのいかずちのかみキャノン)!!」
「ネーミングセンス悪いわよ――って、きゃぁあ!?ア、アンタ殺す気!?」
「あ、ごめん!出力調整ミスった!」
ちょっと格好付けて"怒髪天・朱雀"で新しく覚えた妖術を撃ってみたけど、ウッカリ美亜を丸焼けにしてしまいそうな極太ビームが出ちゃったわ。
それと、この妖術・・・美亜がネーミングセンスが悪いと言ってたけれど、これでも名前を考えたのは私だよ?色んなネーミング本を参考にしたから、結構カッコイイ名前だと思うんだけどな〜。
――と思っていた、その時。
「あだぁ!?え・・・あっ、オジサン!?」
「全く、綾は・・・自分で修行をするのは良い事だが、勝手に翁の家で模擬戦をするなと言ったばかりだろう」
「い、いやいや!今回は美亜が持ちかけてきた試合なんだって!だからノーカンだよ、ノーカン!」
突然私がオジサンに頭の上からゲンコツを落とされた事で、美亜も里子もポカーンとした顔になっちゃったよ。
「それでも翁の許可無く勝手に受けたら、駄目な事は変わらないぞ。さて、そろそろ夕食の準備だ」
「うわっ、もうそんな時間!?それじゃあ、急がないとだね!」
「ふっ・・・料理の修行も頑張れよ、綾」
「あい合点承知之助でござい!里子、今日もご指導ご鞭撻お願いします!」
「はいは〜い。うふふ〜綾ちゃんったら可愛いな〜」
そして、最近じゃ戦闘の修行だけじゃなくて、里子に妖怪食の料理も教わり始めたんだ。
因みにこの修行は、私が皆の為に1つでも出来る事を増やしたいって自分から里子に弟子入りしたのが切っ掛けだったり。
いつか帰って来る椿を再び支えられるように、私も色々と出来るようになりたいんだ。