私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
龍花さん達に連れられて、西京極の運動公園で無事だった妖怪さん達と一緒に全力で遊んだ僕は、何故かヘトヘトになっている龍花さん達と、玄葉さんの腕でスヤスヤと眠っている菜々子ちゃんと共に家へと帰ってきました。
妖気を使っての鬼ごっこやドッジボールとか楽しかったので、そういうのが得意そうな綾ちゃんが結局来れなかった事が残念だけど・・・普段は僕が家の仕事をやっているので、今回は丁度良く息抜きになりました。もし次に遊べる機会があるなら、今度は綾ちゃんとも一緒に遊びたいです。
そんな事を考えながら、おじいちゃんの家の玄関に足を踏み入れた途端――
「きゃわっ!?」
「はい、アウト〜。椿、てめぇ今のは油断し過ぎじゃねぇのか〜?」
「いや・・・気分良く帰ってきた人に対して、これは不意打ち過ぎだと思います」
いきなり足に蔦が絡まってきて、対応出来なかった僕はそのまま宙吊りにされてしまいました。本当、酒呑童子さんは何時何処でも修行モードなんですから困ります。
すると、今度は酒呑童子さんの後ろから美亜ちゃんが出てきました。
「ふん、甘いわね〜椿。味方がいつ敵になるかも分からないのよ。それはアンタが痛い程に分かっているでしょう?」
「うん、分かっているよ美亜ちゃん。それでも信じる心を捨ててしまったら、誰だって簡単に悪へと堕ちてしまうんです」
そう僕が答えた時、いつの間にか僕の後ろには綾ちゃんが居て、ポンと優しく肩を叩いてくれました。
「椿の言う通りだよ。信じるって事は、それだけでも強く心を支えてくれる力になるんだ――っでぇ!?伊吹さん!その不意打ちはズルいだろ〜!!」
「ふっふふ、そうやって油断してる方が悪いのさ。まぁ、僕や酒呑が教えたように"心の善悪"のバランスが重要なのは確かだね」
「なるほど・・・タメになります、伊吹さ――きゃうっ!?」
「とはいえ椿も綾も、すぐに対処していれば今の石ころだって避けられたハズだがなぁ?」
「「ぐぬぬ・・・」」
これには僕も綾ちゃんも反論出来ませんでした。
でも、今日の僕は――いえ、言い訳は駄目ですよね。"どんな時であっても警戒は怠らない"、それが僕と綾ちゃんが酒呑童子さんや伊吹さんから教わった、とてもシンプルでいて難しい心構えの1つなんですから。
「ま、という訳だ。今日の晩飯、お前も手伝ってやれよ〜」
「ん?どういう事ですか?もう里子ちゃんが作ってくれているんじゃ・・・」
その含んだような酒呑童子さんの言い方に僕がキョトンとすると、何故だか綾ちゃんが申し訳なさそうな顔で"ゴメン!"といったジェスチャーをしてきました。
「その里子がさ、昨日の任務で相当ヘトヘトになっちゃって料理を作れないんだよ。そんで、今回は私が普段から世話になってる皆の為に夕飯の準備をしてたって状況なんだ〜」
「えぇ!?それじゃ、お見舞いを・・・」
「その前に椿、アンタは私達の夕飯を作るように言われたでしょう?どうにも綾以外じゃ、里子のやっていた分すら手が回らないみたいでね。それでも綾1人じゃ夜遅くまで時間がかかっちゃうって感じだから、酒呑童子が手伝わせるように言ったのよ」
「そ、そうなんですか・・・」
だったら、もっと早めに連絡は欲しかったです。
日が暮れる前には帰って――いや、日が暮れてから大して時間は経っていませんし、手の込んだ物で無ければ僕でも副菜の1つや2つは作れますか。
それに、ご飯やお味噌汁は既に綾ちゃんが纏めて作ってくれていたようですからね。
「全くもう・・・こんな事をされるくらいなら、僕だって最初からちゃんと言ってくれれば作りましたよ」
「がっはっは、それだと修行の意味がね〜だろ〜がよ〜椿」
「酒呑童子さんは隠しておいたハズの酒を飲まないでください!」
本当に酒呑童子さんったら、お酒の匂いや気配さえあればすぐに見つけて飲んでしまうんですから困ります。少しは自分のお金で買っているからとはいっても、普段から沢山飲んでいたら健康にも悪いですよ。
――それから少しして、台所にて。
「それで綾ちゃん、今日は何人分作れば良いの?」
「とりあえず椿と仲が良い人達は皆、椿の手料理を食べたい〜って言ってたからね。そうなると、大体10人くらいかな。あっ、ついでに言っとくと白狐さんと黒狐さんが真っ先に手を上げたから、気合い入れて作るよ!」
「全く、白狐さんと黒狐さんってば・・・そんなに僕の手料理を食べたいんですね。分かりました、綾ちゃん。それなら、1つ1つ作っていたら時間がかかっちゃうから、僕と綾ちゃんでそれぞれ大皿の物を1つ作って、その他の料理はお魚で何か作りましょう」
「了解だよ、椿。後は、誰か時間を測ってくれる人が居れば、材料を刻んだりする余裕が出来て助かるんだけど・・・」
すると、そう言った僕の後ろから美亜ちゃんの声が聞こえてきます。
「それなら、私がやるわ。アンタ達2人は安心して、自分の料理に専念しなさいな」
そして、美亜ちゃんに続いて給仕係の妖怪さん達や氷雨さんも心配そうにしながら台所へと入ってきました。
「椿ちゃんも綾ちゃんも、大丈夫?何だか心配だから、皆無理してでも手伝うって言ってくれてるわ」
「んっ・・・大丈夫です、氷雨さん。ご飯とお味噌汁は綾ちゃんが作っておいてくれたので、おかずぐらいなら僕達だけでも何とかなります」
心配そうに見守る氷雨さん達の視線を受けながら、僕はサーモンみたいなお魚さんを、綾ちゃんはコイみたいなお魚さんを、妖怪食専用の冷蔵庫から手に取ります。
僕と綾ちゃんが手に取った魚は、どっちも切り身の見た目や味は似ているけれど、魚としての形が結構厳つくて強そうな雰囲気があるんですよね。でも、そんな姿とは裏腹に小骨は少ないし、身も驚く程に箸でほぐし易いので不思議です。
ちょっとばかりそんな事を考えながら、僕はアルミホイルでお魚さんをエリンギ等のキノコと一緒に巻きます。そして、それを沢山の妖怪さんの料理を作る台所ならではな大きな蒸し器に入れて、準備完了です。
「美亜ちゃん、時間見ててね〜」
「え、えぇ・・・というか、椿。アンタ、綾と同じくらい手際が良いわね。昔は2人共、跳ねまくる魚料理に苦戦していたのに・・・」
「美亜〜、それ何時の話だよ?」
そう言いながら、綾ちゃんはコイみたいなお魚さんの頭をべシッとまな板へ強く叩き付けて動かなくしてから、頑丈な陶器で出来た蓋付きの器に突っ込んでいました。あの作り方は多分、海外で言うアクアパッツァですね。
こんな風に食材が妖気を持っているので、調理する時でも油断していると大変な事になっちゃったりします。
さて、魚料理の方は何とかなりましたし、もう1品くらいなら簡単な物は作れそうですから作ってしまいましょう。
「ほいほいっと・・・!後は、炒める材料の順番に気をつけるだけですね」
そうして僕は白狐さんの力を解放して、油を敷いたフライパンでチャチャッと、お肉多めケチャップと卵メインの洋風チックな野菜炒めを作っていきます。
これも材料の特徴に注意していないと、それぞれが熱がってるかのように跳ね回るけれど、逆に言えば勝手に混ざってくれるので時と場合によっては便利です。丁度、僕が作っている野菜炒めみたいにね。
「ちょ、ちょっと綾!アンタこのエビ、衣を付ける前まで冷水に入れてたの!?そんな事したら油に入れた瞬間に跳ね回るわよ!!」
「そんな心配すんなっての、美亜。それくらい、私が鍋蓋で無理くり外に出ないようにするからさ――っとぉ!そいっと!」
わぁ〜綾ちゃんも僕と同じように、活きのいい食材の特徴を利用してエビフライを作ってますね。
ポップコーンみたいに跳ねてくるエビを、器用に鍋蓋で跳ね返して油へ戻していますよ。
「っていうか、椿!アンタも袋に材料を入れて回したでしょ!アンタのフライパンの方も凄く跳ねってるわよ!?」
「あっ、僕の方も大丈夫です。蓋を使って防ぎますから・・・よっ!ほっ!」
「それ、アンタ達にしか出来ないわよね!?2人共、全ての食材が暴れだしてるわよ!?」
「だぁ〜うるさいなぁ!料理に集中してんだから今は話しかけな――あっ、やべ!」
「ちょっ――あっつぅい!!」
あらら・・・綾ちゃんがエビフライを1匹跳ね返しそびれて、美亜ちゃんのおでこに乗せちゃっていましたよ。猫の額は狭いって言うけれど、こうして見ると美亜ちゃんのおでこって意外と広いですね。
「ほ、本当に大丈夫かしら・・・」
そう氷雨さん達は心配しているけれど、これでも僕と綾ちゃんは料理に手馴れているので大丈夫です。
それにしても、何か今日の綾ちゃんは何時にも増して真剣な様子で料理していますね。これは僕も負けてられないよ。料理の腕で白狐さんと黒狐さんに喜んでもらえるのも兼ねて、ね。