私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

302 / 390
第参拾弐話 十極地獄

 

あんなに頑丈な身体をしているオジサンが、まさか一撃で吹っ飛ばされて起き上がれなくされてしまうなんて。それに、元々は部下だったハズの丘魔阿すら簡単に殺そうとするなんて・・・あの鬼は今までの敵と比べても華陽と同じくらいに常軌を逸している。

 

あれが、酒呑童子に破門されたという昔の弟子、茨木童子の力なのか?

 

平安時代の貴族の男性みたいな帽子や服装をしていて、背たけなんか私と椿より少し高い程度なのに・・・なんて圧倒的過ぎる威圧感を放っているんだ。

 

すると、完全に気圧されている私達とは対照的に、酒呑童子は心の底から怒りを吐き出すような怒声を茨木童子にぶつける。

 

「テメェ・・・半妖だろうと昔の馴染みだろうと、使えない奴は容赦なく殺すのか?それで良く"俺の意志を継ぐ"なんて言えるよな!あ"ぁ!?」

 

「私の・・・いや、貴方が目指していたもの。その計画が捻れるかもしれないのなら、そこに同族も何も関係ありません。目的の障害となるならば例え同族だろうと簡単に殺す、人間も同じでしょう?」

 

そんな私と椿でも初めて見るような酒呑童子のキレっぷりに、茨木童子はさも当然かのようにピシャリと言い放つ。

 

確かに、茨木童子の言う事には一理あるかもしれない。でも、だからといって無闇に殺すなんて普通の価値観じゃないよ。

 

「もういい、話すだけ無駄だ。テメェは計画の事しか頭に無くて、巻き込まれる周りが見えちゃいねぇ」

 

「失礼ですね、かつての弟子に向かって。私はちゃんと見えていますよ、人間界と妖界を入れ替えた後の事もね」

 

酒呑童子と茨木童子のプレッシャーにビリビリと空気が振動し、すぐにでも互いに飛びかかって激しい戦闘が始まりそうだ。

そんな中でも茨木童子は私と椿を何度か見て、隙あらばと何かを仕掛けようとしている。

 

そして、ふと気を抜きかけた瞬間に椿の後ろからロープが迫ってきているのを見つけた。

 

「くっ!あっぶねぇ〜!」

 

「なるほど・・・文字通り、一筋縄ではいきませんか。では、ちょっと・・・」

 

茨木童子は、私が縄を風の妖術でズタズタに切り裂いたのを見て少し驚いたかと思うと、今度は一瞬で酒呑童子の前から姿を消す。

 

「椿!そっちに茨木童子が!」

 

「綾ちゃん、大丈夫!分かってるよ!狐狼拳!!」

 

「おっと・・・中々に反応が良い。私と同じ師に鍛えられたのですから、当然ですけれどね」

 

後ろから不意打ちしようとした茨木童子に椿は炎を纏った拳で攻撃するけど、スッと立てた右人差し指で簡単に受け止められてしまった。

 

だけど、今そっちが戦っているのは椿だけじゃないよ!

 

「稲妻雷霆蹴!」

 

「ぬぅ!?そういえば貴方も居ましたか!」

 

椿の拳を受け止めて隙だらけな横っ腹に蹴りを入れたのにも関わらず、それでも茨木童子は左手で器用にガッシと私の雷を纏った左脚を掴んで止めてくる。

 

「くっ、なんて強い!」

 

「惜しかったですね。2人を一度に相手するのも面倒ですし、貴方には向こうへ――」

 

「向こうに行くのは、そっちです!!」

 

そのまま私は茨木童子に投げられそうになってしまったけど、その一瞬の隙を突いた椿が尻尾を巻き付けて、逆に相手を酒呑童子の方に投げ飛ばしてくれたお陰で助かったよ。

 

「おぉっ!?」

 

「ナイスだ、椿!おらぁ!!」

 

そして酒呑童子は飛んできた茨木童子に真っ直ぐ直撃させるパンチを繰り出すが、またしても茨木童子は姿を消して彼の真後ろに移動していた。

 

「な、なんつ〜手品してんだよ・・・あの酒呑童子のパンチ、確実に当たると思ったのに!」

 

「空中に投げ飛ばされているのに避けられたなんて、まさか何かの妖具を・・・?」

 

そう私達はコンビネーション攻撃を簡単に捌かれた事を訝しんでいると、茨木童子はおもむろに雷獣の方へ振り返る。

 

「ふむ・・・なるほど。流石に私でも、3対1はキツいですね。雷獣さん、センターの人達を使って3人を捕まえてください」

 

「何故だ?」

 

「おかしな事を言いますね。この3人は、無許可で活動していた例の偽センターの者でしょう?現センターとして、違法者は捕まえ――」

 

だが、その茨木童子の言葉に対して雷獣はフンと勝ち誇ったような表情を浮かべだし、茨木童子の周囲をセンターの妖怪達で取り囲んだのだ。

 

あ〜っと、これは・・・まぁ、予想していた通り?

勝手に潜入した私達の事以上に、亰嗟を何とかしようと意気込んでたっぽいし。

 

「・・・やれやれ、やはりこう来ましたか」

 

「当たり前だ。お前らと手を組んでいたのは、そっちの妖具を掠め取る為でしかない。だから、これ以上の狼藉は許可しないし、センターはテメェらのモンじゃねぇ!」

 

雷獣は怒りを露わにした様子で、そう茨木童子に叫んだ。

 

しかし、そんな数的不利な状況になっているのにも関わらず、茨木童子は不敵な笑みを浮かべている。

 

「――いいえ、私の物です。少し時期早々ですが時間も無いようですし、仕方ありませんね。本当は、記憶の戻った貴方達2人を手に入れてからにしたかったのですが」

 

そして私と椿を再びチラと見たかと思うと、そのまま懐から黒い漆塗りの横笛を取り出して、それの音色を吹き出し始めたのだ。

 

「ぐっ、何なんだ・・・この音色?聴いてると、頭の中が気持ち悪くなりそう・・・」

 

「綾!椿!しっかりしろ!全員、耳を塞げ!!」

 

「酒呑童子、さん・・・くっ」

 

その笛の音色は鳥のさえずるような細く綺麗な音色ではなく、まるで夜闇に潜む凶暴な獣が呻くような禍々しくおどろおどろしい音色だ。

 

酒呑童子の言葉通りに耳を塞ぐと、何とか頭に巡っていた気持ち悪さは薄れてきた。しかし、今度は足元から地響きが鳴り出し、感じた事のない"何か"の気が下から溢れてくる。

 

「ちっ!それを止めろ、茨木童子!まさかこんな所で使うなんざ、何考えてやがる!」

 

すぐさま酒呑童子が動けない私達に代わって茨木童子へ飛びかかったが、またしてもヒラリと簡単に避けられてしまい、地響きと下から溢れてくる気が激しさを増した。

 

これは・・・まさか、下から掘り進んで此処に向かって来ているのか!?

 

「この野郎!"地獄笛"なんて吹きやがって!此処を地獄に変える気か!?」

 

雷獣も茨木童子の吹いている横笛の音色に不味いと言いたげな表情を浮かべているって事は、きっと普通の妖具なんかじゃないんだろうね。

今さっきまで勝ち誇っていたのが嘘みたいなくらいに焦っているし。

 

「気を付けろ、雷獣。アレはただの地獄笛じゃねぇ。詳細不明とされる"ある地獄"を呼び出し、そこを取り仕切る凶悪な妖鬼共を使役する為の物だ。だから、何としても顕現させるのを止めろ!!」

 

そんな・・・酒呑童子ですら詳細が知れない地獄を呼び出す程の物を使うなんて。

 

でも、身体が震えてしまっている今の私達じゃ茨木童子を止めようにも酒呑童子の攻撃すら当たらない訳だし、攻めたとしても逆に捕まえられてしまうかもしれない。

 

完全に自身の予想を裏切られた雷獣は、悔しそうな眼差しを茨木童子へと向ける。

 

「くそ・・・が。そんな物、地獄の最下層にある永久凍土へ封印されていて、何者にも手に入れられないハズだぞ。一体どうやって取った!?」

 

「いやぁ、苦労しましたよ。ですが、そのお陰で貴方達を出し抜く事が出来ました」

 

すると、笛を吹き終えた茨木童子はバッ!と天を仰ぐように両手を掲げ、私達に小さな笑みを向けてきた。

 

「――さぁ、現れろ!有名な八大地獄に埋もれ、その名すら人々の記憶から忘却された"真なる地獄"・・・"十地獄(とおじごく)"!そして、その名を持つ鬼共よ!!」

 

そう茨木童子が叫んだ瞬間、地面から次々と邪悪な妖気を持った、一目見ただけでも地獄の存在だと確信出来る程の禍々しい姿をした10体もの鬼が酒呑童子の周りに出現する。

 

「我ら、十極地獄(とおごくじごく)。笛の音により顕現した。これより、この地を地獄とする」

 

「この・・・ふざけ――」

 

ハッと我に返った雷獣が現れた鬼達に雷を放とうとしたが、なんと10体の1体が一瞬で雷獣の前に移動して来て、大きくした裁縫針のような武器で彼を突き刺して地面へと縫い付けてしまったのだ。

 

「あらあら、無粋な妖怪ですわね。そんな妖怪の口は、綺麗に縫い付けてあげましょう」

 

「ぐっ、んぅぅぅ・・・!!」

 

その見た目が女性のような鬼の強さと、そいつが雷獣に行った凄惨な光景に、私は華陽の時と同じくらいの恐怖を感じた。

 

そんな中でも、酒呑童子は10体の鬼に守られている茨木童子を睨み付ける。

 

「ちぃ・・・十極地獄だと?何だ、それは!?」

 

「いやぁ、僕もその名は初めて聞きましたよ。ですが、その地獄を束ねる鬼の名前は知っていますがね」

 

すると、今度はセンター全体の地下から巨大な何かがせり上がってくるような大きな震動と轟音が聞こえてきた。

 

「うわぁぁあ!!」

 

「に、逃げろぉ!!」

 

「とにかく慌てるな!落ち着いて――ひぃぃい!!」

 

すぐに私達も現実に戻って地面から飛び出てくる岩の柱を避けられたとはいえ、それでもセンター職員の妖怪達が瓦礫に押し潰されたり地割れに飲み込まれてしまっている状況に自身の目を疑う。

 

何なんだよ、何のつもりでこんな事を?

茨木童子は人間界と妖界を反転させるつもりじゃなかったのか!?こんな危険な物を呼び出したら、両方の世界が・・・!

 

「さぁ、いよいよ私のターンですよ。人間界と妖界を反転させ、この地獄の力をもって私は妖怪の王となる・・・絶対に落ちぶれない無敵の王として!その元で妖怪は永遠の安寧を得られるのです!」

 

そう言いながら茨木童子は岩の柱が積み重なっていく建造物の上に立ち、私達へ10体の鬼を向かわせながら不敵な笑みを浮かべた。

 

クソッ・・・これはもう、本当に逃げるしか方法は無さそうだぞ!

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。