私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第参拾参話 椿はきっと――

 

茨木童子が呼び出した地獄の建造物によって崩壊していくセンターで、辛うじて生き残った職員の妖怪達は必死の様子で奴に命乞いのような同意の言葉を叫びだす。

 

「分かった!貴方の言っている事は素晴らしい!良いです、妖怪だけの世界!そんな永遠に安定した世界に住みたいです!」

 

「お、俺も!今の不安定な世界よりかはマシだ!」

 

「ず、ずるい!私だって!」

 

しかし――

 

「がっ!」

「なっ、ぎゅびっ!?」

「ぴ、げぇっ!」

 

「駄目ですね。この状況から助かりたい一心で嘘を言っている貴方達のような者は、コロコロと自分の考えを変える妖怪は要りません」

 

茨木童子は、まるで仕分けでもするかのように淡々と本心から従う事を決めた妖怪のみを残して、それ以外を虫やゴミかのように惨く殺したのだ。

 

ある者は槍状に変化させられた岩の柱で全身を貫かれ、また別な者は殺されまいと自ら放った妖術を数倍の威力で跳ね返されて肉塊となっていた。

 

「この野郎――何やってやがる!!」

 

「この――"負なる者"が!!」

 

その光景を見た私と椿は、怒りが頂点に達して"神妖の力"を全開にする。

 

あんな風に同族を簡単に殺すどころか、あたかも自分が最も正しいと言わんばかりの態度は、さっきまでセンターにマイナスの気持ちしかなかった私でも到底許せる訳がない。

 

御剱を構える椿に巾着袋から麒麟甲を投げ渡されて、私は椿と同時に光の刃を茨木童子へ向けて飛ばす。

 

「おや・・・これはこれは、自ら来て頂けるとは。ただ、これは私自身が受けるまでもありませんね」

 

しかし、茨木童子はクイと人差し指を立てて、呼び出した10体の中で一際大きな鬼に指示を出し、その私達の飛ばした刃を簡単に消し飛ばしてしまった。

 

「椿、綾!よせ!!」

 

「そうよ、2人共!今は逃げる事だけ考えて!!」

 

下から生えてくる岩の柱に捕まりながら、気絶したオジサンを抱えた酒呑童子と丘魔阿が私達へと叫ぶ。

でも、そっちにも鬼が何体か向かっていこうとしているし、このままじゃ逃げるにも逃げ切れないよ。

 

それなら、私達が取らなきゃいけない行動は――

 

「ふっ!」

 

「お、らぁ!」

 

椿が白狐さんの力を足に集めて空気を蹴って飛び、私も風の妖術で作り上げた小さな竜巻を足場にして鬼達の隙間をかいくぐって茨木童子に直行する。

 

しかし次の瞬間、私と椿の足は何かに掴まれたようにグン!と引っ張られてしまう。

 

「この・・・っ!掴んでるのは、あのヒョロヒョロの鬼か!?」

 

「くっ!離しなさい!」

 

すぐに私と椿は敵の拘束を解くべく、それぞれの武器で足を掴んでいる鬼へと攻撃するが、どういう訳だかその攻撃は鬼をすり抜けてしまった。

 

「な、何でですか!?」

 

「まさか幽霊――どわぁ!?」

 

「でも掴んでいるなら実体は持っているハズだし、これは能力かも――うわっ!」

 

そのまま私達はヒョロ長な鬼に引っ張られ、ブンブンと振り回されてしまう。どうやら、このままブン投げるつもりのようだ。

 

「金華浄焔!!」

「凍華繚乱!!」

 

椿の放った浄化の炎と私の放った浄化の氷塊で敵はようやく手を離してくれたものの、今度は別な鬼が異様に伸び曲がった金棒を手に持って襲いかかってくる。

 

「直接受けるのはヤバそうだな・・・雪華の秘剣!」

 

「そうですね!神風の鉄槌!」

 

そして無理に回避や防御をするよりも、と妖術による合わせ技で吹き飛ばそうとするけれど――

 

「食え、"棒食棍(ぼうしょくこん)」

 

「なっ・・・!?」

 

「妖術を、完全に取り込んでる・・・のか!?」

 

峰空がやった妖気の吸収とは別な形で私達の妖術を取り込んだ変な金棒は、なんと古代遺跡の柱かと思う程に太く巨大な姿へと変貌してしまったのだ。

 

「まずったな、あの金棒にエサをやっちまった感じかよ!」

 

「くっ!また足を掴まれて・・・やっぱり、数が多すぎます!」

 

せり上がっていく建造物に乗って上へ登っていく茨木童子を前に、それを止める術のない私と椿は悔しさで歯をグッと強く噛む。

 

椿や大切な人達を、誰かを守る為に修行してきたのに、どうして全く通用しないんだ!?

 

「こうなったら――術式解放!金華浄焔《極》!!」

 

「術式解放、凍華繚乱《極》!!せめてコイツで!!」

 

それでも私達は、吸収と解放を繰り返して強化した妖術で何とか相手の1人でも撃破するべく放つ。

 

しかし――

 

「ふん!」

 

「なっ!?弾き飛ばすなんて!」

 

「そんな、たった一撃で!?」

 

それすら簡単に防がれてしまって困惑していると、今度は酒呑童子がいきなり後ろから私達を肩に担いでくる。

 

「うわっ!?何をするんですか、酒呑童子!」

 

「椿!綾!逃げろと言っているのが分かんねぇのか、このガキ共!」

 

「でも、あんな沢山の敵の数じゃあ!」

 

「まぁ、お前ら落ち着け。まだ、この地獄は"現れたばかり"で実体による形を成しきっちゃいねぇ。だが、コイツが完全に地獄として実体化しちまえば誰であろうと脱出は不可能になっちまうんだぞ」

 

その酒呑童子の言葉に、私と椿は現状を再確認してコクリと首を縦に振った。

 

「う、くっ・・・分かったよ、酒呑童子さん」

 

「分かりました・・・」

 

今はもう、無理に茨木童子を追うより逃げるしか方法は無さそうなのは明白だ。そんな事すら見落として危険な突撃をしていたなんて、私は椿のパートナーとして失格だよ。

 

「ふん、そうと決まれば――」

 

「おっと、逃がしはしませんよ!我が師!」

 

そう落ち込んでいる暇も無く、再び茨木童子が私達の目の前に一瞬で移動して来る。その手には、妖気を持つ小さなガラス片のような物体が握られている。

 

「鍵と一緒に貴方を"雲外鏡"の妖具に閉じ込めてあげます!これで私の――」

 

「「術式解放!神風の鉄槌《合式》!!」」

 

「なっ、2人で妖気を合わせた神術!?」

 

それでも、何とか私と椿は互いの残り少ない妖気を込めた一撃で、襲いかかってきた茨木童子を遠くへと吹き飛ばす事が出来た。とはいえ、ここで"神妖の力"を維持する事が出来なくなった私達は、元の姿に戻ってしまった。

 

「はぁ、はぁ・・・ごめんなさい、酒呑童子さん」

 

「ふぅ、流石に力を使い過ぎたよ・・・」

 

「ったく、馬鹿共が。ほらよ、2人共しっかり捕まっていろ。まだ終わっちゃいねぇぞ!」

 

「「えっ?」」

 

すると、なんとたった今吹き飛ばしたハズの茨木童子が、まるで何とも無かったかのように私達の真後ろから追いかけて来ていたのだ。

 

よく見ると、手に持っていたのが鏡の妖具から装飾が施された宝剣に変わっており、その刀身には私達の放った浄化の風を纏っていた。どうやら、あの宝剣でさっきの攻撃を取り込んで無効化したらしい。

 

「くそ、駄目だ!時間がねぇ!どんどん地獄が出来上がっていきやがる!」

 

酒呑童子が吐き捨てるように叫んでいると、それと同時に私と椿が耳に付けていた勾玉から白狐さんの声が聞こえてきた。

 

『椿!綾!お主らの勾玉で急いで人間界への門を開け!その場所が地獄に取り込まれていなければ、まだ門は開くハズだ!』

 

「そうか!妖怪センターがブッ壊れたから、ジャミングも何も無くなったんだ!だから白狐さんの声も・・・よし、椿!」

 

「うん、分かってるよ!酒呑童子さん、もう少し頑張って!」

 

「聞こえた!急げ、2人共!」

 

「「妖界開門!」」

 

そして私達は目の前に人間界への道を開いた。

だが、それと同時に茨木童子も浄化の風を纏った宝剣を振りかざしてくる。

 

「させませんよ――ぐわっ!?」

 

「何とか間に合ったわね!今の内よ!」

 

「こんな所で緊急用の離脱妖気ジェットが役立つとは、夢にも思わなかったがな」

 

「オジサン!」

「丘魔阿さん!」

 

すると、今度は姿の見えなくなっていた2人が、茨木童子の後頭部に体当たりをしながら、私達を背負う酒呑童子の身体を転移空間へと引っ張ってくれたのだ。

 

しかし既に茨木童子は宝剣から風を放っており、その突風によって私は手に持っていた反転鏡の鍵が入った小箱を落としてしまった。

 

「あっ、しまった!!箱が!!」

 

「そんな!あれを茨木童子に取られたら!」

 

「ちっ!諦めろ、2人共!このままお前らも捕まっちまったら、本当に何もかも終わっちまう!」

 

「あっ・・・あぁぁ・・・」

 

私も椿も必死に手を伸ばしたが時すでに遅く、遥か下へ落ちていく小箱はアリよりも小さくなって見えなくなってしまっていた。

 

「そう落ち込むな。今回は俺達が退く事になってしまったが、綾と椿が捕まらなかっただけでも良しとしなくてはな」

 

「大地さんの言う通りよ、2人共。あの反転鏡を使うには、貴方達の妖気じゃないと駄目みたいだからね」

 

「あぁ、落ち込む事は無いぜ・・・まだだ、まだ終わっちゃいねえんだ」

 

茨木童子を妖界に閉め出し、人間界に戻ってからオジサンも丘魔阿も酒呑童子も私達を励ましてくれた。けれど・・・それはつまり、亰嗟が本格的に椿や私の周りの人達を襲う事に他ならない。

 

そうなったら、椿はきっと――

 

ふと、私はこれから起きるであろう事を予見して一瞬だけ恐怖で身体が震えた。

 

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