私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
妖界から人間界へと戻ってきた私達は、京都市役所から雲操童に乗って無事に椿の爺さんの家へと戻って来た。
それにしても、この妖怪は念じれば何時でも何処でも来てくれるから便利だね。人間界に居る時にしか呼べないのが、たまにキズだけど。
そんな事を考えながら、椿と一緒に家の玄関に入ると――
「ただいま・・・むぅ!?」
『椿よ、無事か!?何処も怪我は無いか!』
『む!?足に手の跡が!』
「全く、ま〜た狐2人は・・・にょわぁ!?」
「綾、大丈夫!?殴られたり、蹴られたりしてない!?」
「雪さん雪さん!綾姉さんの足にも、椿姉さんのと同じ手の跡が!」
はい、何となく予想はしてました。
椿の方には狐2人が、私の方には雪と楓が飛びついてきましたよ。心配してくれるのは嬉しいけれど、狭い玄関でこんなにゴタゴタやられたら苦しいぞ。
「うぶぶ・・・ちょっと、皆ちょっと落ち着いて!」
「綾ちゃんの言う通りですよ。僕も綾ちゃんも怪我は無いし、無事ですから!」
でも、そう言う私達の想いとは裏腹に他の妖怪達も一斉に来て、皆して椿と私を心配してきちゃったよ。
「椿、綾・・・良くぞ無事に帰って来てくれた。もう・・・駄目かと思うたぞ」
あらら、椿の爺さんまで心配そうな顔で出てきちゃったぞ。でも、あの時は狐2人のお陰で助かったような物だし、今回ばかりは椿と一緒に礼を言っておかないとね。
「白狐さん黒狐さん、ありがとう」
「助言が無かったら、きっと私も椿も危ない所だったよ。2人共、ありがとう」
『なに、当然の事をしたまで。よもや、綾からも礼を言われるとは思わんかったが』
『そうだ、椿も綾も気にするな。俺達は大事な者を失う訳にはいかないだけだ。それに綾、お前が居なくなって白狐だけ相手に椿へアピールしていても、張り合いが無くて寂しくなるしな』
『ぬっ?黒狐お主、我を見くびっておるな!』
「わわ!白狐さん黒狐さん!?他の皆も見ているから、後で・・・また後で!」
とか何とかやってたら、案の定また言い合いを始めちゃったよ。しかも、椿の頬を舐めたり胸元や脇の下に顔を突っ込んで匂いを嗅いだりして・・・うん、どんどんワンコみたいに見えてきたわ。
「翁・・・妖界の者達から報告が。現在のセンター付近は完全に様変わりしてしまい、その周りに異様な結界も張られて近付けない、との事です」
「そうか・・・」
すると椿を狐2人から助け出してる間に、空から烏天狗の黒江さんがやって来て爺さんに報告する。
なるほど、私達は本当にギリギリで間に合ったんだ――って、な〜んか忘れてるような気が。
「あっ・・・!雷獣さん、置いてきちゃった!」
「思い出した!そういや放置したままだったわ!」
茨木童子の呼び出した鬼に敵とも認識されないレベルでボコボコにされてたっけ。もし逃げられていないなら既に用済みとして殺されているか、現センター長の立場だから捕まって利用されそうになってたりするのかしら。
「あぁ、それなら。結界が張られる直前に、異様な建造物から一筋の雷光が何処かへと飛び去っていったと、近くの妖怪が目撃していたそうですよ」
「うわ〜・・・シレッと生き延びて逃げたんか、アイツ」
「それならそれで手伝ってくれても良かったのに、割りと最低な妖怪さんですね」
そう黒江さんから聞かされて、私と椿は呆れ混じりの大きなため息を吐く。すると、今度は酒呑童子から事の全てを知った爺さんが腕を組んで唸っていた。
「むぅ、とにかくじゃ。こうなってしまった以上、反転鏡の鍵も相手に渡ったと見て良いじゃろう。そうなると・・・いよいよ亰嗟は、椿と綾を本格的に狙い始める気じゃろうな」
「うっ・・・」
その爺さんの言葉に、私は自分が小箱を取り落とさなければこんな事には、という気持ちになって思わず眉間にシワを寄せてしまう。
例え地下に巨大なホールがある此処でも、亰嗟が持っているセンターの倍以上ある人員や呼び出した地獄の鬼達を向かわせて来たら、それこそひとたまりもない。
「あの・・・おじいちゃん、僕――んぐっ!?」
「椿、それ以上は言わない」
私と同じような気持ちになっていた椿は自ら皆の所を離れると言おうとしていたけれど、その言葉は雪に口元を氷で覆われて中断させられる。
雪が何故こんな事をしたのか、それは最初に親友となった私でも簡単に理解出来た。
「雪の言う通りだよ、椿。今はもう私達だけじゃなくて、皆も修行して強くなっているんだよ。椿が皆を守りたいように、皆だって椿を守りたいんだ」
でも、そう私が言っても椿は何処か不安そうな表情を向けてくる。
私はそんな椿の表情を見て、今の彼女は"自分が皆を守らないと"という想いを強く持ち過ぎていて、自分を蔑ろにしようとしている気がした。
『椿よ、まだ見えていないな。綾が言っていたように、皆がお主を守りたい気持ちも同じくらいに強いのだ』
『そうだぞ、椿。そんな守りたいお前を、たった1人で戦わせるなんて事・・・皆が許すと思うか?』
「・・・」
そして狐2人からも説得の言葉を投げかけられた椿は、口元の氷が溶けたと同時に呆然とした様子のままポロポロと涙を零し始める。
そこでようやく胸の中につかえていた物が取れた私は、大きく吸ったままの息を吐きながら椿の肩をポンと叩いた。
「全く、そんなになるまで我慢してさ。たまには椿だって、私達の事を頼ってくれて良いんだよ?」
「ええ、そうっすよ。椿姉さんは1人で抱え込み過ぎっす」
「本当よ。私達も修行しているってのに、何でその気持ちを無碍(むげ)にするような行動を取るのかしら。こういう時は四の五の言わずに、もっと頼りなさいよ!」
「綾ちゃん、楓ちゃんに美亜ちゃん・・・でも、でも・・・頼っちゃったら、僕は・・・」
そう言って椿は両手で顔を覆って静かに泣く。
きっと椿はあの時からずっと、皆に頼り過ぎて無理をさせてしまったからカナを死なせてしまったのだと思い込み続けている。だからこそ、今回の事件で自分1人が何とかしないといけないと、その責任感から暴走しそうになっているのだろう。
『椿よ。お主は本当に、不器用じゃな』
「えっ・・・不器用?僕が?そ、そんな事は・・・」
「確かにその通りだぜ。テメェ、俺に修行を付けて欲しいと言った時、何て言ったよ?1人で全て解決出来る為の力が欲しいって、そう言ったかよ?」
その酒呑童子の言葉を聞いた椿はハッとした顔になり、そこで自分のやろうとしていた事を自覚したのかクシャクシャに顔を歪め、大きくしゃくりあげた涙声になった。
『椿よ、お主は何で戦うんじゃ?それを見失うな』
「うん・・・うん。皆、ごめんなさい・・・ごめんなさい」
やっぱり・・・椿は私と違って優し過ぎるよ。ここまで自分の本当の気持ちを押し殺そうとするなんてさ。
敵が欲望を剥き出しに襲いかかってくる状況が続いて、そんな中で禍々しい悪意に触れて、そして大切な人達を失う恐怖に耐えられるなんて人は早々居ない。
かつて椿を守る為に1人で戦っていた私だって、それで1度は心が折れてしまったのだから。
だから今度は皆で一緒に助け合って、また楽しく平和に笑い合える日が戻ると信じて戦っていく。椿は勿論、狐2人や雪も皆で――それがいつしか"私の戦う理由"になっていたんだ。
もう、互いの存在以外に自分の居場所も拠り所も無かった、あの頃の私と椿じゃない。今はこんなにも沢山の友達や仲間、そして本当に守りたい拠り所が出来たんだから。
・・・きっとカナがこの場に居たなら、私もまとめて叱咤激励の言葉をかけられていたかもね。
「は〜い、皆!玄関で突っ立ってないで、ご飯の時間だよ――って、椿ちゃんどうしたの!?綾ちゃんも何で泣いて・・・?」
「あっ・・・大丈夫だよ、里子ちゃん。これは嬉し泣きだから・・・」
「うん・・・私も、ちょっとホロッてきただけ」
そんな所に沢山のおひつを抱えた里子が現れて、椿と私に凄く心配そうな表情を向けられたから、何だか申し訳なくなっちゃったよ。つい少し前まで風邪で寝込んでいたのに、以前にも増してパワフルに感じるし。
「椿お姉ちゃんも、綾お姉ちゃんも・・・羨ましいな〜」
「安心しろ、お前も時期に・・・」
ありゃりゃ、菜々子が山姥さんに撫でられながら羨ましそうな視線を私達に向けてきちゃってるぞ。
でも、椿に対する狐2人のスキンシップはこんなモンじゃ済まないからね?R-15のタグが付くくらいだよ?
「は〜い、菜々子ちゃん。それじゃあ、コレを付けて里子お姉ちゃんと一緒に、ご飯を食べに行こっか〜」
「えっ、あっ・・・う、うん!」
「へ〜、里子にしちゃ珍しく年上っぽい感じが・・・って。あの首輪、な〜んか見覚えがあるような・・・」
「あっ!菜々子ちゃん、それは付けたら駄目!」
すると、里子は菜々子が首輪を付けた途端にニマ〜とした笑みを浮かべだす。うん、今のでようやく思い出したわ、あれは"隷属の首輪"じゃん!!
「うふふ〜やった〜!美少女のペットが手に入った〜!それじゃ菜々子ちゃん、ご飯を食べさせてあげるから着いて来てね〜」
「えっ?里子お姉ちゃん?ペットって・・・きゃぁあ!!」
「な、菜々子〜!?」
ちょっと、里子さんや・・・それは幾ら何でもアウトだと思いますよ!そんな幼稚園児並みの子を騙して首輪で引っ張るとか、色んな意味で危ない人にランクアップしてるんですが!?
あ〜もう、なんというか割りとアッサリ普段の日常に戻っちゃったわ・・・まぁ、此処の妖怪達はシンミリしてるのとかには結構敏感だもんな。
って、な〜に感慨にふけってんだ私は!早く里子の魔の手から菜々子を助け出さないと〜!
お母さんの山姥さんもとんでもねぇくらいな鬼の形相で包丁両手に追いかけてるし!!
タヌキ汁ならぬ狛犬汁とか、私は勘弁ですわよ!?