私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
第壱話 負けてちゃいられない
妖怪センターが茨木童子に乗っ取られ、学校の異変を知ってから1週間後。春休みが終わった私と椿は美亜と共に、重い緊張感を胸に学校へと向かう。
以前まで椿がイジメを受けていた事もあって、たった1年くらいしか本当の意味で学校生活を楽しめなかったとはいえ、それでも制服を着られなくなる日が来るのかと思うと地味に辛い。
それに、この1週間の中での亰嗟による襲撃も、下っ端ばかりで妙に不安だ。あれだけの戦力を手に入れた茨木童子が、こんな様子見みたいな事をする理由なんて無いハズだもの。
そして、雲操童に近くの公園まで運んでもらった私と椿は、少し憂鬱な気持ちになりながら通学路を歩いていく。
「全く〜椿も綾も、シンミリしてる場合じゃないわよ?」
「ぐぇっ!?幾らポニテが掴み易いからって、髪引っ張るなよ美亜〜!」
「ひゃう!?美亜ちゃん、僕の尻尾も触らないで!」
いきなり美亜にちょっかいをかけられたから、椿の鞄にキーホルダーの形で着いて来てるレイちゃんがビックリしちゃってるじゃん。美亜なりに、私達を元気付けてくれているだろうけどさ。
「いい、椿に綾?もう、あの学校は私達の知っている学校じゃないかもしれない。生徒達は私達のせいで怖い思いをした、それは忘れてないわよね?」
「半年前、滅幻宗が学校を襲ったあの事件・・・忘れる訳が無いよ、美亜ちゃん」
「うん、あの後に私達は大切なものを・・・」
「あまり昔の事に浸るのは止めなさいよ、2人共。あれから全壊した北校舎は修復中で完成するまでに時間がかかっているみたいだし、その上に終業式での一件後は雪の言っている状況からして、良い歓迎はされないと考えた方が良いわね」
その美亜の言葉に、私達は一層気分が重くなってしまったよ。うぅ、何だか椿がイジメを受けてた頃並みに心がピリピリするや。
そんな事を感じながらも学校へ到着すると、校門の前に頭のハゲが特徴的な学年主任の先生の姿があった。でも、その表情は明らかに私達を歓迎するものとはかけ離れた、苛立たしさと憎らしさで険しい顔になっている。まさか・・・。
「やっぱり来たか・・・お前達、何も聞いていないのか?半妖だけが退学だとでも、それで自分達は大丈夫だとでも思っていたのか?この化け物達が」
「えっ?そ、そんな・・・僕達は、そんなつもりじゃ――」
「危うく、あの化け物校長に騙される所だったよ。帰れ、此処はお前達の来る場所ではない!私達人間を危険に陥れる、邪悪な妖怪が!」
「なっ、テメェ言わせときゃ!!」
その横暴な学年主任の物言いに思わず掴みかかろうとすると、椿が強く腕を引っ張って止めてきた。
「・・・止めて、綾ちゃん。ここは一旦、戻りましょう」
「くっ・・・分かったよ」
結局、私達はその場を後にするしかなくなってしまい、これ以上は何も言う事なく近くの公園へと引き返す。
あのクソ校長・・・本当に何て事してくれやがったんだ。いや、よくよく思い出してみれば怪しい所なんて結構あった気がするぞ。
例えば、校長が出てきたりしていた時に開いて見せていた、色んな文字が書かれていた幾つもの変な扇子。湯口先輩を捕まえた時、椿がドSな女王様みたいな性格になりかけてしまっていたのも、あれが妖具だったのなら納得出来る話だ。
もし、それで学校の人達を操っていたとするなら・・・もしかして、椿がイジメにあっていた最初から全てが向こうの思惑通りだった?
「椿!!綾!!」
「ふわぃ!?」
「あ、あれ?ここ・・・」
「アンタ達、ショックなのは分かるけれど・・・公園に戻って来た事にすら気付かないなんて、相当ね」
「あっ、美亜ちゃん・・・ううん、違うよ。それほどショックじゃなかったです。だって、あれが普通だもん。今までは八坂校長先生が、あの変な扇子で皆の考え方を変えていたのかもしれないですし、それなら普通の学校に戻ったって感じがします」
「椿・・・」
「そう・・・」
そう言った椿の毅然とした様子に、心配していた私と美亜は少しホッとした息を吐いた。
ようやく慣れてきた学校から追い出されて椿も辛いハズだろうに、あんな場面で良く私みたいに怒らなかったものだね・・・というか、元から椿は根っこから優しいんだもんな。そりゃ、そんな事する訳無いや。
「うん、悩んでいても仕方ないです。綾ちゃん、美亜ちゃん。とにかく、おじいちゃんの家に帰って、別な方法で情報収集するよ。それに、皆にも知らせないと!」
「そっか、そうだね・・・椿、随分と心が強くなったね」
「でも、良いの?椿、アンタせっかく学校の皆と仲良くなれたのに・・・」
「これも、綾ちゃんのお陰です。それに美亜ちゃん、もう良いんです。僕達のせいで、普通の人間の生徒達が危険に巻き込まれちゃいますから」
「・・・全く、強がっちゃって。綾、アンタも学校に未練は無いの?」
「うん、正直言って椿以外に仲良かった人達なんて、雪達半妖の人ばかりだったし。それに、今更私だけ普通の人間ぶって生きられる訳ないでしょ?」
「はぁ・・・本当、アンタ達は似た者同士よ」
ため息を吐く美亜に、私と椿は「ふふっ」と静かに笑う。
今はクソ校長のせいで妖怪と人間の間に確執が出来ちゃっているけれど、きっと何時かまた誰もが分け隔てなく笑える学校になってくれると、そう信じているよ。
ただ、それを現実のものにする為にも目の前の大問題を何とか片付けていかないと、だけどね。
そんな事を考えながら、雲操童が私達の居る公園へと飛んでくる姿を見ていると――
「きゃぁ!?」
「うわっ!な、何ですか!?」
「う、雲操童が・・・破裂した!?」
その突然の出来事に驚く間も無く、今度は私達の頭上から今は聞きたくなかった奴の嬉しそうな声が聞こえてくる。
「あははは!!やっと見つけた〜!つ〜ば〜きちゃ〜んに、あ〜や〜ちゃ〜ん!」
「「閃空!!」」
そう、たった今雲操童を一撃で粉砕したのはドス黒い身体に血液のような赤い模様が入った、あの禍々しい妖魔人の姿となった閃空だった。どうやら再び妖具で妖気を消していたらしく、声をかけられる直前まで感知するのが遅れてしまった。
「くっ・・・なんて事!こんな所で・・・椿、とにかく翁達に応援を!」
「駄目、また妖気をジャミングされています!また妖具か何かだと思うけど、このままじゃ白狐さん達にも応援を頼めないよ!」
すると、椿と美亜が話している間にも閃空は姿を消す程の高速で動きだす。しかし、修行で感知能力も鍛えられた今の私達なら、奴が何処から攻めてくるかなんて余裕だ。
「椿!美亜を!妖異変化、"怒髪天・朱雀"展開!!」
「うん!美亜ちゃん!!」
「えっ――きゃっ!?」
白狐さんの力を使って椿が美亜に飛びつく形で一緒に地面へ転げ、その瞬間に儀礼衣装を纏いながら私は肘の鋭い突起物を振りかざした閃空の腕を稲妻雷霆蹴で弾いた。
「へぇ・・・反応出来るんだ、今の。それじゃあ、これならどうかな!?」
そう言って閃空は更なるスピードで私達を追い詰めるように周囲を飛び跳ね始める。でも、そんな動きでもスローモーションを見ているかのようにゆっくりとして見える。
背中の陰に隠している球体をデカくしてぶつけるつもりのようだけど・・・相手が悪かったな。
「いくよ、椿!稲妻雷霆蹴!!」
「そこ!黒槌岩壊!!」
「なっ――ぐっ!がはっ!!」
私は尻尾をハンマーに変えた椿と同時に、美亜を切りつけようとした閃空の土手っ腹に一撃を食らわせ公園の遊具へと叩きつける。
「えっ?椿、綾・・・?」
「美亜!ぼうっとしてないで、呪術で援護を!」
「あっ、わ・・・分かったわ!」
まだ応援が望めない以上、私達3人で何とか切り抜けなきゃいけない状況なんだけど・・・どういう訳か、今の私と椿の頭は冷静そのもので相手との戦いに凄く集中出来ている。
「今度は・・・そこの土埃か!」
「何!?馬鹿な!!」
「えぇ、それも見えています」
膝から突起物を出して突っ込んできた閃空を防御した私達の武器を持つ両手に、酒呑童子の本気じゃないパンチ並みに激しい衝撃が走ってくる。
両手で受けてもコレなんて、片手で受けていたら防ぎきれなかったかもしれない威力だ。
やっぱり、コイツら妖魔人は早々油断している余裕の無い相手だ。
「あはははは!!面白い、面白い面白い!やっぱりキミら、この半年の間に強くなってるんだね!でも僕達の復讐の為に、捕まえさせてもらうよぉ!!」
すると、閃空は一度大きく飛び上がって私達から距離を取り、両肘と両膝の突起物を長く伸ばしてそれらを交差させるように重ね合わせてきた。
距離を取った理由は・・・まさか!
「くらえ!邪光波(じゃこうは)!!」
その意図に気付いた瞬間、閃空の重ね合わせた両肘両膝の突起物が眩く光って黒い光線が飛び出してきたのだ。
すぐに私達は光線から横に回避するが――
「あははは!避けようとしても無駄だよ〜!そいつには追尾性があるんだ!」
「それなら、術式吸――って、うわぁぁ!!」
「椿――ぐっ、この・・・!」
グニャリとUターンしてきた光線を何とか麒麟甲で弾き飛ばす事は出来た。しかし、椿は何故だか術式吸収に失敗してしまい、光線が直撃して街路樹の幹まで吹っ飛ばされてしまう。
「あぐっ!」
「椿、大丈夫!?」
「大丈夫です、美亜ちゃん!それより、美亜ちゃんは綾ちゃんの援護をしてあげて!」
一応、椿は白狐さんの力で防御力を上げていたから何とか立ち上がれたみたいだけど・・・状況はあまり良くないみたいだ。
でも、こんな所で負けてちゃいられない!
私は何としても湯口先輩を・・・そして綾花を助けないといけないんだ!