私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
私と椿の拳を同時に食らった閃空は殴られた衝撃をモロに受けた状態のまま、美亜の作り出した樹海の木々へと吹っ飛ばされる。
しかし、それでも浄化は完全じゃなかったらしく、吹き飛んで土煙の上がっている先から再び黒い球体が飛んできた。
「うわっと!今ので決まったと思ったのに・・・卜伴祭繰龍(ぼくはんさいくろん)!」
「くっ・・・まだ浄化出来ていませんか!金華浄焔!」
すぐに私達は飛来する黒い球体を手のひらから出した神術で浄化して消し去るも、今度は黒い球体の後ろから閃空が飛び出し私へと殴りかかってくる。
「あはははは!!!!」
「ぐっ!不意打ちかよ!」
だが、それでも向こうの攻撃は軽く、咄嗟に出した右手の麒麟甲だけでも何とか受け止める事が出来た。
「ふっ!」
そして、その瞬間に出来た隙を突いて椿が御剱を大きく振るうものの、何と閃空は殴りかかった状態のまま左足の指を手のように動かして軽々と受け止めたのだ。どうやら、妖魔人になったからか体質そのものも人や妖怪からかけ離れたものになっているらしい。
「あは、あはは!!良いね〜!ここまで僕を追い詰めるなんて・・・僕に、ここまでの手傷を負わせるなんてねぇ!!」
「なっ――あぐっ!!」
「椿!!」
だが、今度は閃空が麒麟甲を殴った衝撃を利用してバネのように跳び、そのまま空を切るような宙返りで椿の顎を蹴り上げたと同時に全身から突起物を飛ばした。
「あぁぁぁ!!」
防御体勢を取っていた私は全て防ぎ切れたけれど・・・至近距離で、しかも攻撃直後で隙だらけだった椿は身体のあちこちに突起物が刺さってしまった。
しかも、どうやら突起物は寄生妖魔の切れ端だったようで、突き刺さった所から椿の身体へと侵食し始めていた。
「この・・・離れやがれ!緊急祭繰龍!!」
「うっ!す、すいません・・・綾」
すぐさま手のひらサイズに小さく強力な竜巻を複数ぶつけて突起物を引き剥がして、椿が浄化の炎で1つ残らず全て焼き尽くしたから良かったものの、お陰で椿の制服は辛うじて下着が見えない程度までボロボロになってしまう。
目のやり場に困る状態だけど、今はそんな事を気にしていられる状況じゃない。
「椿!大丈夫なの!?」
美亜も心配した様子で私達の傍に降り立つが、椿は何ともないと言いたげにニコリと優しい笑顔を向ける。
「大丈夫です、美亜。貴方はこのまま樹海の展開を続けて、閃空に隙があればもう一度捕まえてください」
「分かった・・・とは言いたいけれど、アレを?ちょっとキツくないかしら?」
「そりゃ美亜、一体どういう――な、何じゃありゃあ!?」
「えっ?・・・なっ!?」
その美亜の言葉に疑問を感じた私達が閃空の跳んでいった方を見ると、そこには人間としての形すら崩壊させ目や耳、更には口や鼻など全身の至る穴からも突起物を飛び出させた閃空の姿があった。
「あは、あひゃ、ぁ、ひゃっはは・・・」
その歪な笑い声を上げる閃空の化け物としか思えない様相・・・そして突起物から発せられる妖気の濃さから、あれは恐らく私と椿による浄化の力が強かったが為に、寄生していた妖魔自体が閃空の身体から飛び出してきているのだろう。
「・・・あと数回、浄化の力を当てれば倒せるか」
「可哀想な"負なる者"・・・今、解放してあげます。その、憎しみと悪意の牢から」
「よ、妖怪・・・こ、ころ・・・す・・・あ、ひゃひゃは、あばはひゃひゃはは!!」
異形となった閃空は、その受けた浄化のダメージからか最早まともに動く事も出来なくなっており、崩れかかっている思考で怨嗟と笑い声を繰り返し続けている。
私と椿はそれぞれの武器を握り直し、身体の中から確実に浄化する為に閃空へと歩み進める。
「あはぁ!!」
「さっきとは打って変わって、もう動きが単調だな。今のお前は、その身体にへばり付いているだけで死にかけの寄生虫と同じ状態だ」
「その子の肉体をも妖魔に変質させたとはいえ、"ある部分"にだけは侵入出来なかったようですね」
椿が言っている"ある部分"とは恐らく、強い"想い"を生み出している脳だ。その脳を乗っ取れなかった結果、完全に融合し切れなかった妖魔は宿主となった人物の記憶に振り回される形となってしまったのだろう。
つまりは、妖魔人には寄生した妖魔の核が存在している可能性が高い。それさえ浄化してしまえば、きっと妖魔に取り込まれた魂も解放出来るハズだ。
「強い妖気の塊・・・椿、核は胸の部分だ!」
「なるほど、そこは心臓。厄介な所に核を作り出してくれたものです」
閃空の悪あがきのように振り回される突起物を回避しながら、私は辛そうな椿の表情を見て彼女の"想い"を察する。
そうか。心臓が核になっているという事は、妖魔人となった人を助けるのは不可能に近い。
クソ、私がオジサンとの修行で身に付けた方法が"一度きり"しか使えなければ、こんな顔を椿にさせる事には・・・!
「あは、ひゃは!あははぁ!!」
「しまっ――」
「ぐぅっ!椿、大丈夫!?」
「あ、綾ちゃん・・・」
だが、そんな事を考えている瞬間にも閃空から不意の一撃が放たれ、咄嗟に椿を庇って左脚を突起物で貫かれてしまった。すぐに浄化して侵入を阻止したとはいえ、これじゃあ立つ事が難しいかもしれない。
「綾!?椿、アンタ何やってんのよ!」
すぐさま美亜が地面から根を伸ばして閃空の身動きを止めてくれたものの、その表情は煮え切らない椿へ不満を言いたそうな様子だ。
「はぁ、はぁ・・・ごめんなさい。どうしても、あの人の事が・・・」
「やっぱり椿、湯口先輩をまだ・・・」
「"やっぱり"って、アンタ達は何バカな事を考えてるのよ!?」
「美亜の言う通り、私はバカかもしれないです。だけど、妖魔人となった"負なる者"達は自ら望んだ訳は――」
「いいや、望んだよ」
「「えっ?」」
その閃空の我を取り戻したかのようなハッキリとした声に、私も椿も驚いて視線を戻す。
すると、そこには先程まで突起物が出ていた口や目などの顔だけが元に戻った、妖魔の支配から僅かに脱している閃空の後悔する表情が見えた。
「僕は、望んだよ。寄生する妖魔の種だと、その後どんな事になるのかを、亜里砂・・・いや、華陽から説明されたよ。それでも僕は力が欲しくて、その後の事なんかどうでも良いと考え、その種を飲んだんだ」
「閃空、貴方・・・まさか」
「私と椿の浄化の力で、ほんの一瞬だけ乗っ取られる前の人格が?」
「うん、僕の名前は千一(せんいち)。遥か昔に、どこにでもある村の田畑を耕す、しがない少年だったよ。そして、既に死んでいる身なのも分かっている。この妖魔に乗っ取られていても、僕の意識はあったんだ。妖狐のお姉ちゃんと、そこの人間のお姉ちゃんには酷い事をしてきたね。僕だって、こんな事はするつもりじゃなかった。ただ、悪い妖怪を・・・」
「それ以上は・・・もう、良いです。全ては、華陽の仕業です。貴方達の為してきた業も、華陽にあります」
そう言って椿は、自らを責める閃空――いや、千一を宥めるけれど、その表情は決して迷いが無いものではないように見えた。
椿が彼を助けたいという気持ちは、私だって同じだ。だけど、この状態じゃもう・・・
「そんな顔しないで、お姉、ちゃん達・・・これは、殺しじゃないよ。ただ、お姉ちゃん達が生きる為に、する事・・・正しく、悪い妖怪を罰する為にする事、だよ・・・だから、悩まないで。その悩みは、お姉ちゃん達の、弱点だよ・・・ほら早く、僕は・・・もう・・・も、うぅ・・・あ、あは・・・あはははは!シネェ!」
そして再び妖魔に乗っ取られてしまった千一へ、私と椿は自身の無力さに悔し涙を浮かべる。
寄生する妖魔だけを浄化して、その宿主を助けられるだけの力さえあれば・・・こんな方法でしか彼らを止められない、この自分自身の限界が悔しい。
「あはははは・・・あっ?」
「――金華浄槍(きんかじょうそう)」
「――卜伴繚乱(ぼくはんりょうらん)」
美亜による植物の拘束を引きちぎってきたと同時に、椿が槍状にした尻尾を金色の炎を纏わせて突き刺し、そこへ私が更に白金の冷気で千一の動きを凍てつかせて封じた。
「中から浄化されなさい。生きとし生けるものの命を冒涜する、"負なる者"よ!」
「せめて、痛みを知らずに!!」
「あばはぁぁあ!!!!」
金色に輝く炎と白金に煌めく冷気は千一を包み、一気に相手の身体を崩壊させていく。何の抵抗も出来なくなっている所を見るに、どうやら本当にこれで最後のようだった。
「あぁぁぁあ!!」
千一が悶え苦しみながら消滅していくのを見て、先程「これは殺しじゃない」と言われたのにも関わらず、私と椿は悲痛に顔を歪めてしまう。
――もう彼を救えない事は、分かっている。分かっている・・・ハズなのに。
そう思っていると、燃え盛る炎と凍てつく冷気の中から千一の声が聞こえてくる。
「お姉、ちゃん達・・・」
「えっ?」
「また、声が・・・千一、君?」
「ありがとう、それと・・・ごめんね、お姉ちゃん達。だけど、強く、なって・・・ね。そして・・・僕の、代わりに・・・悪い、よう、かいを・・・」
千一は少しだけ私達へ向けて笑顔を浮かべ、その後にゆっくりと灰の塊となって消えていく。
金色の炎で浄化され、白金の冷気によって空へと灰が巻き上げられていく様子は、まるで魂の浄化された千一を運ぶ2つ輝く送り火のようだった。
私達に笑顔を向けてくれた――という事は、きっと彼は長く続いた"妖魔としての生"の苦しみから解放されたのだろう・・・そう、私は考えたかった。
「椿も綾も、頑張ったわね」
「ん・・・」
「・・・ありがと、美亜」
美亜はそう言って、"神妖の力"を抑えて元の姿に戻った私と椿の頭を優しく撫でてくれた。
あれだけの強さ、妖魔人は厄介だ。今回の戦いだって、妖魔の乗っ取った千一が子供の身体じゃなかったら、恐らく勝ち目は無かっただろう。
しかし、他にも妖魔人は湯口先輩を含めて4人も残っているし、戦力として頼りになるのも私と椿しかいない以上、皆の為に頑張っていかないといけない。
だけど、寄生する妖魔が宿主の人格までは乗っ取れない事が分かったなら、きっと妖魔人を倒す方法は見つかるハズだ。
「美亜ちゃん・・・ちょっと、ごめん・・・」
「えっ、椿!?」
「わ、私も・・・もう、限界・・・ね、眠い」
「ちょっと!綾もなの〜!?」
・・・とはいえ、流石に今日は午前中だけなのに疲れる事ばかりだった私と椿は、妖気切れで美亜にもたれかかって、そのまま眠りについてしまったのだった。