私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第玖話 緊張感あるのか無いのか分かんないな、コレ

 

ギリギリの所で狐2人と酒呑童子に合流出来た私達は、すぐに体勢を整え直して十極地獄の鬼"厚雲"へと向き合った。

その真正面から感じる、相手の邪気と混ざった異様な妖気のプレッシャーに思わず、私の握り締めた拳には力が入る。

 

「しっかし、こうも早く動くとはなぁ。そこまでして椿と綾を・・・いや、『天』の"神妖の力"を持つ奴を手に入れたいってか」

 

「ふん、俺はそんな事までは知らないがな。ただ、呼び出した者の命に従うのみ・・・とはいえ、地獄の使者として裁きを与える役目もあるが。それでも"地獄が完全に固定"されるまでは、先ず命に従うだけなのだがな」

 

正面きって向き合う酒呑童子の言葉に、厚雲は少し不満そうな顔で返事を返す。

でも、今の会話・・・ちょっと気になる言葉があったな。"完全に固定"って言ってたけど、それってまさか地獄は妖怪センターの場所に出てきただけで、実際はまだ出現しきれてないって事か?

だとするなら、まだ何とか手を打てるかもしれないぞ。

 

「今は、そこの小狐と小娘を捕まえろとの命だ。悪いが、捕ま――えぅ!?」

 

おぅ、酒呑童子は相変わらず相手の台詞を全部聞かないでブン殴るのな。というか、今"酒鬼"って書いてある日本酒の瓶を一気飲みしてたけど、酔っ払うのとか含めて色んな意味で大丈夫かよ?

 

そんな事を考えていると、狐2人は突然申し訳なさそうな表情で私達の方に振り返ってきた。

 

『すまん・・・椿』

 

「えっ?」

 

「ど、どうしたのさ?白狐さんも黒狐さんも、いきなり謝ったりして?」

 

『俺達は目覚めた後、ある程度の妖術と能力は使えたが・・・それ以外は一切使えなくなった。つまる所、"神妖の力"が無くなってしまって以前までのような戦いが出来なくなった』

 

「えぇ!?でも、目覚めた後も2人共ちゃんと妖怪食を食べて――」

 

『それでも妖気が復活しないんじゃ、椿。今の我らには霊狐に渡された妖気しかない、それが無くなると我らは・・・』

 

そう言って、狐2人は"椿にはこれ以上言えない"とばかりの表情で言い淀む。

やっぱり、その様子だと無理は出来ないって感じか。2人の妖気も、依然として薄く消えかけているままだ。

 

「それじゃあ、あの時に言ってた2人だけの任務って・・・」

 

『すまん、綾。2人を騙すつもりは無かったのだがな。我らの存在を固定しようと霊狐が頑張ってくれていてな、定期的に妖気を渡してもらっているのだ。それと"ある場所"で妖気を復活させる為の修行もしている。だが・・・』

 

『そんなのを椿が知ったら、余計な心配をするだろう?』

 

「あ〜・・・確かにね」

 

狐2人のバツが悪そうな表情に、つい私も苦笑いを浮かべてしまう。

 

でも、そういう事を隠されるのは優しい性格の椿にとっては嬉しくなかったみたいで、少しむくれた顔をしながら無言で白狐さんの懐から妖気入りいなり寿司を強奪して食べていたよ。

 

『おぉ!?椿!我が楽しみにとって置いた物を!』

 

「むぐぐ・・・!ん〜、ゴクン」

 

あらら、コレ怒ってますね彼女。

 

椿は皆を守りたいから、今みたく誰かから心配されたり気を遣われたりされるのは、自分が弱いと思われてるようで嫌だって気持ちは分からなくもないけど・・・それで無理はしないで欲しいのは、私も狐2人と同じなんだぞ。

 

「はぁ、はぁ・・・ちょっと椿に綾。良いから、早く此処から・・・」

 

「丁度良かったです、美亜ちゃん。白狐さんと黒狐さんと協力して、皆を守りながら逃げてください。殿(しんがり)は僕と綾ちゃん、そして酒呑童子さんでやります!」

 

『全く、椿は相変わらずだな。ほら、それなら綾もコイツを食べて妖気を回復しておけ』

 

「ん、ありがとう黒狐さん。むぐむぐ・・・おし、行くか!」

 

妖気を回復させた私と椿は屋根によじ登ってきた美亜と交代するように大きく飛び上がって、そのまま上空から厚雲と戦っている酒呑童子の方へと降りていく。

私も椿も思いっきり力を込めてジャンプしたから、やっぱりというか物凄い勢いがついて紐なしバンジーやってる感じがするな。

 

「酒呑童子さん、ちょっと退いて〜!!」

 

「うぉりゃあ!あっぶねぇ〜、何とか着地出来た・・・」

 

「んぁ?何だ椿も綾も、妖気を回復してきやがったのか?つっても、もって数回しか妖術使えねぇだろうが」

 

「それ酒呑童子さんが言えた事かよ!その酒鬼、どれだけ飲んだんだっつ〜の!?あ〜もう――稲妻雷霆蹴!!」

 

「綾ちゃんの言う通り、お互い様です!――黒槌岩壊!!」

 

降り立つ勢いのまま私達は空中で前転しながら、それぞれの物理系妖術を厚雲の頭へとブチ込む。

 

「ぬぅっ!?」

 

しかし、その勢いをもってしても鬼は仁王立ちで受け止めてしまってビクともしていない。

やっぱり、さっきやった様に"白金の狐"となった椿と一緒に"鈍色の狐"で攻撃しないと、マトモに吹き飛ばす事も出来なさそうだ。

 

「まぁ、ナイスだな2人共。おらぁ!!」

 

「ぐが・・・っ、あぁぁあ!!」

 

とはいえ、それでも酒呑童子は相変わらず規格外なパワーで、隙の出来た厚雲の横っ腹をブン殴って吹っ飛ばしてたけど。

 

うわぁ〜私と椿が妖術に妖術を重ねてもやっとな相手なのに、それを素手1つで簡単に吹っ飛ばす酒呑童子の強さって毎度見てもおかしく感じるよ。

 

「うし!今の内に離れるとするか!」

 

そう言って逃げながら"酒鬼"を飲む酒呑童子に私も椿も呆れている内にも、何とか先に逃げた皆の方とも合流出来た。後は全力で鬼との距離を開かせれば逃げ切れそうだけど・・・。

 

「椿ちゃん、綾ちゃん。私の幸運の気が、あんまり効いてないみたいだから油断しないで」

 

「分かってま――」

 

「わっ!椿ちゃん、上!」

 

「えっ!?――ギャフ!?」

「へ?――ぎゃん!!」

 

「おっととと・・・っと、飲み過ぎた〜」

 

すると里子が叫んだのと同時に、酒呑童子は酔っ払った動きでよろけながら私と椿を肘打ちで吹っ飛ばしてきたのだ。

 

「げほっ、何するんですか酒呑童子さ――」

 

そう椿が言おうとした瞬間、なんと私達の居た場所の数メートル範囲が巨大な雲らしき物体に押し潰されていた。

 

「なっ・・・!?」

「しゅ、酒呑童子さん!」

 

私と椿は思わず声を上げたものの、そのすぐに酒呑童子は雲みたいな物体を持ち上げて姿を現し、苛立たしげな顔でそれを握り潰して消滅させる。

 

「あっぶねぇなぁ・・・ヒック。ここら一帯空き家だったから良かったが、てめぇ〜ウィ、人間が居たらどうし――」

 

「別に構わん。その者達の魂を俺達の地獄に連れて行くだけだ」

 

「はっ、だろうなぁ・・・聞くだけ無駄だったってか」

 

とりあえず、あそこに住んでいる人が巻き込まれたりはしなかったみたいで良かった。

でも、厚雲が雲らしき物体に乗って空中に浮いているって事は、やっぱり今の攻撃は奴の力によるもので間違いないな。

あのままじゃ逃げ切るのも難しいし、叩き落とすしかない訳だけど・・・どうしたものかね。

 

「よ〜し、椿に綾。ちょっと耳貸せ」

 

「いや、ぐでんぐでんに酔っ払ってるのに危ないから・・・そのままで大丈夫だって」

 

「酒呑童子さん、何かするんでしょ?こっちは僕も綾ちゃんも、1回だけなら何とかなりますから大丈夫です」

 

「・・・お〜?んじゃあ、頼むわ。へっへっ・・・おじちゃん嬉しいぜ、師弟の信頼関係って奴か?」

 

「そーいう訳じゃないんだけど――」

 

「き、気持ち悪い事言わないでください!この酔っ払い!」

 

「って、椿ぃ!?」

 

今思いっきり酒呑童子の後頭部に飛び膝蹴りかましましたよ、この子!いくら酒呑童子がチート染みた強さ持ってて大丈夫だからって、それは色々ヤバいだろ!

・・・まぁ、案の定ケロッとしてるから何も言わないでおくけどさ。

 

『つ、椿よ、落ち着け・・・』

 

『綾と同じくらい、えらくアグレッシブになったもんだなぁ・・・まぁ、そこも可愛いが』

 

「2人は美亜ちゃんと協力して、皆を守りつつ先に行っててください」

 

おー怖、いつにも増して椿が怒ってる声の低さだわ。というか狐2人もさ・・・緊張感あるのか無いのか分かんないな、コレ。

 

「ガハハ!本来の使い方ではないが、これもまた一興!この我が地獄を覆う厚き雲、とくと味わえ!!」

 

そんな夫婦漫才が繰り広げられてる内にも、厚雲は上空から大きな質量を持った雲をドンドン出現させて徐々に私達の頭上へと増やしてくる。

 

「不味いな、あんなの降らされたらひとたまりも・・・って、酒呑童子さん!?」

 

すると、いきなり酒呑童子はビヨッと高く飛び上がって、浮かんでいる雲を足場にしながら厚雲に向かいだした。そして――

 

「おらぁ!!必殺、百○パ〜ンチ〜!!」

 

おいちょっと待てや酒呑童子ぃ!!

ギリギリ伏字に出来たけど危うくムシ○ング出してるS○GAとかから怒られそうな技名叫ぶなやぁ!!

 

・・・コホン、それはともかく。

酒呑童子が目にも止まらぬスピードで放ったパンチの連撃で、大量に浮かんでいた雲を厚雲の乗っていた物ごと全て弾けさせる。

 

「ぐぉぅ!そ、そんな馬鹿な!!俺の地獄の雲が!?」

 

「へっ・・・地獄が何だ?俺も鬼だぜ?なぁ・・・地獄の小鬼ちゃんよぉ!!」

 

「き、さまぁ!!」

 

その酒呑童子の行動が意外だったのか、厚雲は落下しながらも我を忘れたような怒りの声を上げていた。だけど、それで周りの方にも集中してないお陰で私も椿も気付かれずに奴の近くへ接近出来たよ。

 

「そう怒っていては周りが見えなくなりますよ、邪なる者」

 

「なっ!?」

 

椿の声で急いで防御体勢を取ろうとしても、もう遅いよ!

 

この瞬間なら私も椿も"神妖の力"を解放して、さっきの姿とまではいかないけど全力の一撃を直撃させられるんだから!

 

「滅する事は出来ね〜けど、コイツで吹っ飛んどけ!稲妻雷轟蹴!!」

「私達からの、せめてもの土産です!金華浄槍!!」

 

「ぐぉぉぉお!!」

 

椿が浄化の炎を纏った尻尾を厚雲の背中に突き立て、そこへ更に私が放った浄化の力で強化された雷を纏う蹴りがクリーンヒットした事で、不意をつかれた相手は家屋の残骸を巻き込みながら大きく吹っ飛んでいく。

 

よし!これだけ遠くに飛ばしてしまえば、しつこく追いかけられる事なく逃げ切れるぞ!

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