私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
この数日間、学校に行けなくなった私と椿はひたすら任務をこなして、京都のアチコチに出没し続ける妖魔を退治していた。
だけど、私も椿もライセンスはまだ5級だから妖魔を巻物に封じる事が出来なくて、捕獲係の妖怪が到着するまでに逃げられちゃう事も多いけれどね。
こんな規則を作ったセンター側に文句の1つや2つを言いたくなるよ、全く・・・。
――そんなもどかしさを感じていた、ある日。
朝食を食べ終えた私と椿の所に、ヘビスチャンさんが蛇の姿でニョロリと目の前に姿を現してきた。
「ヘビスチャンさん・・・そんな事されても、もう驚かないからね」
「だいぶ肝も据わってきて、これ位では驚きませんか。成長なされましたね、椿様も綾様も。やはり、このヘビスチャンの目に狂いは無かったようです」
いやはや、最近は皆して私や椿が以前より成長したって所を見る度に、お年寄りみたく昔の事を懐かしむような顔で持て囃してくるから、私も椿も少し恥ずかしいぞ。
「それで"セバスチャン"さん、何の用ですか?」
「むっ・・・椿様、これはまだ覚えられないのですか」
「いや、どう見てもわざとでしょ」
「ほぉ・・・」
「いたたたた!!ごめんなさい!腕に巻き付いて締めないでください!」
うん、な〜に大人気ない事してんですかセバスチャ・・・じゃなかった、ヘビスチャンさんは。
あっぶねぇ〜先に私が名前呼んでたら、腕に巻き付かれてのはこっちだったわ。
「さて・・・椿様、綾様。実はそろそろ、此方にてライセンス昇級試験を行おうと思うのですが、お2人はどうされます?」
「えっ?もう?」
「確か、半年に1回じゃなかったっけ・・・?」
私と椿がライセンスを取ったのって、去年の夏だったハズだよな。それを考えると、とっくに昇級試験の時期は過ぎてると思ったんだけど、これは一体どういう風の吹き回しだろ?"昇級試験は突然に"って奴か?
「今回の試験は翁とセンター長が決めた事なのですが、椿様と綾様は既に5級以上の実力となっているハズです。それで、お2人がライセンスの規則で不利益を被っているんじゃないかという事で、今回は特別に椿様と綾様だけの昇級試験を行う事が決定されたのです」
そのヘビスチャンさんの言葉に、私も椿も納得して頷く。
確かに、ライセンスが5級なせいで上手く任務を進められない状況があって、椿の爺さんから特別な許可を貰って何とかしてた事はあった。
だけど、それだとライセンスの意味が怪しくなってくるし他の皆にも後ろめたかったから、昇級試験の話が来るのは良い事・・・ではあるんだけれど、そうなると私達には1つの疑問が生じる訳で。
「何で、わざわざ僕と綾ちゃんだけに?」
「あんまり特別扱いされると、私も椿も恨まれるんじゃないかって心配になるんだけど・・・」
「実は、一部の妖怪達から是非とも椿様と綾様の実力をと、そう申し出る方々が相次ぎまして。そこで、折角なので公開式の形で昇級試験をやってしまえと、そう翁とセンター長は考えられたそうです」
「いや、待ってください・・・僕の知らない所で、何でそんな事に?それって、僕と綾ちゃんが特別扱いされているのを快く思っていないからですよね?」
「そこは椿の言う通りだね。ヘビスチャンさん、こんな形で特別扱いなんてしたら何て思われるか・・・」
「お2人が、それ以上の実力を見せれば宜しいでしょう?」
おぅ、更にプレッシャーかけるの止めてくれませんかね。ただでさえ皆に見られる中で昇級試験するっていうのに、そんな事を言われたら余計に緊張してきちゃうんだけど。
「それに、どちらかと言うと皆さんは疑っているというよりも、お2人の"神妖の力"を見てみたいと思っている方が多いのですよ?」
「いやいや、何で言い切れるのさ?」
「なんと言えば良いか・・・全員、こういうのを持っていましたからね」
そこでヘビスチャンさんがポケットから出してきた物を見た瞬間、私と椿は衝撃のあまりフリーズしてしまったよ。
うん、このパンフレットの感じは何処かで見たような・・・
『2人のお姫様、"妖狐"椿ちゃんと"霊能少女"綾ちゃんを守る会』
「「・・・」」
よし見間違えじゃないな、OK!これ・・・会長が殆ど私と椿の頭の中で一致するんだけど!
「「雪(ちゃ〜ん・〜)!!」」
すぐさま私達は、一緒に叫びながら雪の部屋に全速力ダッシュで突撃して、そのままパンフレットを雪の前に突き出す。
「あっ・・・椿、綾。どうしたの?」
「"どうしたの?"じゃないわ!!このパンフレットは一体何なんだよ!?」
「私が、香苗から継いだ。それが?」
「・・・継いだって、何を勝手に――」
「椿、そう驚かないで。今までもそうだったけど?」
ああ知ってますよ私も椿も!でも以前にも増してパンフレットの内容がパワーアップしてない!?
修行後に軒先で椿と一緒に休憩してる写真とか、果てには2人で気の抜けた寝顔で昼寝してる写真まであるんだけど!
こんなの一体いつ撮ったんだよ〜!?
「今や、妖怪や人間合わせて会員数1000万人突破。やったね」
「"やったね"じゃないよ、もう〜!本当に取り返し付かなくなってんじゃ〜ん!!」
「あぁぁぁ・・・」
こんなの、怒る気力も無くなるわ!椿なんて、ショックのあまり脱力してヘナヘナって座り込んじゃうし・・・。
というか、道理で最近は皆が私や椿を見てくる目が少し変な気がした訳だよ!本当とんでもない事やってくれやがっちゃったよ、この子!!
「お陰で私、大忙し。そうそう・・・公開昇級試験、2人共やるよね?もう特集も組んでいるし、ファイト。そうだ、意気込みのコメントと写真ちょうだい」
「君は記者か何かですか!!」
「こ、ここまでテキパキ働く雪なんて初めて見たわ〜・・・」
まるでアイドルかのように持て囃される現実から少しでも目を逸らそうと、ヘビスチャンさんの方に視線を向けると・・・なんという事でしょう、この人も同じパンフレットをコッソリ出してるんですけど?
「あっ、ちなみに私も椿様と綾様のファンクラブ会員ですよ。ふふ、こうやって蛇の姿で2人の腕に巻き付けるのは、会員の中でも私くらいです」
「あ、あは・・・あははは、何やっているんですかヘビスチャンさん」
「やけに落ち着いてると思ったら・・・はぁ、マトモなのは私と椿だけか?」
もうヤダこの人達、こっちの知らない所でドンドン規模をデカくしていくなんて。次にファンクラブの事を聞いた時には宗教になってそうで怖いぞ。
そう思ってた時、今度は私達が思わず振り返る程にゾッとするくらい、人魚の海音が悔しそうな顔をしながら凄い嫉妬の視線を向けてきていたよ。
その後ろには楓が私達の事を尊敬の眼差しで見てきているから、いよいよ胃がキリキリしてきそうだ。
「2人共、私より・・・人気ある」
「へっ?」
「人気って、ひょっとするとまさか?」
「あぁ、そうそう。海音も数ヶ月前からアイドル活動を始めたらしいけれど、人魚の歌で魅了されるのが人間しか居ないのもあって、総評では椿と綾が勝ってる。ちなみに椿と綾は、き〇こ派VSた〇のこ派並みに激しく競り合ってる」
「そんなん知るか!!」
海音も海音で最近見てないな〜と思ってたら何やってんの!?というか、人魚の力を使った歌で魅了するのは芸能界的に色々アウトな気がするんですけど・・・。
「去年の夏も負けた上、今回も・・・でもね、今に見てなさい。人間達全員を私の歌で魅了させて、妖怪の皆にも認めさせてやるわよ!」
そう対抗心剥き出しに指さしてくる海音に、もう私も椿もツッコミ疲れて首を縦に振る事しか出来なかったよ。うん、ホントもう勝手にやっててくれ・・・。
「っていうか、楓も海音の友達なんだろ。だったら、少しは何かフォローしてやれば良いのに」
「綾ちゃんの言う通りだよ。楓ちゃん、人に迷惑かけたら駄目って、そう海音ちゃんに言ってあげた方がいいんじゃない?」
「姉さん達、昔から何回も言ってるっすけどね・・・まるで無駄っす。でも大丈夫っすよ、そろそろっすから」
一体何が?と、椿と一緒に首を傾げた時、今度は椿の爺さんが怒った様子でやって来て、そのままムンズと海音の首根っこを掴んで持ち上げた。
「茶釜から聞いたぞ、海音。貴様、その歌声で昔から人々を魅了して、アイドル活動みたいな事をやっとるようじゃな。しかも、裏でコソコソと隠れるようにしてな」
「はわっ!?ち、ちが・・・翁さん、違います!わ、私はただ、人間達に癒しをって・・・」
「そういう慈善活動をするにしても、申請をせぇ!!それに、今回のは完全に私怨じゃろう?今後30年間、能力の使用は禁止じゃ!!」
「えぇぇ!?ちょっと、それは厳し過ぎ――」
「お前さん、ネットでも活動しとるようじゃな」
「ドキィ!?あ〜、えっと・・・」
あ〜らら、完全にバレてやんの。というか自分でドキィ!?なんて言ったら、それこそ隠れてアイドル活動してたの認めたようなモンじゃんか。
「来い!今回は特別に、儂の説法付きじゃ!!」
「えぇ!?楓ちゃ〜ん助けてぇ!!」
「いってらっしゃいっす〜」
「ちょっ、嘘でしょ楓ちゃん!?」
うん、サラッと流すように見送った楓が今だけは何となく本当のくノ一っぽく見えたわ。
というか、そもそもの私と椿の問題が置いてけぼりになってるよ〜な・・・ん?爺さんの着物の背中に何か変わった刺繍が――
《TU・BA・KI♡》
「あの〜、おじいちゃん・・・?」
「おぉ、忘れとった。儂もファンクラブの会員じゃ、勿論お前さん推しでの」
「いつの間にですか!?」
「昨日からじゃ。全く・・・これがあると知っておれば、もっと早くに・・・とにかくじゃ。ファンクラブの会員として、妖怪の纏め役として2人には期待しとるからな」
そう言って爺さんは海音を引っ張って、鼻歌混じりに嬉しそうな様子で部屋を後にしていった。すると、今度はヒョッコリと部屋の窓から丘魔阿さんも顔を出してきた。やっぱりというか、両手に《I♡LOVE♡AYA》って書かれた写真付きの団扇を持ってね。
「あら〜皆から大人気ね〜。あっ、私も昨日からファンクラブ会員になってるわよ〜。も・ち・ろ・ん、可愛い娘である綾の推しとしてね〜」
「は、はは・・・そ、そうなんだ・・・はぁ」
「ファイト、椿、綾」
「は、あは、あははは・・・」
これには完全に、私も椿も笑うしかなくなっちゃったよ。
何がどうなったら私と椿が頑張れば頑張る程、変な所で皆からアイドルみたいに持ち上げられる事になっちゃうんだよ・・・。
まぁ、何はともあれ折角のチャンスなんだ。
ここは気持ちを入れ替えて、Sランク妖魔を退治出来るだけのライセンスを一気に取ってやるとしますかね!