私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
湯口先輩を助けられるかと思った直後、よりにもよって以前より身体の大きさも妖気の強さも段違いに強くなった玄空が私達の邪魔をしてきた。
「はぁ、はぁ・・・ぐぅ、父上・・・」
「靖、下がれ。空魔として我らの上に立つならば、ここで散るべきではないぞ」
「くっ・・・」
そう悔しそうにしながら、先輩は父親である玄空の後ろで立ち去ろうとしていく。
クソ、こんな所で逃がしてしまったら先輩は今度こそ寄生妖魔に・・・!
「この、待て!」
「行かせん!」
すぐに追いかけようとした私だったが、その瞬間に玄空が両手で地面を強く殴りつけて土塊を幾つも巻き起こし、それで迎撃されて椿の方へ吹っ飛ばされてしまった。
「うあぁっ!?」
「綾ちゃん!!」
『綾!!』
『白狐!玄空がそっちを狙っているぞ!やはり、コイツは別格過ぎる!俺が妖術で妨害しようとした事にも気付かれた!』
見ると、黒狐さんが先輩に向けて放った黒雷は全て、玄空が先程巻き起こした土塊や木々を投げ付けて撃ち落としている。
不味い、このままじゃ先輩が・・・こうなったら――
「先輩!!私から・・・逃げるな!!」
「お願い!!僕と綾ちゃんの事を・・・思い出して!!」
『椿、綾!"それ"はいかん!』
『くそ!また2人して無茶を!』
私と椿は何としてでも先輩を元に戻すべく、それぞれ"鈍色の狐"と"白金の妖狐"の姿となって、一気に走って狐2人や玄空を飛び越えながら追い縋る。
この『増幅』の力と、私の生まれ持ってきた『魂を呼ぶ力』を使って・・・湯口先輩から寄生妖魔を引き剥がす!!
「ぬぅ・・・これは、あの時の力。欠片でも操れるようになったとは・・・靖、早く逃げろ!」
「くっ・・・ち、ちうえ・・・足が、言う事を・・・」
「何だと!?」
すると、逃げようとしていた湯口先輩の足も止まって、まるで私と椿の攻撃を待っているように1歩も前へ進めなくなっていた。
それなら――チャンスは今しかない!!
「白金の浄化槍!!」
「鈍色の剥離槍(にびいろのはくりそう)!!」
しかし、私と椿が浄化の力を纏わせた尻尾を先輩へ突き刺そうとした瞬間、玄空が突如としてその間に割って入って身体を盾にして受け止めてきたのだ。
「ぐぅ・・・中々の力!しかし、この最古参である俺は、この程度では浄化でき――」
「退いて・・・ください!!」
「退けよ・・・この野郎!!」
それでも自分の『魂を呼ぶ力』を強くして、そのまま椿と共に玄空を浄化しようとしたが・・・その瞬間に私と椿は何かの衝撃を受けて、大きく吹っ飛ばされてしまう。
「ぎゃうっ!!」
「ぐぁっ!!」
『椿!!』
『綾!!』
すぐさま狐2人が尻尾で受け止めてくれたとはいえ、口の中に広がっていく血の味が気にならないくらい、今の出来事には私も椿も困惑の色を隠せなかった。
『椿、綾!口から血が出ているぞ、どこか切ったか!?』
「白狐さん、大丈夫です。それより、早く先輩を・・・この力、後1回しか使えないんです」
『くっ、無茶をしやがって・・・綾、お前も大丈夫なのか?』
「私も椿と同じだ、黒狐さん。それに私の力が無いと、先輩から寄生妖魔を完全に引き剥がせないんだ。だから、今は無茶でも何でもやらないと!」
そう言って痛みが残る身体を無理やり起こそうとした時、私と椿は後ろから狐2人に優しく抱きしめられる。
「なっ、いきなり何を・・・!?」
『椿、そして綾よ。そんなに、あの者が大事か?』
「えっ、白狐さん・・・?」
『2人共、自分が無茶をしている事を・・・分からないのか?』
「黒狐さん?僕はそれでも・・・えっ、あれ?足に、力が・・・どうして!?」
「くっ・・・この!何で!?何で身体に力が入らないんだよ!!」
そんな先輩を助けたい私と椿の気持ちとは裏腹に身体の方は元の姿に戻って完全に力が抜けてしまい、遂には狐2人に支えるように抱えられてしまった。
「ふむ・・・どうやら、その力は余程のリスクがあるらしいな。しかし、この俺にここまでの手傷を負わせるとは流石、閃空を倒しただけはある・・・だが、俺は奴とは違うぞ!――喝!!」
すると、玄空を包んでいた椿の浄化の炎も私の鈍色の光も、奴のたった一喝で消し飛ばされてしまった。
クソ・・・まだ私達は、この妖魔人を浄化する事が出来ないってのかよ・・・!
「とはいえ、俺も靖も相当なダメージを受けてしまったな。最後の力を振り絞られて浄化されては不味い・・・ここは退くぞ、靖」
「はい、父上」
そして動けるようになっていた湯口先輩は、玄空の後を追うように去っていってしまう。
「嫌だ・・・このままだと、先輩が・・・そんなの、嫌だ・・・!」
「そんな、待って・・・先輩、止まって・・・!」
届かないと身体では分かりつつも私と椿は必死に先輩の背に向けて手を伸ばすと、ふと先輩は一瞬だけ頭を振り向いて私達に向けた最後の言葉をかけてくる。
「もう、無理はするな。殺せ・・・椿、綾。俺は、もう・・・駄目、だから」
「先輩・・・」
「そんな、嘘だ・・・」
「「先輩のバカぁぁあ!!」」
そして、そのまま先輩は玄空と共に逃げていってしまった。助けられなかった苛立ちを私達の叫びにはもう、先輩は振り向いて答えてくれる事すらなかった。
そんな先輩の自分を顧みない最後の言葉に、私も椿も悔しくて涙が零れてきてしまう。
『椿に綾よ。今はまだ、無茶をするべきではないだろう?』
「分かっている、分かっています・・・でも」
「私も椿も、大切な人を・・・先輩を助けたかったんだよ・・・っ!」
『2人共、その悔しさは取っておくんだ。次に相見えた時、その想いも一緒にぶつけて元の姿に戻してやれば良い』
そう言って白狐さんと黒狐さんは、先輩を助けられなかった事を慰めるように私と椿の頭を優しく撫でてくれた。
確かに狐2人の言う通り、今回は誰も大きな怪我をしないで済んだのは良かった事だよ。
だけど、それでも・・・それでも、私は自分の事を諦めている先輩の様子を思い出すと、また涙が出てきそうになるんだ。
椿がいじめられていた時だって、私がクラスの奴から罵詈雑言を投げつけられていた時だって・・・先輩は私達が「止めて」と言っても、自分の身がどうなろうと構わないくらいに私達を助けようとしてくれた。
だから、その恩を・・・いや、今度は私が先輩を助けて「あの時、助けてくれてありがとう」と正面から素直な気持ちを伝えるんだ。
「んっ・・・白狐さん、黒狐さん・・・それに綾ちゃん、もっともっと修行しましょう」
「・・・ああ、私も同じ事を考えていたよ」
『そうじゃな、2人共。今は我らも、不甲斐ない所を見せてばかりじゃ』
『白狐の言う通り、何とかしないとな』
そんな気持ちを胸にしながら日の光が差し込み始めた曇り空を見上げると、ふと私と椿はその暗雲の隙間に変な物体を見つけて首を傾げた。
「あれは、何ですか・・・?」
「まるで、昔ながらの独楽(コマ)みたいな形をしているけど・・・」
すると、同じく空を見上げた狐2人は驚愕と怒りを含めた大声を隣で上げてくる。
『なっ!!あれは――雷雲城"天雷(てんらい)"か!?雷獣が所持している最終兵器並みの妖具ではないか!!』
『アイツ、一体何を考えているんだ!あんな物を持ち出すとは、妖界を滅ぼす気か!?』
その狐2人の叫ぶ声に私も椿もビックリしていた時、空に浮かんでいた物体はヒュッとUFOのように消えてしまった。
あの空間の歪み方からすると、妖界に転移したみたいだけど・・・まさか、亰嗟に占拠された妖怪センターを十極地獄ごと吹っ飛ばしたりでもする気なのか?
『椿に綾よ!急いで翁の元へ戻るぞ!』
「分かりました!」
「うん!了解だ!」
「えっ、おい・・・私の様子を見に来たんじゃ・・・」
賀茂様みたいな声が聞こえてきたから何か頼まれてたような気もするけど、今はそれどころじゃない!
その用事は、また次の機会って事で許してくれ!!