私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第捌話 歪んでしまったが故の

 

吹き飛ばして地面へ縫い付けた峰空を浄化しようとする私達の前に、立ちはだかるように栄空2人がゆっくりと空中から降りてくる。

 

「ふん・・・覚醒したかと思えば、あまりにも情けない様ですね」

 

「そう言う貴方は覚醒しないんですか?」

 

「いきがってても、そっちは数で私達より不利なんだろ?」

 

「あまり図に乗らないでください。私は峰空とは違って、自らを誇示するような慢心は致しません。それに、貴方達如きが亜里砂様の尊き願いを邪魔するなど、あってはならない事なのです」

 

「尊き願い、ねぇ・・・」

 

なるほど、やっぱりコイツも寄生妖魔に身体を乗っ取られて、本来の人格すら飲み込まれてしまってるみたいだな。とはいえ、浄化の力で本来の人格を引っ張り出した所で上手く抵抗してくれるかどうか・・・まぁ、先ずは寄生妖魔の浄化を優先しないとね。

 

そう考えていた時、突如として峰空が押さえていた影を振りほどきながら、勢い良く私達に向かって腕を振り下ろそうとしてきた。

 

「栄空!そこ退きなさ〜い!!」

 

「なっ・・・私の影を!?」

 

「あ〜もう!ホントしぶとい奴だな!!」

 

「言ってなさいよ!アンタ達に、この強化された身体による攻撃が防げるのかしらね!」

 

そして、峰空は振り上げた腕を再び避難していない人達の方へと振り下ろそうとしたが、そこで峰空のガラ空きとなった腹の口から出ている寄生妖魔を見逃す私と椿じゃない。

 

「卜半細氷拳!!」

「金華狐狼拳!!」

 

「なっ!?」

 

まずは振り下ろされようとしていた腕を、浄化の力を込めた拳で2人同時に叩き込んで弾く。それに驚いて峰空が腕を引こうとした瞬間に、私達は尻尾を槍のように鋭くして突き出す。

 

「逃がすか!卜半剥離槍!!」

 

「くっ!!あっぶないわねぇ!!」

 

峰空は突き刺そうとした私の攻撃を咄嗟に反対側の腕で防御するも、そこから椿の攻撃を防ごうとした時に虎羽さんから攻撃されて怯み、遂に相手の腹から飛び出している寄生妖魔に椿の尻尾が突き刺さる。

 

「金華浄槍!!」

 

「ぎゃぁぁあ!!」

 

その瞬間から強い光が眩く輝き、峰空に浄化の力が流し込まれていく。しかし、峰空の身体が巨大なせいか、全体まで浄化の力が行き届きにくいようだ。

それに、どうやら妖気の感じからして寄生妖魔が体内で逃げ回っているらしい。

 

「くっそ!逃がしま――」

 

「流石に、それ以上は浄化をさせませんよ」

 

そこへ邪魔をするべく、栄空2人が椿の横へと飛んで手のひらに妖気を溜めて吹き飛ばそうとしてくるが、無論そんな事を私と龍花さん達が許す訳はない。

 

「くっ!!・・・あ、あれ?何ともない?」

 

「バーカ、私達が居る事も忘れてもらっちゃ困るっての。私の"悲愴天・玄武"と玄葉さんの盾で防いでやるから、椿は峰空に集中して!」

 

「ええ!綾と玄葉、ありがとうございます!」

 

「そんな話し方で貴方から言われると、何だか少しむず痒いですね。早く終わらせて、いつもの椿様に戻ってください」

 

「ふふ、分かりました」

 

栄空2人の妨害を私と玄葉さん、そして後から合流した龍花さん達3人で抑えている内に、椿は更に浄化の力を込めて峰空の中に居る寄生妖魔を追い込んでいく。

 

「い、いや・・・止め、なさい・・・私の、私の永遠の美が・・・!」

 

すると、往生際悪く峰空が身体を捩らせたり両手をジタバタさせて椿に抵抗してくる。しかし、浄化の力が身体のアチコチに行き渡っている今の状態では、最早まともに力も入れられていないようだ。

 

そして、遂に攻撃を防いでいた椿の影に身体を押さえつけられ、とうとう抵抗する手段も無くなった。

 

「がっ・・・!ぐ・・・く、くそ!!」

 

「もう諦めなさい、"負なる者"。そんな醜い姿が、貴方の求めた美なのですか?」

 

「ち、がう・・・!これは、私の美を維持する為の姿・・・これで、美しい人の生気や妖怪の妖気を食べ続ければ・・・私の美しい容姿は、ずっと保たれるの!」

 

そんな峰空の自分勝手な言葉に、浄化を続けている椿と同時に私は呆れた溜息を吐いた。

アイツも閃空と同じく江戸時代に起こった飢饉から生きていた者とはいえ、ここまで美に執着するなんて尋常じゃない精神力だ。

 

「お前、ふざけんなよ。昔の人間が、そこまで美を意識するなんて信じられないぞ。峰空、お前が人間を止めた本当の目的は何なんだ?」

 

「嘘、じゃないわよ・・・私には、自分の美を保つ事しか、この若さを保つ事しか頭に無いわ!それこそが、私を進化させた寄生妖魔ですら乗っ取る事も理解する事も出来なかった私の動機・・・美への探究心よ!」

 

峰空の絞り出すように放たれた心境。それを聞いた私や椿、そして共に戦っていた龍花さん達や半妖の人達は、そのあまりに強い峰空の欲望の深さに思わず無言となってしまう。

 

以前に寄生妖魔は人の生存本能や闘争本能を糧にして取り付いた者を操ると、そうオジサンから聞かされてはいたけれど・・・それとは違う強い"想い"、いや"欲望"で本能を抑えていたなんて。

だけど、それが事実だとするなら、きっと最初から峰空は自分の意識を持ったまま、寄生妖魔の力を利用し続けていたという事なのだろう。

 

だからこそ、夏美さんや丘さんの言ったような「美しくない」「醜い」という言葉には、過剰なまでの怒りを見せていたのかもしれない。

 

――しかし、そんな歪んでしまったが故の傍若無人な振る舞いも、これでお終いだ。

 

「峰空、お前は既に人間じゃないんだよ!人を殺して、それを何とも思わなくなった時点でな!」

 

「美の探求なんて、そんな言葉は自分の今の姿を見てから言いなさい!」

 

「なぁんですってぇぇ――がっ!?は・・・あっ、嘘・・・」

 

「それに、もう貴方の力の源は捉えました」

 

私達の言葉で峰空が怒り狂いかけた瞬間に、椿は寄生妖魔の位置を探り当てて、直接それに浄化の力を流し込んでいく。

 

「あっ、駄目・・・だめぇぇぇ!!私の、私の美貌があぁぁぁ!!」

 

「良いから、大人しくしなさい!」

 

栄空2人も私や龍花さん達で押さえている中で椿に寄生妖魔を浄化されていく峰空は、みるみる内に巨大な身体を雪像が溶けるように崩していく。

 

「あ、あぁ・・・ぁぁぁ」

 

そして、椿が尻尾を突き刺した腹の口も崩れ去った後には、1人の骨と皮だけになったような老婆が倒れているだけとなった。

 

あの老婆が峰空の本来の姿だったのだろうと驚きながらも考えていた時、そこで椿がフラフラとしだして倒れかけるのが見えた。

すぐさま私は椿の方に駆け寄り、倒れそうになっていた彼女の身体を急いで支える。

 

「うっ・・・ごめんなさい、綾」

 

「まぁ、あれだけ力を使えばね。それにしても、どうやら峰空は自分の寄生妖魔に吸い取った美や若さを蓄積して、それで美しい姿を維持していたみたいだな。そいつが無くなったとなりゃ・・・」

 

「なるほど、その反動で一気に歳を取ってしまったという事ですか」

 

細く弱々しい姿になっても妖魔人特有の黒い肌や赤い目が残る峰空を見下ろしながら、私と椿は笑顔になる事もなく相手を憐れむ。

 

「けほっ、ごほっ・・・あ、あぁ、私の美が・・・何で、こんな・・・庄屋の家に生まれた私が、飢饉で、村が・・・家も・・・はぁ、はぁ・・・私も痩せ細って、美しさも、何もかも全部無くなって・・・」

 

うわ言のように呟きだす峰空。

既に私達の事が見えていないのか、仰向けで遠い所を見ている相手の視線の先には、曇り空から僅かに覗く青空だけがあるように見えた。

 

「あぁ・・・庄之助(しょうのすけ)、ごめんなさい・・・こんな、こんな醜い私は・・・きら、い・・・よ、ね?」

 

そう言ったと同時に曇り空の隙間から陽の光が射し込んだ瞬間、老婆となった峰空の身体は一気に崩れていき、跡形も残らず灰になって消えてしまった。

 

「綾、あれを・・・」

 

「え?あれは・・・木の板?」

 

その灰の中に何かを見つけて、私は椿を抱えたまま峰空の倒れていた場所へ近付く。すると、そこで私と椿は木の板の正体が何なのかを察した。

 

【庄之助・峰子(みねこ)】

 

「きっと、昔に好きな人が居たんだろうな・・・」

 

「ふむ、今の時代の言葉だと・・・『愛を永久(とわ)に。幾千、幾万の時が流れても、私達は絶えず美しい夫婦のままに』ですかね」

 

「うわ!・・・誰かと思ったら、朱雀さんか〜」

 

「それにしても、あの木の板の文字が読めるんですか?」

 

「ええ、座敷様に教えて貰いましたので」

 

そうして峰空――峰子だった灰を前に、私達は来世が幸せなものであるようにと、そっと静かに手を合わせていた。

 

確かに、自分の美を保つ事に執着し続けて自分すらも見失ってしまった彼女も悪いのかもしれない。だが、それ以上に私は人の"想い"を利用して悪へと引き摺り込んだ華陽への怒りが強くなった。

 

閃一や峰子・・・妖魔人にされたこの人達の分も、仇は取ってやる。

 

「椿様、綾様。しんみりしている場合じゃありません!」

 

「そうでしたね。まだ栄空が――くっ!こ、れは・・・しまった!」

 

すると、私の腕から降りようとした椿は身体の中にある"神妖の力"が暴走しそうになってしまい、苦しげな表情を浮かべて金狐から元の姿に戻ってしまった。

 

「う、くっ・・・はぁ、はぁ・・・ご、ごめんなさい、綾ちゃんに朱雀さん。浄化するのに、妖気を使い過ぎちゃいました」

 

「どこまで無茶をしているんですか、椿様。金狐が解けてしまう程なんて」

 

「だけど、相手があんな姿になるとは思わなくて・・・あれは、全力でやらないと駄目だったよ」

 

「はぁ・・・確かに、あれは私も予想していませんでしたからね」

 

「とりあえず、朱雀さんは椿をお願い。残る栄空は、ここから先は私が頑張るからさ」

 

「分かりました。健闘を祈ります、綾様」

 

「うぅ・・・綾ちゃん、すみません」

 

そう言って朱雀さんに椿を託した私は、灰の中から峰子の遺した木の板を懐に入れながら、ポキポキと両手の指を鳴らして遠くに立つ栄空2人を睨みつけた。

 

オジサンがボコボコにされた件も含めて、半年前の借りはキッチリと返させてもらうよ!!

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