私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
その後、レイちゃんも連れて狐2人と共に貴船神社へやって来た私達は、アクビをしながらも運んでくれた雲操童から降りる。
その丑の刻参りが行われているのが深夜だからって午前0時に来たは良いものの、これは少し眠気がヤバいかもしれないね・・・ウトウト。
「綾ちゃん!しっかりしてください!」
「はぅわ!?あ、危なく寝る所だった〜!ありがと椿!」
「全く、綾ちゃんったら・・・眠いのは分かるけれど、今は任務をこなす事に集中しなくちゃ!」
ベシリ!と尻尾で椿に頭を叩かれながらも、私は眠気を堪えてレイちゃんの様子を伺う。
「ムゥゥ・・・」
すると、レイちゃんは貴船神社の案内が書いてある看板近くで唸りだし、その木々の茂っている奥の方を警戒するように見つめ始めた。
そして、妖気に対する感知能力に優れた私と椿も、レイちゃんが見つめる方から禍々しい物ではないものの、少し神妖のものに近い変わった妖気を感じ取る。
「ねぇ、白狐さんと黒狐さん。奥の方に妖気を感じるけれど・・・もしかして、これが任務で言われていた妖気ですか?」
『うん?奥の方?それは裏口の方か?』
「あっ、えっと・・・多分。そうだよね、綾ちゃん?」
「それで合ってると思うよ、椿。貴船神社の縦長の地形から見て、私達の居る所とは真逆の方から妖気を感じるし」
そう私が分かりやすく説明すると、狐2人は慌てるどころか何かを思い出したような表情になった。
『そうか、アイツが居たの』
『そういや、仕えていたのは此処の神だったな。だから普段は中々表にすら出て来ないが、この状況なら逆に好都合だ。今回の事について、何か知っているかもしれない』
そのまま狐2人が歩き出したので、私達も慌ててレイちゃんを連れ戻して2人の後を追う。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「というか、これから誰に会うつもりなの?」
『まぁ、会えば分かるかの』
『安心しろ、2人共。そう心配しなくても、アイツは悪い奴じゃない』
不安になる私達へ、そう狐2人はニカッと笑って答えてくれたけど・・・神に仕えてるって言ってた時点で、不安とは別な意味で色々と緊張してくるぞ。
◇◇◇
それから狐2人と共に涼やかな川や長い石の階段、そして赤い燈籠が並ぶ貴船神社の道をしばらく歩き、ようやく私達は山の中のように奥まった奥宮近くの裏口の門辺りで、その目的の場所である小さな祠みたいな社に到着した。
すると、そこに到着するなり狐2人は祠に向かって大きく声を張り上げた。
『おい、仏国童子(ぶっこくどうじ)!どうせ居るのじゃろう!少し話を聞きたい!』
その聞き覚えの無い名前に私も椿もキョトンと首を傾げていると、その社の前にいきなり雷が落ちてきて、それが起こした土煙の中から黒い狩衣を着た、牛の角が頭から生えた青年の妖怪が姿を現した。
「何だ、お前達。こんな時間に誰か来るのは珍しいと思ったら、随分と久しいじゃないか?」
「えっと・・・」
「どうも、初めまして・・・」
「おぉ!!なんだ、めんこい子も居るのか!なるほど分かったぞ、この2人を私の嫁に――」
『『違うわぁ!!』』
「ぐぉっ!?」
おぅ白狐さんに黒狐さんや、椿を取られたくない気持ちは凄〜く分かるけど・・・今のは流石にやり過ぎだわ。2人の両側からのパンチで顔がビノーンって縦に伸びちゃってるぞ、あの人。
『全く・・・2人共、安心しろ。こんな奴だが、ちゃんと決まりは守・・・れなくても、筋は通す奴だ』
「おい白狐さん!今の間は何なのさ今の間は!?」
「むっ?何だ、私の事を知らないのか?それなら・・・ほれ!この姿を見れば分かるか?」
そう言って煙を発した仏国童子は、鬼の角が生えた牛の頭をした、ムキムキな鬼の身体を持った姿へと変化してきた。
そして、そこで私も椿も相手の正体を察する。
「その姿、まさか!」
「あの牛鬼ですか!?」
「はっはっは!そう、その通りだ!他の所では蜘蛛の身体であったりするが、此処での私は"この姿"なのさ!」
そんな牛鬼の衝撃的な真実もあって私と椿は思わずポカーンとしちゃったけど、黒狐さんは全く気にせず話を続ける。
『だが2人共、此処の牛鬼伝説は他とは違っていてな。珍しい事に、こちらは5代目後には人の姿へ戻っているんだ。そして、その一族の名前には"舌(ぜつ)"を持つようになった』
「それは元はと言えば私のせいではあるが、神は見捨てんという事だな。だからといって、この過ちを忘れる訳にもいかんが・・・」
「へぇ〜・・・牛鬼さん、一体何をやらかしたんですか?」
「うむ、神々の秘密を皆に言いふらした事しか、私に思い当たる節は――」
「「それ1番ダメなやつ!!」」
おぅ何だコイツ!本当に信用して大丈夫なのか!?
というか、そんなアホな事やらかしといて何があったら、子孫が人間の姿に戻れているのかが謎なんだけど・・・ひょっとして、罰として神の力を没収されたとかかな?
「はっはっは!まぁ当然の如く、そのせいで舌を八つ裂きにされて吉野の山に追放されたがな。しかし、私はどうしても神々から許して欲しくてコッソリ貴船に戻り、岩陰に隠れて謹慎したのだ」
そして"当然の如く"って言いながら、割と痛そうな罰を受けてるし・・・うわぁ、良く見たら確かに舌が無いよ。
「その甲斐あって130日目にして許してもらえたが、それでも業というものは深くてな。その後で生まれた私の子供は、牛鬼の姿で産まれたのだ。無論その子供も、その子の子供も全員が牛鬼だ。だが、5代目にして再び人間の姿の子供が産まれ、これを忘れてはいけないという事で、そこから子孫達は舌に名前を刻むようになったのさ」
「な、なんというか・・・よく子孫の人達から悪く思われなかったですね」
「まぁ、それなりに恨まれたりはしたがな〜・・・とはいえ、その後に私は天の世界へ上がったから、そいつらが今どうしているかは知らん。それに、こっちには物騒な奴がちょこちょこ来ているからな。本来、私がこうやって様子を見に降りるのも危ない状況なのだよ」
「それは――」
「何処で出ているの!?」
『そして、どんな姿をしていた!』
『お前の知っている事、全て教えろ!』
すると、そこでようやく私達が気になっていた事を口にしてきたので、ついつい全員で牛鬼に詰め寄ってしまったよ。
「ぬっ、何だ・・・真剣な顔をして。ほら、奥宮の方だ。もうこっちに近付いてきているだろう?」
そんな話を聞いた途端、椿は何故か急に気まずそうにキョロキョロと周囲を見渡し始めた。どうやら、その奥宮に祀られてる神様が、ひょっとしたらヤバい事になってるんじゃないかって不安になってるみたいだけど・・・。
「椿、あんまり考え込んでる余裕は無さそうだよ」
『綾の言う通りじゃ。ほれ、我らの方に禍々しい妖気が近付いていないか?』
「――はっ!?あっ、すいません!えっと・・・確かに、ちょっと濃い妖気が近付いていますね」
すぐさま私と椿は、その妖気を感じる奥宮へ通じる参道に向かう。妖気はゆっくりと歩くように進んでいるのは間違いない。
でも、向かった先には――
「あれ?ど、どうなってんだ?」
「妖気は感じるのに、誰もいない・・・?」
『これは一体、どういう事じゃ?』
『しかし、霊狐の奴は一点を凝視していて、毛を逆立てて威嚇しているな』
そんなレイちゃんの様子に違和感を覚えながらも、私達は妖怪や幽霊どころか人間すら居ない参道を注意深く観察しながら歩く。
すると、その中間地点に到着したと同時にレイちゃんは先程よりも大きく唸りだした。
「ムゥゥゥ!!」
「あっ、ちょっとレイちゃん!」
「いきなり勝手に奥宮の方へ行かないでってば〜!」
そして、そのままレイちゃんは相手の後を着けるように威嚇しながら奥宮の方へ進み始める。どうやら・・・というか案の定、その妖気の相手はレイちゃんだけに見えているようだ。
「ムゥゥ・・・ムゥ?」
でも、レイちゃんが奥宮の手前で止まったと同時に見失った様子になり、さっきまで感じていたハズの禍々しい妖気も何処かに消えてしまった。
そうして私達は結局、その日は何も分からないまま朝を迎える事となった。