私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
その後、私達はハンプティダンプティもどきの料理人達と共に、出来上がった料理を持って長い廊下を進んでいく。
すると、その途中で隣にいる椿が小声で私に話しかけてきた。
「あの〜……綾ちゃん?一体、どのタイミングで逃げ出しましょうか?」
「いや、これは無理でしょ……廊下が続いてばかりで、逃げ場どころかタイミングも何も無いって」
そんな話をしている内にも私達の目の前には両開きの劇場みたいな扉が現れ、その扉をハンプティダンプティもどき達が開いていく。
扉の先には私と椿が落ちてきた例の大きな縦穴ホールが広がっており、下の方を覗くとパーティー会場のような幾つもの大きなテーブルに酒瓶が並んでいるのが見えた。
「うわ、なんつー高さだよ……あの上から私達は落っこちてきたのか〜」
「あれ?でも、ここって階段とかありませんよね?何処を見渡しても、それらしい物が無くて行き止まりなんだけど……」
そのホールの異様さに私達が驚いていると――
「よし、行くぞ!!」
「「って、えぇぇぇぇぇえ!?」」
なんと、ハンプティダンプティもどき達は料理を頭の上に担いだまま、いきなり手摺りを乗り越え下に飛び降り始めた!
「そんな事したら、せっかくの料理が……って、あれ?嘘だろ!全く溢れてない!?」
「着地と同時に、卵みたいに身体が崩れちゃってるのに……あ〜もう!謎ですよ、本当!」
そのハンプティダンプティもどき達の決死な様子に私達もヤケになりつつ、手摺りの上からピョーン!とジャンプして後を追う。
すると、先に飛び降りていたハンプティダンプティもどきは着地――出来てないやん!料理は無事だけど思いっきりグシャッて割れちゃったぞ……と思ったら、卵の黄身みたいな部分から出た手で支え直してるし。
「くっ……!この程度で我々、食材の霊は止まらん……!」
わーお……どこかで食品ロスの無念から生まれた霊が存在するっては聞いていたけど、まさかこんな所で働いていたなんてね。こりゃあ、皆に少し変わった土産話が出来ちゃったな。
そう思っていた矢先に、今度は私と椿の方へ聞き慣れた鳴き声を上げながら、レイちゃんがピュ〜っと飛び込んでくる。
「ムキュゥゥ!!」
「うわわっ!レイちゃん、私達の事ずっと探してたの!?」
「無事で良かった……というか、こんな所に居たんですか!?」
だけど、飛び込んできたレイちゃんを胸元で受け止めた拍子にウッカリ椿とぶつかっちゃったよ!
そのせいで、私も椿も両手に持ってる料理を落としそうだ〜!!
「わっわっわっ、わぁっ!グラグラしてて、このままじゃ料理が……って、あれ?」
「あ、あっぶなかった〜……ナイスランディングだよ、レイちゃん!」
とはいえ、レイちゃんが私達を背中に乗せてくれたお陰で何とかバランスを取り直せたけどね。レイちゃんがいなかったら危うく――って、あれ?
そういや、そもそもレイちゃんが飛び込んできたから私は椿にぶつかっちゃった訳で……でもまぁ、プラマイゼロって事でレイちゃんの失態は忘れておこう。
そうして何とか最下層に降り立つと、今度はハンプティダンプティもどき達とは別な声が私達の上から聞こえてきた。
「よいしょぉお!!」
「わぁぁぁあ!?」
「ぎゃぁぁあ!?」
あっぶねぇ!お腹でっぷりな髭だらけなオッサンが着地した衝撃で、また料理を落としそうになっちゃったじゃね〜か!
振動が収まったと同時に、私はその怒りを椿と一緒にオッサンへとぶつける。
「ちょっとオッサン!何いきなり危ない事してくれたんだよ!」
「そうですよ!この料理、大切な物なんでしょう!?こんな事して、もし台無しになったら――」
「ん?そちらの持っていた料理など、ここに降りてきた瞬間にもう無くなっておるぞ」
「えっ、嘘……うわっ、本当だ!!」
そんなオッサンの言葉を怪しみながらも、私達は料理を確認してみる。すると、両手に持っていたハズの箱や皿から料理が食べられて、既に綺麗さっぱり無くなっていたのだ。
「一体、誰が……あ〜!このホールを飛び回っている幽霊達か!」
「なるほど……どうりでアッサリ食べられた訳ですね」
すると、その料理を食べた幽霊達は爪楊枝っぽい物で歯をシーハーしながら、それの感想を駄弁ってホールを飛び回っている。
『ん〜、今日のは美味かったかなぁ〜』
『そうかぁ?相変わらずの手抜き料理ばっかで、もう飽き飽きだぜ〜』
『本当だよなぁ〜、いつも定食屋みたいな料理持ってきてよぉ……たまにはハンバーガーとかよこせよ!』
おう料理担当のハンプティダンプティもどき達、あの様子だと幽霊達は大して満足してないっぽいんですが……。
「ムキュゥ……」
「というか、何かレイちゃんも落ち込んでるんだけど……?」
「レイちゃん、大丈夫?」
「ふむ、やはりそちらの霊狐じゃったか……すまんの、少し借りておった」
なるほど、さっきレイちゃんが私達の目の前で消えたのも……って、いやちゃっかり何て事してくれやがってんですか。まさか、このオッサンも悪霊だったりしね〜だろ〜な?
「しかし、この悪霊の多さはたまったもんじゃない。このまとめ役の私ですら手を焼く程とはな……毎日毎日増えていって、最早キリが無いぞ」
そうオッサンが大きな溜息を吐きながら視線を向けた先では、いつの間にやら復帰したハンプティダンプティもどき達が沢山の料理をテーブルに並べ始めていた。
その内の1人が、のっぺらぼうみたいな顔を振り向かせながら私と椿に怒鳴ってくる。
「こら、お前さん達!早く料理を並べんか!」
あ、やっべぇ……そういや今は手伝いの途中なんだったわ。こんな所で知らないオッサンと駄弁ってる場合じゃないじゃん。
「これこれ……この子らに何て事をさせる。この狐の子の綺麗な耳と尻尾、そしてこちらの人の子の美しく長い銀髪が見えんのか?」
すると、そこでオッサンが私達とハンプティダンプティもどきの間を手で遮り、目を見開いて諌めるような口調で語りかけた。
そして……オッサンは懐から、私と椿にとっては"悪い意味で"見覚えのある1枚の紙を取り出してきた。
「妖狐&霊能力者アイドルの椿ちゃんと綾ちゃんだぞ!!こんなアイドルの2人に料理なんて、何をさせているんだ!!」
――ほらやっぱりね!!しかも、そのファンクラブのパンフレットも最新版だし……って事は、このオッサンはまさか?
「しかし、良くぞ来た。貴方がたの事は、鞍馬天狗の方から聞いておる」
「幽霊じゃなくて妖怪さんだったんだ……なるへそね」
「あの……僕のおじいちゃんとは、どういう関係なのですか?」
「む?まぁ、私が部下みたいなものだな……それで、この"妖界"の霊亡の屋敷に何か用なのか?」
「えっ、ここって妖界だったの!?」
「でも僕達、人間界の伏見区にある学校の旧校舎から、此処に入ったのですけど……!?」
その妖界という単語を聞いた瞬間、私も椿もビックリして目を丸くしちゃったよ。
此処が旧校舎の中じゃないって、一体何がどうなっているんだか……入る前には、そんな妖気も何も感じ取れなかったぞ。うぅむ、考えれば考えるほど訳が分からんね……。
「むっ?おかしな事を……此処は平安神宮の地下に当たる場所だ。そもそも、伏見からとは大分離れているぞ?」
「えぇ……ますます謎が深まってきたんだけど。椿、何か思い当たる事とかある?」
「う〜ん、更に長距離へ飛ばされた……とかでしょうか?でも、そうなると……誰が、何の理由で?」
そうして2人で首を傾げていると、今度は悪霊が一杯集まっているホールに割烹着の女性が慌ただしげに入ってきた。悪霊達が一瞬そっちの方を睨んでいたけど、それすらお構い無しな慌てぶりだ。
「た、大変です!この場所の空間が、何やら別な場所と繋がっています!そ、外に……巨大な黒蛇が!」
「何だと!?一体、何が起こっている!?」
それを聞いた私と椿は、そこでようやく皆を置いてけぼりにしていた事も思い出した。
「何か、嫌な予感がするな……!」
「あの、すいません!その上の方には、他に誰か居ませんでしたか!?」
「えっ?いえ、誰も見ていませんが……」
すぐさま椿が割烹着の女性に尋ねると、そんな嫌な予感が的中したような答えが返ってきた。
「そんな……まさか、僕達を心配して皆飛び降りたんじゃ……」
「マズったな……此処が妖界の色んな場所に繋がってるとしたら、完全に離れ離れになっちゃったって事か……」
こんな事になると知ってたら、もっと慎重かつ安全を重視して進んでいたのに……。
そう椿と2人で思い悩んでいると、レイちゃんが慰めるように私達の頬をペロペロしてくれたよ。
「ムキュ……」
「んっ……レイちゃん、ありがとう。そうですね、落ち込んでる場合じゃないです」
「うん、椿の言う通りだね……よーし!とりあえず皆が何処に行ったか、それを調べないとだ!」
すると私達が元気を取り戻したと同時に、割烹着の女性がハッと思い出したような顔を浮かべた。
「あっ、それと!さっき、侵入者を捕まえました!いつの間にか、大量の妖怪や半妖がこの屋敷に!」
「何と!?よし、連れて来い!」
大量の妖怪や半妖って……な〜んか、また嫌〜な予感がするんですけど……?
そう思っている間に、割烹着の女性はこの最下層のホールに繋がる扉から縄でグルグル巻きにした妖怪や半妖達を連れて来た。
そして――
『おぉ!!椿よ、無事じゃったか!』
『椿!良かった、怪我も何も無いようだな!』
「な〜んだ……無事だったのね、2人共」
「きゃぅ〜ん!!椿ちゃ〜ん!綾ちゃ〜ん!」
「姉さん達〜!良かったっす〜!」
「椿も綾も、無事で良かった……」
「あぁ、椿ちゃんに綾ちゃん……ごめんなさい、貴方達ばかりに任せちゃって……」
「座敷様、貴方が謝らなくても良いです。これは、お2人に全ての負担をかけてしまった……私達のせいですから」
――うん、案の定だったよ!!
まぁ、誰も彼も怪我1つ無かったのは良かったけど……それから聞いた話によれば、やっぱり皆も私達の後を追って飛び込んできちゃったみたいだ。
それに大蛇の方も私と椿に夢中で、襲われる事なく無事に降りられた……って感じらしい。
「何だ、お前さん達の知り合いか?……って、2人共どうして倒れとる?」
「いや、ちょ〜っと脱力しましてね……はぁぁ〜、骨折り損のくたびれ儲けって感じだよ……」
「ひとまず、皆も無事で安心しましたけど……でも、さっきのシンミリとした気持ちを返してくださ〜い!!」
兎にも角にも、私と椿は疲れた気持ちとかを吐き出すように、ホールの真上に向かって叫んじゃったのでした……。