私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第参拾肆話 その目的の謎

 

私と椿は八坂と相対しながらも、この場所から何とか皆を連れて脱出出来ないかと状況を再確認する。

 

だけど依然として周囲は壁ばかりで、迫ってくる私達が知っていた時とは違う雰囲気の八坂の声が、私達の緊迫感を増大させていく。

 

「さて……そんな君らが入学してきたから、ようやくと思っていたけれど、2人とも何もかも忘れたままだった」

 

「そんなの、僕達のせいじゃ――」

 

「そう、君達のせいじゃない。私は知っているよ……椿君が人間になった理由も、綾君が烏森の家から離れて暮らしていた理由も。しかも、いい加減に記憶が戻っているのかと思えば……どちらも、あまりに強力な術によって一生を人間として過ごそうとしていたとはね」

 

そして八坂は私と椿の間に入る形で、耳元へ小声で囁いてきた。

 

「――だから、『電磁鬼』で椿君を少し痛めつけたのさ。その刺激で、2人の記憶が戻るかと思ってねぇ」

 

「なっ……テメェ!?」

 

その衝撃的な言葉に、私は怒りを爆発させて八坂へと裏拳を振るうが、まるで落ちてくる葉のような動きでヒョイと躱されてしまった。

 

私と同じくらいショックをうけていた椿は、今度はキッとした目で奴を見据え直す。

 

「じゃあ……あの時のイジメは、貴方が起こしたという事ですか」

 

「あぁ、そうさ。2人共、おかしいと思わなかったのかい?なぜ悪い妖怪から半妖を守ろうとする生徒会が頑張っているのに、あんなにも簡単に妖魔の侵入を許して、更には皆が操られるような状態になっていたんだよ?」

 

「だけど、そう簡単にAランクの妖魔は倒せる相手じゃ――」

 

「この僕も居たのにかい?」

 

「あっ……」

 

「それに辻中君や如月君みたいに、あの妖魔に対抗しようとしていた半妖の子達は他にも居たよ。あぁ、赤木君もそうだったねぇ……でも、そもそも君らは少し勘違いをしていたのさ」

 

「勘違い、だと……!?」

 

その八坂の声は徐々に低くなっていき、私達を脅かすような無感情なものへと変わっていく。

 

「そう、この僕の持つ神具"神言(しんごん)の扇子"で、皆が抵抗出来ないよう考えを操作させてもらっていたんだよ。この神の言葉として記された扇子は意識なども変える事が出来る、世界の理に干渉する力を持っているのさ」

 

妖具じゃなくて、神具だったなんて……じゃあ、アイツは一体何者なんだ?

以前会った時と比べて今は妖気が一切感じられないのも、あれで誤魔化していた……何の為に?

 

私達の背筋にゾワッと寒気が走り、そんな恐ろしい物を手にしていた八坂に得体のしれない恐怖を感じ始めた。

 

だが、それでも私達は引かずに相手に食い下がる。

 

「八坂さん……!貴方の目的は、一体何なんですか!」

 

「のらりくらりと話を逸らそうとしても無駄だ!まだ、ここに人を集めた理由を答えてもらってないぞ!」

 

「ふふ、どちらも強くなったものだね……けど、少し遅かったよ。僕としては、もっと半妖の人達の事を世間に広めてもらいたかったんだ。常人では理解出来ない力への恐怖や羨望……そういった人々の負の感情を、"私"は欲していたのだよ」

 

「そんな!半妖の人達と人間達が仲良くなれるよう、僕と綾ちゃんに橋渡しをさせていたんじゃ――」

 

「そんな事して、何の意味がある?」

 

あまりの言葉に私は驚きや怒りで椿と共に、八坂の声がした方へ振り返る。

 

――だが、そこに立っていたのは私達の見知った校長先生らしい初老の姿ではなく、姿かたちをそのまま若くしたような銀髪の青年だった。

 

その異様な姿に圧されそうになりつつも、再び私は椿と共に八坂を睨みつける。

 

「……それが、貴方の本当の姿ですか?」

 

「本当の姿?さぁね……そんなのは、とっくの昔に忘れたよ」

 

「はぁ?昔って、何を言って――」

 

「あぁ、君らの想像も付かない程の昔さ。永い時の間に、私は自分の姿を忘れてしまったからね。だが、お陰で今こうやって好きなように姿を変えられるようになったのさ」

 

そう言った瞬間、八坂の姿は私達が見慣れた"校長先生としての姿"に戻っていた。

 

しかし、それから再び青年の姿に変化した八坂は狐2人の格好に似た、まるで神職の人のような衣服を身に纏っていた。

 

その様相に、私達は思わず目の前の相手が別人じゃないかという疑念が湧く。

 

「本当に貴方は、八坂さんなんですか?」

 

「おいおい、椿君……私にしか分からない事をいっぱい話しただろう?」

 

「だったら……八坂、アンタは一体何者なんだよ?」

 

「八坂神社の守り人さ。貴船神社の神様から聞いているだろう?」

 

「それなら、貴方の目的は!?」

 

そう時間を稼がれているような探り合いにヤキモキしながらも、私達は神棚へ一心不乱に祈り続けている皆の様子を伺う。

 

よくよく見ると皆は祈りながら何かを呟いていて、その内容こそ全く分からないが祝詞のように感じられる。

 

そんな中、八坂はやれやれと言った様子で首を横に振ってきた。

 

「目的か……しょうがないなぁ。正直に言うと私はね、華陽が元の姿を取り戻そうと目論んでいる事や、茨木童子が消えゆく妖怪達を救うべく恐怖で人を支配する為に人間界をも妖界に変えようとしている事……そのどちらも、許せないんだ」

 

「えっ……?」

 

「許せないんなら、何でこんな事を!?」

 

「ふっ……そんな事は決まっているだろう、綾君。私はね、全てが許せないんだ。だから、自分勝手な人間達も、神すらをも利用しようとする傲慢な妖怪達も――その全てを滅ぼすのさ」

 

「「なっ!?」」

 

その八坂の冷ややかな目と共に放たれた冷徹な言葉に、私も椿も咄嗟に後ずさってしまった。

 

まさか、そんな馬鹿げた事をしようとしていたなんて……とにかく、ここは相手に付け入る隙を与えないようにしないと!

 

「神を利用……それって、"神妖の力"の事か」

 

「あれも儀式で神様から力を剥がし、それを自らに植え付ける力でしたね……八坂さんも知っていたんですか?」

 

「おや……それは聞かされていたのか。それなのに、まだ君達は妖怪を信じるのかい?」

 

「ええ、信じます。それの始まりがどうであれ、今は妖怪の皆が後悔しているのは確かなんですから」

 

「ああ、椿の言う通りだよ。人も妖怪も同じように過去の失敗を悔いて、心を改めて正しい道を歩めるって……そう私達は信じているんだ!」

 

だが、そう迷いなく答えた私達に八坂は呆れたような溜息を吐いてくる。

 

「やれやれ……君達は腑抜けてしまったのか。奪い取ったこの学校で、もう少し長く試練を与え続けるべきだったかな。そうだね……辻中君だけじゃなく、如月君にも死んでもらうべきだったかな?」

 

「八坂……お前、それ以上言うなら――」

 

「ふっ、どうすると言うんだい?」

 

だが、私が拳を握り締めて睨みつけるよりも早く、八坂は一瞬で私達の目の前に移動してきていた。

 

「なっ!?」

 

「は、早い……!?」

 

「それに、君達は知らないのかな?妖怪が存続する事と、亰嗟が戦力を増強している理由の繋がり……その謎を」

 

「くっ……何が言いたいんですか?」

 

「華陽は言わずもがな分身でもある妲己や玉藻と共に、未だに"悪の大妖"として人々の記憶に残っているお陰で力や姿かたちを維持出来ている。だけど、忘れられゆく妖怪や半妖達を纏めている亰嗟はどうだろうねぇ?」

 

その八坂の含みがある言葉に、ふと頭によぎった嫌な予感を確かめる為、私はそれを口にする。

 

「まさか……もう亰嗟は、組織を維持するだけでも精一杯なのか?」

 

「えっ!?それって、一体――」

 

「ああ、そのまさかだよ綾君。しかも、あんな鬼を世界の反転も無しに呼び出したんだからね。彼らの本来の予定なら、蘇った君達の力注ぎ込んだ反転鏡を使い、妖怪界と人間界を反転させてから十極地獄を呼び出すハズだったのさ」

 

「だったら、あの時の私達の潜入作戦は無駄じゃなかったって訳だ。つまり、焦った茨木童子が無理やり十極地獄を呼び出したから、亰嗟は今ピンチに陥ってるんだろ?」

 

しかし、八坂はギロリと私に「それは違う」という意思を込めた眼差しを向けてきた。

 

「勘違いするなよ。あの彼らの行動には、君も椿君もまだ自身の"神妖の力"を使いこなせていなかった事も理由にあったんだからね。それに、彼らの計画の内には君達が"神妖の力"を扱いきれるようになった事、それが前提のものもあったのさ」

 

「何ですって……?じゃあ亰嗟は、茨木童子は何としてでも……華陽や雫さんと手を組んでまででも、僕達の記憶を蘇らせようとしていたという事ですか?」

 

「まぁ、そうだろうねぇ。私もね、出来たら君達2人には"神妖の力"を使いこなせるようになって欲しかった。その方が、"アレ"の覚醒が早いからねぇ……だけど、君らが出来なかったから皆、計画を変更せざるを得なかったんだよ」

 

そう言って八坂は、クイと顎で皆が祈り続けている神棚を指し示した。

 

「クソ、しまった……椿、見て!あの神棚、ずっと禍々しい気を感じると思ったら、何か黒い泥団子みたいな物が祀られてる!」

 

「あれは……な、何ですか!?」

 

「それについて話す前に、亰嗟が戦力を保持していた理由について掘り下げていこうか。彼らは妖具を懸命に集めながら、妖界のゲートから妖気を抽出していたのは知っているね?」

 

すると、八坂は突然ハンドジェスチャーも交えながら、まるで私達に授業をするかのように解説を始めた。

 

「ああ、とっくに分かってるよ……そんな事は」

 

「そう邪険にしないでくれよ、綾君。何せ、ここからが本題なんだからね。そうして、彼らは人間界で犯罪や陰謀を巡らせる事で人々の恐怖や不安を煽って、そこから集めた負の気を妖界へと流していた。物分りの良い君らならば、その理由は分かるハズだろう?」

 

「分かりましたよ、八坂さん……貴方の言いたい事が。妖怪の多くは人の"負の気"を糧にして生きている……だから、そうすれば妖界の社会は存続出来るし、妖気も順当に手に入るという訳ですか」

 

「ふふ、その通りだよ椿君。そして、亰嗟の中には同情や利益で協力している人間も居る。しかし、人間界はそれを止められないどころか助長するばかり……いやはや、欲望というのは恐ろしいものだね」

 

そこまで聞いて私もようやく八坂が何故、人間界も妖界も滅ぼそうとしているのかの理由を察する事が出来た。

 

きっと、この人は人間にも妖怪にも愛想を尽かしているのだろう……だから、その全てを滅ぼす鍵を握っている私や椿に執着しているのだろう。

 

だけど――

 

「おい……八坂、お前はまだ私達に何か隠しているんだろ?」

 

「ええ、綾ちゃんの言う通りです。ここまで話をしたのならば、貴方はきっと奥の手を持っている……そうですよね?」

 

「ふふ……鋭いねぇ、2人共。でも、もう時間は無いよ?椿ちゃんも綾ちゃんも、ここからどうするつもりだい?」

 

そう挑発するような表情を浮かべた八坂に、私と椿は各々の武器を構えて睨みつける。

 

「そんなの決まってらぁ!あの黒い球をブッ壊し――ぐぁっ!?」

 

「えっ、綾ちゃ――ぎゃぅっ!?な、何で急に……身体が言う事を、聞かない……!?」

 

しかし、そんな私達の意思とは真逆に八坂が何かを振るった瞬間に、その場で私も椿も無理やり正座をさせられてしまった。

 

よく見れば、奴の手元には「正座」と書かれた扇子が……クソッ!またアレのせいか!あんな物さえ無ければ、すぐにでもボコボコにしてやるってのに……!

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