私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
八坂の扇子によって無理やり正座をさせられてしまった私と椿は、そのビクとも身体を動かせない強制力に驚愕しつつも相手を睨みつける。
「くっ……この扇子、人間どころか椿とかみたいな妖怪にすら効くのかよ……っ!」
「まぁ、そうだね。とはいえ、今の君ら2人には意識レベルで操る事は不可能になっているようだけどね。あの鞍馬天狗の翁やセンターの妖怪達も、この扇子の力で無意識下に僕を信用させていたのさ」
「う、ぐ……それだったら何で、全員を操って目的を達成しようとしなかったんですか!?」
そうか……確かに椿の言う通り、八坂が計画をスムーズに進めたいなら例の扇子を使えば、あまりに手っ取り早いハズ。それなのに、そうしないなんて……一体、何のつもりなんだ?
すると、そんな椿の言葉に八坂は何故か不思議そうに首を傾げながら、何処か考え込むような仕草をした。
「ふむ、何でだろうな……確かにそれは、私にも分からない……だが、いや?私がそんな事を見落とすとは……んん?私が邪魔をしたからか?」
「なーに訳分からない事言ってんだ、コイツ……?」
「それなら、僕がハンマーで叩いてあげましょうか?」
「それは勘弁だね、椿君。というよりも、今の君らは私の扇子の力で――」
「残念、動けますよ!黒槌岩壊!!」
「うおっと!?」
だが、その瞬間になんと椿は正座の状態から立ち直って、そのハンマー状にした尻尾で八坂に殴りかかった。
それを回避した八坂も、まだ身体を動かせない私も、その突然の事に驚いた表情を浮かべる。
「くっ、避けられましたか!綾ちゃん、自分の身体に"神妖の力"を流して!それで扇子の力を振り切れます!」
椿の言葉を信じて"神妖の力"を流してみると、さっきまでガチガチに動けなくなっていた身体が自由に動くようになる。
私はそのまま"怒髪天・朱雀"を妖異変化で身に纏って、椿の攻撃を避けた八坂に足を振り上げた。
「よっし、動ける!サンキュー椿!そして――食らえ八坂!稲妻雷霆蹴!!」
「おっとと!ほぉ、対抗策を見つけたみたいだね?」
床に大穴をあける程の私の踵落としを避けた八坂は、それでも動じない様子で扇子を開閉させて私達に強制させる力が効いていない事を確かめていた。
「ふむ、君らには効くものと効かないものがあるようだ。それは学校に通っている時、何度かコッソリ実験させてもらってはいたけれど……どうやら、行動に直結するものは短時間しか効かないが、それ以外は長く効いていたみたいだね」
「ちっ……半年前に色々やってきてたのは、そういう事だった訳か」
「やっぱり油断しなくて正解でしたね……とはいえ、僕も綾ちゃんも何回かその餌食にはなっちゃってましたけどね」
にこやかな笑みを浮かべながらも、凄まじいプレッシャーでジリジリ迫ってくる八坂。
それを睨みつけつつ椿は巾着袋から御剱や火車輪を取り出しながら、私にも麒麟甲と氷霰剱を投げ渡してくる。
そして、私達は同時に自らの武器へと妖気を流して相手へと向けた。
心なしか、椿の火車輪の炎も私の氷霰剱の冷気も普段より激しく感じる……どうやら妖具に込められたカナや雪の"想い"も、あんな酷い話を聞かされて怒っているみたいだ。
「ふむ、それは辻中君と如月君の妖具か。椿君、死者を想う気持ちは良いと思うけれど……それに囚われていては、君は強くなれないよ。他者の力を譲り受けただけの、綾君も同様にね」
「強さなんて、その人の価値観次第です!だから八坂さん、貴方の価値観で僕達の強さを計らないでください!いくよ、綾ちゃん!!」
「ああ!そんな一匹狼な考えで勝ったところで、結局は自分の為にしかならない!だから私達は、後に誰かへ何かを残す為に戦うんだ!一緒に合わせるぞ!!」
「――神威斬!!」
「――星幽掌打!!」
そして、椿が御剱から光の刃を放ったと同時に、私も地面に麒麟甲の拳を叩きつけて至近距離から光の衝撃波も合わせた二段攻撃を八坂に飛ばす。
しかし……
「いいや、君らは弱いよ。色んな価値観の人が見ても、今の君らに対しては僕と同じ答えが出るよ」
「そ、そんな……!」
「首を少し動かしただけで、避けただと……!?」
その有り得ない光景に、私達はまたしても扇子の力かと疑った。だが、それを裏切るように八坂は、何も描かれていない真っ白な扇子を広げて笑みを浮かべてくる。
「ふふ……だから、君らは弱いんだ。強力な神の力を持っていても、何も使いこなせていないんだから――ね!!」
「ぎゃぅっ!?」
「がはっ!?」
すると、八坂がバッと軽く手を上げ下げした瞬間に、私も椿も空中へ持ち上げられて激しく地面に叩きつけられてしまったのだ。
しかも、全く抵抗出来なかったばかりか、その攻撃を受けた直後から息苦しくなって、身動きが取れなくなってしまう。そして、それは隣で苦しそうにしている椿も同じようだった。
「うぐっ……」
「げ、ほ……っ」
「やれやれ……2人共、この私の力に臆したのかね?まぁ、まだ綾君も椿君も記憶が戻らないのだから仕方ない話か。しかも、椿君には男の子としての記憶が未だ根付いている。更には、綾君と違って扱いきれない自身の"神妖の力"、それに怯えている……中途半端なのだよ、君も綾君もね」
そして、動けない私達を尻目に八坂は皆の方に振り返り、あの禍々しい気を放っている神棚の方へと近づいていく。
「あぁ、もうすぐだ。もう間もなく、祀っている"脱神(だしん)"が覚醒する時だ」
「な、何だって……?脱神、だと……!?」
「そんな……神妖の儀式で弾かれた、神様の抜け殻が……まさか、あの黒い球体ですか?」
その私達の言葉に奴は神棚の前で足を止め、再び冷たい眼差しを向けて小さく笑った。
「ふっ……そこまで知っていて尚、まだ妖怪を信じるか。何ともお気楽な性格だねぇ、2人共」
「うっ……」
「ぐっ……」
何なんだ……あんなに誰を彼をも憎むような、世界全てに対する蔑みと哀れみのある目は見た事がない。
こんな冷たい目、華陽や茨木童子とも違う……強いて見覚えがあるとするなら、半年前に雫がカナを失った私へ向けた時のものに近い。
正直、私も椿も怖くて今すぐにでも逃げ出したくなるくらいだ……。
「くっ、うぅ……ぁぁぁあ!!」
だけど、それでも椿は意を決して御剱を握る手に力を込めて八坂へと斬りかかっていた。
「なるほど、精神力だけは付いたのか。いじめられていた時とは大違いだねぇ、椿君」
「はぁ、はぁ……イジメの原因が貴方でも、もう僕はあの時とは違います。そして、今ようやく理解しました。華陽よりも、茨木童子よりも……何よりも、貴方が危険だという事を!僕と綾ちゃんをターゲットにした事、後悔してください!!」
――その椿の啖呵で、ようやく私もハッとした。
何をやっているんだ、私は!椿があんな奴に立ち向かってるのに、こんな事で怯えてる場合じゃないだろ!!
自分の膝を叩いた私はすぐさま椿の隣に立って、御剣を構える彼女と同じように、麒麟甲を纏った拳を八坂へと突きつける。
だが、そんな私達の姿を見ても八坂は相も変わらず余裕のある態度を崩さない。
「ふふふふ……勘違いしないでもらおう。もう君らは、僕にとってのターゲットじゃないんだよ。勿論、いじめていた時は2人共ターゲットではあったが、もう今の君ら2人に用は無い。むしろ……正直、ここで殺しても私には何の痛手にもならないのだよ」
「えっ?あっ、あぁぁぁ……」
「ぐっ、何て殺気だ……椿!シッカリしろ!!」
八坂の鋭い眼差しから発せられた圧で、ググッと強く心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥りかける。
それでも、私は必死に耐えながら過呼吸を起こしかける椿を励ます。そして、何とか持ち直した彼女は、私の方を見て少し頷いてから八坂を睨みつけた。
「はぁ、はぁ……もう、僕と綾ちゃんを惑わすなぁ!!」
「むっ?この殺気を前にしても、まだ立ち向かっ――ぬぉ!?」
その瞬間、椿はバンッ!と八坂を飛び越える程に飛び上がる。
それと同時に私も八坂の懐へ潜り込み、氷霰剱から発した冷気で加速しながら殴りかかる。
「やぁぁぁあ!!」
「椿!そのままやっちまえ!!」
「なっ……まさか、狙いは脱神か!?」
だが、椿が御剱で神棚ごと黒い球体を切りつけようとした途端――激しい電撃のような妖気が彼女を包んだ。
「うっ!?うぁぁぁあ!!」
「つ、椿!!」
そして、その直撃を受けた椿は一瞬にしてボロボロの姿となって、その場に御剱を取り落として倒れ込んでしまった。
すぐに私は八坂への攻撃を止めて椿に駆け寄り、気を失いかけた彼女を両手で抱え上げる。
「残念だったね。綾君と協力して機転を効かせたつもりだろうが、そう簡単に"神としての力"を取り戻しつつある脱神に触れる事なんて出来ないのだよ」
「八坂、テメェ!!」
「そして……ありがとう、2人共。わざわざ、アレに"神妖の力"を注いでくれてね。覚醒の最後の条件は、『天』の"神妖の妖気"を持つ椿君の妖気だったのさ」
そう言って八坂が開いたまま扇子を裏返してみせると、そこには"悪人"という文字が……まさか!
「クソッ!そいつで自分を囮にして、わざと椿に攻撃させたって事かよ!」
「う、ぅ……つまり、最初からここまでが八坂さんの計画……!?」
「ああ、全てが私の手の内さ。君らが此処に来る事も、最初から私の計画に入っていたのだよ。そうでなければ、もっと強力な罠を旧校舎に仕掛けているだろう?」
そして、八坂は神棚へ向き直って仰々しいまでの深い礼をしながら両手を広げた。
「さぁ皆、最後に強く祈るんだ!神の復活を……この世界を良きものに作り直す為の、黒き禍々しい神をね!!」
「あ、ぁぁ……!」
「くっ……!」
すると、神棚に祀られていた黒い球体がパキパキッ!と脈動しながら激しくヒビ割れ、そこから禍々しい気やドス黒い邪気が黒煙のように吹き出してきたのだった。