私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第参拾陸話 復活せし天津甕星

 

八坂の策略にまんまと嵌められた事によって、私達は脱神の入った黒い球体を浄化するどころか、椿の"神妖の力"を利用されて覚醒の引き金を引かされてしまった。

 

全く近寄れない程の禍々しい気や邪気を噴き出しながら、ヒビを増やして脈動が激しくなっていく黒い球体。

 

金狐の状態じゃなかったとはいえ、妖魔を簡単に浄化出来る程度の力で、こんな事になってしまうなんて……!

 

それに恐怖を感じながらも、私と椿は禍々しい気の流れに立つ八坂に視線を向ける。

 

「それにしても、椿君の先程の一撃……咄嗟でも、万が一の事を考えているとはね。私が予想していたよりも、多少は腕が立つようになったようだ。だけれど……まだ甘いね」

 

だが、そんな私達に八坂は目もくれる事なく、祈り続ける皆の中央を通る形で球体の方へと歩いていく。そして、神棚の前まで辿り着くと皆に向かって小さく手を上げた。

 

それに対して、私達は未だ球体や八坂から放たれる猛烈な圧への恐怖で動く事が出来なかった。

 

「君達もご苦労様。さぁ……もう休みたまえ」

 

そうして八坂が手を下ろすと、それと同時に神棚に祈っていた人達……全校生徒や捜査零課も含めた全員が、その場にフッと力なく倒れ込んでいく。

 

八坂の下ろした手を見れば、そこには『休息』と書かれた例の扇子が……。

 

「皆!?」

 

「椿、落ち着いて。どうやら皆、あの扇子で眠らされただけみたいだ。」

 

妖気や生気を感じられるから、それは間違いないんだけど……ここにきて、一体何の為に?

 

「おい、八坂……その扇子の効果は、いつまで続くんだ?」

 

「鋭いね、綾君。勿論、この文字が消えるまでさ」

 

「やっぱり、そういう事でしたか……それなら、早く皆を元に戻してください!」

 

「それは出来ないね、椿君。脱神の完全なる覚醒には、人間や半妖による信仰心が必要なのさ。その為に今回は皆を捕らえさせてもらったけれど、信仰心を維持したまま眠ってもらっている今は起きられてしまうと――おっと!」

 

その瞬間、八坂の目の前に球体から発せられているものとは別の、凄まじい風圧と妖気による竜巻がギュルギュルと渦巻きだす。

 

「この妖気、なるほど……君らか!」

 

そして、その風と妖気が収束していくと……そこには、半年前から行方も分からなくなっていた私の妹――あの綾花が、使い魔の小次郎を伴って姿を現した。

 

「綾花!小次郎!」

 

「……」

 

だが、その呼びかけに綾花は応じる事はなく、淡々とロボットのような動きで大鎌を八坂に振るい始める。

小次郎も、そんな彼女の動きに応じる形で背中から刀を抜いて、躱した八坂に対して追撃を開始した。

 

「綾花!おい!私の声が聞こえないのか――って、椿!?」

 

「あっ、あぁ……うぁぁ……」

 

しかし……それ以上に私が気になったのは、一瞬だけ見えた脱神の姿――黒目の無い真っ白な目をした、紫や黒のマーブル柄のマネキンのような怪物を見た椿が、何かを思い出したかのようにワナワナと震えて座りこんでしまった事だった。

 

「椿、どうしたの!?」

 

「お、思い出したんです……あの時、幼い頃に僕が見た"人語を理解する妖魔"……あれは妖魔だと思っていたけれど、それはコイツ"天津甕星"という神様の脱神だったんです……!」

 

「何だって!?じゃあ、椿の両親が調べてた邪妖とかいう奴も、まさか……!」

 

そう呻きながら頭を抱えて苦しむ椿を宥めていると、綾花や小次郎の攻撃を防いでいる八坂の後ろで脱神が椿の方に顔を向けているのが見えた。

 

『返、せ……我が、力……』

 

「ん……まだ信仰心が足りなくて、復活が不完全なのか?そうなると、もっと人間や半妖の信仰心を――ふっ!しつこい奴らだ!」

 

「あの人の敵、倒す……消えろ!」

 

「神の抜け殻を拾って使おうとは、早計が過ぎたな!八坂!」

 

「くっ!一気にカタをつけても良いが、せっかく復活させた天津甕星様を巻き添えにしてしまうか……!」

 

すると、そんな2人の絶え間なく素早い連撃を片手で捌きながら、八坂は再び何かが書かれた扇子を懐から取り出した。

 

「こうなれば仕方ないね……天津甕星様、今の状態では力を取り戻すには不十分です。抜け殻でいた状態が長かった今では、身体が朽ちてしまっていてあの者達に太刀打ちは出来ません。ここは一旦退きましょう」

 

『うっ、ぐぐ……神、妖狐、人間、許さぬ……』

 

そして八坂が扇子を振るった瞬間、彼と脱神はパッと私達や綾花達の前から姿を消してしまった。

 

そうなると、あの扇子には"転移"とか書いてあったんだろうな……だけど、今はそれより暴れそうになっている綾花を何とかしないと!

 

「綾花、落ち着いて!私の事が分からないの!?」

 

「が、ぐ……敵、妖魔……ど、こ……!」

 

「大丈夫、もう戦わなくても――くっ!小次郎!?」

 

しかし私が近づこうとした矢先、綾花の前へ小次郎が立ち塞がり、その長い刀の切っ先を私の目の前に突きつけてきたのだ。

 

「悪いが、綾……こちらに近づくな。もう、今の綾花はお前が知っていた頃とは、全く別な存在になってしまった」

 

「どういう意味だよ、小次郎!お前、綾花に何かしたのか!?」

 

「いいや、雫が殺した綾花の死体に細工を施したのだ。そのせいで、今の彼女は最早……雫に命じられるがまま、目に入るもの全てを破壊するだけの操り人形と成り果ててしまった。これを止める為には、もう魂まで浄化して消し去るしか方法は無いのだ……」

 

「そんな……!」

 

苦しそうに頭を抱えている綾花を助けるには、殺す他に何もしてやれないなんて……。

これも全て、私が半年前にあの子を見捨てて逃げたから?私が誰も守れないくらいに弱かったから?

 

「う、ぐ……綾ちゃん、気を確かに持ってください!」

 

「椿……?」

 

そう思っていると、呆然と立つ私に椿が優しく肩へ手を置いてくれた。その顔を見ると、まだ思い出した記憶で苦しそうにしていたものの、それでも私の顔を心配する眼差しだった。

 

「今、僕達がやらなきゃいけない事は何ですか?此処に倒れている皆を、妖界の外に運び出す事でしょう?」

 

そして、そのまま椿は小次郎の方へ顔を向けた。

 

「それに、このままだと綾ちゃんの妹が皆を傷つけてしまう……そうですよね、小次郎さん?」

 

「ああ、その通りだ。空間の転移術は俺が開こう。お前達は皆を運び出した後、人間界側から空間の裂け目を閉じてくれ。そうすれば、綾花も追ってはこれないハズだ」

 

「だけど、そんな事したら綾花と小次郎は……」

 

「そうだな、綾……無理に詰め込まれた術式によって崩壊していく妖界の旧校舎と、運命を共にする事となるだろう。だから、これで本当にお前とはお別れだ」

 

そう辛そうに俯きながら、小次郎は刀を空中に振るって、人間界へと繋がる裂け目を作り出す。

 

「ありがとうございます……小次郎さん」

 

それを見た椿は小次郎に会釈をしてから、影の妖術で皆を抱えて空間から脱出していく。

 

「さぁ行け、綾!そして、お前が烏森の因縁に終止符を打つんだ!彼女は……雫は、華陽や茨木童子どころか、八坂とも違う目的で動いている!」

 

「アイツが、他とは違う目的で?」

 

「そうだ!彼女は八坂の計画に協力して世界を作り直し、お前を傷つけたり苦しめたりする者が存在しない世界を生み出そうとしている!だが、それは雫の裁量で全てが振り回されてしまう歪んだ世界だ!」

 

ガタガタと地震のように旧校舎が震えだす中、私は自分の中に溜まっていた疑問を小次郎にぶつける。

 

きっと、もう2人には会えない……そう思うと、ここで聞かずにはいられなかった。

 

「何で……何で雫は、そこまで私に執着するんだよ!」

 

「それは、きっとすぐに思い出せるハズだ……綾、お前の正体と共に。しかし、それを伝える事は俺には出来ん……その真実は、あまりに綾にとって残酷なものだからだ」

 

「私にとって、残酷……!?」

 

だが、その言葉の意味を確かめるより早く、私は小次郎に空間の裂け目へと突き飛ばされてしまった。

 

「ぐっ!待って、小次郎!まだ私は、いっぱい知りたい事が……!!」

 

「止まるな!何があっても、自分の道を走り続けろ!今、この世界を救えるのは妖狐の椿……そして、お前の2人しかいない!」

 

その言葉を最後に、空間の裂け目から見えていた小次郎と綾花の姿は、フッと掻き消えてしまった。

 

――それと同時に私の意識は、限界を超えた疲れとショックによって薄らいでいった。

 

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