私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第弐話 "本当の"初めての出会い

 

記憶を封じている巨大な札に触った瞬間、私の目の前にはブワリと強い土煙が舞うようにして見覚えのある景色が広がっていく。

 

「これは、伏見稲荷の千本鳥居……?」

 

「さぁ、覚悟しておいてね。この先は、君が思っている以上の事が起こるからね」

 

「言われなくたっても、そんなの今更だよ」

 

そうお面の子供に返しながら、私は映し出された記憶の映像に目を向ける。聞こえてくる声や千本鳥居が並ぶ景色の鮮明さは、まるでその場にいるかのような臨場感があるよ。

 

『はてさて、ようやく此処まで辿り着いたが……この子に天狐様が加護を与えてくれれば良いのだがな』

 

私が記憶の映像に集中すると、そんなオジサンの声が後ろの方から聞こえてくる。振り返って見ると……あの宇宙服みたいな格好は間違いない。そこには幼い私を連れたオジサンの姿があった。

 

すると、更にその後ろから2人の妖狐が階段を登ってオジサンに話しかけてきた。

 

『あら、こんな小さな子が天狐様に会いに来るなんてね。烏森に仕えてるアンタともあろう者が、こんなただの人間の子供をこの山奥の神社まで来るなんて珍しいわね』

 

『むっ、貴方は……いえ、何でもございません。私は、烏森一族の呪いから解き放たれた彼女を……綾を守る為に来たまでです』

 

『へぇ〜……訳アリって感じかしら?妲己、あまり揶揄うのは止めてあげましょう。この綾って子、私達が見えているみたいだからね』

 

吊り目な方の金髪ロングな妖狐が訝しげに幼い私とオジサンを見ていると、同じ髪型をした垂れ目気味の金髪ロングな妖狐が注意している。なるほど……あの様子だと、吊り目な方が妲己さんで垂れ目が華陽だな。

 

それにしても……ずっと椿の中に住んでたとはいえ、ツンデレな所は昔から変わってないっぽいな。だけど……それでも妲己さんの声を聞いた時には、つい情みたいな何かでウルッときそうになっちゃったぞ。

 

『ま、そっちにはそっちの事情があるんだろうし、私は構わないわ。こっちは華陽の用事のついでで、黒狐に会いに来ただけだから』

 

『あらあら……まぁ、そんな訳だから貴方達は先に行ってて良いわよ。こんな所まで来た以上、きっとそれなりの理由があるんでしょうからね』

 

『ありがとうございます……妲己様、華陽様。』

 

そう言ったオジサンは道を譲ってくれた2人に深く一礼し、再び幼い私の手を取って千本鳥居の並ぶ階段を上っていく。

 

すると、今度はオジサンと私の前に見慣れた狐2人の背中が見えてきた。そして、その向こうには私と同じくらいに幼い姿の椿の姿も……。

 

『むっ?お主は、確か……大地とかいう、古くから伝わる対魔一族の烏森家、そこの小間使いではなかったか?』

 

『覚えておいでで何よりです、白狐様。此度は一族の急な用事にて、このような形で"正式な跡取り"である綾と共に直接馳せ参じました』

 

『ふむ、そんな小さな子がか……』

 

そう言った黒狐さんは、どこか推し量るような、もしくは哀れむかのような複雑な表情で幼い私の顔を覗き込んできた。

 

『え、えっと……こんにちは、です……!』

 

狐耳を生やした男の突然の行動に、幼い私は両手をギュッと握りしめて震えつつも、小さなお辞儀をしてオジサンの後ろに隠れていく。

 

『はぁ……相変わらず、自らの家の事を徹底的に秘匿する奴らの考えは分からんものだな』

 

『文字通り、住む世界が違う我らでは理解出来んのかもしれんな、黒狐よ。何せ、どれだけ命乞いしようと、悪しき妖怪や妖魔どもを容赦なく始末するといった噂話で有名とはいえ、その強さの本質は誰も掴めておらん。それ故に、こうして大地殿が跡取りの娘と来たのにも、それなりの事情があるのじゃろう』

 

そう狐2人が溜め息を吐いているのを他所に椿は、隠れた幼い私の方へスタタッと興味津々な様子で歩み寄っていた。

 

『こんにちは!"私"、椿っていうの!君の名前は?』

 

『あ、ぅ……烏森の……あ、綾、です……』

 

それにしても幼い頃の私、完全に椿と性格を入れ替えたみたいな大人しさっぷりだな。

しかも、椿の一人称も昔は普通に"私"で女の子みたいな感じだったなんて……いやまぁ、私は今も昔も椿の事は好きですよ?

 

すると、椿はタジタジしている私の両手を取って、とても嬉しそうな表情でピョンピョンしていた。

 

『えへへ!よろしく、綾ちゃん!』

『よ、よろしく……お願い、します……ひゃぅぅ』

 

そんな元気ハツラツな彼女に対して、幼き私はプシュ〜と湯気が出ちゃうくらいに顔を真っ赤にして固まっちゃっているよ。

 

しっかしまぁ、私が昔こんなにお淑やかだったってオジサンから聞かされてたとはいえ、実際に見ると凄まじい別人ぶりだな〜……完全にアレ、椿に振り回されてるし。

 

『これこれ……そこまでにしておかんか、椿よ。いくら初めて同い年の友人が出来たと言えど、こうもはしゃいでは困らせてしまうじゃろう?』

 

『あっ……うん、わかりました』

 

『そうやって、さっきも妲己や華陽を怒らせたばかりだろうに……全く、怖いもの知らずの自由奔放さだな』

 

『だって、それはあっちが悪そうなことを考えてたから……』

 

幼い椿は、そう狐2人から注意されてブー垂れた表情をする。でも、すぐにハッとした顔になって、今さっきまで手を握っていた私の方に振り返った。

 

『あ!ごめんね、綾ちゃん!どこかケガはしてないよね!?』

 

『ひゃぅぅ……だ、大丈夫です〜……』

 

『目は回しとるようじゃが、どうやら問題ないらしいな……すまぬ、大地よ。そちらの娘ともなれば、怪我の1つでも大騒ぎじゃったろうに』

 

『いえいえ、そこまで心配なさらずとも……それに、今は少し向こうも立て込んでおりました故』

 

それにしても、さっきから狐2人やオジサンの言葉が気になるな……半年前に退魔師の家系に生まれたとは聞かされたけど、それでも私の扱いがお姫様のそれっぽいぞ。

 

生まれつき"烏森の力"とかの強い力を持っていたからという他に、なんというか裏の事情が隠れていそうな話だ。

もし例えるなら……かつて私が機械的になって暴走したような、あんな状態に関わる秘密とかかな?

 

――そんな疑問を抱く間もなく、幼い私とオジサンは椿や狐2人と共に、伏見稲荷の千本鳥居を歩いて奥へ奥へと進んでいく。

 

すると、そこをくぐり抜けた先で今度は銀色の毛並みを持つ妖狐の男と、金色の毛並みの妖狐の女性が、真っ先に先行していた椿を優しく抱きとめていたよ。

 

『あら、椿〜?またとんでもない人にちょっかいをかけてきたの?』

 

『うん!綾ちゃんっていうの!よくわかんないけど、お家の人は悪いやつをやっつける仕事をしているんだって、綾ちゃんのパパが言ってた!』

 

『ほほぅ、それは中々すごい子と友達になったじゃないか!それでこそ、銀狐の俺と金狐のママの子だ!』

 

銀狐に金狐……って事は、あの2人が椿の両親ですか!

いやはや、何か椿に良く似た雰囲気してるな〜とは思ってたけど……こうして実際に見てみると、手紙の文章で感じてたよりも穏やかで優しい印象が強いな〜。

 

そう思っていた矢先に、オジサンが私の前に出てきてペコペコと2人に頭を下げ始めたぞ。

 

『申し訳ありません、銀狐様に金狐様。よもや、このような形で烏森の跡取りを貴方がたの娘に会わせてしまうとは……』

 

『良いのよ、大地さん。私達も格式ばった形でやって、向こうのお子さんに苦手意識でも持たれるのはと、そう思っていたからね〜』

 

『ああ、金狐の言う通りだ。何せ烏森の一族は人間の中で数少ない、妖怪について深い知識を持ちながらにして、妖怪に味方してくれる存在だからな。影で活躍する一族とはいえ、その跡取りの娘さんに怖がられたら、俺達どころか妖狐の立つ顔が無くなってしまうものだ』

 

なるほどなるほど……オジサンは、私が烏森って退魔師一族の生まれというぐらいしか詳しく話してくれなかったけど、割りと妖怪の間だと重要な立ち位置だったんだな。

 

でも、今までの出来事を思い返してみると、椿の爺ちゃんとか妖怪センターの人達とかそういった深い所を知ってそうな人から、烏森の話について全く出てこないのはどうしてなんだろう……?

 

そう思っていた時、椿のお父さんが椿の肩をポンと叩いて、その奥に続く千本鳥居の方へと誘導している姿が見えた。

 

『あっ……』

 

両親と一緒に千本鳥居の向こうへ進んでいく椿に、幼い私は小さく不安そうな声を上げた。

 

『大丈夫だ、綾。あの子は、両親と共に天狐様に会いに向かっただけだ。あちらの用事が終わったら、次は俺達の番になる』

 

『天狐様って……怖い人?』

 

『良い子にしていれば、何も怖いような事はしないさ。きっと、あの椿という子も自分の力を制御する為、天狐様に会いに来たのだろうな』

 

『私と、同じだ……』

 

『そうだな……だが、綾は人間だ。これまでも、そして"烏森の力"を抑えてもらった後でも、な……』

 

なるほど……オジサンが幼い私を伏見稲荷に連れてきたのは、その天狐様っていう人物に自分の抑えきれない力を何とかしてもらう為だった感じだね。

 

だけど、今のオジサンの言い方……どことなく後ろめたいような、なんというか含みがありそうな雰囲気にも感じたな……。

 

『しかし、近頃は脱神の発生が目立つな……人々の信仰心が薄れつつあるとはいえ、これではいずれ人間界から神が消えてしまうかもしれないな……』

 

『……?オジサン、どうしたの?』

 

『いや、ちょっとした独り言だ。なに、綾の気にするような話じゃないさ』

 

それにしても、今サラッと気になる事も呟いてたな。あんな感じだと、椿が幼い頃に見たっていう天津甕星の脱神も、八坂の奴が目覚めさせた他に幾つも存在していたような言い方だ。

 

だけど、この記憶は61年前の戦後すぐのもので……あ〜もう、完全に思い出せてないから頭がこんがらがっちゃいそうだよ。

 

『……いずれは、あの妖狐の傍に綾を預ける事になるかもしれんな』

 

『オジサン?』

 

『あぁ、すまんすまん……すぐに行く』

 

それでも、やっぱりオジサンは昔から私の事を思って、危険な目に合わないようにしてくれていたんだ。

 

もしも私が椿を助けようと動く事が無ければ、私と椿が出会う事が無かったとしたら……私とオジサンはどうなっていたんだろう?

 

そんなオジサンへの申し訳ない気持ちを胸に抱いていると、待っているオジサンと幼い私の所に狐2人がやって来た。

 

『おや、白狐様に黒狐様?その姿は?』

 

『いやまぁ、俺の嫁や華陽と少しあってな……』

 

『向こうの悪企みを暴こうとしたら、上手いこと逃げられてしまったわ……かたじけない』

 

少し服装が乱れているところを見るに、どうやら私達と別れた後で何か一悶着あった様子っぽいな。というか、そんな昔から華陽はもとい妲己さんも何か悪い事しようとしてたのかよ。

 

そうなると、さっき私に会った時は猫を被ってた感じか……狐が猫を被るっていうのも、ちょっと変な感じするけど。

 

『やはり、そうでしたか……烏森の敷地を覗きに来ていた件といい、あのお二方にはより一層注意をしておかねばなりませんね』

 

『うむ、そのようじゃ。それに、我の大切な許嫁にも目を付けておるようじゃからな……黒狐よ、片方はお主の嫁じゃろう?何とかならんのか?』

 

『ちっ……会った事も無いのに、天狐様が勝手に決めただけだ。その上、お前の許嫁のお守りまでさせられるとは……』

 

でも、そんな真剣な話の中でも黒狐さんは面倒臭そうに頭をかいている。なんというか、今の黒狐さんと比べると世捨て人っぽい雰囲気を漂わせているよ。

 

『じゃが、椿に絆されたのも事実なんじゃろう?』

 

『ぐっ……』

 

『さっき嬉しそうに椿が話しておったぞ〜?なんでも、全ての妖怪さんを幸せにするのが私の夢だと息巻いておったわ』

 

『ふん……だからといって、可愛い自分が結婚する事で男の者達を喜ばせられると本気で思っているのは、流石に純粋無垢すぎるというもんだ』

 

そっか、だから椿は記憶が無くなっても皆の為に全力を尽くして……それが子供の頃からだったのは、しかも男の妖怪達全員と結婚しようとまで考えてたのは、流石にビックリしたけれど。

 

『とはいえ、もはや我も黒狐もその1人じゃがな〜……しかし、まさかあれだけ耳年増だったとは思わんかったが』

 

『あぁ……それにしても、銀尾め。そういう本は子供の目に触れない場所に隠しておけと、あれほど……』

 

それと今のは聞かなかった事にしておきます。おおかた黒狐さんが悪ふざけのつもりで椿に結婚するという事を教えようとしたら、そういった知識をブチまけちゃったんだろう。

 

……これは椿本人が思い出したら、めちゃくちゃ黒歴史にしたがるレベルで恥ずかしい話だな〜。

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