私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
そうしてオジサンが狐2人と話していると、千本鳥居の先にある社の方から激しい爆発音が聞こえてきた。
『ぬぉ!?な、何じゃ今のは!!』
『音の方向からして、天狐様の居る社から聞こえたようだが……いずれにせよ尋常ではない事態だぞ、これは!』
『ですが、あの社に居るのは……まさか、あの妖狐の親子に何か悪い事が!?』
その突然の出来事にオジサンも狐2人も驚いている中、キョトンとしていた幼い私はふと何かを感じ取ったように、ダッと千本鳥居の向こうへと駆け出していく。
『行かなくちゃ……椿……っ!』
『なっ!?綾!そっちに行くのは危ない!すぐに戻――ぐっ!?』
すると、今度は私を連れ戻そうとしたオジサンの目の前が爆発し、オジサンは受け身を取る事も出来ずゴロゴロと石畳の上を転がされた。
そして、その爆発の煙の中から姿を現したのは……
『あ〜らあら、少し様子を見に戻ってきてみたら何か面白い事になっているじゃない。華陽、アンタのカンが当たるなんて珍しいわね』
『ふふ……私の性分は分かっているでしょう、妲己?『一度気になったものは、自分のものになるまで追い求める』、元の姿に戻された時はちょっとヤバいと思ったけれど、何とか妖気を回復した甲斐が有ったわね〜』
『くっ、妲己に華陽……お主らまで戻ってくるとは!やるぞ、黒狐!いくら貴様の嫁とはいえ、ここでの狼藉を働かせる訳にはいかん!』
『当たり前だ!それに旦那としての威厳もある、ここでミッチリ躾をさせてもらうぞ!』
狐2人が華陽と妲己さんの前に立ちはだかる中、千本鳥居の中を進んでいた幼い私は社から飛んでいく光の塊を見つけた。
『今の、この感じ……あれに椿がいる!』
幼い私は自分の服が汚れるのも厭わず千本鳥居の隙間から外に抜け出し、その光の塊が向かった方へと転びながらも走っていく。
『うっ!ぐ……っ、痛いけど……がまん、がまん……!』
何度も転んで裾がボロボロに破けて膝や腕が擦りむけても、幼い私は涙をこらえながら一心不乱に光の塊が向かう先へと向かう。
そうして裏稲荷山の螺旋状になっている階段のある辺りまで辿り着くと、その光の塊は徐々に小さくなって椿の姿となって倒れてしまった。
『うぅ……パパ、ママ……』
『つ、椿――きゃぁっ!』
すぐに幼い私は椿に駆け寄り、必死で同じ背丈の彼女を抱きかかえようとする。だけど、そこへ今度は遠くで戦っていたハズの狐2人が吹っ飛ばされてきた。
『う、ぐぅぅ……』
『ふぅん、これが私の旦那?あれだけ大口叩いておいて、弱いわねぇ……』
そう言いながら、その後にやって来た妲己さんが少し苛立たしげに黒狐さんを踏みつける。
白狐さんの方を見ると、そっちでは華陽が彼の襟首を掴んで持ち上げていた。
『本当、肩透かしよねぇ……まぁ良いわ。あっちの騒ぎのお陰で、裏からスンナリとコレを手に入れる事が出来たんだからね』
そして、もう片方の手には真っ二つに割れている古ぼけた丸い石を握っているみたいだ。
よく分からないけど、あの石からは凄まじく良くない妖気を感じる……まさか、あの2人が此処に来ていた理由は、それを手に入れる事が目的だったのか?
『ところで、華陽。こっちに近づいて来る妖気があるわ。手に入れる物は手に入れたんだし、早く逃げるわよ』
『わ〜かってるわ。それにしても、この子達……さっき山の入り口で会った時より、妖気が異質になっているわね。こっちの小狐ちゃんの方は、おおかたあの天狐に何かされたようだけれど……こっちの人間の子はその力に惹かれて、内側から出てきてるような感じかしら?』
『あら、本当。しかも見た感じ、神妖の儀式を受けた様子が無いのも、ちょっと面白いわね〜』
そう言って、妲己さんと華陽は息を切らして椿を抱える幼い私を見つめてくる。だけど、その目付きは心配しているというよりは、小さい虫を観察しているかのような冷たい眼差しだ。
『ま、所詮あんなので得た借り物の力に惹かれてくるなら、どの道ロクなものじゃなさそうね。このままじゃ長生きは出来なさそうかしらね、可哀想に』
『でも妲己、社の方はもうヤバいみたいよ〜。これ、そろそろ逃げた方が良いんじゃない?』
『そうね、華陽。私達がやろうとしている事に比べれば、ここで起こってる事なんて――げっ』
『うっそ――ぐぅっ……!!』
すると、妲己さんが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたと同時に、ビームのような閃光が迸って華陽にぶつかって吹っ飛ばした。
そして、それに続けて椿の傍に姿を現したのは……
『椿!椿、大丈夫!?あぁ、何て事……烏森の綾ちゃんまで、こんな事になっているなんて……!』
金色の毛並みを持つ、椿のお母さん――金狐さんだった。
その一方で、さっきまで華陽が立っていた所には、椿のお父さん――銀狐さんが怒り心頭といった顔で拳を握りしめている。
『ふん……我が娘の心配をして来てみれば、悪い狐共が妖気を消してコソコソしていたとはな。しかも、この子の友人まで巻き込んでいる様子とは……だが、そこまで隠れきった運もここまでだ!』
『ちょっとちょっと!それは流石に私も妲己も関係してないわよ――って、あっぶないわねぇ!!』
そんなブチ切れ状態な銀狐さんの拳を受け止めたり避けたりしながら、華陽は手を狐の形にして幾つもの妖術を放って反撃する。
姿かたちこそ高校生の見た目なのに、それでも一回り以上の体格差がある銀狐さんを相手にしても怯まないのは、やっぱり九尾の狐だからこそといった実力だ。
だけど、それでも銀狐さんは自身に向かってくる妖術の数々を千切っては投げ、挙げ句には跳ね返すように裏拳で華陽に向けて反射までしてのけているよ。
やっぱりというか……その強さは正に、凄い妖術を使える椿のお父さんといった強さだ!
『くっ、説得はハナから無理な話みたいね!天狐に気付かれたらヤバいから、こうして私達は別ルートを使ったけれど……だけど、そっちも今の様子だと天狐は早々には来れないようね!』
『ちっ……勘づいていたか!だが、別ルートで入っただと?そんなものは無いハズだが……まさか手引きした者でもいると言うつもりか!』
銀狐さんが動揺して立ち止まった瞬間、華陽は黒狐さんに向けてニッコリとした笑みを浮かべてみせた。
『手伝ってくれてありがとね、黒狐〜♪』
『なっ……黒狐、お前が!?』
そんな、嘘だろう……と思ったら、黒狐さんは華陽に気付かれないよう片手を僅かに動かして、木々の陰に潜んでいた妲己さんを指さしていたよ。
……どうやら昔から相変わらず、華陽は人を騙す事には長けているみたいだ。
危うく私も、その演技に騙されて黒狐さんを疑いそうになっちゃったぞ。
無論、その黒狐さんの意図に気付いた銀狐さんは、まばたきで了承をしながらも華陽の持つ割れた石を強く睨みつける。
『なるほどな……だが、華陽。全てが上手くいっていると思ったら、それは大間違いだ。さぁ、その"殺生石"を置いて大人しく此処から立ち去れ!』
――って、いきなりヤバい代物の名前が出てきたわ!
殺生石って、少し前に椿から聞かされた事あるぞ!確か栃木の山奥にあって、玉藻の前が変化した末の姿とされているハズの石だろ!?
そんな物が一体なんでこんな所に、しかも華陽の手に……!
『ふふふ……コレは危険だからって、天狐が別な岩を隠し蓑にして伏見稲荷へ持って来ていたのは気付いていたわ。そして、その貴方の言いようからすれば……玉藻は復活出来る。そうでしょう?』
『ふん、それは誰もが勝手に所持してはいけないというだけの話だ』
『あら、そう?だけど逆説的に言えば、復活するって事だからじゃないの?』
『いいや、そいつは既に死んでいる!』
そんな中、銀狐さんは華陽と問答しながらも尻尾を荒縄のように変化させて、後ろから彼女を縛り上げようと四方八方から飛ばす。
――だけど、それを読んでいた華陽は片手や両脚を器用に使って地面や木々を跳ねて、それらの巻き付けを全て避けきって銀狐さんの後ろに降り立ってのけた。
『ふふっ……捕まえようたって、そうはいかないわよ。それに私は、今の所はまだ計画通りと考えているわ。妲己が私を止めようとしているという事も、白狐をコッソリと此処に誘導していた事も踏まえてね』
『ふん、やっぱり気付いていたのね……華陽』
『当然よ、妲己。何せ貴方は私でもあり、私は貴方でもあるんだからね』
『くっ、そうだったわね……私とした事が、あまりに早計過ぎたわ』
そう言った妲己さんは、物陰から姿を現して華陽に敵意の眼差しを向けつつ、その全身に妖気をみなぎらせていく。
そんなに昔から、妲己さんは華陽を止めようとしていたのか……でも、それすら全部読んでいたなんて華陽はどれだけ知能戦が上手いんだ!?
しかも、妲己さんと華陽は同一の存在みたいな言い方……これもひょっとしたら、華陽が妲己さんを"紅葫蘆(べにひさご)"に閉じ込めた事と何か関係があるのか?
そう思っていた時、金狐さんの尻尾が妲己さんを捕まえようと後ろから飛びかかってきた。だけど、妲己さんはそれを影の腕で掴んで防御する。
『あら?此処でやるっていうの?不意打ちなんて貴方らしくないわね、金狐!』
『そうね……でもね、妲己。私は早くこんな事を終わらせて、椿と烏森の子を天狐に見てもらわないといけないの。その為にも、まだ何か企んでいる貴方達を真っ先に止めた方が良いと思ったのよ』
そして、金狐さんは幼い私と椿を抱きかかえて鳥居に優しくもたれかからせ、ゆっくりと立ち上がりながら申し訳なさそうな表情を浮かべる。
『ごめんね椿、そして友達の綾ちゃん。すぐに終わらせるから、ちょっとだけ待っていて』
『うん、ママ……』
『分かり、ました……』
同時に私も、当時の自分の状態を少しずつ思い出してきた。
確か、あの時……椿が全ての感情でグチャグチャになりそうな事を感じながらも、私も同じように制御出来ない心の重さに押し潰されないよう、それらに乗っ取られないように必死に耐えていたんだ。