私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
苦しそうに鳥居にもたれる幼い私と椿の下から立ち上がった金狐さんは、一転して険しい顔つきで妲己さんを睨みつける。
『はぁ……馬鹿ね、金狐。私は敵じゃないわよ、今のところはね』
『それじゃあ、この事が済んだ後は敵になるという事かしら?どちらにしても妲己、貴方は今の内に止めておくべき"負なる者"よ』
そういや、"神妖の力"で覚醒している時の椿が言ってた"負なる者"って言葉は、母親である金狐さん譲りの言葉だったのかな?
私の場合は確か、より悪しき妖怪や妖魔に対しての呼称だって、そうオジサンから教わっていた記憶があるんだけど。
『金華業炎(きんかごうえん)!』
そんな事を疑問に思う間もなく、金狐さんは片手を一瞬だけ狐の形に変えて、金色の炎を妲己さんに向けて放っていた。
『光弓銀矢(こうきゅうぎんし)!』
そして、銀狐さんも自身の尻尾の毛を何本も細く鋭い形に変え、弓状に変化させた尻尾から華陽に向けて凄まじいスピードで放つ。
流石は椿の両親というべきか、その息の合ったコンビネーションの連携は、殆ど一瞬の出来事だ。私と椿の戦い方と比べると、敵に付け入る隙すら見せなかったよ。
だけど、華陽と妲己さんも激しい動きや僅かな身のこなし方で、ギリギリの瀬戸際で攻撃を回避してのける。やっぱりというか、こっちも一筋縄ではいかない強さだ……!
『全く……相変わらずのチートぶりな強さね。妖術を詠唱破棄で発動出来るなんて、並みの腕じゃ使えない技よ』
そんな無茶苦茶な妖術に対して華陽が文句を呟くと、それを放った椿の両親はフフンと少し誇らしげな表情を浮かべる。
『ふっ……これくらい、術の名を呼ばなくても使えるぞ!』
すると、そう銀狐さんが少し手の形を変えた瞬間に、華陽や妲己さんの目の前に銀色の雷が落ちてきた。
……あれ?何か雷にしては、地面に落ちた時の衝撃が小さかったような気が……?
『あら、そうだったの。なら、どうしてわざわざ術名を言っているのかしら?』
でも、その事を不思議に思う事なく華陽は妲己さんに向けて、顎で何か合図を送る仕草をしている。
椿の両親も、その不審な行動に気付いた様子を隠しながら、相手に対して再びニッとした笑みを浮かべてみせた。
『それは勿論、かっこいい――』
『――からよ!!』
『はぁ?その感覚は流石に分から――ぎゃぅ!?』
そして、その瞬間に2人の足元から銀色の電撃が噴き出し、油断して避けきれなかった華陽は直撃を受けてビリビリと感電する。
『うぁぁぁぁ!!な、何これぇぇぇ!?妲己ぃ!早く助けなさいよぉぉ!』
『それは流石にキツいわね、華陽!この妖術、"被術者が己の行いを反省する"という精神的解除条件が定められているせいで、たとえ私でも解くのは難しいのよ!』
ちなみに、ちゃっかり妲己さんは「そんなの読んでいたわ」と言わんばかりに避けていました。あの様子を見る限り、あの人はやっぱり華陽に味方している訳ではない感じだな。
『妲己の言う通りだ、華陽!ほら、心の底から改心して反省しないと、このまま黒焦げになるぞ!』
……というか、そもそもが悪い三大妖狐の内な2人に対する、もの凄いトップメタな妖術だし。
こんなに大それた妖術を使えるんだから、そりゃあ椿もあれだけ強い子に育つ訳ですわな。
ついでに言うなら"負なる者"呼びとか、かっこいいから術名を叫んで妖術を使うのとか、記憶を失ってはいても割と本能的に両親からの影響も受けてたっぽいし。
『さぁ、そこの"負なる者"。仲間がやられているのに、貴方は動かないのかしら?』
そう金狐さんが妲己さんに問うと、その目的について華陽が電撃で痺れながらも代わりに答えてきた。
『あばばば〜!!妲己〜!アンタの目的は、私を止める事……だから、私がここでやられるのを黙って見ているという訳よね〜!』
『……その通りよ、華陽。でも、それなら何で私の同行を許したのかしら?』
『うふふ、分からないの?完全な白面金毛九尾の狐、その意志と精神を司るのは私なのよ!そして妲己、アンタは九尾としての力そのもの……それの意味が分かるわよねぇ?』
『なっ!?まさか――あ、ぐぅぅっ!!』
すると突然、妲己さんは苦しげな表情で膝をついてしまい、それと同時に尻尾が凄まじい妖気を放ちながら四方八方に蠢き始めた。
『ふふっ、貴方の中にある九尾の意識に呼びかけたわ……さぁ、暴れなさい!』
『ぐ、うぅぅぅ……!』
妲己さんは必死に内側から何かを押しとどめようとしている様子ながらも、その片手は金狐さんに妖術を放とうと動いている。
今の発言からして、あの人に華陽が何かしたのは明白だろう。でも、白面金毛九尾の狐って一体何なんだ?もしかして、そいつが妲己さんや華陽と何か関係があるのか?
『あらあら……厄介な妖狐達ね』
だけど、金狐さんは妲己さんの放ってきた影の妖術に動揺する事なく回避し、それどころか相手の影から分身みたいなものを出現させて彼女の腕を押さえ込んだ。
いや、妖気の質からして分身というより実体を作ったのか?……何にしても、椿のお母さん1人でも凄い強さだ。
『それにしても……さっきの口ぶりからして、白面金毛九尾の狐は人間に倒されて身体が3つに分かれる時、その存在意義が『意志』と『力』と『体』の形に分かれたのかしら?華陽、今の様子からすると貴方は他の2人を、その意志で呼びかけて操れるようね』
『ふふっ、その通りよ〜――はぁっ!!』
すると、華陽は自らの妖気を一瞬で大きく膨らませ、まとわりついていま銀狐さんの雷の電撃を弾き飛ばしてしまった。
あれだけ痺れていたのに、一体どんな馬鹿げた実力を持っているんだ……!?
『ちっ……普通、あれを弾くか?最大出力のつもりだったんだぞ?』
『大妖の白面金毛九尾の狐の分け身である私を、舐めるんじゃあないわよ!!』
そして、再び銀狐さんを睨みつけた華陽は指示する形で素早く右手を後方に出し、自身の背後に迫っていた金狐さんに暴走している妲己さんを差し向ける。
妲己さんは妖気を食べる妖術で、自分を押さえ込んでいた影の分身を食い尽くし、そのまま金狐さんに鋭い爪で斬りかかっていく。
『くっ……妲己!貴方、まだ意識はあるのかしら!?』
そんな猛攻を避けながら金狐さんは再び影から幾つもの分身を出しつつ、冷静に妲己さんへと呼びかける。
しかし、その声に相手は全く耳を貸す事は無く、拘束しようとする分身達を爪で引き裂いたり蹴り飛ばして抵抗している状態だ。
『どうやら、駄目みたいね……っ!』
それでも金狐さんは、更に飛びかかってくる妲己さんの攻撃を避けつつ、空中で真下に出来た影から先程よりも多い数の分身で、暴れる相手を取り押さえる。
『ごめんなさいね、妲己。今の貴方の動きは単調ですし、その程度では私の足止めにもならないわ』
そして金狐さんは振り向きながら、空中で不意打ちの機会を伺っていた華陽を睨みつけた。
『――で、少しオイタが過ぎたわねぇ。華陽、覚悟は良いかしら?』
『マッズいわねぇ……というか、な〜に本気になっちゃってるのよ〜?』
『貴方ほどの大妖怪なら、これくらい本気でいかなくてはいけないもの。そうよねぇ?あ・な・た?』
『うぐ……お、おぅ』
耳から尻尾から全ての毛を逆立てながら、金狐さんは銀狐さんの方へニッコリと振り返る。
だけど、その……凄い覇気というか、めちゃくちゃヤバい怒りのオーラが怖いんですが……そこもやっぱり、似た者親子って感じだよ。
『あなたぁ?いくら何でも、遊び過ぎじゃないかしら?純粋な体術だけなら、あなたの右に出る者はいないのでしょう?それなのに、何でさっきから妖術ばかりで攻撃しているのかしら?』
『は、はい……いや、あの……何か、策があるのではと……』
『あ〜な〜たぁ〜?』
『わ、分かった!!ここからは本気でやるから!って、何をコソコソ逃げようとしている、華陽!!』
『ひぇっ!?な、何よ!そのまま夫婦喧嘩しときなさいよ!』
それにしても、あんなにヤバい華陽を前にしてるのに、見ているとな〜んか緊張感が無いというか……それだけ、椿の両親が強いって事なんだろうけど。
でも、ビビっていたハズの銀狐さんは一瞬で華陽の後ろを取り、それに気付いた相手の貫手を少しの動きだけで回避しつつ、その腕を掴みあげていた。
『なっ……嘘でしょう!?』
『悪いな、こっちもあまり余裕は無いんだ!』
『ふん、何よ?そんなに奥さんが恐いわけ?それとも、あの妖狐のおチビちゃんが心配なのかしら?』
そう動揺を誘う事を言いながら放った華陽の蹴りを銀狐さんは片手で受けたと同時に、石畳にクレーターが出来るほどの強い力で相手を投げつけた。
『あぁ、守る者の意地として当然だ!椿は俺と金狐の一人娘、あの子は命に替えても守ってみせる!それに、お前には分かるまい……正座で半日くらいも、淡々と説教をされる気持ちなんてな!!』
でも、セリフの順序で折角のカッコイイところが台無しです!!本音が後から出たせいで台無しですよ椿のお父さん!!
そこはせめて「椿を守るため」だけで留めておいて欲しかったよ!!