私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜 作:SimonRIO
銀狐さんは完全にカカァ天下で金狐さんに睨まれたのが堪えたのか、さっき以上に苛烈な妖術と体術の組み合わせで一気に華陽を押していく。
例えるならば、華陽が繰り出した妖術は全て躱されているのに、銀狐さんは圧倒的なスピードで相手を翻弄しながら四方八方から妖術や格闘攻撃を当てている――そんな一方的な戦いだ。
そして、遂に華陽は息を切らしながらその場に片膝をつき、疲弊した表情で銀狐さんや金狐さんを見上げる。
『はぁ、はぁ……っ!あ〜……もう!冗談じゃないわ、ホント!』
『ようやく観念する気になったかしら、華陽?』
『ふふ、ふふふふ……でもね、こっちはもう"目的の物"は手に入れたわ。だから、後は逃げるだけだったんだけど……全く』
『ふん、それがどうした?現に今、それは叶わない訳だっただろう?』
そう銀狐さんは華陽を見下ろしながら、金狐さんを守るような形で相手の前に立つ。お仕置き云々の話が無ければ、それこそ椿の父親だと誰もが一目で分かるような威厳だ。
『ふっ、うふふふ……甘いわね、2人とも。金狐、分身がアンタだけが使える程のものと思わない事ね』
『なっ!?これは――ぎゃぅっ!?』
だけど華陽は諦めが悪いらしく、何と先程まで金狐さんが影を利用して作り出していたように、草陰から不意打ちで金狐さんを背後から攻撃してのけたのだ。
『あら、ごめんなさいね〜♪てっきり分身かと〜……って、あらら?そっちも分身だったなんて』
しかし、その攻撃された金狐さんもまた分身で、華陽の死角から攻撃して……あ〜もう!
流石に椿の戦闘スピードに慣れた私でも、ここまで裏の裏の裏をかかれまくっちゃ、いくら何でも訳が分からなくなってくるぞ!
『むぅ、困ったわねぇ……中々、本体に当たらないわ。この手の術式は妖気の消耗が激しいから、そのうちに本体が混じって攻撃してくるものだと思っていたのだけれど……てぃっ!』
それは金狐さんも同じように思っていたらしく、愚痴るように小さく呟きながら不意打ちしてくる華陽の分身を消し飛ばしていたよ。
『う、うぅ……お、母さん……お父、さん……っ』
『おじ、さん……つば、き……っ!』
だけど、そんな中で私と椿は自分を苛む謎の頭痛で更に苦しげな表情になり、とうとうもたれかかっていた鳥居からも倒れ込んでしまっていた。
『椿?いかん!早く終わらせないと……!』
『ええ……分かっているわ、あなた。あの子のお友達も危険そうだけれど、それでも焦ってはいけないわ』
その幼い私と椿から感じ取る形で思い出したのは、あの時に私は「破壊しろ」だとか「〇〇を滅ぼせ」といった、訳の分からない感情に押し潰されそうなものを抑え込む事で精一杯だったんだ。
そんな中、苦しむ私達の後ろから金狐さんや銀狐さんと戦っているハズの相手の声が聞こえてきた。
『ふ〜ん……やっぱアンタ達、とんでもない力を貰っているわね。そっちの人間ちゃんは半分とばっちりっぽいけれど、丁度良いわぁ。殺生石を復活させる為に使えそうだし、ちょっとこの子達2人は貰っていくわね〜♪』
『い、や……お、母さん……っ』
『うく、ぅ……は、なして……!』
そうして華陽が私と椿の襟元を掴んで持ち上げようとした瞬間、金狐さんの攻撃で倒れ伏していた妲己さんが叫んだ。
『黒狐!今よ!!』
『逃がすか!妖異顕現、黒雷槍(こくらいそう)!!』
どうやら2人はいつの間にか目を覚ましていたようで、虎視眈々と反撃の機会を伺っていたみたいだな。
それと同時に、ボロボロだった黒狐さんも上半身を起こして、狐の形にした右手から華陽へと向けて黒く鋭い稲妻を放つ。
『お〜っと、そう簡単に食らう訳ないでしょう?アンタが意識を取り戻していたのには気付いていたわよ』
しかし、そんな完全な後方からの不意打ちであっても華陽は動じる事なく、九尾の内の1本で容易く妖術を上空へと弾いてしまった。
『くそっ……!すまん、妲己!』
『謝るのは後にして!アイツの薄ら寒い笑顔が崩れるくらい、バンバン撃ちなさい!』
『よし、了解だ!』
それにしても、あの様子だと……黒狐さんも銀狐さんみたく、既に奥さんな妲己さんの尻に敷かれてるようにも感じるな。
ふとそんな事を思っていると、私達を掴み上げていた華陽の腕に矢が刺さり、一気に爆発するようにボゥッと青く燃え上がった。
『きゃぁっ!?何よコレ、あっぶないわねぇ〜!』
『はぁ、はぁ……遅れてすまん、綾!この大地、微力ながらも華陽を倒すべく助太刀いたす!』
その一瞬の隙をついて、幼い私と椿は金狐さんに助け出してもらえたけど、華陽は依然として焦る様子もなく腕に刺さった矢を抜きながら、アッサリと炎を振り払う。
『な〜るほど、烏森家特製の破魔矢ね。初代の当主『烏森 依織(いおり)』が遺した対妖魔武器の1つとされているそれ、まさかわざわざ私を仕留める為に持ち出してきた訳かしら?』
『ふん……答える必要はない。だが、まさか俺も使う羽目になるとは予想もしていなかったがな』
そう言いながら、オジサンは黒狐さんの放つ幾つもの黒雷の隙間を縫うように、更に数本の破魔矢を華陽に射る。
だけど、その避ける隙間すら潰した攻撃の包囲網を相手にしても、華陽は九尾のそれぞれを振り回すようにして、半ば力づくの形で全て弾いてしまったぞ。
『あははははぁ〜!!妲己ぃ〜!裏切るなら今って事だったのかしらぁ〜?』
『ここまで酷い事になるとは思っていなかったけれどね!そもそも、アンタの仲間になったつもりはないわよ、華陽!!』
『それなら、アンタの今住んでいる町を吹き飛ばしちゃっても良いわけかしらぁ?あそこ、結構住み心地が良いんでしょう?住人とも仲良く穏やかに暮らしててさぁ〜』
そこから華陽は更に尻尾の先端から妖術を発動し、攻撃を続ける黒狐さんやオジサンの手を止めさせて、回避に専念せざるを得ない状況を作る。
そんな中でも、妲己さんは必死に相手の攻撃を避けながら、私達を助け出した金狐さんと入れ替わりに突撃してきた銀狐さんと共に、激しい嵐のような妖術の応酬を繰り広げていく。
でも、金狐さんに抱きかかえられた幼い私と椿は、どちらも頭を押さえながら酷く苦しむ様子を見せていた。
『あ……うぅ、くっ……ダメ、こっちに来ないで……アレが近づいてきたら、私……いやぁ!』
『い、うぅ……パパ、ママ……助けて……私が、私じゃなくなっちゃう!やだぁ!』
そう苦しみながら叫び続ける私達を見た銀狐さんは、すぐさま戦闘から一旦抜けて金狐さんの方へと大ジャンプしてくる。
『2人とも、しっかりしろ!大丈夫だ、落ち着いて自分を保て!』
『いけない!この子達の中でそれぞれ、2つの"神妖の妖気"が混ざり合おうとしているわ!』
『なっ、そんな馬鹿な事が……!それに、そっちの綾という子は儀式を受けていない人間のハズだろう!?』
『私にも良く分からないけれど、起こっているのよ!実際!!』
そんな金狐さんと銀狐さんが慌てる傍ら、オジサンも私達の異変を察知してこっちの方に駆け寄ってきた。
『不味い!このままでは、2人とも取り込んでいる"神妖の妖気"によって、ただ自らに従わない者を全て破壊し尽くすだけの存在になってしまう!』
『ええ、分かっているわ大地さん!だけど、どうしたら……!』
だけど……その時には確か、もう"愚かな存在全てに天罰を"等といった気持ち悪いものによって、私の意識や考えが塗りつぶされつつあったんだ。
『パ、パ……ママ……私は私だから、おかしくなっているんだよね?私、白狐さんと黒狐さんが女性になれるのを見たの……だから、私も同じように男の子になれるなら……!』
『椿、落ち着け。いくら性別を変えたとしても、お前の中にある者は消えない。それを封じ込めるとするなら、それこそ強力な封印術で記憶ごと閉じ込め、お前を人間にする程のものでなければダメなんだ。そうでもしなければ、暴走しようとしているお前の中の力との縁は切れないんだ』
『あなた……』
すると、辛そうに語った銀狐さんの言葉にオジサンがハッとした様子で2人を見る。
『まさか、貴方がたは……いけません、それだけは。その秘術を使えば、二度と貴方がたの娘とは――』
『ええ、分かっているわ。でも……あなた、覚悟は?』
『ああ、とうに出来ている。例え、永遠に石像になろうともな……!』
『そ、んな……パパ、ママ?うぅ、ごめんなさい……ごめんなさい……っ!それは……それだけは、嫌だ……!』
その言葉を聞いた椿は酷く取り乱し、金狐さんや銀狐さんにしがみついてワンワンと泣き叫ぶ。
しかし、黒狐さんと妲己さんがオジサンを投げつけられ、そんな私達の方へと同時に吹き飛ばされてきた。
嘘だろう……あの3人を相手に、華陽は圧勝してのけたのか!?
『あら、話は終わったかしら?それならこの子達、ちょ〜っと頂いていくわね〜』
『くっ……華陽!』
『しつこいわね、負なる者……!』
それでも金狐さんと銀狐さんは幼い椿や私の前に立って、執念深く狙ってくる華陽を睨みつける。
『えっ?ちょっ――きゃぁ!?』
しかし――次の瞬間、今度は華陽が誰かをぶつけられて、そのまま鳥居の神額に叩きつけられたのだ。
『くっそぉ……八坂ぁ!!貴様、この私に謀反でもする気か!?』
華陽と共に叩きつけられた人物は全身ボロボロでありながらも力強く降り立ち、その私達の居る鳥居よりも後方に向かって叫んだ。
よく見ると、4本の尻尾を持っている茶色い毛並みの男の妖狐のようだ。この神々しい妖気の質からすると……もしかしなくても、この人が天狐様と呼ばれていた人かな。