私、霊能力者になっちゃいました 〜≒僕、妖狐になっちゃいました〜   作:SimonRIO

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第陸話 造られし妖狐

 

『八坂、貴様……私の付き人ごときが、これは謀反だぞ!謀反!』

 

『なるほど……謀反と、そう呼びますか。えぇ、その通りですよ、天狐』

 

そう納得するような言葉を冷たく重い声で呟きながら華陽との戦闘中に乱入してきたのは、なんと狩衣を着た若い姿の八坂だった。

 

しかも、その後ろには幾何学的な紋様が身体に刻まれた、あの脱神が何体もゾロゾロと着いてきている。

 

そんな光景を前に、幼い私や椿は自分の中で暴走しかかっている力や別人格の事もあって、あまりの恐怖に呑まれてしまっていた。

 

『くっ、油断したわ……!まさか、天狐が吹き飛んでくるなんて……って、アンタどこ触ってんのよ!?』

 

『ん?このデカくもなく小さくもない、絶妙な柔らかさのものは……フン、華陽か。全く、私の知らん所でコソコソしおって』

 

『お褒め頂きありがとうございます。だけど、流石に退いて欲しいわね』

 

しかし、天狐様は華陽とのラブコメ的なトラブルに動じる事もなく、相手が持っていた殺生石をギロリと睨んだ。

 

『おや?それは殺生石か?やれやれ……呪いをかけて追い払ったというのに、まだそれを狙うとはな。野生の獣でも少しは学習するというのに……とりあえず、お前はそこを動くな』

 

『えっ――あっ!ちょっ、尻尾がまとわりついて……くそ!』

 

しかも、そのまま自身の尻尾をトリモチみたいに変化させて、あの強力な九尾の尻尾ごと華陽を捕まえてしまったよ。

ジタバタもがいても全く解けない所を見るに、流石は妖狐の人達から尊敬されるだけはある実力者みたいだ。

 

そして、天狐様は華陽から殺生石を取り上げると、ゆっくりと立ち上がりながら脱神達を従えている八坂へと、先程の鋭い眼差しを向ける。

 

『それにしても、八坂……貴様、よくもまぁそれだけの数の脱神を隠し持っていたものだな』

 

『えぇ、これも貴方のぐうたらな性格のお陰です』

 

『フン……私が何故、殆ど寝て過ごしているのか分かっとらんようだな?そうしないと、年々増加していく強力な神通力を制御出来んからなのだよ……ハァッ!!』

 

『ぐっ……!覇気だけで、これほどとは……!』

 

その場から動かず、天狐様は全身からオーラのようなものを発して、攻撃を仕掛けようとしていた八坂や脱神達を牽制する。

 

凄い力だ……過去の映像を見ている形なのに、私までビリビリする感覚がくるなんて……これが神通力ってやつなのか!?

 

だけど、そんな今にも暴れだしそうな天狐様を椿の両親が止めに入る。

 

『お待ちください、天狐。貴方が暴れたら、この多くの悪しき魂を封じている伏見稲荷の山が崩壊してしまいます。それに、私達の方が八坂とは交流があって説得出来るかと……』

 

『何だと……?』

 

そう言って天狐様は、幼い椿や私を抱える金狐さんを睨みつけるが、やはり『母は強し』を様々な意味で体現している人だからか、華陽とは違って全く怯む様子を見せない。

 

すると、今度は銀狐さんも金狐さんの前に立って天狐様に更なる意見を述べる。

 

『八坂、聞いてくれ。俺達も天狐のやっている儀式は……大きな危険を伴う神妖の妖気を得る儀式には、些か憤りを感じていた。だから、同じ考えを持つお前に共感し、何とかしようと話し合って来た。だが、これは聞いていないぞ。八坂、事と場合によってはーー』

 

『ふっ……どうすると言うんです?』

 

しかし、そんな本心からの説得をする銀狐さんに対して八坂は、あの"神言葉の扇子"を懐から取り出してきた。

 

だけど、それに書かれている文字を見ても銀狐さんや金狐さん、そして天狐様にも何も起こらない。

 

『悪いが八坂、それは我々には効かんぞ。聖なる神力を宿す者には、邪なる神の力を封じたそれは通じん。銀尾、金尾も一緒だ』

 

『そうですね、天狐。ですが――』

 

そう言うと八坂は、頭を押さえてうずくまる幼い椿や私に向けて、その扇子を広げ直して見せた。

 

そして、その扇子には"覚醒"の文字が……まさか!

 

『う、ぐぅ……ぅぅぁぁぁあ!!』

『お、母さん……お父、さ――ぃゃぁぁぁあ!!』

 

『椿、駄目だ!くっ……天照大神の力に、何か別の力が混ざっている!』

 

『これは……天津甕星(あまつみかぼし)の力よ!天狐!!あなた、やってはいけないことを……!しかも、綾ちゃんに入っている力……これは自然に生まれた妖狐の力じゃないわ!貴方、何てものを呼び込んでくれたの!?』

 

その椿の両親の言葉に対し、天狐様は全く予想外だと言った様子でガックリとその場に膝をついてしまっていた。

 

『なっ、馬鹿な……お前達の子は、この世界の"柱"だったのか?まさか、それが祀ろわぬ神の力が混じり、不安定に……?そして、あの烏森の少女……あれから感じるのは、よもや――』

 

しかし、天狐様が言い終えない内に、幼い椿は白金の毛並みと九尾の姿へと完全に変わり、死んだように動かなくなってしまった幼い私の前にゆっくりと降り立つ。

 

『……』

 

そして、周囲をチラッと見回したかと思うと軽く手をかざし、それが振り下ろされたと同時に幼い椿と私以外の全員が、凄まじい勢いのある衝撃波で吹き飛ばされた。

 

しかし、それによって天狐様の術も解けてしまい、捕まえていた華陽は尻尾から抜け出して再度、天狐様の手から殺生石を奪い取ってしまった。

 

『くそっ!待て華陽!!』

 

『黒狐!華陽を止めなさい!』

 

『そうは言っても妲己、この衝撃では……!おい白狐、起きろ!お前の許嫁が大変な事になっているぞ!!』

 

皆が地面から吹き飛ばされないように必死で耐えている中、幼い椿は再び手をかざして再度あの衝撃波を放つ。

 

それによって八坂が引き連れていた脱神達は次々と吹き飛ばされていき、衝撃波に混ざった風に切り裂かれるかのように浄化されて消えていった。

 

『くっ……!あり得ない……天狐、やはりあなたは傲慢過ぎたのです!私達の役目すら、踏みにじる気ですか!!』

 

八坂は、吹き飛ばされる脱神達を何とか止めようとしながら、衝撃波を放っている幼い椿の方を睨みつける。

 

すると、そこでようやく黙り続けていた椿が口を開いた。

 

『惨めな者達……罪深き者達……業の深き者達。そして"造られし者"も、我が後ろに。ここには、様々な者達が集っている。その殆どが、神に抗うか?……ならば、我が神罰を受けよ!』

 

――その彼女の眼差しは、かつて私が見た"神妖の妖気"が暴走していた時以上に冷ややかで、何者をも差別せず全て排除しようとするそれになっていた。

 

そして幼い椿が人差し指を空に掲げると、それと同時に白金色の雷が幼い椿や私以外の全員を襲う。

 

『『『ぐわぁぁぁあ!!』』』

 

しかし、そこで苦しんでいた幼い私がヨロヨロと立ち上がり、どこか虚ろな様子で雷を落とす椿の手を掴んだ。

 

『くっ……!?"造られし者"、なぜ私の邪魔をするのです!貴方も彼らに……欲深い者達に身勝手極まりない理由で作られた、いわば同胞でしょう!?』

 

『分から、ない……当機の目的、"神へ至ろうとする者"の排除……全ては烏森、人間界の為……』

 

そうポツリポツリと呟きながらも、幼い私は素早い動きで足元に木の枝を手に取り、押さえた椿の腕にそれを突き立てようとした。

 

そうだ……思い出した。あの時にあった私の意識は、ただこの場に居る全員を速やかに葬って、今回の事態も何もかもが表に出ないよう、自分ごと伏見稲荷を消し去ろうとしていたんだ。

 

――それも結局、初代当主の複製体として造った私に、烏森の家によって植え付けられた、連中にとって都合のいい手駒としての意識だったのに。

 

『くっ……!いけません、2人とも……!!』

 

しかし、そんな白金の雷を受けて顔に苦痛を浮かべながらも、金狐さんは椿の方へとヨロヨロ歩み寄っていく。

 

すると、幼い私の攻撃を何とか弾いた椿は距離を取る為なのか、宙に浮いて金狐さんを見下ろした。

 

『しかし……私の罰を受けて、それでも歩けるとは。どうも、末恐ろしいものですね……母の愛とやらは』

 

『えぇ、そうね……ただ、それは私だけじゃないわ!』

 

すると、金狐さんの後ろから銀狐さんに黒狐さん、そしてようやく華陽から受けたダメージから復活した白狐さんが、不思議そうな表情で驚きながら椿を見上げていた。

 

『ぬぅ……いったい、何があったんじゃ……?それに、椿のあの力は一体何なんじゃ?』

 

『お前の許嫁には、とてつもない力が宿っていたようだ。質からすると、とんでもない神様のな』

 

『何じゃと?!』

 

『……それで白狐、お前はどうする?俺は椿を元に戻しに行くつもりだが?』

 

『決まりきった事を聞く、黒狐よ。無論、助ける一択じゃ!』

 

そして、狐2人は強い決意の眼差しを上空にいる幼い椿へと向けた。

 

『……助ける?全く、訳の分からない事を……私は私、椿のままですよ』

 

そう切り捨てるように言って、椿は冷ややかに彼らを見下ろしている。

だけど……

 

『『それなら、何故泣いている?』』

 

『なっ……私が、泣いている?えっ……あれ? 涙が、何故……』

 

椿は狐2人の姿を見た瞬間から、まるで助けを求めるかのように、ポロポロと無意識に涙を流しだしていた。

 

『うっ……!つ、椿……っ!』

 

そして、そんな彼女の姿を見上げていた私もハッと我に返った様子で、血が滲むほどに強く握っていた木の枝を取り落とし、その場にうずくまりながら胸に手を当てて苦しみ始める。

 

そうだ……あの時、私は初めて出来た友達を傷つけようとした事や、椿が苦しんでいるのに自分が何も出来ないほどの状態になっている事に気づいたんだ。

 

『た……す、けて……!』

 

だけど、そう元の椿が言葉を発した瞬間に再び、暴走している方の人格が助けを求める彼女の身体を取り返してしまった。

 

『くっ……うっ、はぁ、はぁ……!何なんですか、この感情……こんな、不要な感情は……!』

 

『いいえ……それは不要ではないわ、椿!感情というものは、生きとし生けるものには必ずと言って良いほどあるものよ!』

 

『そうだ、愛娘!そして、それさえあれば不可能は可能に変わる!だから……』

 

『『この愛をもってして、助けてみせる!』』

 

それでも金狐さんと銀狐さんは、親としての表情を椿に見せながら強い決意の眼差しで見上げるのであった。

 

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